第十七話 初回授業
入学式と一日の休みを終えて、ついに学園生活最初の授業が始まる。
といっても、最初の授業なので科目の担当先生の自己紹介とさわり程度で今日は終わる。
一年生では、受験と同じ筆記科目の数学、歴史、魔法知識に加えて地理を勉強する。
実技は受験と同じく、魔法と技法だ。
この学園は、学年が上がるにつれて学ぶ科目が増えていく形式になっている。
例えば、一年生で習う魔法知識では魔法理論と魔法史の勉強をするが、学年が上がるにつれて、魔法薬学や魔法応用学なんてものが増えていく。
他にも倫理や魔物学、天文学に錬金術などを勉強する。
言語学もあるが、これは希望した学生だけが受けることができる。エルフ語やドワーフ語、中には古代語なんてのもある。
だが俺は、転生特典でついている言語理解があるのだから、履修する必要はないだろう。
ちなみにこの学園に通う人族以外の別種族の学生は人間語がこの世界では標準語なのでエルフやドワーフも人間語が話せるらしい。ここに来る別種族は、自然と二言語覚えているのか?すごいなぁ。
時間割は日に日に変わるらしく、前世の学校と同じだ。一日四限授業が基本で、八時過ぎくらいに朝のホームルームを済ませた後、十分ほど挟んで一限目が始まる。授業は一限で約百分ほど、休み時間が二十分ほどで、間のお昼休みが一時間ほどだ。
学生は皆、寮から通っているので朝が早い分、帰りは結構早い。こちらの世界に来て、朝はそれほどきつくないので、早く寮に帰ってゆっくり自分の時間を過ごせるのはとてもありがたい。
「今日は授業の進め方や注意事項を説明するから、しっかりと聞いておくように」
「はーい」
学生から気の抜けた返事が返ってくる。
「それじゃあ授業が始まるまでゆっくりしておけ」
早速朝のホームルームも終わり、テレーゼリア先生が教室を出ていく。俺は他の学生に絡まれないために、今日は一旦トイレで一時間目の授業が始まる直前まで待機する。
朝っぱらから、それも初回授業の前に絡まれるなんてたまったもんじゃない。
適当に鼻歌でも歌いながら、そろそろ時間になるので教室に戻る。
やがて教室に一人の男性教師が入ってきた。
一時間目は、魔法理論だ。担当はロードン先生という人で、一組のクラス担任だ。魔法理論と魔法史はどちらもこの教師が担当するらしい。
このロードン先生は眼鏡をかけており、真面目で厳しそうな先生だ。
「言っておくが、初回だからといって今日は手は抜かない。いつも通り授業をするからな」
「「「えぇ~」」」
あからさまに残念そうな声を上げるクラスのみんな。
そこへロードン先生がキッ!と睨むと思わず委縮し、みんな黙ってしまった。
同情するよ。初回で楽だと聞かされて、最初からこれだからな。
「じゃあいくぞ、そもそも魔法とは何か、今日はこの話題でやっていこう。まずは分かりやすい例を挙げていこう。魔法には回復魔法というものがある。この回復魔法は人間にしか扱うことができない、それはなぜか……ダルク」
男子学生は突然当てられ困惑してしまう。
「え、俺!……ちょっと忘れました」
「なら、隣のサキラ」
「回復魔法は信仰を媒介にして行使できる魔法。人間種は宗教を作り、神を祀っているが他種族には宗教がないから、ですよね」
「うむ、さすが筆記首席。その通りだ、回復魔法は神への祈りを力とすることで扱うことができる、言わば人間種の特権というやつだな。もちろん、他種族にもこのようにある種族でしか扱うことができない魔法が存在する。ここでは……そうだな、有名どころの精霊魔法を挙げよう。この精霊魔法はこの世界では二種族しか扱うことができない魔法だ。その種族を……アリア答えてくれ」
突然当てられた女子学生、しかし慌てておらず、冷静に口を開く。
「エルフとドワーフです」
「その通り、精霊魔法は―――」
こんな調子で授業は続き、あっという間に終わってしまった。
「今日はここまでだ。復習しておけよ」
「終わったーー!」
「最初からハードだぜ」
まだロードン先生が教室を出ていないのに、そんな言葉をこぼす。
やめてやれよ、かわいそうだろ。
しかし当の本人は気にすることなく教室を出ていった。
いつものことなんだろうな。あれはあれで苦労しているな。
休憩時間を挟み、次の授業が始まる。
二時間目は、歴史だ。担当はうちの担任のテレーゼリア先生だ。
「なんだお前たち、元気がないな」
「一限目のロードン先生が」
「ひどいですよー」
皆口々に不満を漏らす。
「それはすまないな。ロードン先生は見てわかる通り真面目な先生でな。だが、非常に優秀な人だ、許してやってくれ」
テレーゼリア先生が学生をなだめると、分かりましたーなどと言って静かになった。
「この授業は、ちゃんとさわりしかしないから十分ほどで終わる。安心しろ」
「うぇ~~い!」
「ありがとう先生!」
そんな感じで授業が始まった。
―――三十分後
「―――そしてこの国が誕生したというわけだ」
「先生~~」
「ん?どうした?」
「どうしたって、時間ですよ」
「そーですよ!」
「あー、すまない。つい夢中になってしまって、今日はここで終わるか。残り時間、皆自由にしていいぞ」
「「「やったー!」」」
とうとう授業が終わり、皆が元気を取り戻した。
言うて、これが三倍に続くが今回は仕方ないな。
そんな感じで、二限目はゆる~く終える。
昼休み、俺は只今ぼっち飯をかましている。
といってもこの学園の食堂はかなり充実しているらしく、ほとんどの学生は食堂に向かう。つまり、教室にはほとんど学生がいないので、俺は教室でお昼ご飯を食べることができている。
さすがにトイレは臭いから助かるな。
ちなみに今教室にいるのは、俺を含め獣人の学生と二人きりだ。
何も食べていないが、腹は減らないのか?
あっという間にお昼休みは終わり、次の授業が始まる。
三時間目は、数学だ。担当はセレス先生という人で二組のクラス担任だ。
見た目は可愛らしく、優しそうな教師だ。何より、胸がでかい!Gはありそうだ。動くたびにバルンバルンと揺れている。ワーオ、オッパイファンタジィ~。
クラスの男子の諸君もおっぱいにくぎ付けだ。周りで女子が最低などと言っているが、これは生理現象なのだ。目に入ったら見つめるのが礼儀ってもんだろ。
そんなことは置いといて、この一年間数学でやる内容は、面積の求め方や大きい数のかけ算計算などだ。高校生くらいの年で小学生の内容をやるのは複雑だが、楽なので別に気にしない。
今日は初回授業ということで、楽しく会話しましょうということで、早速定番の質問コーナーをし始めた。学生たちはこぞって手を上げ始める。
「「「はーいはーい!」」」
「じゃあ……そこの君」
「はい、先生は結婚していますか?」
「気になるぅ~」
「教えてー」
こっちの世界でも、この手の質問は定番なんだな。
「じゃあ、せっかくだしクイズにしましょう!景品付きよ!」
「しゃぁー!」
「先生優しい!」
欲しいけど俺がもらったら文句言いそうだし、ここははずれっぽいのにしていこう。
「じゃあ、赤い紙と青い紙を配るから待ってね」
そう言うと、これを予定していたかのように手元から赤い紙と青い紙を出した。
毎回こういう事をしているのだろうか。
教室の学生全員にいきわたるのを確認すると、さっそく始まる。
「じゃあ、さっきの質問からクイズ!私は結婚しているでしょうか、していないでしょうか?してるは赤で、してないが青よ」
「当然赤だろ!」
「私も赤!」
「私は青かな」
まあ、どうせ結婚してるだろうと思って、はずすために俺は青を上げる。
「正解はぁ~…………青で~す!」
「「うえ~~!」」
俺もみんなもびっくりだ。こんな可愛いのに未婚とは……三十路になってもなかなか結婚できないような性格でもしているのだろうか?
「じゃあ、正解した人は紙をあげといて、順番に印をつけていくわ……ライト!」
セレス先生が低級の光魔法を唱えると、机の上に光の玉が浮かび上がる。
これがポイントになっていくのか。
「じゃあ次、どんどん来て!」
「「「はーいはーい!」」」
「そこの可愛らしい女子!」
「キスはしたことありますか?」
「「「キャァーーッ!」」」
「じゃあ、したことがあるが赤でしたことがないが青よ」
このタイプならこのままキスもしてないだろう。なら赤がはずれだ。
そして俺は、赤の紙を上げる。
「正解はぁ~…………赤で~す!」
「「「え~~~!!」」」
え~~~!!してんのかよ。連続正解しちまった。いや序盤だ、まだ大丈夫。
「先生!どこでしたのどこでしたの?」
「教えて~~!」
「それはねぇ~~、私が海で溺れてるところを浜辺まで運んでキスして助けてくれたの!」
「それ息送り込んだだけじゃん!」
「キスに入らないよ!」
「唇ちゅっちゅしたからキスですぅ~~!」
可愛いな子供かよ!
だがそのパターンがあったか、気をつけねば。
「じゃあ次」
「「「はーいはーい!」」」
「そこの元気な男子!」
「先生のおっぱいってどんだけおっきいんですかぁ~?」
「ひゅーひゅー!」
「ちょっと男子ぃ―――!」
「キモーい」
「あらあらおませさんね?……じゃあ私のバストはGより下かそれ以上、ど~っちだ?下が赤で上が青よ」
「ほぉ~ほっほっほぉ~~!」
「ウホーー!」
ゴリラかよ!まあ正解は青だろうから赤にしとくか。
ということで、俺は赤の紙を上げる。
「正解はぁ~……なんと!」
「なんと!?」
「なんと……赤でぇ~す!」
「「「その胸で~~!」」」
男子も女子も驚きだ。この胸でF以下とかガチなのか?
セレスの胸はパッド入り!なのか!!
驚愕すぎる事実。この学園に来た新入生は、この事実にみんな驚くに違いない。
そんなこんなでクイズは続き―――
「優勝はぁ~~ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥン!全問正解のサキラ君でぇ~~すぅ!!」
やっちまったぁ―――!裏をかいても全部正解してしまった!……最悪だ。
案の定、男子からのブーイングがひどい。
「ふざけんな!」
「譲れ!」
「クソが!」
こんなことになるから優勝したくなかったんだよ!
しょうがない、後でもらったものをこいつらに渡して許してもらおう。
「じゃあ景品を渡すわね。こっちにおいで」
「………はい」
視線が痛い。ぱっと済ませてぱっと戻ろう!
「じゃあ、景品は……先生の唇です♡」
「「「「「え?」」」」」
クラスの学生たちがぽかんとしてしまう。先生はそんな様子にお構いなしに俺の唇に向けて―――唇!それだけは避けねば!!
俺のもとに迫るセレス先生の唇を、俺はすんでのところで避け、頬にキスされた。
「もぉう、なんで避けるのよ!キスは唇同士でしょ?」
「学生と教師がキスはダメですよ!大体あんた舌入れようとしたでしょ!」
「え~なんでぇ~?」
「なんでもなにも……」
体もじもじするな、興奮すんだろうが!
でも、教える立場の人が手を出してはいけないみたいな法律などは、この世界にはないのだろうか。そもそもこの世界には、法律や憲法などはないのだろうか?
そんなことを考えていると、セレス先生がおこぷんぷんな顔でこちらを見つめてきた。
「もぉ~ぷんぷんですよ!」
「勘弁してください」
「むぅ~~、次はないですからね?」
「次はないです」
むぅ~なんて現実で聞いてこと無いぞ。しかも大の大人の口からとか勘弁してくれ。
まあ、クラスのみんなからは可愛いと好評だが、今はダメだって。
「まあ、時間が来たので今日はこの辺で」
「え~、授業無しで一緒に話そうよ?」
「ごめんね、今日は早く戻らないといけないから、また今度ね」
「「はぁーい」」
「じゃ、おつかれ~」
いろいろあったが、見た目通り優しい教師でよかった。
かくして三限目は終えた。
教室から出ていったセレス先生。
廊下を歩く姿はどこか楽しげ。
「あぁ~~あ、結構タイプだったのに……ペロッ」
彼女はそんな言葉をポツリとつぶやくと、職員室へと戻っていった。
もちろん、こんな言葉は誰の耳にも届いてはいない。
――――――――――――
休み時間を終え、最後の授業が始まる。
四時間目は、地理だ。担当はハイドス先生という人で、この学園の副学園長だそうだ。
見た目は温厚そうな老人だ。
「全然楽にしていいよ、最初の十分で終わるから。後は私が適当に雑談するから、君たちも雑談してていいよ」
「「「いぇーい!」」」
そんな感じで軽く授業が始まった。
「それじゃあまずは、カイツァルド国の地理について話していこうか。この国はセスタプジール大陸の真ん中に位置する国で、人間の中心の国ともなっている。君たちがここに受験に来た時に分かっただろうけど、商人が多かったり、お店も多かったよね?この国は輸出輸入といったことの中心、出入口とも言える国なんだよね。だからこの国を拠点としてる人も多くて―――」
そして、十分ほどの時間を終えると。
「じゃここまで、後は適当に雑談しといてよいぞ」
「先生先生、うちらと話そう」
「あたしも、混ぜて混ぜて」
どうやらこの先生、一部の学生には特に好かれるタイプだな。
話しやすくて優しい老人は、おじいちゃんっこみたいな人は好きだもんな。
俺は適当に時間をつぶして、いつの間にか最後の授業を終えた。
「気を付けて帰るんだよ~」
「「はぁーい」」
しばらくして、テレーゼリア先生来るとあっという間に帰りのホームルームが終わり、俺は宿に帰ることに。
宿に帰ると、ミミットが部屋で座って休憩していたので、俺はミミット成分を吸って落ち着く。
「んんんっっはぁぁ~~」
キマッタアアァーー!
ストレスを和らげるにはやっぱこれだな。
今日はいろいろあったが、優しい先生ばかりで良かった。
とりあえず、この調子なら学園はなんとかやっていけそうだ。