第十四話 合格の報せ
受験が終わって次の日、合格発表を待つため今も宿に宿泊している。
学園に通うために受けたテストは魔法ですぐ採点することができ、こうして少しの間の滞在している期間で合格が分かり、合格した後もすぐに入学式が始まり、寮に移り住むことができるので、数日待てば学園に通うことができる。
もちろん、自分でも落ちることはないと分かっているが、もしもはいつでも起こる。体調を崩して落ちる、なんてことは前世の受験の時でもよくある話だろう。
まあこれだけ大荷物で、それもこれだけの期間をかけて来て不合格なんてなったら、一週間は寝込む自信がある。
合格発表は明日、今日はあまり考え事をしたくない気分だ。
ということで、店主に今日も裏庭を借りて、少し長めに剣を振ることにした。
今日は裏庭には誰もいなかった。
まあ、試験が終わったなら普通休むよな。
そんな考えをよそに素振りを始めることにした。
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「二千五百!」
どれだけ時間が経っただろう。二時間は経っただろうか。
やはり、素振りは頭がすっきり冴えてしまう。
少し休憩を取ろうと、壁にもたれかかるため歩き出す。
振り返ると、俺と同年代の人が俺をじっと見つめていた。
裏庭の先客だった。
とりあえず避けて壁にもたれかかり座り込むと、彼女も素振りを始めた。
俺が邪魔しちゃってたかな。
彼女は美しかった。汗で透ける服、袖からちらりと見える脇、剣を振る度に揺れるッ胸!
……ふつくしい。
しかし、あまりガン見してると嫌がられそうなので、すぐに目をそらす。
でも、このまま汗で濡れると風邪をひくだろうと思った俺はとりあえず宿に戻り、ジュラシックスパイダーの糸で作られたタオルを持ってくる。そのまま裏庭に戻ると、彼女は水を飲んで休憩していた。
「風邪ひくぞ」
俺はそれだけ言って、彼女の頭にタオルをかけるとそのまま部屋に戻った。
これこそ紳士という奴だろう。我ながらナイスプレーである。
…………よくよく考えたらこんな顔のやつに急にタオル渡されてキモっ、とか思われてないかな?
考えただけでショックだな。
その後もミミットとお昼ご飯を済ませると、再度訓練を始めてそのまま一日を過ごした。
――――――――――――
翌日、ついに合格発表日。
ほぼほぼ合格だろうとは思っても怖いものは怖い。
そんな考えをよそに合格発表の場へ向けて歩みを進めていく。
もう今の俺には固唾をのんで結果を待つしかないが。
今回はミミットも一緒に同行する。
一人じゃ心細いしな。
学園に着くと、受験者の合格発表が張り出された広場へ向かう。
受験者たちはざわざわとしながら、張り紙が張り出されるのを今か今かと待ちわびていた。
あるものは手を合わせて神に祈り、あるものは緊張のあまり吐いていたり、あるものは気でもおかしくなったのか呪詛のようなものを唱え続けていた。
……お前またゲロ吐いてんのかよ。
そんな中でもよっぽど自信があるであろう人たちは堂々とした顔で静かに結果を待っていた。
やがて、教員たちがやってきて合格者発表の張り紙を木の看板に貼り付ける。
その瞬間、今か今かと待っていた受験生たちが一斉に看板へ集まっていく。
目の前はすぐに人だかりができて、遠目で確認するしかない。
俺の受験番号は後半なので、半分から後ろを見ていく。
「三百一番、三百三番―――」
そして、その先に自分の番号があった。
あった、俺の番号だ。
「よかった、合格だ」
「ご主人様が落ちるはずないのに、心配していたんですか?」
ミミットが分かっていたかのように、さも当然のことだと返してくる。
「もしもはいつでも起こるものだから」
「でも学園は下級魔法か下級剣術を身に着けているなら、絶対といわれるほど合格するんですよ。あれだけ下級魔法を身につけたご主人様が何心配になってるんですか?」
「それはそうかもだけど……」
「ほかの人にとっては失礼にも値するかもしれませんよ」
「うっ!たしかに……気を付けるよ」
まさか、ここまで来てミミットに説教されるとは……反省してます。
「ですが、おめでとうございます」
すると、ミミットが背伸びをして頭をなでなでしてくれた。
あまりの嬉しさに俺は気持ちを抑えきれず、ミミットを抱きしめた。
「恥ずかしいですから、あまり人前で抱きつかないでください」
すぐには突き放さないんだな。
人前じゃなければ好きなだけ抱きしめていいのだろうか?
やがて俺はミミットから抱きしめていた手を元に戻し顔を見てみると、ミミットの顔は真っ赤にほてっていた。
きゃぁ~~~わい”い”い”い”ぃ~~!!
小動物だ、変身できる獣人だから本当に小動物だけど、小動物のようなかわいさだ。これは小動物可愛い遺産に登録するべきだ!
……ふぅ~~。一旦落ち着こう。
周りが受験生ばかりの中で、こんなテンションでいるのもいかがなものだろう。
周りを見ると、喜んでいる者もいれば、当然泣いてるやつもいる。まあ、合格しても泣くから合格したかしてないか分からないけど。
するとものすごい大声で喜んでいる奴がいた。
「やっっっっったぁぁ――――――!かぁーみぃーさぁーまぁ―――!!」
見ると、ゲロ吐いていたやつだった。
まさか、低級魔法を扱っていたのに合格していたとは……他の科目で補ったのか?
なんにしても凄いな、ここは敬意をこめて、ゲロ師匠と言わせてもらおう。
学園への用事は済んだので、宿に戻ることに。
宿に戻ると合格が決まったので、早速ペルダに合格したことを手紙で送ることに。
もちろんミミットも一緒に手紙を書く。
最愛なる父さん、ペルダへ
お元気ですか?
俺はラルド学園に合格して、入学することが決まりました。
受験よりも今の方がとても緊張しています。
友達が出来るか不安です。やっぱ帰りたいってなります。
ですが、今こうしていられるのは、それもこれも父さんのおかげです。
ありがとうございます。
今は学園に通い始めるまで、ミミットとゆっくり過ごしています。
おいしいもの食べたり、楽しく会話をして楽しんでいます。
父さんがいないのは残念ですが、しょうがないですよね。
父さんも、身体を壊さないように気をつけてください。
また手紙を送るので、楽しみに待っていてください。
最高の息子、サキラより
俺は手紙を書き終えた。
ミミットも手紙を書き終えたようで、早速ペルダに手紙を届けるため、高速バード店へ向かう。
高速バード店とは、鳥の魔物が手紙や荷物を高速で届けてくれるサービスで、戦争の伝令や政治の重要な会議を伝える時にもよく使われるサービスだ。この鳥の魔物、マッハバードは、国の横断もスムーズに移動でき、とにかく速く飛ぶことができるので、隣国なら一日以内に届けることができる。ネットがない世界では非常に重宝される。
高速バード店に手紙を預けると、俺たちはまた宿に戻る。
次は、合格が決まったのだからさっそく荷物をまとめる。
この発表があった後にはたった数日で入学式が始まる。その日には寮に荷物を持っていかないといけないのでまとめる必要があるのだ。
といってもメイドのミミットがもともと予測して準備していたので、素早く済んだ。
いつでも出られるよう準備ができたので、いよいよ次はお祝いパーティーの準備をすることに。
その前に、午前中ももうすぐ終わりそうなので、先にお昼ご飯を宿で済ませることに。
午後で一気に準備に取り掛かろう。
お昼ご飯を食べ終えると、気を取り直してパーティーの準備を始める。
まず向かうはミシュラー商店、合格祝いに甘いお菓子は必須だろう。
ポテチや炭酸飲料もあれば最高なのだが、そこは自分で作るしかないだろう。
しばらく歩き、一際大きい店、ミシュラー商店が見え始めた。
今日もなかなかの列を作っている。
いつもの女性店員を見つけ、今日は最後尾で看板を持っていた。
するとミミットが女性店員のもとへ走っていった。
女性店員はちょうど今から休憩時間らしく、別の従業員に看板を渡すと、ミミットと女性店員はそのまま仲良く会話をし始めた。
いつの間に仲良くなったんだ?
とりあえず、俺も横に立って列に加わる。
楽しそうだな、話に加わりたいけど俺がミミットに迷惑をかけて、折角親しくなった女性店員と仲違いすることになったらいやだな。
そんなことを考えながら、俺はミミットと女性店員の話を聞くだけにした。
どうやらこの女性店員の息子も、受験に合格してラルド学園に通うらしい。
この女性いわく、息子は天才らしい。
この場合、ペルダのように親バカなのか、その息子が本当に天才なのか分からない。
一応何がどう天才なのか聞いてみる。もちろんミミットが。
「息子さんはどんなところが凄いんですか?」
「なんとうちの息子、数学の新しい計算方法を生みだしたんです!」
なるほど、数学の天才か。
この世界は、商人のような数字の単純な計算でも、普通は商人以外勉強しようとしないので、発展途上である。
てことは創造か………本当にその息子は天才のようだな。
すると、女性店員は熱が入ったのか、会話の熱がヒートアップしていく。
「実はですね、うちの息子産まれたときになんて言ったと思います?ママですよママ!もうこの子天才ですよね!産まれてきてすぐ私がママって分かるとか本当に天才ですよ!!」
…………前言撤回、ペルダと同じ親バカだ。
「お勉強もすぐに覚えちゃって、今では私より―――」
そんな調子で列に並んでいる間、ずっと息子の話を聞かされた。
ミミットはというと、笑顔でうなづきながら女性店員の話をしっかりと聞いていた。……カウンセリングかよ。
一時間以上は経っただろうか、無事店内に辿り着く。
今日も客が多かったな。
その後、俺たちはチョコを無事調達。
女性店員はまだ仕事もあるので、ここでお別れだ。
その後もいくつか料理を買って周った。
宿に戻り部屋に入ると、先ほど買ってきたパーティーセットを早速テーブルに広げる。
「ご飯パーティーですぅ~~!」
テーブルには、お肉や魚、野菜が刺さった串焼きがたくさんだ。
やっぱりお祝い事には、居酒屋のような串焼きが一番だ。塩で焼いただけで充分に美味い。
もちろんこれだけでも美味いが、これをかけてみてはどうだろう?
そして俺がカバンから取り出したのは、市場で買ってきたチーズだ。
まず、お肉の串焼きを皿の上に乗せる。
「ティンダー!」
火魔法でチーズを溶かして、串焼きに垂らしていく。
トロットロやで!これ絶対うまいヤツだって!!
ミミットの串焼きにもチーズを垂らしてやる。
よだれも一緒に垂らしてやがる。まあ、気持ちはわかるよミミット。
俺たちは大きく口を開き、豪快にかぶりつく。
「「っっ!うまああぁぁ―――!!」」
濃厚なチーズが口の中で広がる。まるで串焼きのお肉が上品に感じる。
これは病みつきになるな。
その後も散々飲み(はちみつ水)食いし、結構腹が膨れた。
俺たちは少し休憩を挟む。
そして食後のデザート、チョコまたの名をチョッコを市場で買ってきたはちみつ水を飲みながら、一緒に食べる。
やべぇー、背徳感スゲェー。
夕飯後の夜中にチョコ一箱とか俺たち悪い、悪すぎるわぁ~~。究極の悪だわぁ~~。
そんなことをしながら、今日はあっという間に寝静まってしまった。
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次の日、学園に通うまでの数日をゆっくり過ごしていると、どうやらペルダからもう返信が返ってきたらしい。
早速ミミットと高速バード店へ向かう。
高速バード店で手紙を受け取ると、急いで宿へ戻って手紙を読む。
ペルダからは合格のお祝いの言葉やミミットとの手紙のやり取りなどがつづられていた。
中には、ペルダのもとへゴルグが来たことも書かれていた。
初めてあって以降、ゴルグはまた仕事に追われ顔を出すことができなかったという。冒険者と一緒に別の仕事もしているが、冒険者だけならもっと自由なはず、一体どんなブラック企業に勤めてんだ?
いくつか手紙に書かれている内容を読んでいると、どうやらゴルグの子供もラルド学園に通うらしい。
ゴルグには息子がいたのか、初めて知ったな。ゴルグと同じなら仲良くしてくれるだろうか、してくれるといいな。
俺たちはその後もゆっくりと過ごして、とうとう明日は入学式。
気を引き締めていこう。