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第一話 転生

 人助け。当たり前に感じて難しい行動、俺はそう考える。


 人がいじめにあっていてそれを間に入って助けに行くということはもちろん、これほどでなくても電車で席を譲る、子供が転んでけがをしたので手当を、これなら簡単だと感じるだろう。


 しかしこの時、

 相手に迷惑がられる、遠慮される、無視される、面倒ごとに巻き込まれる、やらなければよかったなどと考えて、勇気が出ずに声をかけることもできないことだってある。

 大丈夫だろうと自己完結させ、何もせずに去ることだってあるはずだ。


 だからこそ当たり前は難しいことなのだ。

 当たり前は当たり前なのではない。

 人助けは当たり前なのか? 

 俺にとっての人助けは当たり前だからする行動などではない。



 俺は小さい頃から、ブサイクな容姿のせいでいじめにあっていた。


 机や教科書に落書き、ごみを投げつける、服を濡らす等々よくあるいじめにあっていた。


 中学にあがるといじめのレベルが上がった。

 焼きごてで身体を焼かれたり、水に沈められて死にかけたり、暴力的なことが増えた。


 体中、痣や火傷だらけで痛かった。

 誰も心配してくれなくて苦しかった。

 辛すぎて毎日考えることは徹夜テンションの時のように不安に苛まれる。

 だが中学二年のころ、ストレスがたまりすぎてとある対抗心が芽生えた。


 複数人がかりでいじめてくるこいつらが俺に負けたら?


 そう考えたとき俺は、動かずにはいられなかった。

 そこからは簡単だ。

 勉強では常に上位に入る成績を。

 スポーツではエースをも潰すパフォーマンスを。

 暴力にはすべてをはねのける強靭な肉体を。


 勉強は毎日十時間、運動は毎日十キロ走り、サッカーとバスケを中心に技を磨いた。ジムにも通ってひたすらに鍛えた。


 成績はみるみるうちに上がり、スポーツも体育の授業で部活動生と同じレベルで動けるようになり、自分の肉体は筋骨隆々とした体へと変貌した。


 そして高校一年生の春。

 入学早々やってきたいじめっ子たち。

 いつものように複数人がかりでやってきた。

 彼らはとてもにやにやしていたが今の俺は違う、力を手に入れたのだ!

 


――――――――――――



 返り討ちにしてやった、病院送りにしてやった!

 高揚感で満たされた俺。

 もう勉強でもスポーツでも、いじめっ子どもは敵わず黙らせてやった。

 俺に勝てるいじめっ子が消えた。


 それからは大したいじめはなかった。

 容姿は相変わらずブサイクのままなので陰口は絶えないが、今の俺にはそんなこと些細なことだ。

 痛みに苦しむことなく五月蠅い罵倒を聞くこともない。


 そんなある日、別の子がいじめられるようになった。

 体がつい動く。同情から来てしまったのか、昔の自分を見ているようでイライラしたので助けてやった。

 いじめられてた少年は数秒黙っていた。すると……


 「お前のせいで俺がいじめの標的になったんだ!」


 堰を切ったようにそう叫び俺の前から消え去った。

 思いもしなかった言葉を吐き出された俺は、一人呆然と立ち尽くした。



――――――――――――




 そして、ここから俺は自暴自棄になり始めたのだ。


 自分と同じ境遇になっているのを見たくなくて助けていた。自分のせいでという罪悪感にかられながら。

 同情をして助けてもやってよかったなんて一度も思えたことがない。

 そして、次々に言われる似たような言葉、「おまえのせいだ」と。


 学校でなくとも助けても容姿のせいか「ありがとう」なんて一度も言われたことがない。むしろ嫌悪の目で見られることが多かった。


 やはり、特に「おまえのせいだ」と言われることが一番つらかった。

 だが、彼らにそう思われ続けるのも嫌だったから。

 なので俺はいじめに対して反撃することはなくなった。


 すると俺以外にはいじめが減っていた。

 「おまえのせいだ」なんて言われることがなくなっていく。

 そして、俺にすべての牙が向く。


 いじめっ子どもは自分たちより上だった俺がまた自分たちの下になったのがうれしいのか、毎日欠かさず鬱憤を晴らすようにやってきた。


 こんな毎日を繰り返しながらなぜこんなことをしているのか、自らに自問自答する。

 自分でも訳が分からなかった。 

 いじめを助けても全部自分に矛先が向いておしまいなのに。


 つまらない人生、くだらない同情と罪悪感のせいでさらにひどくなった。

 あの時同情しなければ違っていただろう。

 罪悪感にまみれた生活に。

 自分が代わりにいじめられるという日々に。


 全てが灰色の世界に見える。

 早く死にたかった。

 

 死にたい、死にたい死にたい死にたい死んで楽になりたい!


 あー。 だれか殺してくれ。



――――――――――――




 ある日、学校をサボり街をブラブラとぶらついていた。

 何無駄なことをしているのかと自分で思う。

 すると、あるところについ目が行ってしまった。


 トラックにひかれそうな女子高生がいたのだ。

 どうせならこの思いにも決着をつけるために、と思った俺は女子高生を突き飛ばし自らが死にに行った。


 キキーッ!ガンッ!



――――――――――――


 


 気づいたら俺は不思議な空間にいた。

 あれ、さっき俺はトラックにひかれて死んだはずじゃ?

 すると―――


 「ようこそ死後の世界へ……げっ」

 目の前にはまるで女神のような人がいた。いや、ような人ではない本物の女神だと本能的に理解した。

 女神という存在は美しいという表現以外、何も出ないほどに美しく目が離せなかった。

 思わずみとれていたが、自分の置かれてる状況を再び思い出す。


 あー、そうか死んじまったか、人生終わりを迎えられるのか。というか「げっ」てなんだ不細工だからって失礼な。仮にも女神だろう?

 考えていると女神が再び口を開く。


 「ここはごく少数の転生のチャンスを与えられたものが送られる場所です」

 えっ、今なんて言った?転生ってまさかあの転生?チートスキルで無双したりするあの!

 この言葉を聞いた瞬間、さっきまでの灰色の景色が途端に色付け始めたのだ。


 ついに、ようやく報われる日が来たのか。

 そう思えたのだ。


 「その転生は異世界にですか?」

 「はい、こことは違った魔法のある世界です」


 ほう、ド定番だが小学生から夢見た漫画やアニメの世界。

 前世のしがらみを気にすることなく生きられる。

 漫画やアニメが好きな俺にとってこんなチャンスは……手放すもんか!

 

 死にたいと言ったが前言撤回!これは話が変わってくるな。

 となると、転生では定番のチート能力を手に入れる特典なんかがあるのだろうか?


 「あっちの世界で生きていくための特典だったりはあるのですか?」

 自分らしくなく口が回っている。興奮を抑えきれない。


 「ええ、転生させるときにこちらでつけさせていただきます」

 選べないのは残念だがまあいい。

 その異世界とやらに行ってみようじゃないか。


 「分かりました。ではお願いします」

 「ほかに注意事項などは聞かなくていいのですか」

 せっかくだから新しい世界を存分に味わいたいと思った俺は理由を述べる


 「自分で調べることも好きなので」

 「……わかりました、では新しい世界へ行ってらっしゃいませ」


 足元が光りだし体が徐々に消え始めた。

 すごい!まるで魔法だ!!

 いや、今から行く異世界はこんな光景当たり前になるのだ。

 まさか念願の異世界ライフができるとは思ってもみなかった。


 ワクワクしていた俺だが完全に体が消える瞬間、女神にお礼を言おうと顔をあげてみるとニヤリと悪い顔をしていた。

 何?こわ、大丈夫なのかと突然不安に思いながら意識を失った。



――――――――――――



 やがて意識が戻ったのを感じた。

 この体の不自由感、おそらく赤ん坊に無事転生できたのだろう。

 目を開けるとイケた顔の男と美人な女がいた。

 ということは俺もイケメン確定だ!

 まさかの早速特典の効果キター!!

 喜んでいると二人が思いもしない言葉を口にした。

 

 「すまない、こんな状態で産んでしまって」

 「まさか呪い子なんて」


 え、呪い?何それ、知らないワードだが明らかにやばいやつだ。

 前世の言葉通りならシャレにならねえぞ!

 漫画とかでも大体バッドエンドルート確定してるぞ!


 ここであることを思い出してしまった。

 まさか女神の最後のあの顔は!


 「おんぎゃーー!(やりやがったなーー!)」

 こうして俺の第二の人生がスタートした。

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