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六之三

『五之六』にて挿絵を更新しております!!

 寒いな、と肩を縮めながら三善は廊下を急ぐ。

 朝食が終わって一時間後となる。三善は家に電話を掛けたり運び入れる荷物の指示を出したりして一息つけば、優に一時間は過ぎていて驚いた。葵の言う「後ほど」を本当に自分の予定をこなした後にしていい……わけがない。三善家の中ではそれでもいいのだが、一応居候になるしな。

 傍に式神はいない。自由にしていい、と言ったから。


「広いなあ、この屋敷……」


 確か……尾崎邸の表の顔が骨董屋のナリをしている、んだったか。

 陰と陽の関係といえど、流石にこの床の上に立ち続けるのは我に返ると怖い。裏と表を水鏡に裏返せば、あの場所へ行くということだ。


「部屋どこだよ! 広すぎだろ!」


 博物館よろしく、【葵の部屋はこちら⇒】ぐらい書いておけ! ……と心の中でベロを出して、三善は目を閉じた。

 気配を追えばわかるだろう。元来陰陽師とは、そうやって怪異を叩く。

 やはりわかりやすく、葵は気配を消していない。だが、三善は眉をひそめた。

 不自然に搔き消された気配がある。この屋敷の中でさえ存在を隠されたあの女の子の居場所が、逆にこうもわかりやすいなんて。


「きたぞー」


 木の軋む音を響かせて、三善は扉を数センチ開けた。開けて中を覗いて、締めた。流石に無遠慮過ぎたかも。


「三善でーす」


 ノック四回。返事はなかった。流石に遅すぎたかも。


「入りまーす」


 あのまま入れば良かった……と肩を僅かに上げて、三善は後ろ手で扉を閉めた。

 中に入れば窓が開いている。冷たい風に三善は身に力を込めて、葵を見る。

 葵は三善を一瞥すると、扉をカラカラと閉めた。右手には手紙を持っている。


「鏡子様?」


「そうだ。すぐに来る、と書いてある」


「そうだよなあ。流石にアレは……」


 三善も窓の傍に歩みを進めた。遠くに見る霞んだ空は、鈍色をしている。


「……昨日の一件と、萩原のこれまでの仔細を送ったんだ。今までの贄の末裔で、こうもねじれたことあった……?」


 顔をしかめる三善に顔を向けず、葵は首を横に振った。


「だよな。三善家にも贄の末裔達の特別な記録なんて無いんだぞ。ま、葵が居るからほぼ僕らの観察なんて形だけみたいなものだったし……」


「……三善一誠、お前は……祖とする三善の、何だ?」


「……先祖返り」


「そう。では小春は――何だと思う?」


 三善は、思わず目を見開いた。だって、こんな骨董屋の姿を見たことがなかったから。

 いつも表情がなく、雪の様さ冷たさで全てを見下している。丁寧な口調で人間と話そうとも、温度というものを持ち合わせていない生命。

 そんな妖が……今にも泣きだしそうな声色で、片手で両目を覆って、俯いている?

 では――それほどの、事態というのなら。萩原小春は――――。


「……最初の贄の、贄として完成したあの女の、先祖返り……だって言いたいのか」


 返答はなかった。それが答えだった。


「命が繋がる以上、いつかは返ってくるとは思っていた。だから出来る限りのことを……してきたんだ……」


 確かに、と三善は思い返す。

 萩原の――正確には、小春の母親の家系は専属の医師を持つ。彼らにその意識は無いだろうが、かかりつけ医は全て三善の姓を持つことに気づいていただろうか。

 そんな母親の家系で、女児は贄として発現し境界線を越えさせられることを防ぐために三善家が呪いを施している。それが……小春に至っては、緻密に、高頻度に、行われていた。

 呪具の破損、見えざるモノを見ること、話すこと――――ただセンスを持つだけに留まらない予兆だったのだと、したら。


「雪女は……屋敷から、出ないのだ。ずっとあの屋敷の中で、我が子を探すだけ……。そうだと言うのに、あの日に、あの人は境界を越えた」


「果実の……香り」


「そう。雪女が探し出したんじゃない、雪女にも見つけられたんだ。それほど強く……果実として、育った、から」


「わかった。こちらとしても認識を強く改めるよ。そして……申し訳なかった。それほど危険な状態だって、気づけなくて」


「それは仕方がない。私が――その事実を隠していた、から」


「なんで?」


「……贄の果実だと、わかってしまっていたら……あんな危険なもの、閉じ込めておきたくなるだろう?」


 葵の瞳が覗く。強く激しい、攻撃性を持つ牙。


「……贄の果実を盗まれたら、僕ら陰陽師にとって形勢逆転の一手だからな」


「お前たちは全体を見ている。それは正しい。正しいが――小春にとっては、正しくない」


「……葵」


「誰も、閉じ込められたくなんか、無いだろう……?」


 そうして、沈黙が降りた。

 暖かくない部屋に、人間の体温は一つしかない。

 これだといつまで経っても、冷たいままだ。

 そこに、ちりん、と鈴が鳴る。

 骨董屋の門を叩く客の合図。そして――幽明境を超える人の証明。














「……あの、今お店って、やってますか……?」


 小春は鼻の上に埃を乗せながら腰を上げた。そこに女子高生が立っている。


「あ、はい! どうぞどうぞ!!」


 琥珀が欠伸をしている前の通り過ぎて、小春は店の中にその少女を招き入れた。


「えっとあの……何と言えばいいかわからないんですが……」


 猫毛の肩上までの髪を揺らしながら、その少女は両手を差し出して開く。


「こ、これ、預かってもらえませんか!? ここって、あの、呪われた物とか、引き取ってくれるんですよね!? お祓いとかいいんです、ただあの、引き取ってください!!」


 その声の大きさに、同じく埃を鼻の上に乗せた燈夜が顔を出した。


「指輪……?」


 燈夜の声に少女は頷いて、彼にぐいぐい、と指輪を押し付ける。

 慌てて受け取ったはいいものの、その場を後にしようとした少女の手を引き止めた。


「ちょっと待って! 何のトラブルに巻き込まれるかわからないし、盗品の可能性もあるからそう易々とは受け取れない。せめて説明をして行かないか」


「そ、そうです! どうしたらいいんですか!?」


 小春はそう頷きながらも、混乱していた。


「わ、わかりました……。でも、説明したら、絶対に引き取ってください!!」


「それはこちらが判断することだよ。どうぞ奥へ――お茶をお出ししよう」


 燈夜が道を開ける。小春はハッと我に返り、佇まいを正して微笑んだ。


「いらっしゃいませ! ようこそ、骨董屋へ!」


お、お久しぶりぶりざえもんですぅ……。

いや~~~~~~~あの、FGO2部の終章にダメージを受けていて、燃え尽きていて? 小説書けなくなってました……。

でももう大丈夫! 復活の立花みきゃん!!

ついでに麻雀も始めたぜい!!!!!!!

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