四之三
葵はゆっくりとした歩みで店へ出ると、上着を脱いで琥珀と話している二人の女子高生を見た。二人は同じ背丈で、でも顔は似つかない。しかし、あの口ぶりからは二人は姉妹であると推測できる。
「おばあ様の預かりものを受け取りたいと?」
葵の温度の低い声は、二人に緊張を走らせたようだ。
「そ……そうです」
気の強そうな一人が負けじと言い返す。
「では、木簡を」
「木簡……?」
「そう。こちらと対になる木簡を。証なくば、渡せぬ」
「手紙じゃ駄目なんですか!?」
「ならん。そのような手紙、こちらは一つも認識していない。いくらでも偽れる」
「嘘なんか吐きません!!」
「信じられん。初対面だと言うのに、そなたらの何を信じよと言うのか」
二人は啞然としていて、しかし何も言い返せない様子だ。
「家に戻って探そう」
「そんな、そんな時間ないよお姉ちゃん」
「店長さんが言ってることはまともだよ。出直そう」
「でも……!!」
――明日には火の中に沈む母。今日は通夜か。冷たく凍る身体にある二つの命は、雪が積もらない平の箱に浸かっている。
遺族、それも娘二人に残されている時間は果たして長いのか、短いのか。
ここで退き返すのは、本当に賢明な判断であるのか。
「ほな、こうしましょ」
琥珀は明るい声でを出すと、両手で一度大きな音を出した。
「あんたはんら、片方の命引き換えにすればええねん。どやろ、葵はん?」
「……そなたら、双子だな」
二人は固まる。
「……そうです」
妹が肯定した。小春は二人を見つめる。――二卵性?
「……良かろう。命を担保に、というのならこの幽明境、応えぬわけにはいかぬ」
「流石やわ~」
姉は、震える声で問いかけた。
「ど、どちらかを……人質にしろ、と?」
「否。預かり物を入れ替えるだけよ」
葵はにこりともせずに、ただ二人を見つめていた。
「珠を返せば、命の半分を返そう。そなたらのおばあ様が我らに預けたものは、そういうものだ」
「じゃ、じゃあ……私が残ります」
「お姉ちゃん!?」
「こういうのは姉の役目。……お母さんを頼んだよ」
「そんな……無理だよ。わたし一人で何をしたら」
「じゃあ、ここに残る?」
「……お姉ちゃん……」
姉は妹の肩を抱くと、力強く頷いた。
「大丈夫。あなたなら、絶対に出来る」
「――よろしいか?」
葵の言葉に、姉は力強く頷いた。
「それでは、此方へ。蔵へ案内しよう」
「小春。店番は俺がしとくから、な」
琥珀は小春に小さく耳打ちをした。どうやら二人のためについて行ってあげて欲しい、と言っているようだ。小春はぎこちなく頷くと、双子と共に葵の背を追った。
葵は一旦居住区に続く扉へ引き返し、そこから小春が行ったことのない廊下へ渡る。
葵が一旦立ち止まり双子を見た。双子は一瞬呆けたが、慌てて靴を脱ぐとそれを右手と左手に持ち後を追う。
葵、小春、双子の四人は並んで古めかしい木の音を響かせて、この平成の世ではおよそ見たことのない板の鍵に封じられた扉へ入る。
それは入るというより出る、が正しい。四人は靴を変え、或いは履き、砂利道を進んでいく。
後ろを振り返れば大きな屋敷が四人を見送っているのか、見下ろしているのか。離れの石造りの蔵――ここに、その預け物があるようだ。
「ここは、我が骨董屋に集まったモノを鎮めさせる宝物殿。決して、無闇にモノに触れぬように」
葵の静かな忠告に、三人は頷いた。
葵が一つ扉への段を昇れば、それに合わせて鍵が開いていく。小春側からは見えない錠前だが、確かに重い音が響いている。この音には聞き覚えがある。兄を閉じ込めた姿見は、此処にあったものだろう。
開けられた扉から中に入ると、そこは埃っぽさは無く、空気は澄んでいる。
ただ視界は悪く、双子は中が伺い知れないことに恐怖を覚えているようだ。
葵が中に入るから、小春も後に続く。その後に音が続かないから、小春は振り返った。
「来ないんですか?」
「い、いきます!」
姉が顎を引いて一歩踏み出した。二人は固く手を繋いで、まるで化け物の口の中に入るみたいに目を強張らせていた。
宝物殿の中は、実に不思議だ。小春は宝石屋ってこんな感じなのかな、と夢想しながら軽やかに葵の後についていく。この蔵の中に蝋燭の光りは無いのに、葵の視界を助けるかのように闇の中に灯りが浮かんでは消えていく。
そして、ついた。姉妹が探す、預かり物の在処に。
「これが……よみがえりの珠だ」
それは、一見すると水晶玉だった。しかし、灯りに照らすと、それはただの水晶玉では無い。
俗にいう占い師が持つ水晶玉の大きさの中に、三つのビー玉サイズのキラキラと光る鉱石がピラミッドの角の位置に三つはめ込まれている。それぞれの珠を結ぶ糸はさび付いた白で掘られていて、その珠に傷という一点を除けば、宝物と言われるに相応しい見た目を持っている。
「これがあれば……お母さんは助かる……!!」
姉はそう言うと、葵の傍へ歩み寄った。
「では、この珠の返還の条件として、同等の命を預かろう。その珠無くば、此方は返せぬ。結果がどうであれ、それは我ら骨董屋には関りが無いこと。小春、珠を渡してやれ」
葵が出した木の箱に、小春が珠を入れた。珠は持ち上げると、中の水晶が揺れた――。水のように。
「どうぞ」
「ありがとう……ございます」
妹は箱を受け取った。ずっしりと腕に伝わる重さは、どちらの命の重さであるのだろう。
「小春。お見送りを」
「はい」
「え、もう? ちょっと待ってください、これ、どうやって使うんですか!?」
不安に焦る妹の問い掛けに、葵は期待通りに応えない。
「さあ。骨董屋はただ預かるのみ。それでは――またのお越しを」
この蔵の主が、もはや滞在を許さないと言った。
それならば招かれた客はその言葉に従い、または蔵は主の意に従い、その扉を閉じるものだ。
小春と妹は、瞬きの内に骨董屋の入り口まで戻された。
妹は目を瞬かせながら、震える肩を隠せなかった。
「……大丈夫、ですか?」
「……大丈夫じゃない……わたし一人でどうしたら……お姉ちゃん……!!」
「え、えっと……」
店の前で震えている彼女を目の前にして、小春はどうすべきだろう。
ついていくべきか? しかし、輝夜たちの許可なく此処を離れてもいいものか。
どうしよう――どうすれば、一番良いのだろう。
目の前の彼女の瞳が揺れている。
口が開く。
小春はにこやかに笑みを作り、言葉を待った。
エタってなぁ~~~~い!!
いろいろ年始から飛ばしてますスケジュール。
体力と相談してそのギリギリを攻める!




