四之一
白んだ景色の中で、私はお母さんと手を繋いで歩いている。
お母さんの笑顔は見づらいけれど、私に笑いかけてくれていることが嬉しかったら、私は飛び回っていた。
だから、私は、お母さんに黒くて丸い可愛い生き物を紹介したんだっけ。
そう、お母さんは、その時に強く私の頬を――――。
小春は目を開けた。
鮮明な夢だ。右の頬を無意識に撫でて、白んだ息を見つめている。
窓を開けて外を見た。世界も小春と同じタイミングで目を開けるようで、青白い世界に穏やかなオレンジ色が染みだしてきている。
小春はそれを眩しそうに見つめて、窓を開けたまま着替えを始めた。
髪を結んで、ペンダントを――――。
「壊れちゃったんだっけ、あれ……」
机の上に置かれた石の部分が粉々に割れたペンダントを傍目に、小春は制服に手を掛けた所で、
「小春。……もう、目覚めたのか」
葵の声が、襖の向こうからした。
葵の影がある。こちらに入る動作は無い。
「あ、はい。おはようございます」
「……おはよう。開けてもよいか」
「はい、あ、ちょっと待ってください!!」
がたり、と僅かに開かれた襖が止まる。
小春は慌てて制服を着こんで髪を梳かして、出来得る限り頬を上げて襖を開けた。
「小春――……寒い。暖房は」
「あ、そうですね。つけますね」
「……これを」
葵は目を伏せて、小さな木造りの箱を小春に差し出した。
「……これは何ですか?」
「新しい首飾りだ。……必ず付けているように」
「……はい。わかりました!」
小春は両手で箱を受け取ると、葵を見上げた。
「葵さん! あの、お兄ちゃんのこと……怒ってますか?」
葵は僅かに驚いたかのように見えたが、ただ小さく息を吐いただけ。
「……いや」
「そうですか! よかった! お兄ちゃんああ見えて気にしい……なので、何かあればまずは私に言ってください」
「小春が気にすることではない。アレのことは、アレが如何様にでもしよう。……小春」
「はい!」
「朝餉にはまだ早い。8時になったら、降りてくるように」
「は~い!」
小春は最大限笑って、踵を返す葵を見送った。
彼の背中が見えなくなった後に襖を閉め、机の上に箱を置き、そのまま流れる左手で壊れたペンダントをゴミ箱に滑り落とす。
プラスチックに固い金属が跳ねる滑稽な音を見下ろして、小春は木包みのペンダントを掴みあげた。
壊れたモノのよりも、ちょっとだけ装飾が豪華になっているような?
小春は特にその後は考えずに、慣れない動作で首に掛ける。
一度付けたら外さないように、と強く言い付けられているものだから、外すのも付けるのも慣れてはいないのだ。
何度か格闘をして、ようやく三つの約束を身に着けることが出来た。
「あ、そうだ。暖房……」
20度の設定を付けると、暖房は大きな音を出して稼働し始める。
その様子を見つめて、小春は開けた窓から入る冷たい風を頬に受け、冷えた街を見下ろしていた。
朝ごはんの時間になったので居間に行くと、既に兄が小春のポジションの横に座っている。
小春は傍にかけよって、兄の肩に手を置いて大袈裟にその顔を見た。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「小春~! おはようさん」
兄が嬉しそうに頬を緩ませている。小春は隣に腰を下ろした。
輝夜が用意したご飯は、小春の舌に合っている。というか、家では食事自体が味気ないものだったから――どういうリアクションをすればいいか、いや……その相手が前にいない分、楽であったのかもしれない。
だから、このような団欒で食事をするのは小春にとってはある意味試練なのだが、輝夜の手料理はその心配がいらなかった。
のだが。
やはり。
味がしなくなっている。
「小春ちゃん。今日のお味噌汁、どうかしら? 味噌を変えてみたの」
「そうですよね! 味違うな~って思ってました! これも美味しいですね~」
「……それなら良かったわ!」
小春は、さして気にしていない。
味がしないほうが普通だったのだから、少しの幸運が尽きただけだ。
今までの輝夜のご飯の味は覚えているし、いつものように時間をこなせばいいだけ。
だけど、まあ。……少しだけ、寂しいな。
私がエレメンタリーの頃から推しているSound Horizonが来週ライブをやるんですよ。
そんで、そのハロウィンパーティ(時期のことは忘れてくれさい)と銘打っているライブ用に新曲が出たんですね。
ヤバイんじゃない!? 永久リピート止まらない!!
しかも、11/23の席まだ買えるんだって!!
ヤバイんじゃない!? これを機に私と一緒に沼に墜ちよう!
ハロウィンハロウィンハロウィンハロウィンハロウィンの時期がずれるのは、当たり前のことだ……。




