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三之七


 琥珀に用意された部屋に小春が手を引きながら案内すると、自分の処遇に琥珀は感嘆の息を吐いた。てっきり、部屋があると言われた際に随分な冷遇なのだろうと諦めていたが、ここまで綺麗な部屋だとは……。


「お掃除がんばりました! どうでしょう?」


 小春が手を飛行機のように大きく伸ばして尋ねている。


「あ、お、おおう……。めっちゃ嬉しいわ! おおきに、小春ちゃん」


 琥珀は笑顔で小春の頭を撫でた。小春は嬉しそうにその手を受けている。


「そや、ご飯は?」


「食べたよ~」


「おお。えらい、えらい……!」


「お兄ちゃんのもあるって、輝夜さんが言ってましたよ! あ、でも今は葵さんがいるから、行きにくい……?」


 不安そうな目で見上げてくる小春に、琥珀は首を横に振った。


「大丈夫。むしろ……丁度いい。小春はもう寝るんよな? さっき渡り廊下で驚いてもうたわ、お月さんめっちゃ上にあるって! ここまでほんまありがと、じゃ、小春はもうおやすみやな」


「う~ん……そうするね。じゃあまた明日……あ」


 部屋を出ようとする小春は振り返り、


「明日もお兄ちゃん居てくれるんですよね? とっても嬉しい。おやすみなさい!」


 笑顔を残して、此処を出た。

 兄は、その笑顔を見て酷く安心してしまった。だから――少し嫌だったけれど、葵に形だけの謝罪をする勇気が湧いた。形だけだが。そう、形だけの。

 置いてもらう以上の礼儀だから。自分は兄なので、小春のためにしょうがなく。

 琥珀は小春の足音を聞き届けて、改めて襖を閉めた。そうして真夜中の月明りを反射した廊下を足音立てずに歩いていく。

 そうしてたどり着いたオレンジの光りが漏れる襖。開ければ、畳に座る葵が目を寄こした。


「無事でなにより」


「おーきに。余裕でしたわ」


 二人は真正面に座り合って、笑わぬ男と笑う男で示し合う。

 すると葵は特段続きを持つつもりはないようで、すぐに手に持っていた手紙へ視線を落とした。


「……骨董屋の葵はん。……小春を助けていただき、ほんまにありがとうございました」


 琥珀は佇まいを正し、机すれすれまで頭を下げる。

 葵は息を吐くだけで、何も言わない。


「小春が消えてから――在処を辿れず、自暴自棄になっとったんは、自分の責任です。それやのに、恩人である葵はんに無礼を働いたこと、申し訳ありませんでした」


 そこから長い、沈黙が続いた。

 静かにキッチンで話を聞いていた輝夜が心配で覗くほどの、沈黙だった。


「……良い。お前の気持ちは、わかる」


 葵がようやく声を出す。それでも、琥珀は頭をあげなかった。


「焦る気持ちは互いに同じよ。……はあ、顔を上げてよい」


「葵はん……」


 顔を上げた琥珀の前に、葵がその手紙を差し出した。

 そうして目を下げた文面。綴られた綺麗な女の文字。書かれていたのは――目を疑うような、文字列。

 あの陰陽師、安倍家当主の手紙だ。有り得ざる経路で届けられた、緊急事態を示す封の色。

 あの三善の連絡を聞いて、すぐに飛ばした証拠である。


「こ、れは……!!」


「――琥珀よ。此処に留まり、私と共に守り手となれ」


「……おう。当たり前、当たり前や……!!」


 二人頷き合った日の宵の刻、輝夜が注いだ酒を飲み合う和解の宴。あるいは――契の宴。

 再び巡り合う運命を諦めて受け入れるならば、その理由は周知の事実だと喉を焼く度数が言っている。

 屋敷は既にいつもの様子を取り戻し、ここにはしばしの平和がある。

 しばらくの間は、あの血濡れの女も、男も近づけまい。

 だから――、目の色を変えて。

 息の速さを整えて。

 最善を、間違えないように立ち上がれ。








【安倍鏡子からの手紙】


急啓 余寒なお厳しき折から、骨董屋殿におかれましては日々の幽明境でのご協力のほど拝聴し、またそのご活躍のほどに感謝申し上げます。


   急ぎ、神将並びに三善より言を頂きました。

   萩原家の由縁は安倍家においても観測対象としており、三善家にそれこそ観察を一任しておりましたが、その責任を放棄するつもりはございません。

   しかしながら、わたくし個人の都合により葵殿とお会いできなかったこと、大変申し訳なく思います。

   重ねて失礼ながら、今は直接お会いできる状況では御座いません。安倍鏡子が抱える一つの重大事項であるゆえ、決して貴殿を軽んじているつもりではないこと、どうかご了承ください。

   時期は必ず過ぎます。その時に、わたくしより参らせていただきたく存じます。


   さて、萩原小春殿につきましては、とある進行状況にご注意くださればと思います。

   まず初めに、『味覚』が失われることと思います。

   これは、接触したという便宜上の雪女、による因果にございます。

   接触の回数が増すごとに、小春殿の身体に宿る『感覚』が失われます。

   味覚、聴覚、視力、感触……などでしょうか。

   それが『記憶』に至った時、成す術はなくなります。が、安倍家が責任をもってそのような事態にはいたしません。お約束いたします。

   まずは、わたくしの時期が明けるまで、雪女との接触を避けてください。

   そして、お会いできた際にお伝えしたいことが一つ、ございます。

   申し訳ありませんが、紙上には書けぬ事柄にございますので、口頭でお伝えさせてください。


   それでは、後の守護につきましては三善が引き続き行います。

   拙筆、なにとぞご容赦ください。


                                草々

 

                              安倍鏡子

   

やっと今年中のビックイベントが終わりました~~!!

あとは来月の同人誌即売会ですけど、まあそれはいいでしょう!

ということで、立花みかーん、復活!

薄明のほうも更新していきますので、がんばりまぁーす!

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