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三之三

 幾度の扉を開けて、幾度もその背を追う。

 そういうのには慣れているはずだ。

 わたしも。あなたも。

 移り変わる部屋は移り変わる季節と同じ。

 それは逆巻いて、一人に過去を見せるだろう。

 駆けていく畳。その草さえ、踏み締める感触を違えれば――――。


「美雪、大事な話が、あるんだ」


「はい。なんでしょう」


 小春が踏む感触を違えた時、そこは、この屋敷の庭園だった。

 辺りは雪化粧が空から止まず、しかし、そこの男女はそんなことは気にせずにただ、二人の時間を急いているようだ。

 男女は咄嗟に小春の音を聞いたのか、こちらを見た。思わず固まる小春を見ているようで見つけていない二人は、また視線を合わせ合う。

 男は、気まずそうな右手を。

 女は、恥ずかしそうな両手を。

 それぞれに隠して、言葉を待っていた。


「……結婚を、」


「は、はい……」


「……結婚を、和田家と……結ぼうと思っている」


「は、……はい。そうですか……よかったですね」


 それは、絶望の音色だ。

 小春はその音を、昔からよく聞いていたから。

 女の人も、男の人も、それぞれに絶望を口から落としている。

 なんてグロい、景色だろう。

 ――なんて呆けていたから、背後から、あの男がやってくる。

 振り返る一秒すら与えない。小春は目の前が氷点下の温度で焼け焦げていく移り変わりを見るだけで、精一杯だ。

 空からは舞い散る雪の華が綺麗なのに、目の前も後ろも、まるで業火の大輪だ。

 だから小春は、手の中の葵を握りしめて、身を丸めた。

 やがて来る恐ろしいものから、少しでも遠ざかれるようにと――――。


「上出来や小春ちゃん!!」


「娘や、よおく頑張ったなぁ――。後はこの玄武に、任されよ」


 左から追突される小春、その耳を掠めた少年の声。

 小春を抱えた関西弁の男が地に伏せると、鈴の音が小春の鼓膜を満たした。


 ただ鳴り、鳴り、重なる。それは幾重にも似た途方さで、僅かな音程のズレが不協和音を招く。

 小春は見える視界を見ていた。影になった、雪が覆いかぶさった地を。白と黒のモザイクが、鈴の音と共に線を増やす。

 それはまるで、ぼやけた視界とでも言おうか、或いは壊れたテレビと言おうか。

 左手に抱いた葵と、背を覆う見知った兄のような男。

 息を吐いて、ただ、世界に、いつものように身を委ねた――――。






「祖なるは十二天、現たるは神将。玄武、疾く呪のみ乖離せよ」


「あい承知」


 玄武――と口に出され答えた少年は、浮世を拒絶した屋敷の門より、空高く飛翔した。

 

「三善はん、腰が重すぎるのも如何なものかと思うんやけど」


「まあまあ、間に合えば過程なんて些事でしょ? さて、どうしようかな……っていうのは玄武がどうにかするかな」


「はあ……。小春に何かあってみいや、殺すからな」


「ははは。遅いのはお互い様じゃない?」


 骨董屋の屋敷門を見上げる男二人は――、笑い合いながら、その鬼の門を超えた。


「――あれか」


 玄武、――即ち十二神将の一柱にして四神なる少年は、すぐさま保護対象を見つける。

 無事だ。よかった。どうやら胸に抱くあの――……おおー……可愛いな……あれが良い仕事をしている。が、誤魔化しきれていないようだ。

 恐らくは目くらましの呪いだが、少女の陰の気に負けてきている。あれでは、ただの目印と化すのも時間の問題であろう。

 まあ、そうはさせん。それがこの玄武、なんたってすまーとにしごとをこなすマン。

 ……使い方あっておるか……?


「あ、いかん! 猫! 小春を見つけたぞ!!」


 一人は空から、一人は地を蹴ってその地点を目指す。

 もう小春は目に入れた。ならばその脅威が触れる前に、遠ざけるまで!

 そうして男は姿を戻し、小春を庇う。

 そうして少年は血塗れの男の真正面に降り立ち、すぐさま呪符を地に投げつけた。


「一誠! 厨子を閉じよ!!」


 その玄武の声に、屋敷は不可思議な光に包まれた。

 空に浮かぶ光輪が解けて文字の滝となった時、開け放たれ続けた襖の奥から、一陣の風が吹く。

 その風圧に目を守れば、次の瞬間、忽然とそれらは姿を消した。


「小春、小春ちゃん……! 大丈夫やんな!?」


「は、はい……。なんとも、ないです……」


「ああ、よかった――!!」


 小春を抱き締める兄と、一息をついて汗を拭う仕草をした玄武。

 未だに空から流れる文字列は、真言の封だ。

 雪吹雪きを本来の場所へ押し戻し、守るべき場所の地点を日本地図より引き離し、手の中で小さく千切り、日本列島の上にばら撒いて、目を眩ます。そういう、秘術。

 

「おにいちゃ、あのね、輝夜さんと葵さんを助けなきゃ……!!」


「ええんよええんよ死んでも死なんもんあいつらー!」


「ひゃー!」


 さて、二人は置いとくとして……わしは屋敷の中を見てくるとするか。


 

玄武さん、オーバーワークさせてスミマセン。

あの、おおかみではその、そのつもりはなかったんですけど……。

三善家に割り振っていることをしっかり失念しておりました。

ア、残業? えと、見込み残業で……えへへ……。駄目っすかね?

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