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二之四

 少し寒いですね、と口を開く前に吐いた目の前、そこに白い湯気が立つ。

 小春は顔を上げて、突風に前髪を押さえた。

 今二人が座っているのは、鎌倉を見下ろせる――――ビルの上だった。


 予想外といえば小春に新鮮な驚きをもたらす……が、あまりもなことで、さすがの小春も言葉に詰まっていた、最初は。

 しかし、人は慣れの生き物だ。遅い速いはあるだろうが、小春はその点に関して誰よりも早いと言える。

 輝夜は言葉を発さず、首を定期的に左右に動かしながら、陽が沈み切る一瞬の街を監視し続けていた。

 輝夜は曰く――、探偵からの連絡は空に龍が昇る、らしい。さすがに言いすぎだけどね、と彼は笑っていたが、小春はどんな光景なんだろうと少しだけ待ち遠しく次の一瞬を足をぶらぶらさせながら待っていた。

 変わらず眼下には薄暗い街、コンクリートが海の波形を描けずに広がっており、落ちたら一瞬でお陀仏だろう。そんな些細な恐怖に鼻歌を奏でて、小春は冬終わりの風を顔面一杯に受けていた。

 もうすぐ、あと数秒、ほら、陽が、落ちる――――。

 目を細めて観る夕陽の終わり、今日の終わり、夜の始まり、明日の準備、それを見届ける直前或いは寸前或いは開始直後に、それは本当に昇った。


「龍だ……」


 小春が呟いて輝夜が頷く。そのまま傾いた小春の身体――違う、輝夜が引っ張った小春の腕、二人は真っ逆さまに夜の鎌倉、そのコンクリートへ落下する。

 叫ぶ悲鳴を上げる風圧が許すことも無く、小春はただ目を固く閉じて輝夜へ抱き着いた。輝夜はしかと小春を抱き締めると、ふわりふわりと例えるならばジェットコースターの運動に近い緩やかさで、小春を空の道へと誘っていく。

 小春は目を開けた。そこには輝夜の顔が合って、月を背に、彼は小春の視線に気づくとただ優しく笑ってみせた。

 小春にはここまでの移動手段は見ることが出来なかった。気づけば地に降ろされて、そこでにょろにょろ立つ蛇の一人……一匹に輝夜が声を掛ける。

 小春は振り返った。夜の空を。もうどれが、自分が飛び降りたビルかはわからない。


「ありがと! どう? 陽炎、あったのよね?」


「ありましたー。点々してましたー。あれですね、これですね? 蛇使いあらいですねー」


「……かわいい」


「ありゃー、人間……。こむすめ?」


「こむすめ! ……かも? まだ高校生だし、大人とは言えないかも……」


 輝夜が陽炎……を調べに踵を返したため、小春が蛇の目の前にしゃがみこんだ。何の種類の蛇だろう……と目を凝らしたが、わからない。蛇、とだけはわかる。だって、舌がちろちろしてるし!

 小春が人差し指を出した。蛇は首を傾げながらも、ちろ、と舐めると、嬉しそうに目を細め、身体をにょろにょろと動かしている。

 小春は笑った。そのまま手を差し出して、二人にょろにょろと踊ってみる。


「小春ちゃーん、何やってるのー? こっちおいで~」


「あ、はーい! じゃあね、蛇さん!」


「またねまたねー、にんげん……?」


 美味しかったな、と呟く蛇の声は、小春には聞こえていない。


「あったわ。これが陽炎よ。こういう不自然な焼け付きがあったら、今後近寄っちゃだめよ」


 輝夜は道路、そこから人差し指を謎って煉瓦の壁へ視線を誘導させた。

 そこに言葉通りの陽炎はない。あるのは――、水面のように線画がずれた燃え跡……? 煤の、残り? 吹けば消えそうな、でもこびり付いている、そんな跡。


「ゆらゆらと景色を揺らす陽炎は、ほんの一瞬なの。大体発見されるのは、こういう跡。でも……汚れじゃないわ。穢れではあるけれど。……大事な合図ね」


「……はい」


 小春は輝夜を見た。

 輝夜の――姿が無い。あれ、と辺りを見渡すと一軒家の屋上にいた。

 小春は待つことにした。きっと……空にまだ浮かぶ、龍の尾を見ているのだろうから。


「さて、今日は帰りましょうか。準備をして……明日、片を付けるとしましょうね」


「帰りは普通なんですね?」


「あら、そうよ。寒いじゃない!」


 空を飛ぶと……って、こと、かな?



GW中なにしてたかって……?

そ、そんなことを、いうなんて、人の心とか、ないんか!?

遊んでました。ジャンボリミッッッ!

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