一之五
綺麗なモノは、全て記憶の中にある。
宝石、アクセサリー、花――同級生が可愛い、とか、きれい、って言ってたもの――、風景画、目を覆い尽くす自然。
私は、ほとんど間違えていないはず。
勉強して、復習して、正解を制限時間通りに導き出せる。
私は、ほとんどを、網羅しているはず。
白波が誘う道を追いかけて、猫が鳴く裏へ入り、下へ踵を鳴らすと花の香りがした。
小春には何の香りかはわからないけれど、はっきりと香るほどの花が目の前にあるということは、予想できた。
「水仙……の、花畑……」
予想どおり、開けた視界に一面金色の平野が広がる。
いいや、よく見たらそれは……風に揺れる、同一の花達だ。
輝夜がスイセン、と言った。そうか、これがあの、水仙。
「あれ。誰かと思えば……骨董屋と、お姉ちゃんじゃない」
瑞々しい、命の香りがする。
その中から声が小春たちを指差した。よくよく声のした場所を見ると、花の上に人形が馬乗りで座っているじゃないか!
可愛い、と輝夜が笑っている。
「ああ~~! よかったわ~~! ごめんなさいちょっっと聞き忘れちゃって~~!!」
輝夜の突進に悲鳴が上がった。
小春は夜空を見て、月を見て、水仙の海を見て、膝を屈ませた。
くんくん、と匂いを嗅いでみる。
嗚呼――――。
なんて、良い匂いなのだろう。
「シズコの形見か何かが……必要なの?」
「そう。あー、それと以前どこに住んでいたとか、教えてほしかったり……」
「そういうの、あの時言われるものなんじゃないの?」
「そうよ!! 本来のあたしなら出来てたはずなのよ!!」
「ふぅん~~?」
二人が話している傍ら、小春は一人花畑を散策していた。あまり遠くに行くつもりはない。
ちらちらと時折輝夜が小春を見るので、きちんと彼女は視界外に出ないようにしているのだ。
この場所は、心地よく静かな夜が覆う。
耳を澄ましても人々の歓声は僅かにも届かず、それでいて鈴虫や草のさざめきが決してこの地の者を一人にはしないだろう。
閑静にして安穏。
目を閉じたのなら、実に暖かい――――。
「小春ちゃん~! こっち終わったわ~!!」
小春は立ち上がった。
「はーい!」と言って、輝夜の傍まで足を進めた。
「では、お着物の一部、大切に預からせていただくわ。依頼が終わったら腕の良いお針子を呼ぶから、きちんと直していただきましょう」
「……ううん。その必要はないよ」
輝夜の手の中には、小さな着物の一部がある。再利用など出来る面積もない、何も知らない人が持ち上げたら捨てられること必須のこの僅かが、手掛かりと言うのか。
「シズコのところにいけたら、きっと……また新しい反物をね、二人で使うから!」
嗚呼……と、小春は心の温度とは別に、何も思えなかった。
言葉にならない感情を飲み込んで、二人は小さく頭を下げた後に帰路へつく。
「あの、輝夜さん?」
「んー?」
二人電車に揺られながら、小春は口を開いた。
「あの……白波綴でシズコさんを探せないんですか?」
「……あ、ああ、そうねえ。無理ねえ」
「そうですか、ざんねん」
「あれは、あちら側には使えないものだから……」
深く意味を聞こうとはしない。
ただ、この屋敷の門をくぐると、ほっと息が吐き出せることだけで十分だった。
しかし、門をくぐるとそこに葵がいた。
葵は如何にも外出の出で立ちで、輝夜がびっくりした声を出している。
「葵? どこかに行く用なんて、なかったわよね?」
「急用だ。しばらく留守を頼みたい」
「ええ!? シズコさんはどうするのよ!!」
「二人だけで充分。小春……」
「は、はい」
「……知らぬ奴に、ついていかぬように」
「小春ちゃんは幼子じゃないのよー!!」
ぱちくりぱちくりする小春を余所に、葵は夜に紛れて行ってしまった。
木々に隠れて雲に隠れ、もう姿は見えやしない。
私のいってらっしゃいが、あの人に届いていたらいいなぁ。
意外と文字数少なかった。
やばいよ~~~~~~~ホワイトデーにルシファー戦だにょ~~~~~~!!




