胸騒ぎの便りを受け取る百合
〔元和元年 三月四日 〕
卯の刻。拙者は、琵琶湖近くの町に赴いた。虎吉を捕らえたものにその後を聞いたら、斬首のち晒し首だと言っていた。晒し場所も教えてくれた。走ればすぐの場所だ。町に着くと、一部騒がしい場所があったからそこだな、と思った。
「甲賀の裏切者みたいだぞ。」
「やーね、ここに晒さないで欲しいわ。」
「一体、何をしでかしたんだか。」
嫌悪する者、興味津々な者などいた。泣くものはごくわずかだった。空くのを見計らって、拙者も近くで見ることにした。どこか悲しげだが、どこか怨みがこもった顔をしていた。死人に何言っても無駄だと思うが、どうしても言いたいことがあった。
「…虎吉殿。師範から貴方は腕の立つ忍びだと聞きました。なのにこのような形で名が知られるのはとても残念です。貴方みたいな方であれば、もっと功績をあげれば貴方が欲するものが得られたはずです。最も、良い方法で。」
拙者はぎゅっと笠を深く被った。
「どうか、今は眠りについて来世は心を浄化して、生まれ変わってください。師範も、そう願っているでしょう。」
体の向きを変え、妖退治屋に帰ることにした。その道中、“人”と肩をぶつけてしまった。
「っ!すみませ…」
言い終える前に、その人は何事もなかったように歩みを止めなかった。…中年のおじさんだろうか。だが笠を深く被っているせいでよく分からなかった。しかし何だ、この違和感は。あの人、我々人間とは何かが違う…。
「…気のせい…か。」
帰る前に、甲賀の里を尋ねよう。
◇
里に顔を出すと、畑を耕していたあいつがいた。肩までの髪の長さで、内にふわりとくるりとしている。前髪はいつもあげている容姿なので、すぐに分かった。
「…よぉ、久しぶり。柳。」
「あ、もえぎ。どないしてん?突然。」
鍬を置き、こちらに駆け寄ってきた。
「例の件。その帰りだから寄ってみた。」
「あぁ、そうなのか、…あれ、もうすぐ坊さんの所に渡されるみたいや。」
「…おおよそ理由は分かる。怨念がどうとか、だろ?」
「ご名答。そやさかい、徳の高い坊さんにお祓いしてもろうて、その寺に埋葬されるんやて。」
「そうなんだ…。そういえば、他のあの取り巻きたちは?」
「あぁ、あの者どもは生かさず殺さず拷問を受けるんやて。その時に白状したのは、鳥兜事件に関わっとったという事実。驚きやんな。後々になってから取り巻きになったと思うとったで。」
「そうなのか。」
柳は、腰につけていた水筒を持ち水を飲んだ。
「…まぁ、正直に言うたら…あんたのお陰やな。」
「……っ」
「あんたが前に、ここに突然来て師範が、東郷疾風殿が一度話してくれた、事件があるんや。それがどうも腑に落ちん。そやさかいどうか調べてくれんかって。驚いたで、あの時は。はははっ。」
「…ちゃんと表向きでは、お前が興味本位で調べたことになっているのか?」
「なってんで、他数名も。」
「良かった。」
「良かったって…。あんたが違和感に気づかな、ずっと東郷殿は悪者やったんやで。あんたの手柄にしたらええのに。」
「いい。師範の名誉挽回が出来たから。」
「…あんたがそれでええって言うならそれでええか。」
「うん…。」
「しっかし、あんたはほんまに恥ずかしがり屋やな。わざわざ…師範の前では、興味おまへんって態度を、取っとったんやろ?」
「……うるさい」
「東郷殿、喜んでるんちゃうん?黄泉の国で。」
「そうかなぁ?」
あの師範が、褒めてくれることは少ない。拙者はいつまでも駄目な忍びだから…。突然、ぶわりと風が疾風が吹いた。
(ありがとよ)
気のせいだろうか、師範の声が聞こえた気がした。優しい声音、大好きな師範の温もりが、頭のてっぺんに感じた。
「どないした?どっか痛いんか?…泣いているで、あんた。」
「…分からない、でも涙が溢れてくる…」
悲しいのを忘れるため泣くのを我慢していたが、もう止めどもなく溢れて仕方なかった。柳に背中をさすられ、暫く泣いた。
「…もうだんないか?一旦、儂の家に来るか?」
「大丈夫。もう大丈夫だ。」
「ほれやったら良かった。」
「…ごめん、急に泣いたりして。」
「気にせんといて。…なんかあったら、またいつでもここに来い。儂は必ずここに居るさかい。」
その後、しばらく他愛のない話をした。
「…じゃあまた、来る。」
「またな、もえぎ。」
里を出た後も、ずっと彼は手を大きく振っていた。…走れば妖退治屋にすぐに着くが、ゆっくり歩いて帰ることにした。その道中、やけに主張の強い気配を感じた。
「…そこにいるんだろう?向日葵。」
がさり、と頭上にある木から音がした。その後ひょこりと一人、少女が顔を出した。軽やかに降りて、拙者の元に近づくや否や拙者にしがみついてきた。
「ずっとずっと会いたかったんだからぁ。寂しくて寂しくて堪らなかったぁ。」
「向日葵、今は任務中のはずだぞ。それに、また傷が増えているじゃないか。」
「だってぇ、会えなくてぇ寂しさを紛らすためだもん。」
今、拙者の腕にしがみついている女子は、向日葵という名で戸隠忍者の出らしい。黒髪で後ろで一本に結んでいる髪型。腕にはいつも包帯を巻いているが、隠しきれていない傷も多々ある。どこの屋敷に雇われているのかは、さっぱり分からない。拙者を見つける度にこうしてくっついてくる。任務中と分かった理由はくノ一の格好をしていたからだ。
「私が傍にいなかった間、私以外の女と何もしていないわよね?もえぎ様の一番はあたしだよね?」
「うん、そうだね。」
ちなみに、向日葵とは恋仲でもない。知り合い程度だ。
「もぉう、嬉しくてあたし、どうにかなっちゃいそう~‼好き好きもえぎ様~。」
「…向日葵、それで君は任務中なのかい?それとも帰りなのかい?」
「帰り~。任務、すっご~く大変だったんだからぁ。」
「よしよし、偉いね。」
…多分これ、途中まで送らねば。暫く離れてくれないな。
「良かったら、途中まで送ろうか?お前の屋敷はどこかは知らぬが…」
「…あたしから離れたいの?」
「いや、その違くて…」
「ねぇ、なんでなんで。あたしの事…嫌いなの?」
凄まじいほど、殺気が溢れてる。
「向日葵、任務の事を忘れて主人に言えなかったらどうする?覚えている内に、屋敷に帰したいだけなんだ。決して向日葵が嫌いというわけでないですよ。」
正論を言ったら、けろっと態度が変わった。
「良かったぁ、あたしの事、嫌いじゃないんだね。うん、そーゆうことなら帰らなけきゃね。」
ご機嫌が直ってくれて良かった。帰ってる道中、向日葵はその間ずっと話をしていた。別に、向日葵の事は嫌いじゃない、むしろこうして傍にいると何故か安心感がある。
「…もうちょっとぉ、傍に居たかったのにぃ。着いちゃった。」
「ここまでで良いのか?」
「うん!…ねぇ、もえぎ様…。今度いつ会えるのかしらぁ。もう向日葵、寂しくて寂しくて堪らなぁい。」
「う~…ん、多分いつかじゃないか?滅多に会えないし…。」
「明日は?明後日は?」
「ごめん、その日も任務だ。」
「……むぅ。」
向日葵は名残惜しそうに、拙者の手を握った。
「もえぎ様の一番は、あたしなんだからね。会える日が少なくても、あたしの事を想って。じゃなきゃ、あたし、死んじゃうから。」
「分かった、分かったからそういうのはやめてくれ。」
「本当に分かった?」
「分かってるよ。ずっと向日葵の事は考えるから。」
弧を描くように彼女は微笑み、満足して走って行ってしまった。
「さて、帰るか。ここから妖退治屋は真反対だな。走って帰ろう。」
急いで妖退治屋に帰った。拙者も早く、当主様に言わねば。
◇
「…もえぎ、近江まで行くと言いながら、かなり遅くないか?」
「ん~…、確かにそうですね。忍びの方ならば、走ってすぐですよね?」
光とのんびり過ごしながら、もえぎの帰りを待った。色々と世間話をしていたら、がらりと玄関から音がしたので、光と共に出向いた。
「…遅かったな、もえぎ。」
「お帰りなさいませ。」
「すみません、当主殿、光さん。途中道草を食っていて。」
「まぁ、そうなんですか。」
「あはは…。ごめんなさい…。」
「とりあえず、もえぎ。梅の間に来い。」
「はい!分かりました。」
「でしたら私、茶を淹れてきますね。」
「ありがとう、光。」
決して怒るつもりはないのに、もえぎは何だかびくびくしていた。
「…もえぎ。」
「はっ!はい!」
「お前を怒るために梅の間に呼ぶのではない。虎吉のその後を聞きたい故、梅の間に行くのだ。」
「あ…。そうなんですか。良かった…。」
「道草を食ったから叱られると思ったのか?」
「えっ!いえいえいえ、そういう訳ではありませんよ。」
「少しは思っていたんだな。」
「…道草食ってすみません…」
「気にしてない、里にでも寄ったのか?」
「あ、はい。そういえば柳…拙者の友が、当主殿にお礼したいと言っておりました。」
「そうなのか?では何時しか赴かなくてなぁ。」
梅の間に向かう途中、色々と話しながら向かった。着くと同時に光が茶を持ってきていた。
「中まで持っていきますね。」
「ありがとう、光。」
光は茶を置いた後、すぐに退室した。
「…で、どうだったのだ?」
「虎吉殿は…」
事細かく、もえぎは説明してくれた。里で友人が話したことも。
「なるほどな。ありがとう、もえぎ。任務お疲れ様。」
「いえいえ、自分から行ったので任務とは言いませんよ。」
「そうか?自主的でも、立派な任務だ。」
「…ありがとうございます…」
◇
「…ただいま戻った。」
しん…と静まり返ったこの屋敷。他の者は…何をしているのだろうか。
「あ、お帰りなさいませ。父上。」
「他の者はどうした。」
「皆さん、任務に行っています。当主様は、奥の部屋にいますよ。」
「…そうか。そういえば火影。我のいない間に、あの女に近づいたりしたか?」
「…接触していません…」
「そうか。ならいい。まぁ行くとしたら毎回、我に確認をするか。」
「はい。」
「だが…我に逆らえば、貴様と翡翠の関係が続くかどうかは我次第なんだぞ。」
「承知…しております。」
「お前はあの女より優れている。あの女とは違う。」
「…はい。」
…こいつは本当に聞き分けが良い。あの女と違って。このまま傀儡として、働かせるか。
「我の部屋に来るな、分かったな。」
「はい。」
我は部屋に戻り、ずっと我慢していた気持ちが込み上げた。
「…くくっ…はは…はははははっ。」
あの目障りな爺が死んだ。歓喜で体が震える…。何かとあれば我に絡んできて目障りだった。ま、昔の事だが邪魔だったのは事実。
「憎い奴だったが、自分の手で殺すのは癪だった故…どうにか殺してくれる人間を探し、見つけたのがあの虎吉だったが…。殺したのは良いが、その後も駒として使えるかと思ったが、あんな奴だったとは。」
名誉を欲し、東郷を殺したという優越感に浸ったが故に油断して、捕まり、挙句の果てに打ち首とはな。
「…まぁいい。もう次に殺す者は決まっている。早う消したいのう…くくっ。」
だが、その前にやるべきことがある。
「万葉に会わなくてはな。」
墨を用意し、筆につけた。書き損じていいように何枚か紙を用意した。しばらくして書き上げた。
「…これでいいか。」
予想していた通り、何度か書き損じた。これだから、字というものは苦手だ。がらりと襖を開け、烏に渡した。
「妖退治屋に届けろ。」
「カアァァアァ‼」
ばさりばさりと、烏は飛んで行った。見送った後、ふと庭を眺めると翁草と木通が咲いていた。
「…春らしいな。」
花なんぞ、すぐに枯れる。永遠に美しいものなんか、この世にはない。それ故、花には興味ない。
「…興味があるとしたら…百合ぐらいだな。」
仕事が余っている。残りをさっさとやらねば。
◇
纏める資料が増えてきた故、必死に行っていた。
「…溜め込みすぎた…。退治もあるし毎日、てんてこ舞いだなぁ。」
そんなことを呟いていると、ぱたぱたと誰かが走ってる足音がした。使用人の誰かか?後は隊員、もしくは…
「ま、万葉様。今よろしいですか?」
「光か。どうしたんだ、襖を開けてもいいぞ。」
「失礼します。」
光はからりと開けた。相当、急いでいたのか息が少し弾んでいた。
「何かあったのか?」
「あの、実は塀の所に烏さんがいて、何やら書状を持っているようで。取って差し上げようと思いましたが、その、鳴いてばかりで取れなくて…」
「そうなのか。分かった。案内してくれ、光。」
「はい。」
少し歩けば光の行った通り、烏が一匹塀にいた。だが、その烏に違和感を抱いた。…あぁ、この感覚。この烏は妖だ。もしかしたら烏でもないかもしれない。
「…光、下がって。この烏は妖だ、人に害を為すか分からぬ。」
「えっ!そうなのですか。…分かりました。少し距離を置きます。」
「あぁ。」
光が、安全かつ何かあった場合、儂がすぐに守れる位置にいることを確認し、じりじりと烏に近づいた。
「…その書状、儂に渡すものか?ならば、直ちに渡し飛び去ってくれ。」
通じているか分かたぬが、烏は首を傾げたり翼を毛づくろいしていた。時々額の所に、第三の目が現れたり、閉じたりした。やはり、妖なんだな。と、突然、翼を広げ鳴き声を上げた。
「カアァァアァアァ‼」
「っ!」
劈く鳴き声が響いた。あまりの五月蠅さに耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んでしまった。
「万葉様!」
刹那、光を見た。駆け寄ってくる光、駄目だと言おうとしたその時。瞳が交差した。
「…え…」
光の瞳は、いつもの深い青ではなく、少し明るめ…はっきりと言えば光輝いていた。動揺してるその間に、光は自身の腕に烏を乗せていた。
「…その書状、ちょうだい。万葉様に渡すものでしょう?」
「…アァァアァ…」
烏は段々と大人しくなった。…あの時と、同じだ。先ほどまで荒れていた妖が大人しくなる現象。その時も、こんな感じだったのか…?光は、書状を受け取り、少し微笑んだ。
「ありがとう。もう大丈夫。…帰りなさい。」
静かに翼を広げ、烏は飛んで行った。その光景に呆気を取られた。光は烏を見送った後、儂のほうを向いた。その時、瞳はいつも通りだった。
「…何故だか分かりませんが、書状取れました。万葉様。」
そう言って笑う彼女に近づき、そっと両手で光の頬に触れた。まじまじと見ても、やはり瞳はいつも通り。さっきのは幻か何かか?
「…光、さっきのは何だ?」
「さっきのって…なんのことです?万葉様。」
「え…えっと…」
光は、さっきの行動を覚えてないのか。先ほどの事を説明したが、光は何のことかさっぱりという表情をした。
「…光の加減で瞳の色が違う風に見えるのかしら?」
「そうなのか?」
二人で悩んでいたところに、花宮が光を呼ぶ声がした。
「お~い、光ちゃんどこ~?」
「馨ちゃんが呼んでるみたいです。私、行きますね。あ、書状。どうぞ、万葉様。」
「あ、あぁ。ありがとう…」
光が駆けていくその後ろ姿を眺めながら、あの現象は、自然現象ということにしようと思った。
「光の言ったとおりだよな、きっと。」
部屋に戻ろうとしたその時。
(あの力に気づかせるな)
と、青年だと思われる声がした。振り返っても、誰もいない。いるとしたら白銀だけだ。白銀に近づき、しゃがみ頭を撫でた。
「…お前なわけ、無いよな。」
「くぅぅん?」
「儂の部屋に来るか?それとも光の所に行くか?」
そう問いかけると、儂の周りを一周、回った。
「そうか、儂の部屋に来るか。分かった。」
「わんっわんっ」
「…あの声は…ただの幻聴だろうな。ここのところ、疲れてるしな。」
この書状を見た後、軽く寝るか。それがいい。そうしよう。軽く欠伸をして、儂は部屋に戻った。白銀はすぐに体を丸め、目を伏せた。寝てるわけ…でもないな。
「…書状なんて、珍しいな。偉いところからの依頼ならば、よくあるが。」
そう思いながら、巻物を開いた。先ほどまで眠気に襲われていたが、一気に目が覚めた。その差出人は…
「…万…世?」
行方知らずとされていた前当主からの書状だ。興奮と疑問が織り交ざったような気持ちになった。
「ワン!ワン!」
「おぉ…、どうした、白銀。」
突然起き上がり、その書状の匂いを嗅ぎ始めた。尾が上がりゆっくりと振り、その後歯をむき出しにして、威嚇していた。
「うぅぅううぅ…」
「白銀、どうした。よしよし。…こういう時、光はどうすんだろうか…。」
しばらく頭を撫で、落ち着かせた。すると段々と落ち着き寝始めた。
「…ふぅ。良かった、寝たな。さて…何故、突然こんなものをよこすのだ?…。」
疑問が浮かんでいたが、書状を開かなくては意味がない。なので内容を確認した。
今、この書状を手にして大変驚いていることだと思います。
して、此度このような書状を送ったのかというと、明日そちらに伺いたいと思っております。大体巳の刻から四半時ぐらいに向かいます。そして貴方と、対談したいと思う所存。忙しい中だと思いますが、何卒よろしく願いたい。
それと、こちらの我儘ですが、聞き入り願いたい。そちらに銀色の髪を持つ摩訶不思議な娘がいると小耳に挟みました故、此度の対談で会ってみとうございます。どうかお願いいたします。
「…何故、光も出席させるのだ?」
前当主と光には、何も接点がないはずだが…どこかで知り合ったというのも考えられるのか。
「ま、光に言うか。もし無理だと言ったら体調不良と、万世に言えばいいか。」
光は隣の部屋なのでまだ物音がしない。故にまだ部屋に戻ってきてないことが分かる。まだ馨の部屋にいるのか。
「戻ってきたら、説明するか。」
一旦書状を巻き直し、残りの仕事に取り掛かった。その後、梅の間に皆を呼んで、客人が来ることを伝えた。
◇
「えっ?私もですか?」
「あぁ。対談する相手が、光に同席してほしいと。」
「あの、対談する相手というのは誰ですか?」
「前当主だよ。単刀直入に言うと、儂の父上だ。」
「…その人が、何故…?」
「さぁ?…光を傷つけるつもりは微塵もないが、もしかして興味本位で見てみたい…とか?」
「う~ん…そうなのでしょうか?」
「もし、それなら光は出席しなくていいよ。」
「しかし、別の理由ならばその方を不愉快にしてしまいます。」
「そうだよなぁ~。」
「…万が一がありますので、私、出席します。」
「すまないな、光。」
「いえ。…しかし、私の容姿の情報はどこで耳にしたのでしょう。」
「ふむ…」
万葉様は、しばらく考え込んだ。…万葉様はずっと前当主様に会いたがっている。だからもし私たちが出かけた先で見つければ、万葉様は会いに行くだろうし、退治しているときに見かけたなら飛んでいくだろう。私は絶対についていかないから分からないけど。私も少し悩んで一つ、思い浮かんだ。
「他の隊員が私の事を話しながら歩いていた、というのはどうですか?それならば、あり得ると思いますが。」
「…確かにな。というか、それが本当なら外で光の噂をするのは止めろと通告せねば…。光に危害が加わるかもしれない。」
「それでも儂は心配だ。控えろ程度には言っておく。」
「ありがとうございます、万葉様。」
「…当たり前だろ。ひ、光は、儂の…思い人、なのだから。」
「万葉様…」
万葉様の頬は少し赤かった。きっと私もつられて、頬が赤いだろう。袂でそっと顔を隠した。
(続)