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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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愛する心を忘れない鈴蘭 下

〔元和元年 三月三日 後編〕

寅の刻、まだ誰も目覚めぬ時。儂は小僧に遺す書状を書き机の上に置いた。

「…きっと誰かが…もえぎが気づくだろうな。」

もえぎには申し訳なさがあった。小僧から儂を守るよう言われていたのに、勝手に儂がいなくなることを書状で伝えること。

「…すまぬ、もえぎ。」

外は冷たい空気で張りつめていた。

「こりゃあ、寒いもんだ。」

妖退治屋は第二の故郷だった。昔の如く信頼できる者と切磋琢磨し、あるときはどんちゃん騒ぎした日々。甲賀の里を思い起こさせる大切な場所であった。…儂は妖退治屋の門を出た後、振り返った。

「今までありがとうな、皆の者よ。」

後ろ髪を引かれる思いがしたが、儂は構わずあの場所に向かった。愛しき者が眠る場所…桜峠へ。ここから伊賀まではおよそ一時かかる。だがそんなのはこれっぽちも気にしない。

「…伊賀の地に足を踏み入れるのは…何時ぶりだろうか…。」

懐かしさが込み上げてきて気づけば、過去を思い出していた。。

 ◆

〔永禄元年 五月二十三日〕

儂は甲賀の里の次期棟梁だった。それ故かあまり人は近寄ってこなかった。だがあの者に出会ったことにより、今までより毎日が楽しかった。その者の名は“虎吉”里の中でも有名なほど女に人気がある。いわゆる色男だ。全く正反対の儂らだが、何故だか隣にいると居心地の良い友になっていた。そんなある日、山一つ越えたところにある伊賀の里にいる“鈴”という女子と夫婦になるよう言われた。元々仲の良い二つの里だが、もっと仲を深めようと此度の件になった。その事を虎吉に話していた。

「疾風!本当かよ‼あの鈴殿と夫婦か~。」

「そんなに有名なのか?鈴という者は。」

「あぁ、有名だよ。美人っていう噂だ。」

「ほぉ。そうなのか?」

「いや、確信はない。だって所詮、噂だ。」

「…明日が初対面だが、何となく会うのは楽しみだ。」

「感想待ってるぜ、疾風。」

「まぁ…お前が鈴殿と祝言挙げる訳ではないが、感想だけは伝えてやる。」

「ありがとうなぁ、友よ~。」

と言いながら、肩を組んできた。

「分かったから、あまりくっつくな。」

「えぇ~。別にいいだろう。」

「…まぁ、妥協してやる。」

「儂とこうやるの、嫌なのか?」

「ずっとお前みたいな友がいなかったから慣れていないんだ。」

「そっかそっか。」

…その後も和気藹々と話した。翌日、巳の刻辺りに甲賀を出て伊賀に向かった。屋敷に着くと大広間に案内され、使用人が茶を出した。一口飲み鈴殿が来るまで待った。すると暫くして愛らしい声が襖の向こうからした。

「し、失礼致します…。」

からりと襖が開いた。…やはり噂というものは信用しないほうがいい。鈴殿の姿を見た瞬間、そう思った。鈴殿は少しふくよかな女子だった。美人というより愛らしい女子だった。髪はとても綺麗な濡れ羽色の髪で後ろで結ばれていた。頬は真っ赤に染まっていた。

「あああああの!すっ鈴と申します‼え、えっといいい以後、お見知りおきを!」

そう言って、思い切り土下座したものだから鈴殿は床に額をぶつけた。ごんという鈍い音がした。

「いったーーーーいっ!ううぅ…」

「・・・大丈夫か?」

「はうっ!だ、大丈夫です…」

額は少し赤くなっていたから、大丈夫と言われても心配で仕方なかった。

「…ここの者を呼んでくるよ。」

「はわっ!だ、大丈夫です!こんなこと、いつもの事なので。」

と言って、にこりと笑った。笑うと靨が出来ていた。

「そうか。」

その後、沈黙の時間が続いた。儂から話しかけてもいいが、女子を喜ばすような話題は生憎、持ち合わせてない。…どうしようか…。ふと儂は外を見た。ちらほらと鈴蘭が咲いていた。

「…やはりこの季節なのか、鈴蘭がたくさん咲いているな。」

「へっ!あ、あぁそうですね。」

「鈴蘭とは小さく愛らしい花だな。」

「…あ、あの…」

「…どうかしたのか?」

「そ、その…わたっ私の…鈴という名は、鈴蘭から由来しているんです…。な、なので私、鈴蘭が…好きなんです…」

「ほぉ、そうなのか。」

「は、はい…」

儂は一口、茶を飲み鈴殿を見つめた。言われてみれば鈴殿は鈴蘭によう似ていた。肌が白いところや丸みを帯びた所や…

「と、東郷様…」

「なんだ。」

「私の噂はよく耳にしていますか…?」

「噂…?あぁ、よく聞くよ。昨日も親友から聞かされたところだ。」

「…がっかり…しましたよね?」

「何がだ。」

「だ、だって美人とか華奢な子だとか言われてるのに実際は少しふくよかで美人じゃないので…がっかりなされたと思ってしまい…」

「噂は信じていない。」

「へ…?」

「まず、初対面のお前に会うために噂を聞いて自分の中で作り出すのは失礼なことだと儂は思う。例え友に絶世の美女だなんだと言われても、儂は一切信じなかった。」

「……」

鈴殿は目を丸くした。…儂は当たり前のことを言っただけだ。暫くして見合いは終わった。儂の去り際に鈴殿が声をかけた。

「は、疾風様…!」

「…どうなされた。」

「あ…あの、今度どこかに出掛けませんか?」

「…あぁ。良いぞ。明日でも構わぬ。」

鈴殿は瞳を輝かせた。その笑みも愛らしかった。

「でっ、では!明日、琵琶湖という場所に行きとうございます…。」

「あぁ、あそこか。その周辺に居ながら実はあまり行ったことがない。是非、行こうか。」

「はい!明日が楽しみです。」

「桜峠にて落ち合おう、鈴殿。帰り際、目印として手ぬぐいを木に縛っておく。」

「分かりました!」

次の日、約束した場所で落ち合い琵琶湖に向かった、鈴殿はずっと上機嫌だった。おなごの気持ちはよく分からぬが嬉しそうなのは確かだった。暫く歩けば琵琶湖に着いた。

「…わぁ~凄いです!疾風様!広いですね~…」

「こんなに広かったのか…。そうだ、鈴殿。歩いて少し疲れたか?」

「いえ、そんなには。これでも忍者の端くれです。」

そう言い微笑んだ。…鈴殿は何故、昨日会ったばかりの儂にこんなにも心を許しているのだろうか。儂は不思議で仕方なかった。

「…儂はそこの岩に座っているぞ。」

「はい!分かりました。」

岩に座り、鈴殿を観察した。ころころと表情を変え楽しそうにはしゃいでいた。濡れ羽色の髪の毛先が躍る。ずっと眺めていても飽きない。……あぁ、このおなごは儂の好みだ。そう思ったら胸がきゅうと締まった。

「…これが俗に言う恋心か…」

女にこんな気持ちを抱いたのは初めてだ。多分、鈴殿と初めて逢った日にもやっと抱いた想いはこれだったんだな。と、鈴殿がこちらに近寄ってきた。

「私も疾風様の隣に座ります。」

「あ、あぁ。…もう満足したのか?」

「いえ、一人で眺めても楽しいことは楽しいですが…やはり疾風様の横で眺めたほうが何倍も楽しいんです。」

「…そうか…」

ふと近くで鈴殿の顔を見れば、ほんのりと唇が紅かった。

「鈴殿、今日は紅をつけてきたのか?」

「っ!へ、変ですか?」

「いや、よく似合っている。」

「あ…ありがとうございます…」

「…暫くしたら近江の町も見てみるか。」

「はい!良い案ですね。私も近江を見てみたいです。」

「分かった。」

「今度、伊賀のほうもご案内致します。」

「あぁ。」

「……ふふっ」

「どうかしたのか?」

「いえ、疾風様と夫婦になったらこんな時間がずっと過ごせるんだなぁと思って。絶対に幸せだろうと想像したらつい笑ってしまいます。」

「…鈴殿は、儂と夫婦でも良いのか?」

「え?別に…良いと思いますが…疾風様は私の事が嫌いなのですか?」

「いや…そうではない…」

「ならばそんなことを申さないでください!」

「すまぬ。」

「…私は今とっても幸せです。来月が楽しみです。」

「祝言を挙げる日だよな。確か…六月四日。」

「はいっ!」

「鈴の…白無垢はさぞや綺麗だろうな。」

「…今、私の事“殿”ってつけずに呼んでくれましたよね…?」

「あっ…すまぬ。不快な気持ちにさせたか?」

「いえ、嬉しいです。」

「ならば…良かった。」

「こんなに幸せでいいのか、分かりません。いつか罰を受けてしまうのでしょうか?」

「幸せならばそれで良いだろう。誰も罰を与えたりせぬ。」

「…そうですね。」

そう言い、笑みを深めた。儂もつられて少し笑った。

「よし、町に行くか。」

「はい!」

…月日は早いものであっという間に六月三日。と同時に予期せぬ事件が起きた。…鈴が倒れた。知らせを受け、急いで伊賀に行った。すぐに案内され鈴が寝ている部屋に向かった。

「鈴!」

顔は真っ赤に染まって、酷く汗をかいていた。

「医者には診てもらったのか⁉」

「はい。」

「何と言っていた!」

「多分…流行り病かと…」

「流行り…病…?」

信じられなかった。こんな症状の病があったのか?

「いつからこんなになったのだ?」

「えっと今朝です。…眩暈がすると申されて暫くしたらしびれが出てきたと言っておりました。その後、酒も飲んでないのに酩酊したかのようなご様子でした。」

「……」

益々、信じられなかった。考えていたら一つこれだと思う答えが出たがそれは薬で治せるものではなかった。

「…甲賀の技術を使い、薬を作ってみる。」

「まぁ!それはありがとうございます。」

「ただ…効き目がないかも知れない。そこのところは分かっておいてくれ。」

「分かりました。」

「薬を持って、また来る。その頃には夕暮れかも知れん。」

甲賀に踵を返し、薬を調合した。先代が書き残した薬の調合法が書いてある本を見ながら試行錯誤した。これだと思うものができ、急いで伊賀に向かった。屋敷に入り直ちに薬湯を作った。鈴の部屋に行き、抱き起した。

「…飲んでくれ…鈴。」

口が開かなさそうだったから無理やり開け、流し込んだ。こくんと飲んだようで良かった。暫く症状が落ち着くかと思ったら、全く効果なし。体温もどんどんと下がっていき、脈は不規則になっていった。

「くそっ、どうしたらいいんだっ!」

何も出来ない悔しさが込み上げた。彼女の死期が近いのは手に取るように分かる。絞り出すような声で使用人に一つ頼んだ。

「……二人きりにしてくれ。」

「…分かりました。」

一気に辺りが静かになった。外は雨のようで地面に打ちつける音が響いた。鈴の手を握った。微かな彼女の温もり…、そっと自分の頬に当てた。

「鈴…儂を一人にしないでくれ。…こんな我儘を言えるのはお前だけだ。」

彼女の手から段々と温もりが消えていく…息も浅くなってきた。

「…好きだ…鈴…」

やっと言えた気持ち。今のお前に届かなくてもいい。…と、するりと儂の手から鈴の手が滑り落ちた。

「…す…ず?」

顔を見れば先ほどまで苦しそうな表情だったのが安らかな笑みに変わっていた。

「…何故…先に逝くのだ…。鈴…。」

鈴を抱き上げ、静かに抱きしめた。

「鈴…鈴…」

さっきまでの温もりが嘘のように全くない。傍に居たいのは山々だったが辛くて淋しくて堪らなかった。鈴を布団にそっと戻し、使用人に一連の事を伝え医者を呼ぶように伝えた。少し経った後、医者が来て脈を診た。

「…ご逝去なされました。」

雨の音とすすり泣く声が響く。儂は悲しみより喪失感に苛まれ呆然と立っていた。

「…儂は甲賀に戻る。棟梁にこの度の一件を伝える。」

「はい…はい…。最期まで鈴様の傍に居てくださり…ほんにありがとうございました…。」

「いえ。…好いた者の傍に居れて儂も幸せだった。」

「…そうですか…」

「…折り入って、少々願いがあります。」

「何でしょうか…?」

「代々、伊賀棟梁が眠る地があると鈴が言っていました。ですがよそ者の儂にはそこが分からぬし教えてはならぬものだと思う。なので桜峠のいつも落ち合った場所に鈴を眠らせてくれませんか?」

「……」

「伊賀の者故、伊賀の地に埋めて構わぬ。だが儂の知っている場所に埋葬してほしい。無理なら…構わぬ。」

「…棟梁様に聞いてみます。」

ぱたぱたと使用人は出ていき、半時くらいたった後戻ってきた。

「…これほどまで鈴を好きでいてくれたのでその願いを了承すると。棟梁様が言っていました。」

「ありがとうございます。」

…ここまでは平和だった。甲賀に戻れば一変、皆の者が儂を睨んでいた。聞こえる声は儂の事ばかり。それも悪い噂ばかり。

「甲賀の薬を使ったのに治せなかったそうだぞ。」

「次期棟梁様なのに…。私、あのお方が即位したらこの先が心配だわ。里を出ようかしら。」

降り続ける雨がまるで人の声のように感じ、痛かった。雨が痛いはずがない。だがこの時ばかりは痛かった。ふと顔を上げるとそこには虎吉がいた。

「虎吉…」

虎が儂に近づいた。拳を握ったかと思えば鈍い音が左頬に当たった。口の中が金臭さでいっぱいになった。虎が…儂を殴った。そのせいで口の中を切ったんだと後になり理解した。

「何の…真似だ…虎。」

がっと虎は儂の胸ぐらを掴んだ。

「甲賀の名に傷がついたじゃないかっ!たかが“毒”如きで治せないとは!棟梁様はお怒りだっ‼」

「…虎…今、何と申した…」

乱暴に虎は儂を押し倒し、足音を荒らげ去っていった。随分、機嫌が悪そうなのは分かった。虎の言う通り、親父…現甲賀の棟梁の部屋に向かった。

「ただいま…戻りまし…」

襖を開け入るや否や右頬を殴られた。そのまま吹っ飛ばされ、柱に背中を打った。

「かはっ…ぐ…う……」

「てめぇが俺の息子だと言うことにこんなに後悔したのは初めてだ‼薬ならば、腕が立つ我らなのに‼」

そう言い親父は儂の腹に一発、蹴りを入れた。その後も蹴られ殴られ、いつの間にか鼓膜は破れた。そのせいで親父が何か言っていたが何も聞こえない。多分…罵りの声だろう。何故…こんな事になったのかは分からない。もし一つ分かるとしたら…この里にはもう儂の居場所はない。…次の日、儂は里を抜けた。ならぬことだと思っていても仕方ない事であった。居場所がないなら見つければ作ればいい。だが…どこか近江が恋しく近江から近い大和にて居場所を探すことにした。里の者に見つからぬよう身を隠しながら。ふらふらと山を歩いていると、大きな門が見えてきた。最初は城か何かだろうと思っていたが天守らしきものが見えなかった故、ただの屋敷だと確信した。近づいてみると木の板に何か文字が彫ってあった。

「…妖…退治、屋…?」

何の組織なのか、どういった場所なのかよく分からなかった。とりあえず、戸を叩いた。すると暫くして横にあった小さい門から人が現れた。儂と歳は変わらなそうな男だった、

「ここに、入隊したいのか?」

「…ここは、どういった場所なのか?」

「簡単に言えば人助けや…妖、という存在を倒すところだ。」

「…なるほど。…是非、やってみたい。」

「了解。じゃあ、ちょっと待っててくれ。当主様に伝えてくる。」

「あぁ。」

気さくな人だった。ここの人はそのような人が多いのか?そんな疑問を少し抱いた。四半時経った後、先ほどの男性が現れた。

「入っていいよ。当主様も歓迎するって。」

「分かった。」

門を抜けると大きな屋敷があった。儂の屋敷よりは小さいがそれなりに広かった。玄関を上がり左に曲がった。突き当たると右に曲がり当主の部屋に案内された。当主の部屋が見える前に道場らしき建物がずっと向こうに見えた。

「…道場もあるんだな。」

「え?えぇ、まぁ。…その今の当主様が思いつきで作ったものでして。もっと向こうに行くと渡り廊下があってその先には我々の部屋があるんです。それは二代目殿が壁を壊して思いつきで作ったんです。」

「そ…そうなのか…」

「流石にその時は初代殿と大喧嘩になったそうです。まぁ、詳しいことはさっぱり分かりませんが。」

「そうなんですか…」

暫くして当主殿が待つ部屋についた。

「…失礼致します、当主殿。」

「失礼致します。」

襖を開けると入ると、五十代くらいの男性が座布団に鎮座していた。どこか勝気な雰囲気だが優しさも含まれた空気を纏っていた。

「おう、新しく入るってぇのはお前か。」

「…東郷、疾風と申します。」

「良い名じゃねぇか。これからよろしくな、疾風。俺は万古(ばんこ)だ。」

「よろしくお願い致します、当主殿。」

この人ならついていきたい、と思いここで働くことにした。衣食住も完備されていたのでここは居場所になりそうと思ったのも決め手だった。今までの事を話すと儂を探すものが訪ねてこないか、もしくは任務中に襲ってこないかなど警戒してくれた。…あの時、本当に自分が悪いのかいくら考えても分からないと言えば優しく背を撫でてくれてお前は何も悪くない、頑張ったのだから称えるべきだとも慰めてくれた。儂にとって本当に安心の出来る居場所だった。それから現在までに至る。もう儂と同じ時にいた仲間はいない。だがそれでも大切な居場所だった。

  ◇

〈元和元年 三月三日:後編〉〔桜峠にて。友との再会。〕

儂は鈴の墓を目指した。彼奴もそこの近くにいるはずだ。段々と鈴の墓が見えた。久しくここに来た。最初は足繁く通っていた。だが次第に誰かに見張られている気分がして来るのを控えた。

「…鈴。」

あいつの頭を撫でるようにそっと触れた。と、その時刃を研ぎ澄ましたような鋭い殺気が儂の後ろにある木の上から感じた。

「……殺気が隠れとらんぞ、虎吉!」

飛んできた、くないを脇差で払いのけると同時に煙玉で煙幕を張り身代わりの術を行った。虎は案の定、地上に降りていたのを移動しながら確認できた。すぐさま背後に回り脇差をうなじに突きつけた。

「…っ!」

「それでも忍びか?虎。わざわざ本当にいないか確認するなんざ命取りだぜ?背後に儂が回るまで気づかなかっただろ。」

「…くそっ!」

振り向きざまに虎はくないを振った。儂の目ぇぎりぎりをかすった。避けながら後ろに飛んだ。…これは本気で殺らねば…

「…ずっと、儂の事を探すのを止めたくせに急になんだ。」

「貴様を探すのは諦めていねぇ。ずっとずっと探していた!」

「ほぉ、そうか。されば儂が墓参りしてた時に見張ってたのはてめぇだな。…何故、殺らなかった。そん時の儂は隙だらけだったと思うぞ?」

「ぬぅうぅぅうぅ…」

「とりあえず、久しいな。虎。元気そうじゃないか。」

「何、余裕ぶっているんだ。疾風…。俺は昔から!そういうとこが嫌いなんだよ‼」

そう言い、虎はくないを振りかざしたが、儂は虎の手首を掴み阻止した。

「…それは…お前が弱いからではないか?」

「何がだっ!俺は弱くない!強いが故に、棟梁の座まで上り詰めたんだ!」

と、儂の手を振りほどき後方へ飛んだ。

「…ほぉ。今はお前が棟梁なのか。」

「あぁ。そうだ。ずぅぅと憧れていた座だ。やっとその座につけて気分は向上しているのだ。」

「おごり高ぶるな、虎。…端から儂を引きずり下ろしたかったのではないか?棟梁の座から。」

「っ!うるさい‼黙れぇ!俺はおごり高ぶっていない!自分の実力で上がったのだ‼俺はお前より強い…。はるかに…強いのだっ‼」

虎はくないを構え、突進してきた。だがそんなのはもう、見極めている。虎の癖や戦い方など熟知している。共に技術を高めるため刀を交えた仲だから。脇差でくないを避けながら後方へと移動した。

「…あの頃と、一切変わっとらんぞ。虎。」

「俺は変わった!お前を殺すため、腕を磨き続けた‼俺はお前が憎い…憎いのだ‼」

「…そうか。」

儂はひらりと横に逃げたので虎はその拍子に転んだ。

「くっ…」

儂を睨みつけるその眼は、儂を友だと思ってくれたあの日とは全くの別物だった。

「…何故…それほどまで儂を憎む。」

「そんなこと!分かりきっているだろう‼俺のほうが何もかも上なのに!後から産まれたお前は下のはずだ‼なのに…なのになのに!めきめきと俺より上達しやがって‼」

「…馬鹿らしい理由だな。」

「どこが馬鹿らしいのだ!真っ当な理由だろうがっ‼」

「何も正しいことを言っていないぞ。虎。」

「黙れ黙れっ!裏切者‼鈴殿すら救えなかったくせに‼」

「…虎。一つ、お前に聞きたかったことがある。」

「なんだ…。」

「儂はあの時、お前や一族の皆に鈴がどうだったか、伝えたか?」

「っ…」

…そう。儂はあの時、誰にも伝えてなかった。鈴が“毒”で死んだこと。帰ってから親父に言おうと思っていたのだ。

「帰ってきたら早々、お前に殴られ毒如きで治せないなどと、侮辱されたが治せるわけないだろう。…鳥兜の…毒なんぞ。」

「……」

「あの症状を見て、すぐに判断できた。鳥兜の毒にやられていると。胃洗浄も既に遅い状態だった。その前に鳥兜の毒で死ぬなんざ珍しい例だ。そもそも鳥兜は苦く口に入れた瞬間、吐き出す代物だ。…きっと鈴は強要されたに違いない。鈴は優しいが故に断ることが出来ない、そんな子だからな。」

「く…っ。だ、だったら誰が飲ましたんだ!鈴殿に‼少なくとも、俺は知らん!知らんぞ‼」

「てめぇしか…いねぇだろ‼」

そう言いながら儂は虎の左頬を殴った。

「かはっ……」

すぐさま倒れた彼奴の所に行き、胸ぐらを掴んだ。

「…鈴はどれだけ苦しかったか分かってんだろうなぁ。何故、そんなことをした‼儂をいくらでも憎んでいい。嫌っていい。だが…儂の大切な者は…傷つけてほしくなかった。」

「……」

「儂はお前から大切な何かを奪ったか?儂にはそんな覚えはない。」

「…なぁ…疾風。今でも俺を、友だと思っているのか?」

「……思っているに決まっているだろう。」

「お前、馬鹿じゃないのか?あんな、いつでも身内や友を平気で殺し合わせるような場所で!俺を今でも!信用しているとはなぁ。」

「……」

「俺はな!最初からお前の事なんかっ‼親友とも何とも思ってないんだよ!お前だけだ‼他のやつを信用しているのは‼」

「…なら何故殺さない。」

「っ!」

「首も、心の臓も、近くにあるではないか。殺らないのか?」

「…っ…う…」

虎の手は震え、手汗も掻いていた。鈴を殺そうとした経緯は…こういうことだろう。虎はあの時、鈴と初めて会った次の日に、里の屋敷にも連れて行った。その時、惚れたのだろう。そして奪いたくなった。だが鈴の思いは揺らがず、それに怒りが湧き鳥兜を煎じた何かでも飲ましたのだろう。それがかなりの大罪になるとも知らなかったのだろうか。

「…お前は、何がしたいんだ…。儂には理解が出来ない。」

「……俺は…ずっと里の者から将来、有望だと言われた。棟梁殿の奥方がなかなか…ややこが産まれないから…きっとお前はその座に、就けるだろうと言われた。だから俺は必死に血反吐を吐くまで…修行したんだよ。なのに…なのになのにっ!」

きっ、と儂を睨み、くないを振ったが、儂は寸止めで脇差で止めた。

「貴様は産まれた!一気に里の者は、そっちに興味が湧いた‼実力も、容姿も、何もかも俺が上なのに…棟梁の息子というだけで、皆の者がちやほやして!虫唾が走る…!」

「互いにじじいなのに、ねちねちとそんなことを腹に潜めていたのか。てめぇは。」

「ずっとずっと覚えているさ!あの時の屈辱は‼疾風、お前は俺より下なんだ。なのに、地位も名誉も富も何もかも手に入れやがって…‼」

きぃんと鋭い音をさせ、虎が儂の脇差を払いのけた。

「鈴殿も!俺の傍に居るほうが幸せなはずなのに‼…“疾風様と添い遂げたいと思っておりますので”なんぞほざいて!だから殺したんだ!」

「……」

「祝言の前日に!祝いの品として‼鳥兜を煎じた茶をあげたのさ。」

「…鈴は断ったはずだ。なのに無理やり渡したのか…?」

「あぁ、そうだ。だがな、俺も飲んだと言ったら受け取った。簡単だったよ、毒を渡すのは。」

気味の悪い笑みを虎は浮かべた。…あぁもうこいつは手遅れだな。そう思った。自分の思い通りにいかないだけで人間はこうなるのか。よもや恐ろしきことだな。

「虎。今からでも遅くない。自分の犯した罪を償え。」

「俺は何も罪を犯してないだろう‼犯したのは貴様だ‼東郷疾風‼伊賀の棟梁の娘を殺したんだからなぁ‼」

「だったらてめぇは治せるのか!鳥兜の毒を‼我らの技術を極限まで駆使しても、鳥兜の解毒薬は非ず‼」

「…っ…!」

「鈴の気持ちを無視した愚か者め。甲賀の汚点と恥を曝しているのはてめぇ一人だ、虎。」

「鈴殿が全て悪いんじゃないか‼貴様ではなく、この俺を選んでいればよい話だ‼」

「…話にならん、虎。あの頃のお前はもういないんだな。」

ずっと脇差で相手していたが、隠し持っていた鎖鎌に変えた。あの頃の、友人としていた虎はいない。本気で、殺し合うしか道はないのだろうか。

「…最期に…言い残すことはないか…」

「……そうだな。…俺は貴様に憎しみを抱いたまま逝く。地獄で…待っているぞ。東郷疾風…‼」

儂は、鎖鎌を振り虎の胴体を目掛け投げた。当たったかと思えば変わり身の術の施していて人形に当たった。

「ちっ…!…後ろだな‼虎吉っ!」

振り向くと同時に、懐から手裏剣を出し投げた。何個か投げたがほとんどくないにより交わされた。だがその内の二個か三個は虎吉の頬と二の腕に当たったようだ。

「くっ……」

鈍い音を響かせ、くないと鎌がぶつかった。

「…本当にてめぇは殺気が隠れてねぇな。居場所がすぐに分かる。」

「黙れ…!」

ぐぅと押されたが一瞬、力を抜きその隙に後ろに飛び下がった。と、その時。

「ピィィィィィ」

突然、空から甲高い鳴き声が聞こえた。鷹だと分かっていても、つい仰いでしまった。…空は雲一つなかった。そういや…鈴と初めて会った日も、こんな日だったな。ふと目を閉じれば満面の笑みを浮かべる鈴を思い出した。

「…あぁ…空が青い…。」

儂にはやはり友を殺せない。信頼して切磋琢磨した大切な友だ。虎が近づいてくる。くないを儂に向けて。儂は虎のほうを向いた。鈍い痛みが体に走った。みぞおちに虎のくないが刺さった。儂はそのまま後ろの木にもたれかかるように座った。

「…こっ…この手で…疾風を、殺した…」

僅かに目を開けてみれば、歪んだ笑みを浮かべた虎だった。恍惚とした表情にも見えた。

「やっと…殺したぞ‼東郷疾風を‼あぁ…こんなに嬉しいことはないっ!ははははっ」

目の前にいるのは、虎ではないな…。ただの狂人だ。だが、儂にも味方がいる。今、近くに。

「先ほどの事は、真であるか。虎吉殿。」

「なっ!誰だっ‼どこにいる‼」

「……来るのが…遅ぇんだよ。もえぎ…」

儂がもたれかかっている木からもえぎが飛び降りてきた。もしかすると…小僧も近くにいるだろうか。

「師範!勝手にいなくられては、困ります‼当主様と共に焦っていたんですからね⁉」

「すまん、すまん。」

「…それで、虎吉殿。伊賀の棟梁の娘を殺したというのは本当ですか?」

「何故…そのことを知っている…。」

「耳を澄ませていたら聞こえてきたんです。そのお陰でここに来れたのですから。」

「ぬうぅぅ!」

「師範も知っているかもですが、それはかなりの大罪になりますよ。一方的な好意で振り向いてもらえず殺して師範の事も、逆恨みで殺そうとしたわけですから。」

「くっ…」

「虎吉殿。貴方は…これからかなり名前が知れ渡ることになるでしょう。ずっと貴方が望んでいたことですよね?」

「…おぉ!この年になってようやく儂は認められるのかっ‼やはりそうだよなぁ。あの、抜け忍、東郷疾風を殺した者だからなぁ。」

「えぇ。伊賀甲賀の棟梁二名を殺した罪、そして甲賀次期棟梁に対しての侮辱。そして棟梁の座を略奪した、大罪人として。」

「は。はぁあぁぁあぁ‼この俺が、大罪人な訳ないだろう‼寝ぼけたこと言うんじゃねぇ‼若造が‼大罪人になるのはっ!東郷のほうだろう‼」

「…こんなことで名前が知れ渡りたくなかったら、もっとまともな方法でやれば良かったですね。」

そういった途端、周りの草陰からわらわらと忍びが現れた。

「…いたぞ‼虎吉だ‼縄に掛けろ‼」

いつの間に、甲賀者を呼んでいたのか。続々と現れた。虎は結局最後まで醜く足掻いていた。虎と共に行動していた者も連れていかれた。まぁ、きっとそれ相応の処罰は下されるだろう。

「うぅ……」

「師範!今すぐ手当てします‼それから、当主様ももうじき来ると思います!今、甲賀の里にいますので。」

「…小僧が、呼びに行ったのか?」

「いえ、拙者が頼みました。…実は甲賀の里に友がいて、その友が言っていたのですが、そもそも虎吉殿を、何としてでも捕まえろってことになっていたみたいです。」

「…何故だ…?」

「師範のその事件ですよ。色々と調べた結果、師範は何も悪くなく非があるのは虎吉殿だと。」

「そう…なのか…」

「話は聞いていたのですが、虎吉殿がそのような容姿までは聞いておらず、あの時の会議で言おうか迷いました。」

「端から言えば…良かったのかのう…」

「それより、あまり喋らないでください。傷口が開いてしまいますっ‼」

「……いい、そんなこと。」

「当主様に怒られます‼遠方から馬の足音がするのでもうじき来るかと‼」

そうもえぎが言って間もなくして小僧が来た。

「っ!東郷さん‼もえぎ、すぐに手当てしろ!まだ、大丈夫だ。」

「しかし!師範はそんなことをしなくていいと言ってまして。」

「…東郷さん…どうしてですか⁉」

「……鈴が…待っている。」

そう言えば聞こえはいい。だが実は虎のくないには毒が塗ってあった。じわじわと広がっているのを感じた。…しかし…鈴が待っているというのもまた事実だ。

「…師範…」

「なぁ…小僧。儂の…最期の我儘だ。…叶えて…くれるか…?」

「っ…う……分かり、ました。」

…万葉は、一切涙を見せなかった。込み上げるものはあるみたいが、ぐっと耐えていた。昔は何かあればすぐに泣くような小僧だったのに…もう、あの頃の万葉ではないのだな。

「…当主、妖退治屋の日々は…まっこと、楽しかったぞ。」

「東郷さん…今、儂の事…」

「もう…未熟だったあの頃の…お前ではないからな……。万葉…今から言う言葉はよく胸に刻んでおけ。」

「…はい…」

「…例え、この先…理不尽な波に揉まれようと、自分の持つ意思はしっかりと…貫き通せ。間違っていてもいい。……いずれかは…正しい答えに…なる、はず…」

「…東郷さん…分かりました。」

「それと…万葉。…てめぇには大切な…守るべき存在がいる…。決して、手を放すんじゃねぇぞ。」

「はい…東郷さん…」

「じゃあな…当主。」

最期に言いたいことを話しきり、安堵の気持ちが溢れた。と、同時に…何も痛みを感じなくなった。ただただ…眠いのう…。

「…東郷さん?東郷さんっ!東郷さんっ‼」

「師範!師範‼」

  ◇

…東郷さんは眠るように逝った。戦った後とは思えぬほど、穏やかな顔をしていた。東郷さんの骸は、鈴さんの隣に埋葬することにした。向こうで巡り合えますように、そう希った。その後、ぽつりぽつりと雨が降り始めた、酷くならないうちに、屋敷へと帰った。屋敷に帰ると、光が出迎えた。

「お帰りなさいませ、万葉様。」

「あぁ、ただいま。」

「…お疲れ様でした。お茶を淹れてきますね。」

「ありがとう。」

「もえぎさんも、お茶を淹れてきますね。」

「いや、拙者はいい。少し鍛錬してきます。」

「…そうですか。…雨ですが、大丈夫ですか?」

「平気です、それでは。」

そう言って、また外にへと出て行った。

「儂は部屋に行っている。」

「分かりました。…あの、万葉様。」

部屋に向かおうとしたら、光が話しかけた。

「ん?どうした。」

「言いたいことがあれば、遠慮なく言ってくださいね。」

「…分かった、ありがとう。」

彼女はふんわりと笑い、台所に向かった。…今回の件は、皆の者には必ず伝えるが光はどうしようか…東郷さんと、あまり話したことがなさそうだし…ふむ…。そんな考え事しながら、部屋に戻った。引きずってはいけないと思うが、暫くは引きずりそうだ。…東郷さんは、父のような存在だった。そんな大きな存在がいなくなってしまい、心に穴が開いた感覚がした。

「…失礼します。」

「ん、あぁ。入れ。」

からりと襖を開け、光が入って来た。盆には茶と羊羹が二切れ皿に盛られていた。

「どうしたんだ?その羊羹。」              ※山城…現在の京都市辺り

「あ、たまたま今日、風雅さんが買ってきたそうです。色々と買うため、山城のほうに行った際に。」

「そうなのか。…でも、二人で食べるなら四切れ貰ってくればよかったのではないか?」

「私は食べなくていいので。万葉様に。」

「…儂は、一切れで十分だ。光も食べてみろ、美味いぞ。」

「えっ!あぁ…で、でしたらお言葉に甘えて…」

初めての羊羹で、彼女は恐る恐る口にしていた。齧った瞬間、目を輝かせた・

「ん!美味しいですね、これ。」

「そうだろ。たまに食べたくなるんだよな、これ。」

「…ふふっ、良かったです。先ほどまで沈んだ表情をなされていたので。何かあったのかなと思い、元気づけたくて。」

「光…」

やはり、打ち明けよう。光と関係がなくとも。

「…光、実はな…東郷さんが、戦死した。」

「…そう、なんですか…」

さっきまでの事を一から説明した。聞き流してくれても構わないと思いながら話した。

「…と、こんな感じだ。本来ならば、裏にある隊員や先代の墓の所に埋葬するのが規律だが、大切な者が眠っている場所なら、そこにも埋葬していいことになっている。」

「そうなんですね…。…東郷様は、愛しい方の隣で眠れて、幸せなんじゃないでしょうか。」

「そうだな、きっと。」

「しかしながら、あまり東郷様と話せなかったのは残念です。」

と、光は少し俯いた。何と声をかけようか迷ったが自然と言葉が流れた。

「…それでも東郷さんは光を、気にかけていたぞ。」

「私…ですか?何故、私を。」

「きっと、東郷さんの大切な人と無意識に重ねたのではないか?自分のように他の者に幸せを壊されないでほしいと。」

「……万葉様。」

「儂はどんなことがあってもお前を守って見せる。必ず。」

光はそっと微笑んだ。儂は彼女を抱きしめた。幸せを噛みしめるように。

 ◇

〔酉の刻 会議が終わった後。獅子王の部屋にて〕

東郷殿が戦死した…。その言葉が重く胸に響く。

(獅子王、後を頼むぞ)

そう昨日の夜に俺に言い残した。東郷殿は死ぬ前提だったのだろう。

(儂とお前だけだ。あの日の事を、知っているのは。いずれかは伝える日が来る。お前に託したぞ)

伝える日、そんな日は来てほしくない。それに昨日の言葉と貴方の最期の言葉と矛盾してしまうではないでしょうか。

(過去の痛みを乗り越えて、自らの幸せを守ってほしい。その上で他の者に、幸せを壊されないでほしい。)

「…過去の、痛み。」

俺は、ぎゅっと自分の胸元に手をあて拳を握った。口下手な東郷殿だから、本当はこの意味を当主殿に言いたかったのだろうか

「…俺もいずれかは、過去を話さなくてはならないのだろうか。本当の姿を曝さなくてはいけないのか?」

こういう時に、友に会いたい。どこにいるのか分からぬ俺の友。

「…銀鉤尊八剱(ぎんこうのみことやつるぎ)…。何処に…。」

                                 (続)

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