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愛者永遠  作者: 桜宮朧
47/51

龍虎相搏、蓬菊よ咲け 上

桜宮です。


気づけば二か月も休んでいて大変申し訳ありませんでした。ギリギリ生きてます。

今回、キャラクターの心情を分かりやすくするため、また前編・後編に分けますm(__)m

これから忙しくなる可能性があるので、また休むこともあるかもしれません。

〈元和元年 三月二十九日 前編〉

酉の刻から行われた宴は亥の刻まで続き、退魔屋敷の方々はここに泊まることなく帰られた。私は風雅さんと緋色さんと一緒に片していた。

「皆さん、やはりあまり飲まれないのですね。」

「いつ任務があるか分からないですもの。そんなときに酔っぱらっていたら戦えませんよ。」

他愛もない話をしながら片していると万葉様がひょっこりと現れた。

「光、今少しいいか?」

「万葉様。えっと…」

「こちらは大丈夫ですよ。もうすぐ終わります。」

「ありがとうございます。」

私は万葉様について行き、暫く歩いて着いたのは裏山にある歴代の当主の墓前だった。

「…少しばかり、話をしたくて。我々にとって重要な話を。」

「なんでしょうか。」

万葉様は眉を顰め、大きく深呼吸をした。

「万世、いるよな。」

「っ!います、ね。」

「…光。単刀直入に言う。あれは、偽物だ。」

「…え?」

「儂らの父は、既に…亡くなっている。」

「ど、どういう…意味ですか?だって、いるじゃないですか。…あれが偽物だと言うなら、何故私たちに干渉してくるのですか?」

「それは…明日、問う。」

「会いに…行くのですか?」

「…ただ会いに行くのではない。戦いに行くのだ。万世の代に入った者たちと。」

「私は…どうすれば、よいのですか?」

「屋敷で、花宮たちと待っていろ。」

「けど!私も…万世の子です!」

「戦えるのか?」

「あ…それは…」

「此度の戦いは、今までと比ではない。多くの仲間を失う覚悟も出来ている。」

「……」

私は、胸元の布をぎゅっと握った。力になりたいのに、やっぱりなれない無力さがとても歯痒い。

「光。」

「はい…」

「傍に居てくれるだけで、十分儂の力になっているよ。」

「…万、葉様…」

万葉様はそっと私に近づき、そっと頬に触れた。久々だったせいなのか、一層冷たく感じた。私も、その手に触れそっと力を込めた。

「口づけ、したいが…少しの抵抗感を持つようになってしまったよ…。こんなにも、好きだと言うのに…家族という壁があるだけで変わってしまうのか…」

「…頬なら…どうでしょうか。」

「……そうだな。」

そっと頬に口づけをしてもらったけど、…何の胸の高鳴りがなくなってしまったと感じる。とても、複雑。けど貴方が好き。それは家族としての好きではないことだけは自覚している。万葉様の瞳をじっと見つめた。優し気なその瞳を、忘れたくない。

「あの、万葉様。」

「何だ。」

「…一つ、聞いても良いですか?」

「いいぞ。」

「……例え…例え、私が妖になっても、好きで、いてくれますか?」

「もちろんだ。儂は、どんなお前でも好きで居続ける。妖になろうと光という存在に変わりない。例えお前が妖になり儂を忘れようと、儂はお前を憶えている。全てを。」

「万葉様…」

「そろそろ…部屋に戻ろうか。」

「あ、私はまだここに居てもいいでしょうか?」

「え。寒いが大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。寒さに限界を感じましたら戻りますので。」

「…分かった。」

私は階段を下りていく万葉様を見送っているとすれ違いで白銀が階段を駆け上がってきた。

「ぐぅ…」

「明日、大きな戦ですって。白銀。」

「くぅぅ」

「相手は万世。因縁の相手というべきでしょうか。」

そっと空を仰ぎ、新月へと向かっている月を見、手を伸ばした。

「私は男であれば…此度の戦いにも参加出来たのでしょうか。私は皆さんの無事を祈るか、手当てか、本当に…些細なことしかできません。」

「わぁう」

「…ねぇ、白銀。」

腕を下ろし、白銀のほうへ体を向けた。少しだけ頭を撫でた。相変わらず綺麗な毛並み。

「わう」

「そういえば白銀、聞いて。最近、夢を見るの。とても綺麗な夢。百合と桔梗の花が混ざった花畑の夢なの。不思議でしょう?交わることのない花なのに。けど、夢だから許されるの。」

「!」

「そこにはね、私と顔のよく似た女性がいつもいるの。話すことはなくてただ見ているだけ。毎夜、毎夜見るものだから容姿を覚えちゃったわ。」

私は白銀に事細かく容姿を話した。狐の耳だと思われるものが頭に生えていて、腰辺りにふわふわとした尾が一つ。そして一見すると肩まで切った髪だけど、そんなことなくて後ろから見ると繋がり流れるように、踵まで髪があって綺麗な銀の髪だった。舞うように駆け回るようにいつも動いていて、私を見るとにやりと笑って。名前も会ったこともない人なのに私の夢に出てくるのがとても不思議だった。…けどどこか会ったあるような気がして手を伸ばそうとしたその時にいつも目が覚める。

「わん」

「後ね、その夢を見た後に懐古玉を見ると光っているの。…会った事、あるのかしら。けどあんなに綺麗な方なら覚えているはずだわ。」

「くふ」

「……」

しゃがみ込み、白銀を抱き締めた。その白い毛並みに顔をうずめた。

「くぅん?」

「…私が妖となっても、万葉様は好きでいてくれるそうです。けど…私自身はあの方の事を忘れてしまうのかしら。そしたら…万葉様の敵になってしまうのでしょう。」

「うぅん」

「白銀。私…死ぬなら人間として死にたい。光という私を保ったまま、死にたい。…万葉様に…辛い思いをさせたくない…」

「……」

白銀は私から少しだけ距離をとり、頬を軽く舐めた。

「白銀?」

「わう!」

「……あぁ、そうですね。そうでした。決して忘れることの出来ないもの、ありました。」

そっと左胸に触れて撫でた。誰かに好きになってもらったこと、好きでいてくれたこと、好きと言ってもらったこと、大切な気持ちは決して消えることのない火。

「くふ」

「そろそろ戻りましょうか、白銀。早く寝ないと…明日、見送れないですもの…」

いっそ、寝過ごして貴方の背を送らないという選択肢もある。けど、それは私自身、嫌。泣いてしまうかもしれない、やはり行きたいと思うかもしれない。…それでも私は万葉様を見送る。

  ◇

(宴後から同刻。荒廃した屋敷にて)

「主。文にございます。」

「…やはり戻ってきてほしいという、懇願の文か?」

「いえ、妖退治屋当主からにございます。」

「万葉か。」

花蘇芳から貰い、巻物を開いた。内容を見た瞬間、我は笑った。

「いかがなさいましたか?」

「宣戦布告の文だ。勘づいたのか、はたまた、あの女のためか。後者ならば何も出来ないお姫様を守る武士のつもりだと思うと、笑いが出る。」

「確かに、主の言う通りです。宣戦布告の理由が後者ならば面白いですね。」

「万葉ならそういうくだらない理由で動きそうだ。」

「もし、前者でしたらどうなさりますか?朝方、偵察しに行ったとき一人で貴方様に刃をむけるつもりではありませんでした。」

「…複数人、か。面白い。では、此度の宣戦布告は…前者か?あの馬鹿が気づくだろうか。」

「万世様はとてもお強い。負けることはないと思いますが、貴方に先立たれてしまったらとても悲しい故、こちらも数を揃えますか?」

「……」

欠けた茶碗に注がれた水を飲み干し、花蘇芳と共に万葉が指定した場所へ向かった。

「随分と、広い場所にございますね。」

「そりゃあ、そうだろう。」

我は地面に触れ、その地の記憶を読んだ。…ふむ、このくらいならば万葉共に対抗できるだろう。地面に一気に我の妖力を込めると、ここで命を散らした者どもが亡霊となり現れた。相当な数…。楽しみだ、この戦いが。

「素晴らしいです、主様。」

「そうだろう…ぐふっ!」

「主様⁉」

妖力を、使いすぎたのか…?血が止まらない。一通りせき込んだのち、ふらっと立ち上がった。

「…何でもない。こんなに妖力解放したのは初めだからだろうか。」

「主様、お姿が…」

「姿?なんだ?」

花蘇芳は掌に水を生み出し、鏡代わりに見せてくれた。…この我に、限界が来ていると言うのか。舌打ちをした後、髪を前から後ろへ掻き上げ、姿を戻した。

「…主様、私の中にある妖力…お返ししましょうか?」

「お前がいなくなっては困る。此度の戦いにも参加してもらわなくては。」

「尽力いたします!」

目を輝かせ、花蘇芳は言った。我はそこら辺にあった腰の掛けやすい岩に座り、辺りを見渡した。

「死してもなお、戦ってもらう。…さて、楽しみだ。」

早く、早く来い。万葉。我はもう、準備が出来ている。

 ◇

(卯の刻 戦前)

深く、青い、勝色の羽織を着て刀を腰に差す。髪を結い上げて儂は皆の元へと向かった。玄関で草履を履いていると光が現れた。

「…もう、行かれるのですね。」

「あぁ。」

「少し、お待ちになることはできますか?」

「うん、大丈夫だ。」

儂がそう言うと、光はぱたぱたと部屋に戻りすぐに戻ってきた。手には火打石を持っていた。

「厄除けです。」

そう言って微笑んで、かちかちと鳴らしてくれた。

「ありがとう、光。」

「…どうか、ご武運を…」

「……」

儂は、光の手を掴みくるりと回し、手首にそっと口づけをした。

「っ!」

「帰ってきたら、お前の握り飯が食べたい。…好きだよ。光。行ってくる。」

「……はい、たくさん。作っておきますね。」

優しい声音が儂を元気づけてくれた。戸に手をかけ軽く手を振った。光も柔和な笑みをこぼして振り返してくれた。外に出ると、人数が増えていた。よく見ると儂の代の者まで戦いの準備をしていた。

「あ、当主殿。急遽、早乙女たちも行きたいと申して…。いかがなさいますか?」

「そう、なのか。」

「例え、万葉殿の代の人間でも、妖退治屋の一員だからと申して、もう…準備もしっかりしてまして。」

儂は、朧の、“妖退治屋の一員だから”という言葉に、ちくりと胸が痛んだ。

「あ、当主様!」

「花宮。」

「えへ、突然すみません。躑躅ちゃんが朧さんから今回の事聞いて、躑躅ちゃんから聞いた私が言いふらしちゃったんです。ごめんなさい。」

「…どうしても、ついてくるのか?」

「あたしらは、覚悟が出来てますよ。というより、あたしがうっかり、口の軽い馨に話してしまったのが悪いもの。せめての償いと言いますか…」

「…本当に、一緒に戦ってくれるのだな。」

「そうですよ、当主様。皆、当主様のために、尽力を尽くします。」

儂は、皆の顔を見た。何とも、頼もしい者ばかりだ。儂は朧に馬を用意するよう指示し、武器の確認を行った。

「当主殿、すみません。いつもの黒い馬、一昨日くらいから病気だったらしく…白い馬なら準備できるのですが…」

「分かった、白い馬を引いて来い。」

しばらくして連れてこられた馬にまたがり。万世の待つ場所へ皆と向かった。指定した場所は摂津の辺り。妖退治屋から近いのと戦いに向いた広さだったからだ。

「っ…」

その場に向かうにつれ、死臭が香ってきた。一人、二人ではない。大勢の。

「万世は…一体何をしたんだ!」

到着すると、ぽつんとあった岩の上に座っていた。儂は馬から降りほんの少しだけ奴に近づいた。

「遅かったではないか、万葉。」

「…万世…!」

「どうした、既に怒っているではないか。」

「この匂いは一体何なんだ。」

「この匂い?…あぁ。この者たちの事か。」

そう言うと、鎧の震わせた音が一斉に鳴ったと同時に匂いの正体が現れた。それは、鎧を身にまとった骸骨や青白い顔をした者たちだった。腕がなかったり矢が刺さっていたりでうすうす分かったが、この者たちはここで散っていった者だ。

「…万世。お前はどのくらい命を冒涜するつもりだ。」

まだ、断定した訳ではないが父も…儂らの本当の父も、こやつに殺されたのだろう。儂は怒りに震える手で柄を握りゆらりと抜いた。白く光る切っ先を奴に向けた。

「戦いの前に教えろ。お前は…一体なんなんだ…!」

「…ふ、はははは…なんなんだ、か。我は、お前の父じゃないか。」

「違う!」

「どこをどう見て、そう言える。」

「…見たのだ、骸を。父の、骸を!骨となった、父を。」

「ただの、骨をとうとう父呼ばわりするのか?万葉。誰が、それを、父だと言った。」

「っ!」

教えてくれたのは、白銀だ。白銀が妖だということは儂以外、知らぬ。何か、何か儂でも父と分かった物があったはず!…ふと脳裏に、水樹殿が浮かんだ。

(あら、なんで片方しかないのって?それはね、あたしの一番の人に、もう一度逢うための印。例え、今世で再会できなくても来世で分かりやすいでしょ?)

「…耳、飾り…耳飾り!それが近くに落ちていた。紛れもない…父であると言う証拠だ。お前には、ついているか!」

「!」

「それに父は二刀流の名手と言われている。お前は一振りしか持っていないだろう!」

「……ちっ」

「名乗れ、お前の本当の名を。晒せ、お前の本当の姿を。」

その者はにやりと笑った後、気だるげなため息を吐いて儂を見た。

「…我が名はあざみ。万世の姿を借りる者。つまり、万世はもう…この世にはいない。」

疑いが確信へと変わり、憎悪と、殺意と、哀しさがあふれ出す。産まれてきて、これまで、こんなに誰かを憎いと思ったのは…

「お前が初めてだ。」

奴を睨みつけ、腹の底から儂は叫んだ。

「皆の者!進撃せよ!」

「「おぉおおぉぉおぉ!」」

皆の者と、亡霊たちが戦い始めた。儂はあざみへと歩みを進め助走をつけ、刀を振り上げた。

 ◇

〈戦い始める前 退魔屋敷にて〉

「主様ぁ!大変ですぅ、今、妖退治屋のぉもえぎ様から言伝でぇ、万世との戦が勃発していましてぇ。」

「本当か、向日葵。」

「私のもえぎ様を疑うのですかぁ?」

「…本当なんだな。」

「なんかその、万世のほうが数が多いらしいってぇ、もえぎ様がぁ…」

「せっかく同盟を組んだと言うのに…場所はどこだ?」

「摂津の辺りですぅ。」

「分かった。皆を集めよ。余らも行くぞ。」

余は皆の取集を向日葵に任せ、倉庫へ向かった。…昨日の夜、万葉が見せた思いつめたような表情の理由はこれか…。

「飽きれた男だ。」

戸を開けるふわっと埃が舞った。あの男がくたばってくれた以来使っていなかった、投石の台に火縄銃。所詮、余らのここは名ばかりの退魔屋敷。こんな武器が余るほどある。一旦、外を出て晴家を呼んだ。

「何や。」

「これを運ぶのを手伝ってほしい。火縄銃を何本かとこの台を六台ほど。」

「うち一人じゃ無理やなかと!他ん者も連れてくる!」

「…すまない。」

ぞろぞろと運び出してくれ、庭へ向かうと皆集合済みであった。

「これで全員ですぅ。」

「ありがとう…」

余は皆の前に立ち、集めた理由を話した。皆、戦いに参加することを了承してくれた。晴家に馬を持ってこさせ、またがろうとしたその時。ぽつりと晴家が呟いた。

「誰かん手助けばしようとするなんて、今までんおうちからは想像できん。…変わってくれたんやなあ、影哉様。」

「…変わらなくては…ずっとあの男に執着しているようだったからな。故、光殿には感謝しておる。」

「光殿?」

「撫子の、笑みを思い出したんだ。幸せで、普通で、穏やかであった日々を思い出せた。光殿や妖退治屋の者に出会ってなければ今の余はいないだろう。」

「……」

馬にまたがり。火傷の痕を撫でた。忌々しいものに変わりはないが、ほんの少しの愛おしさと哀しみもある。

「撫子…余に勇気をくれ。」

割れて以来、懐に忍ばせている面にそっと口づけた。門から出ると妖退治屋の忍びがいた。余を見て、投石台を見た。

「それ、石を投げる台ですか?」

「あぁ。そうだ。」

「ならば、我々の火薬玉を使いますか?」

「火薬玉?」

「ここから甲賀は近いです。仲の良い者がいます故、説明すれば持ってきてくれるかと。ただの石よりそちらの方が威力が高いです。」

「…お願いする。」

その者は一礼すると、甲賀へ向かった。

「我々は向かおうか。摂津へ」

「あぁ。行くぞ、皆の者。」

馬を走らせ、摂津へ向かった。

  ◇

〈摂津辺り 戦況〉

「…こんな、もんか?万葉。」

「っ!う…!」

先ほどから太刀筋を見ると素人のように見えるが、力が強く圧倒される。太刀筋がおかしくても…父の実力を吸収している故、強いのだろうか…。

「負けそうだなぁ、万葉。お前はこんなにも弱かったのか。ははは!」

「黙、れ」

「此度は何故我に戦いを挑んだ。自分のためか?それとも、光のためか?」

「……父を、取り戻したい。本当の父を知りたかったからだ…!」

「はっ!万世はとうに死んでいる。では、なぜこの姿をしているのか…知りたいか?」

「お前が父ではないことは確定している…。確かに、何故父の姿をしているのかは、気になるな。」

あざみは後ろへ飛び去り、一旦距離をとった。胸に手を当て、不気味に笑った。

「我は万世を喰った。万世の血も、肉も、記憶も、全て我の中にある。」

「…喰った…か。ではお前は人間ではないな。鬼、で…あるか?」

「ふっ…はははは!あぁ、そうだ。我あざみは鬼である。」

「禁忌と言われる技を使ったのか…」

儂はぼそりと呟き、周りの騒がしさも相まってあざみには聞こえていないと思ったが、しっかりと聞こえていたようで反応した。

「なぜ貴様がその事を知っている」

「!」

「…貴様はそういう情報をどこから仕入れてる。そのようなことを知っているのは大妖怪御五家のみぞ知っている。妖退治屋にそのような気配はなかったはずだ。」

あざみは目御見開き、顔を両手で包みながらひたすらに独り言を話していた。焦りのような狂気のような表情だ。

「そのように焦るのならば何故、禁忌の技に手を染めた。お前は、一体何が目的だ。光を傷つけ追い込み、何がしたい!」

切っ先を向け怒気を含めた声で聴くと、だらりと腕を下ろし儂を見た。その目はもう人間の眼ではない。血のように赤く怨みが含まれているようだった。

「欲しいのだ、桔梗の三種の神器が。それさえ手に入れば我の…俺の、願いが叶う!なのに、なのになのに!全て光が持っているだろう!あの女に使えるのか!」

「…あれを今、使えるのは…光しかいない。お前では扱えない。」

「三種の神器は!それさえ持っていれば誰でも扱えるのだ!故、我が使えないなんぞないのだ!」

「……」

誰でも使える、か。なら儂はとっくに使っている。光が、皆が、幸せで平和に過ごせるように願っている。だが、白銀の話を聞く限り、あれは光と、その桔梗殿にしか使えないのだ。

「光が使ったとてたいした長いではないだろう。我の願いこそが!叶えたほうがよいのだ!」

「っ!お前をそこまで突き動かすその願いとは一体何なんだ!光が、使うかも分からぬと言うのに。貶すとは…。」

あざみはふっと笑いと、胸に手を当て願いとやらを語り始めた。

「桔梗に、逢いたいのだ。」

「……」

「三種の神器を使って、一からこの世界を叶えたいのだ。弱者が差別され虐げられ、強者がのさばるこの世界を!」

「あざみ…」

「我の願いは素晴らしいだろう!これを叶えるまで我は死ねぬのだ!」

「…自分の言っていることの矛盾に、気づいているか?」

「矛盾、だと?」

「弱者が差別され虐げられる。…お前は、光に何をしたか覚えているか?まさにそのことをしたんだぞ。万世の姿を奪っただけの他人かもしれぬが、お前は、まさに、光を虐げ差別したんだぞ。」

「……」

「お前は本当に、父の姿を借りているだけなんだな。記憶までその中にあるのならば、もう少し、父に近づけたほうが良かったかもしれぬぞ。さすればもっと上手く出来たかもしれないな。」

「っ…」

図星だったのだろう。言葉に詰まっている。父は上とか下とか気にするような人間ではないはずだ。皆の話を聞く限り。

「お前の願いは、確かにそれだけ聞くと素晴らしいと思う。だが、これまでお前がしてきたことを見ると、同情も素晴らしいとも思わん!」

「…っう!」

「子供っぱいな、あざみ。」

「!」

儂がそう呟いた瞬きをすると前の前にあざみがいなくなっていた。逃げられたかとほんの少し狼狽えたがそれもつかの間。強い殺気を感じ、視線を落とすとあざみが儂の喉に切っ先を向けていた。

「っ!」

間一髪防ぐとあざみは舌打ちし、後ろへ飛び去り、また瞬時に斬りかかってきた。さっきより、押す力が強くなり、刀も上手くなっている気がした。

「俺は子供ではない!誰よりも大人だ!俺は、俺は誰か守れる凄い大人なんだ!」

「……」

口調が一気に幼くなった。いや、見た目も僅かに幼くなっている…?それとも、万世の姿を保てなくなっているのではないか?そんな事を考えながら刀同士のぶつかる鈍い音を鳴らしていたその時。どこからか法螺貝の音が響き渡った。振り返ることは出来ないが、法螺貝の次に響いた声で誰か分かった。

「退魔屋敷一同、合流した。皆の者、投石台用意。」

ふわっと香る火薬の匂い。これは…火薬玉か。

「放て。」

ちらと上空を見上げると、やはり火薬玉が宙を放物線を描きあざみの後ろからぞろぞろと進軍してくる武者のところへ落ち、爆ぜた。

「手の空いてる者は、進撃し妖退治屋を助けよ。」

「「おぉおおぉ!」」

来てしまったんだな…退魔屋敷の者たちが。

「っ!…はぁ!」

あざみを押しのけ、もう一度構え直したその時、横に気配を感じ視線を移すと九鬼が立っていた。

「せっかうく昨日同盟組んだと言うのに、知らせぬとは。」

「…こちらで済ましたほうが良い問題だと、思ってな…」

九鬼はため息を吐くとゆらりと刀を抜き、あざみに切っ先を向けた。

「余も、奴には用があるのでな。奴の言うことを鵜呑みにしていた余も馬鹿だが、そのせいで色々なことを忘れていた。…共に、戦おうぞ。万葉。」

「…あぁ。」

退魔屋敷の者たちが来て、一気に形勢逆転。あざみをどうにかすれば勝ったも同然。あざみがこちらへ向かってくると同時にこちらも斬りかかった。

  ◇

【戦況 退魔屋敷側】

「んひゃあぁぁあ!こっち来ないで~!」

「姫鶴!逃げてん意味がなか!うちが援護するけんそん扇で弱らせろ!」

「そ、そんなこと言っても~!」

「っ!数が多すぎる。矢が何本あってん足らん!」

「大丈夫ですわ、晴家さん。一人、楽しそうに斬っている者がいますから。」

「…あいつか。」

「私も天禰の援護をしてきます。」

「あぁ。」

「きゃあぁぁ~!」

「…相変わらず姫鶴は逃げとーなぁ…。いっそ見よーか。」

  □

「あはははは!こんなにも敵がいるなんて!斬っても斬ってもまた攻めて来る。あははは。とてもぞくぞくする。」

天禰の元へ行くといつもより楽し気に刀を振るっていた。

「楽しそうですわね、天禰。」

「あぁ!とっても楽しいよ!」

「…天禰、援護しますので存分に楽しんでね。」

「僕の神楽に触れたものはみーんな抹殺するから。」

「骸骨だけにしてね。」

「分かっている。」

「かぐら~」

と、みことさんがついついっと私の袂を引っ張ってきた。

「ん?どうなさりましたか。みことさん。」

「どく針、効かない。」

「あら、やっぱり幽霊さんだからかしら。」

「つまんない。」

「でしたら、妖退治屋の治療班のお手伝いはいかがでしょう?」

「する~!」

「先ほど確認したら、治療班はあちらだそうですよ。」

「行ってくる~!」

みことさんは走って近くの森へ駆けて行った、その時。

「神楽!」

「え?ん!」

強い衝撃と共に温もり感じた。固く閉じた瞳をそっと開けると天禰が覆いかぶさっていた。

「怪我無い?痛いとこは?」

「…平気よ。貴方のお陰。」

そっと頬に口づけをすると天音は嬉しそうに微笑んだ。

「神楽は僕が守るから。援護も無茶しないで。神楽が死んだら嫌だから。神楽が死んだら僕も死ぬから。」

「…ここで死ぬだなんて、もったいないわ。生きましょう、天禰。」

「そうだね。敵も、まだいるし。」

天禰はそう言いながら立ち上がり刀を構えた。…天禰、少し背が高くなったかしら。  

  □

【戦況 妖退治屋】

「兄者!そちらはどうなってますか!」

「斬っても斬ってもきりがねぇ。」

「…当主様も、苦戦していますね…」

霞は戦場のど真ん中であざみと戦っている当主殿を見た。九鬼殿が参戦したようでさっきよりは勝ちへと進んでいるようだった。

「大変、大変!躑躅ちゃんが怪我したの!」

「何!?」

「兄者!」

「治療班のとこへ行く。霞、一人で何とかしてくれ。」

「あ、はい…」

「いちおー私いるますからね。」

「おいら弱いんで強いんじゃないかとか期待しないでくださいね。」

「う、うん。」

俺は急いで治療班の元へ行くと数人がかりで治療されている躑躅がいた。

「おい!」

「…お、ぼろ…さん?」

「そうだ!…お前、腕…」

「片方、どっかいっちゃったわ。案外、強いのね。あの骸骨たち。」

「血が全然止まんねーじゃんか!布で今止血する。後は…傷を焼くしかねぇ。いや、そっちが手っ取り早い。」

「…朧さん…」

「何だ。」

「傍に居て」

「ずっといるに決まってだろ。」

躑躅は遺った右手で俺の手を握った。躑躅も、弱ってんだと一発で分かった。こいつがこんなに甘えてくるのは珍しい。なんて今ここで言ったら耳引っ張られんだろーな。

「…こんなに甘えるの、珍しいとか…思ってるでしょ。」

「!」

「図星ね…。あんたの惚れた女が弱ってるのに…甘えちゃ駄目?」

「うるせぇ」

そっと抱き寄せて頭に口づけをした。その後、傷を焼いたほうが良いと伝え、躑躅の傷を焼いた。もちろん俺が傍にいる。傷を焼く痛みは十分知っている。躑躅はその後、眠るように気絶をした。

「後は包帯を巻いて安静にしておきます。」

「あぁ」

「まだ、傍にいますか?」

「……いたいんだけどよぉ、目が覚めるまでここにいたら躑躅に怒られそうだ。」

俺は躑躅の髪に触れ、立ち上がった。

「霞も心配だ俺は行ってくる。ここに世話になんのは死んだときだ。」

退魔屋敷の者どもが手助けしてくれて、戦況は一気によくなった。俺らも力の限り頑張らにゃならねぇ。

「当主殿…勝ってください。」

独り言を呟き、霞の元へと駆けだした。

                         (続)

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