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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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月下美人の夢  中

お久しぶりです、桜宮です。

今回と後編、ちょい長めです。後編に関しましては来年になるかもです。

最近、ぐぐっと寒くなりました故、体調などお気をつけください。

それでは。

〈元和元年 三月二十八日:中編〉

「では、私たちも行きましょうか。万葉様。」

光がにこりと微笑みかけてくれたが、ついっと白銀が儂の袂を噛んできた。少し残れ、という意味だろうか。

「…すまない、光。少々落とし物をしてしまったみたいだ。」

「まぁ、大変。私も一緒に捜しましょうか?」

「白銀がいるから平気だ。それに宴の支度もあるだろうし、光は戻って良い。」

「…そう、ですね。白銀がいれば安心ですね。では、先に戻っています。」

ぺこりと一礼した後、光も階段を下りて行った。姿が見えなくなったのを確認すると、白銀が声をかけてきた。

「さて、探すか。万葉。」

「あぁ。」

白銀は地面に鼻をつけ匂いを探った。

「白檀の匂いがする。」

「…やはり、白檀は香るのか…」

「光も確かそう言ってたよね。…多分、この辺だ。」

「腐ったような匂い、しないんだな。」

「結界が張ってある。」

そう言った瞬間、白銀が前足で撫でるような仕草を行った。すると、一気に死臭が鼻を貫いた。

「う…!」

「丁寧に結界を張るとはね。気づかれたくないことでもあるのかな。」

白銀はそう言いながら人間の姿、狩衣を着た姿に変化し、手についた土をはらい落とした。

「…確認したいが、掘るのは…いけないことだろうな。」

「確認だけなら、何の天罰も下らないと思うよ。…じゃあ、掘るよ。」

「あ、あぁ。」

白銀は丁寧に土を掘り起こした。段々と、着物が見え、首が見え、そして…

「…正解、だったな。」

「そう、だな。」

儂は、唇を噛みしめ手を合わせた。…骸は酷く綺麗であった。

「なぁ、万葉。」

「何だ?」

「水樹の隣にも、何かありそう。」

「え…?」

「そっちも、掘るよ?」

「…分かった。」

そっと掘っていくと完全に骨となった頭蓋骨が出てきた。白銀はすんすんと匂いを嗅いでいるように見えた。顔を上げ、振り返り儂をじっと見た

「おかしいね。」

「おかしい?」

「うん。だってさ、まぁ…この死体がいつ死んだか分からないけど、骨になるのが早すぎる。」

「…言われて、みれば…」

「それに、もしここで死んだならば水樹みたいに寝ているはずだ。けど…どうだ?首の骨も、手も足も、どこにある?」

「……」

白銀はもう一度しゃがみ、土を掘ると一つ骨がずるりと出てきた。

「ねぇ、万葉。よく見てみ。ここ、ちょっと傷ついてない?まるで、歯で削ったような。」

「あ…本当だ。」

いや、本当だじゃない。もし、その削れている部分が本当に歯で削ったならば、肉を、喰ったということだ。人間の肉を。

「…人間の肉を食べるなんて、獣か、はたまた妖か。けどさ、獣がこんなご丁寧に綺麗に骨だけ残すと思うかい?所々、肉片が残り腐敗した匂いが充満する。そして、結界も張れない。」

「やはり、妖か?」

「そうだね、それの答えが妥当だ。」

「けど、一体誰が…」

白銀は骨を戻しもう一度立ち上がって、骨を見つめながら呟いた。

「大妖怪御五家が一人、“紅蓮和狂(ぐれんのなごみきょう)(えん)”が言っていた。鬼は、人の肉を喰らいて変化できる。だがそれは、禁忌の技だと。」

「…つまり、鬼がこの骸の肉を食べたのか?」

「そうかもね。」

「では、その鬼はその骸の元となった者の姿をしているのか?」

「そうだね。」

「その者は…一体…」

白銀はふいっと儂から目を離しながら、言葉を紡いだ。

「…ねぇ、万葉。」

「何だ。」

「この骨、匂いを嗅いでたでしょ?」

「そうだな。」

大きく深呼吸をして、白銀は儂を見た。

「……君と、そっくりな匂いがしたよ。」

「え…?」

「つまりこの骨は、君と血縁関係にある者。」

「まさ、か…」

「万世、だろうな。」

「……は?」

儂の思考は停止した。いや、考えが追いつかない、が正解だろう。いるじゃないか…万世と名乗るあの男が。儂は思わず白銀の胸ぐらを掴んだ。

「あの万世は!一体誰なんだ!鬼か?鬼なのか?」

「…そうなるね。」

「本当に、その骨は万世なのか?…儂らの、父なのか…?」

「多分、本物だと思うよ。」

「嘘は、嫌いだぞ。」

「…僕は、嘘なんかつかないよ。」

「…っ…」

ゆるりと白銀から手を離し、骨の前で膝から崩れ落ちた。

「ごめんね、万葉。」

「なにが、だ。」

「僕らのせいで君達一族を巻き込んで。」

「……」

「人間なら、腹を切って詫びるような事態だけど、僕ら妖はそんな程度じゃ死ねないんだよ。いっそ悪妖に堕ちて、君に殺してもらいたいよ。」

「白銀。」

「なに?」

「妖と関わるのならば、これもまた宿命だろうか。」

「…どうだろうね…、僕には、分からないよ。」

白銀の優しく柔らかな声音が儂を包み込んだ。…骨は、本来なら妖退治屋の墓に埋めてあげたいが、水樹殿と安らかに眠っている故そっとしておこうと思った。白銀は犬の姿に変化し、一つ欠伸をした。

「さて、帰るとしよう万葉。」

「…そうだな。」

「万葉。」

「なんだ?」

「このことは、光に話せ。」

「まだ、確証があるわけではないだろう?ではまだ、話さなくても…」

「確かにまだ可能性は低いと思う、けど、君はいっつも隠してしまう。だから、話せ。」

「…だが…」

「話したほうが、君の吐き出したいことも話せる。」

儂は、何か言おうとしたが上手く出てこず、唇を嚙みしめた、…光なら、受け入れてくれるだろうか。

「…分かった。」

そう言うと尾を振り、白銀はにっと笑った。

「それでいい。」

儂は階段を下りた後、もう一度振り返りお辞儀をした。長く、短いお辞儀を。

「…白銀、話すのは宴の後でもいいか?」

「またどうして?」

「酒を飲めば、酔った勢いで話せるかもしれぬ。」

「そっか。」

…寒かっただろうか。痛かっただろうか、無念はあるのだろうか…。貴方は一体、どんな人だったんだ。寒さのせいだろうか、少しだけ鼻の奥がつんと痛くなった。

  ◇

〈白銀と万葉が話している同刻、妖退治屋にて〉

宴にはまだまだ時間があったため、馨ちゃんと躑躅さんと、珠乃さんで大広間の掃除をしていた。私は馨ちゃんと共に送金がけをしていた。

「ちょ!掃除ならちゃんとやってよ!珠乃!」

「飽きたにゃん。」

「ここ広すぎるからあんたが手伝わなきゃ終わらないわよ!」

「見た目が綺麗にゃんだから、へーきへーきにゃん。」

「あらあら…」

珠乃さんは掃除開始から少し経ってすぐに飽きてしまって今にも寝てしまいそうだった。

「躑躅ちゃ~ん、水冷たーい!」

「仕方ないわよ、そんなこと。」

「ひぃ~…」

「お休みにゃ~」

「珠乃!寝ないで!」

と、その時。甘くも、爽やかな香りがふわっと鼻腔を満たした。この香りは、と思い振り返るとやはり緋色さんがいた。

「やっぱり飽きてやす。あちきもやってあげるから、しっかりやりなんし?」

「緋色~!」

緋色さんはいつもの着物ではなくしっかり襟を合わせた着物で、髪は左側に纏めていた。

「躑躅さん、あちきはどこをやればようござりんすか?」

「じゃあ、緋色さんは背が高いからこういう届きにくいところをお願い。」

「分かったわ。」

しばらくして布が汚れたので桶で洗っていると馨ちゃんが話しかけてきた。

「今日さ宴だからけっこーごちそうだと思う!寒いし、飛鳥鍋とか出るかな~…。流石に海鮮とかは買いに行けないし。」

「奈良漬けとかもよく使ってますし、色々と出ると思いますよ。」

「それをお酒で一緒に食べると、絶対さいこーだろうな~…」

「私はお酒が苦手なので、お茶にします。」

「私もあんま飲み過ぎると、躑躅ちゃんにげんこつされるんだよね。あはは…」

「あら…」

布を絞った後、すっかり冷え切った手に息を吹きかけた。

「わ!光ちゃん、手ぇ真っ赤!大丈夫?」

「か、感覚が少しないです…」

「あっためたいけど、私も冷たいからなぁ…」

「握ってみます?」

「やってみよ!」

握ってみると冷たい同士のお陰か少し温かく感じた。

「…もうすぐ春だと思えないほど、まだ寒いですね。」

「だね~。でもこれから段々暖かくなると思う!」

「…そうですね。」

「さて!そろそろ再開しようか!」

「はい。」

再開しようしたその時、どたどたと屋敷内に賑わいが咲き始めた。

「お、帰ってきたみたい。」

「私、玄関見に行ってみますね。」

「行ってら~」

桶に布を浮かべたまま玄関へ向かった。帰ってきたのは朧さんたちだった。

「おかえりなさいです。」

「おお。あ、当主殿ならそこを歩いてたのが見えたぞ。」

「わ、そうなんですね。ありがとうございます。」

「外さみぃ…」

そう言いながら大量の食材やお酒を台所へと運んで行った。その後、朧さんの言う通り万葉様と白銀が帰ってきた。

「お帰りなさい、万葉様。」

「あ…ただいま。光。」

「探し物は見つかりましたか?」

「…あぁ。うん。見つかった。“捜し者”は、見つかった。」

「わ!良かったです。」

「光、その手…」

「え?あ、先ほどまで大広間の掃除をしていまして、布を洗って拭いてました。」

万葉様は履き物を脱ぐとすぐに私の手を包み込んだ。

「…冷たいな。」

「万葉様も、冷たいです。」

万葉様、表情が沈んでいらっしゃる…。先ほどは見つかった、と言っていたけど…やはり見つかってないのかしら…。

「あの、万葉様。」

「なんだ。」

「先ほど、向日葵さんが言っていたのですが、宴は夜からで退魔屋敷からは数名ほど来るそうです。あちらも人数が多いみたいで全員で来るのは申し訳ないと、九鬼様が言ったみたいです。」

「…そうか。今夜は、久しく酒を飲むとする。」

「万葉様、あまり飲みませんよね。今夜くらいは宜しいかと。」

「あぁ。」

「…万葉様。」

「なんだ?」

「何か悩み事がありましたら、遠慮なく言ってくださいね。少しでも力になれると思いますので。」

万葉様は私を見つめ、ふっと微笑んだ。

「ありがとう、光。」

「いえいえです。…私、いつも万葉様に支えられているので…」

「…儂が、光を支えたいと思っているのだ。恐縮しなくて良い。」

「……」

私だって、万葉様の役に立ちたい、なんて思っている。けど、女の私に相談したら貴方の矜持が折れちゃうかもしれないよね。…私は、“光”という名だけど、貴方の側では“影”としてひっそりと支えるしかないのね…。

「儂は着替えてくる。光もまだ掃除が残っているのか?」

「あ!そうでした。私もお部屋に戻りますね。」

「あぁ。」

万葉様に一礼をして、ぱたぱたと尾へに戻った。

「お。おかえり、光。」

「すみません、万葉様とすっかり話し込んでいまして。」

「ちょーど掃除終わったよ~!」

「わわ、馨ちゃん任してすみませんでした。」

「いーよ、いーよ。珠ちゃんも手伝ってくれたし。」

縁側の暖かい場所で、緋色さんに膝枕をされながら珠乃さんは眠っていた。ぼーーっと珠乃さんたちを見ていると、首筋がひやっとした。

「ひゃん!」

「こら!馨!」

「あはは、ちょっと悪戯をしてみたくなった。」

「か、馨ちゃん。手が冷え切ってますね。」

私は触れられた場所を暖めながら、そう尋ねた。

「火鉢があるから手を暖めてるけど、なかなかあったまらないね~。」

「私、今手が温かいですよ。」

「ほんと!わーい、ちょっと握らせて~。」

手を握ってくれると思った私が手を差し出すと、馨ちゃんは勢いそのままに私に抱き着いて来た。

「馨ちゃん⁉」

「あったかい…光ちゃん。後、髪がすごく柔らかい…。」

「あ、ありがとうございます?」

「突然抱き締める癖やめなさいよ。光、戸惑ってるじゃない。」

「私は平気ですよ。馨ちゃん、すごく温かくて心地いいです。…誰かと抱き合うのは、良いものですね。」

私は躑躅さんに微笑みかけると、頭を撫でてくれた。その後しばらく談笑しながらのんびりしていると、ばたばたと大勢の人の足音が聞こえた。外を見ると、稽古場へと向かっていた。どうしたのだろうと、首を傾げていると一人ひょっこり現れ、躑躅さんが対応をしてくれた。

「この中に万世様の代に入った者はいるか?」

「ここは現当主様の代に入ってきてるわ。…まぁ、光は万世様の娘だけど。」

「…そうか。ありがとう。光殿は、呼んでいなかった故、大丈夫かと。」

「そう。…ねぇ、何かあったの?」

「それが当主殿が緊急会議を開くと申し、全員ではなく万世様の代の者を集めよと。」

「へぇー珍しい。」

「なので我々も大慌てでして。」

「あたしらも手伝いましょうか?」

「いや、もうほとんど稽古場に集まっている。ここは掃除してもらったばかりだからな。」

「そう。…それってあたしらは聞かなくていいの?」

「のち連絡が行くかもしれん。とりあえず、もう稽古場に向かうな。」

「分かりました。」

男性はばたばたと向かった後、私は躑躅さんに尋ねた。

「本当に、私は大丈夫なんですか?」

「当主様の呼びかけがないから、良いんじゃない?」

「そう、ですか…。」

「さて、ここの掃除も終わったし他のとこも少し見てみる?」

「うげぇ…まだ掃除するの?十分綺麗だと思うけど。」

「お客様が来るのよ?念には念を。ほら、移動する。」

そんな会話に耳を傾け、ふと縁側を見ると緋色さんたちの姿が見えなくなっていた。どこか移動したのかな。と思い、そこまで気にしなかった。

  ◇

〈夜 妖退治屋にて〉

日が暮れ、ぞろぞろと退魔屋敷の方たちがおいでになった。相変わらずみこさんは私に抱き着いてくれる。とてもかわいい。神楽さんともお話をしたかったけど、ずっと神楽さんに抱き着いてる方と話していて声をかけづらかった。

「万葉。同盟を組んだという巻物を持ってきた。余の名は書いてある故、あとは其方が書き、こちらで保管してくれ。」

「あい分かった。光!儂はこれを自室に置いてくる故、退魔屋敷の方々を案内してくれ。」

「はい、分かりました。」

九鬼様が履き物を脱いだのを確認した後、大広間へ案内した。

「…随分と、広いのだな。」

「そうですね。私もたまに迷ってしまいます。…でも、庭の景色とか綺麗でお気に入りです。きっと、四季によって表情が変わると思いますが、私はまだ、冬しか見ていません。」

「これから見れるだろう。何故、そんな春も、夏も、秋も見れぬと言うような発言をするのだ。」

私ははっとし、口元を押さえた。振り返り少しだけ。微笑みかけた。

「そうですよね、これから見れますのもね。…大好きな、あの方と。何度も、何度も、四季を巡れます、ものね…。」

「……」

九鬼様の、常盤色の瞳の視線が、じっと私を見つめた。

「進んでくれ、光さん。後ろが詰まりよー」

「あ、すみません。もう少しで大広間に着きます。」

歩き始めたとき、後ろで少し話し声が聞こえたが小声だったため、上手く聞こえなかった。

「…段々と、賑やかな声が聞こえてきたな。久しい、この感じは。」

「隊員の皆さんが、朝から市場に行ったりして私にとって見たことない食材が多いのです。きっと、九鬼様は見たことありと思いますが。」

私はそう言いながら、襖を開けた。その瞬間、ふんわりとした暖かさが身を包んだ。

「おお!おいでなさった!」

「外、寒かったでしょ。退魔屋敷の隊員の方々はこちらに座ってください。」

「…九鬼様は、万葉様と同じ上座に座ってくださいまし。」

「端の方では、だめか?」

「えっと…」

「今日は同盟ば組んだ証で宴に呼ばれたじょん、端で良かとはどがん料簡や。大人しゅう上座に座れ。」

「分かった。」

九鬼様は渋々上座に座った。それと同時に万葉様も大広間にやってきて、九鬼様の右側に座った。私も、万葉様と近い距離に座った。辺りを見るとそれぞれ交流して、楽しそうにお話をしていた。

「光。」

「はい。」

「大体これでそろったか?」

「えぇ。たぶん。あ、寿君はまだ寝ております。」

「そうか。分かった、ありがとう。」

「後でお雑炊か何か運びますね。」

全員が、席に着きお酒やお茶が生き渡ったのを確認してから万葉様は口を開いた。

「今夜は、我ら妖退治屋と退魔屋敷が同盟を組んだことを祝し、宴とする。酒は飲んでもいいが、飲み過ぎないように。」

「「はい!」」

万葉様が一口飲んだ瞬間、宴は始まる。紫坂だった空間はもう一度騒がしくなった。私はお茶を一口飲み、料理に舌鼓を打った。

「美味しい…」

普段のお料理も美味しいけど、この空気なのか、尚更美味しく感じる。…騒がしいのは、少し苦手だがこの空間は、好き。皆、楽しそうで、幸せそうで。私はちらと万葉様を見た。九鬼様と談笑しながらお酒を飲んでいた。万葉様、お酒そんなに得意ではないのかしら。。もう顔が赤くなっていた。少し心配けど楽しそうだから、大丈夫かな。私はもう一度 料理を口へ運んだ。租借しながら、皆さんの事を見た。

「みこちゃん、これ好きですよね?私のあげます。」

「わーい。じゃあ、これ苦手だからあげる。」

「わぁ~ありがとうです~。」

「あまり好き好かんさせりなしゃんな。みことも子供やなかじゃろ?」

「…天禰、はいあーん。」

「可愛すぎてしんどい…。ありがたく食べるね。」

「こら!馨!それ、あたしのでしょ!」

「いーじゃん、いーじゃん。代わりにこれをあげるから~。」

「何気に、酒は久々だな。霞。」

「そうですね、兄者。でも今日は一、二杯にしときましょう。」

「珠乃、これ好きでありんしょう?食べんすか?」

「にゃ!食べるにゃ~!」

「…ふふ。」

「どうした、光?」

はっと顔を上げると、ほんの少し顔が赤くなった万葉様が声をかけてくれた。

「万葉様。…ここにいると、私は本当に幸せだなと思いまして。宴も、とても楽しいです。」

「…良かった、楽しんでくれて。きっと、祝言も…こんな感じなんだろうな。賑やかで、楽し気で。」

「……」

“そうですね”そんな言葉は頭に浮かぶのに言の葉として、出てきてくれない。心の隅では…いいえ、“そんなこと”考えちゃ駄目。少し、夜風に当たろう。万葉様に言いたいけど、お話していらっしゃるし…。平気よね。私はすっと立ち上がり、外へ出た。

  ◇

「…月が、もうあんなに欠けている…」

大広間からほんの少し離れた場所で、月を仰ぎ見た。ため息を吐き。そっと胸に触れた。体調が良いことが、怖くなってきた。終わりを告げているようで…。

「光さん。」

少しだけ低い声がお酒の香りと共に降りかかった、振り返ると、晴家さんだった。お酒の瓶を持って、立っていた。

「どうか、なされましたか?」

「君が、出ていくとが見えて…。少し、会話でも出来るかと思うてな。」

「私と、ですか?」

「…あんたば見よーと、“妹”ば思い出す。」

そう言って。一口お酒を飲んだ。

「妹さん、ですか?」

「妹。妹ん他にも、一人弟がおる。…てか、ここ寒すぎ…」

「あ!中に入られます?と言っても、暖かい場所は大広間しかなく…」

「よか、ここで。」

「そう、ですか。分かりました。」

にこっと微笑みかけると、晴家さんも、ふっと笑ったように見えた。

「あんたと、妹が似とー理由はそがんして、誰かんために悩んだりしとー、眼差しだ。」

「そ、そんな目をしてましたか?」

「しとー。ずっと、ずっとだ。」

「……」

確かに…万葉様の事はずっと考えている。そのせい、かしら。晴家さんはもう一度、お酒を飲み口を開いた。

「なぁ、光さん。さっき、うちには妹と弟がおると言うたっさな。」w

「あ。はい。言ってましたね。」

「…光さんが、そがん人やとは微塵も思うとらんが…たまがらんで、聞いてほしか。」

「はい。」

晴家さんは、大きく深呼吸をしてお酒の瓶を置き、遠くを見つめたまま話し始めた。

「妹、といったそん子は…本当は、男なんや。ばってんな、男なんは見た目だけ。心は、完全に女っていう、不思議な子なんや。」

「…心が、女性…」

「そがん子だばってん、うちらは妹として見よー。それが、彼女ん生き方なんやけんうちらに、否定する権利はなかけんな。」

「そ、そんな話を、私にしても良いのでしょうか?」

赤の他人が、聞いたらまずそう故に慌ててそう聞くと晴家さんはにっと笑った。

「あんたやけんこそ、話したかばい。そん普通ん人とかけ離れた姿で、色々大変やったじゃろう?」

「あ……」

ここに来て、あまりに普通だったから忘れていた。確かに、晴家さんの妹さんと似た境遇にいたかもしれない。

「安心せろ、やたらめったらに話しとらん。うちが、話したかと思うとー人にしか話しとらん。」

「…分かりました。しっかりと、聞きます。」

「まぁ、聞くと言うより見てもらうばってん正解や。あいつが、書いた手紙ば。」

晴家さんはそう言い、腰にぶら下がていた巾着袋を開け、巻物を取り出した。

「とても、大切にされているんですね。」

「あぁ。肌身離さず、持っとー。」

「素敵です。」

寒いのか、嬉しいのか分からないけど、晴家さんお頬は赤かった。

「…うちん、妹と弟ん名前なんやけどな。朔と、(ぼう)ちゅう。朔が、妹や。」

「朔さん…。とても愛らしい名前です。」

「あいつが聞いたら…喜ぶ。きっと。」

私は、そっと巻物を広げた。

                           (続)

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