黒種草を視て 下
桜宮です。
後編です(*- -)(*_ _)ペコリ
愛者永遠を見ていただき、至極恐悦です°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
ホントに独り言ですが、黒執事-寄宿学校編-がめっさ見たい今日この頃です…((+_+))
〈元和元年 三月二十五日 後編〉
お昼くらいから話し始めて、すっかり夕方になっていた。
「長くなっちゃってごめんね。とりあえず、こんな感じ。万世様は、優しくて、明るくて、皆が慕うような朗らかな人だったわ。」
「…儂らが会った万世とは、全く違うな。」
「でも、どうしてそんなに違うのですか?別人ではない限り、あんなに異なる性格になるはずがないと思います。」
「当主殿が会った師範を調べてみるほかないですかね?」
「そうだな。」
「おいら達だけじゃ難しいので、師範との関係の浅い者たちにも手伝ってもらいますか?」
「そのほうが良いが…あまり危険なことはしてほしくない…。」
「本当の事を知りたいんじゃないんですか?」
「それは…」
光ちゃんが、迷ってる当主様の手を握り瞳を見た。
「万葉様、頼みましょう。私も、父を知りたいです。」
「光…あぁ、分かった。」
「あたしも、全力で助けるから。皆で、真実を掴みましょう。」
「そうだな。」
「兄者の足手まといにならぬよう気をつけなくては…」
「…水樹殿も疲れてるだろうし、今日はもうこれで解散。お疲れ様。」
当主様はそう言い、出て行った後に光ちゃん、朧ちゃん、霞ちゃんが出て行った。あたしも、部屋に戻ろうと部屋を出ると光ちゃんがいた。もう戻ってると思ったのに。
「どうしたの?えっと、光ちゃんだっけ?」
「はい、光です。あの…もう少しだけ、お話しすることは可能でしょうか?」
「…別に、良いわよ。あたしが答えられる範囲なら。」
「ありがとうございます。」
光ちゃんは丁寧にお辞儀をすると、池の見える縁側まで行きちょこんと座った。なのであたしも隣に座った。
「…それで?聞きたいことってなーに?」
「…私の、名前の事です。本当は父がつけてくれたものではないんです。」
「あら?そうなの?」
「東郷爺がつけてくれました。万葉様と、火影…遠方にいる妹です。その二人は、父から名を貰いました。だから…やはり父は、その、まだ本当の父かは分かりませんが…愛されてたのかな、と思いまして。二人だけ…」
「…あら、そうだったの?てっきりあたしは万世様がつけたものだと思っていたわよ?」
「え…?」
あたしは袂に入れっぱなしだった万世様の日記を思い出し、光ちゃんに差し出した。
「これね、万世様の日記なの。あ、あの人。左利きだったから普通の開き方じゃないわ。」
「み、見ていいんですか?」
「逆にあんたが見たほうが良いわよ。…会議でも、見せれば良かったわね…。」
光ちゃんは恐る恐る、その日記に目を通した。
“三月十五日
我は当主の座に着いた。不安しかない。これからの仕事は、恐怖しかないが父や母に怒られるほうが怖い。身を粉にし、頑張るしかない。誰かを、守れるように。“
「…父様…」
“千五百七十四年 三月三十一日
妹が産まれた。右頬に黒子がちょこんとある。これからどんな人生を歩むのだろうか“
短い、それだけが綴られていた。…光ちゃんは、静かに涙を流しながら。日記を見ていた。まぁ、そうよね。産まれて、初めて見た父親があんなで、これが自分の父親という概念を抱いていたのに、本来の姿が見えてきて混乱もあるわよね。
「父様、こんな人だったんだ…。文字からも、分かります、どれだけ優しい方だったのか。」
「会わせてあげたい、この頃の万世様に。…貴方達の人生も、変わったと思うわ。」
「確かに、変わったと…思います。けど、今も今で…幸せだと思います。」
「そ?…ねぇ、最後ら辺。見てごらん。」
「最後?」
「うん。」
光ちゃんは、ぱらっと捲り一瞬“子供の名前”という文字が見えてが通り過ぎてしまい、戻って開いた。
「あ…」
“子供の名前 息子が産まれるのならば万葉、もしくは久遠と名付けたい。だが、我個人としては万葉が良いと思う。万の葉と書いて万葉。木というのは、最初はただ小さな芽。だが、色々な栄養を得て成長する。故、最初は何も分からずとも、たくさんの者から学び、得て、知識という名の万の葉をつける立派な大木に成長してほしい。焦り、不安、恐怖はもちろんあるが、それにも負けぬ強い芯を持った男に育ってほしい。”
「…万葉様、こんな願いが込められていたんですね。ぴったりです、万葉様に。」
「そう。」
「あ、こっちに続きが…。」
“娘も産まれてくれた場合、光、火影、紫苑のどれかを名付けたい。これもまた、我としては光、もしくは火影が良い。前が見えず、落ち込む者を導くような光になってほしい。誰かを包み込み、勇気づけてあげられ心優しい娘に育ってほしい。”
「……」
“もし、妹が産まれるなら火影が良い。そうだ、姉が光、妹を火影と名付けよう。例え、己を導いてくれる光があったとしても、手元が暗くては真っすぐ歩けぬ。故、足元をそっと照らしてくれる火影が必要。火影は、親身になって寄り添う思いやりのある娘に育ってほしい。姉妹として産まれたのならば、ずっと仲良く一緒に生きてほしい。”
「ほんと、素敵な由来だし万世様が書いた通り三兄妹でびっくりしたわ。三兄妹だし、名前、同じだし…正直、嬉しかったわ。」
「…今日、初めて…自分の名前が、好きだと、心の底から思えました…」
そう言うとその日記を抱き締め、大粒の涙を流した。
「私…本来の父様から、愛されていたんですね。ちゃんと、ちゃんと…。私は、家族から…愛されていたんですね…。」
「光ちゃん…」
「あの、盈月さん…」
「なーに?」
「もし、本来の父様が生きていたら…私の容姿、なんていうでしょうか?」
「……」
“変わらず、愛していた”そういえばいいのに、言葉が喉でつっかえた。あたしは、あの人じゃない。あの人の全部を知ってるつもりでも、知らないことがたくさんある。だから、その一言で良いのかななんて、思っちゃった。一番、無難な答えだけど、何か違うと思う。
「…盈月さん?」
「…ごめんね、答えが見つからなくて。変わらず、愛してた。それでもいいって思ったんだけど、あの人だったら…ちょっと違うかもって、思って。」
光ちゃんは、その青い瞳をぱちくりさせにこっと微笑んだ。
「ですよね。盈月さんは父様ではないので、答えに困るのは当然です。こちらこそ、申し訳ありません。」
「いーのよ、そんな律儀に謝らないで。」
「で、ですが…」
「いーの。」
光ちゃんはぎゅっと唇を結んで、もう一度日記に視線を落とした。そーいえば、続きなんてあったかしら?そう思ってあたしも覗き込んだ。
「白紙が続いてますね。」
「もう別荘に移っちゃったかしら?」
「……あ!」
「どうしたの?」
「今一瞬、文字がありました。」
「嘘!戻ろ、戻ろ。」
少しずつ戻っていくと、光ちゃんの言う通り文字があった。
“千五百九十三年 四月一日
苺依が身ごもり、来年には産まれるそうだ。故、今日はここに寄ってこれを書いた後、帯解寺に行こうと思う。この日記は、まだこ こに残しておく。”
「帯解、寺?」
「あ!あのお寺ね。安産祈願に有名なのよ。」
「そうなんですね。」
「…あたし、行ってみる。明日。卯の刻に出発すれば、巳の刻か午の刻に着くと思うわ。」
「そんな…遠く。」
「へーきよ!ちょっとの距離くらい、一日で着いちゃうわ。」
「では!私もついて行きます!」
「光ちゃんは、この近辺を調べて。当主様も、そう言うと思うわ。」
「…でも…」
「あたしに任せて。ね?」
「分かり、ました。どうか、気を付けてください。」
「もち!」
あたしは、光ちゃんと当主様の元に行き事情を説明して許可を得た。あたしは、“必ず有益な情報を持って帰る”と約束して自室へと戻った。ふと、池を見つめると黒い羽根が一枚、浮いていた。
「あら?烏でも通ったのかしら?」
そう思ったけど、一瞬、あの人が脳裏に過った。あの人の傍にも、烏がいた。…まさか。
「…考えすぎは良くないわ。けど、万が一の場合…手合わせ、願おうかしら…。」
ぽつり呟き、ひんやりとした風が吹き、髪の微かな甘い匂いが鼻腔を擽った。そっと髪を
押さえながら日記の事を思い出した。
「そういえば、光ちゃん。気づいていないようで良かった。あの一文。」
子供の名前を考えていたとこの、一番端っこ。見えにくい場所にそっと書いてあった。
“我は、子供には自由に生きてほしいと願っているのに、何故将来を暗示するような名前を思いついてしまったのだろう。木には、光が必要不可欠。まるで、将来は必ず夫婦になるような。すまない、すまない。考えても、この名前しか思いつかないんだ。”
気づいちゃっても、あの人が貴方達を大切に思っていた事実は変わらない。万世様は、貴
方達が産まれる前から、愛してたの。だから、貴方達も知ってほしいから、あたしは頑張
るの。
「さーて、自室でのんびりしましょ。」
◇
〈退魔屋敷にて〉
花蘇芳から情報を得て喉が渇いたのと京に報告がある故、廊下を歩いている途中、出雲とすれ違った。微かな怒気を感じた。
「おい!出雲!」
足早に去るあ奴に向かい、晴家が叫ぶように声をかけていたが一切耳に届いていないようだった。晴家は我に気づき、立ち止まった。
「…相も変わらず、機嫌が悪いのう。」
「そう呑気に言うならあいつば止めてくれ。京ととうとう戦うと言うて、うちん言葉も聞かんとや。」
そう言いながら腕組をし、ため息を吐いた。
「何を言いたいんだ。」
「…復讐は止めれ。行ったところで、何も得ることなか。前にも言うたとやろ?って。」
「……」
「黙ってどがんした?」
「復讐は…良いことだ。」
「・・・は。」
我は、自分の手のひらを見つめ言葉を続けた。指を、折りながら。
「多幸感、達成感、快感を得られる。復讐からは何も得られないなんぞ、間違っている。あいつらを、この手で、殺してやったのだと思うと、腹の底から喜びが沸き上がる。」
「……」
「故、別に出雲を止めなくても良いではないか。あ奴が満足するまで、復讐させればいい。」
「わい…」
「何だ?」
「ほんなこて人間か?」
我は、じっと晴家を見た後、微かに笑った。
「我自身は、人間と思ってるぞ?」
「…そうか。」
「そういえば、京殿はどうなんだ?この状況。」
「ん?あぁ…面倒そうやったばってん、あいつらがやりたかちゅうなら刀ば握ろうと言いよった。」
「そうか。」
「説得がもう無理そうやけんうちゃ明日、こっそりとついて行く。」
「我も、明日…出掛ける故、屋敷は手薄になるのだな。」
「そうなんか。なら、京に言うとけ。」
「…晴家殿に言われる前に、言うつもりだったよ。が、礼を言う。晴家殿。」
「……」
すれ違う時、玉響に瞳が重なった。我を疑うような、あの瞳であった。…京のところに赴き出
掛ける旨を伝えた。その後、台所で茶を貰い部屋に戻る途中、月明かりに映された桃の木
を見つけそっと近づき、枝に触れた。
「彼奴の居所は掴めた。明日、会うのがまっこと、楽しみよ…。」
ぐっと指に力を込め、枝一つ折って自室に持ち帰った。一旦机に桃を置き、熱い茶を一気に飲み干した後、その湯飲みに桃の枝を活けた。
「…これを人は、綺麗と申すのか…」
我自身も、何故この行動をしたのか分からぬまま、眠りについた。
(続)




