声音は桃を咲かす
桜宮です。
私の作品を読んでくださり、心から感謝です(*^▽^*)
最近、寒暖差が酷いのでご自愛くださいませ(*- -)(*_ _)ペコリ
〈元和元年 三月二十四日 〉
(退魔屋敷にて)
「ねぇえ~今回の命令がうまく行ったらごほーび、何くれる~?」
「…そうだな。追々考えるよ。」
「万世様から貰ったものなら、あたし…ぜーんぶ嬉しいから!」
猫なで声で我の胡坐の上に座る男。役に立ちそう故、駒にしたが…ずっとこうされていると気持ちが悪い。だが、我の手駒は後三つ。一つは永久に我の駒だろう。
「役立たずばかり。」
「…何か言ったかしら?」
「何も。」
光さえ、光さえ抹消してしまえばこんな問題もどうだっていい。今後はどういう命令をするか悩んでいるとぱたぱたと歩く音がした。そしてひょこっと顔を出した。
「あら!お取込み中でしたか?」
「…織戸か。何用だ?」
「あ、朝餉が出来ましたのでお呼びしろと京様が…。」
「そうか。今行く。」
「ちゃんと水樹さんの分もあります。」
「…そうか。」
「きょ、今日の朝ごはんは、焼き魚があるみたいですよ。」
「そうか。」
部屋に行き、朝餉を食した。先に食してる者が何人かいた。
「…ねぇ~神楽~。僕、これとこれと、これ。苦手なんだけど…。食べて?」
「もう、好き嫌いはいけないって言っているでしょう?」
「お願い。」
「…焼き魚と、柴漬け。それから梅干しでいいかしら?」
「うん。」
「…姫鶴、それくらいで足ると?」
「え⁉あ、後でおかわりするよ?お魚さんとご飯!」
「…よう朝から多く食べるるな。」
「ん?だっておいひーから。」
「食べながら喋りなしゃんな!ばってん良家ん娘か!」
「ぴぃ!」
「ひめ、ひめ。」
「ん?どうしたの?みこちゃん。」
「これ、もっと、食べたい。」
「あ!良いよ~。はい、どうぞ。」
「わーい。」
「あげなしゃんな。あげなしゃんな。」
相も変わらず騒がしいと思いながら、味も、旨いも、不味いも分からない飯を食べる。
「ん~…今日も美味し!漬物も良い塩加減~。ね、万世様。」
「…そうだな。」
我はちらっと飯を食べる京を見た。こいつも相も変わらずお面を外さず食っている。まぁ、目元のみを隠した面だからな。我は味噌汁を飲んでいると京が話しかけてきた。
「万世。」
「何でしょうか。」
「今日も何か予定があるかえ?」
「…はい、水樹に。」
「そうか。」
「何か、我に命令でもありましたか?」
「いや、ない。…最近、外に出ることが多いなと思うてな。それに、その男もいつの間にか増えいていた。」
「…申し訳ありません。」
軽く謝っていると水樹が我の袂をついついっと引っ張ってきた。
「ねね、あたし何か悪い事でもしちゃってたの?万世様。」
「…何でもない。」
「そ?」
「今日も、行ってこい。水樹。」
「はーい!」
食事の後、水樹は支度をし玄関まで見送った。そうしないと不機嫌になるからだ。
「…今日こそ、頼んだぞ。水樹。」
「はーい、万世様!特徴も、妖退治屋の隊員の顔も覚えたから、今度はしくじらないわ。」
そう言いながら我の頬に触れ、胸にすり寄ってきた。こいつが何故こんなにも距離が近いのか理解が出来ない。
「行ってこい、水樹。…褒美は、何が良い?我には決められない。」
水樹ははっとした顔をしたと思えば、すぐに頬を赤らめ耳打ちをしてきた。
「…そうか。」
「久々に出来るから、今日は張り切っちゃう。行ってきます、万世様。」
「うむ…。」
水樹は我の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「…あの男が、本当に理解が出来ぬ…。」
「なして、光とやらば殺そうとしとーったい。万世。」
「晴家殿、か。」
門の陰から現れた。小柄故、気づかなかった。
「わいん、娘やったよな。一番、扱いが酷かと思うんはうちだけか?」
「…ふ、はははは。扱いが酷い?そりゃあ、そうでしょう?あいつは異物。排除するのみですよ。」
「ならわいん手で殺せばよかじゃろう。」
我はその言葉にぴくりと反応した。そして何故か自分の手を見つめた。
「殺す、か。そうだな、さっさと我の手で殺せば良いのか。」
「…きさんが納得する理由が分からん。わいはそれでも父親か?」
「父親、か。そんな肩書き、疾うの昔に捨てている。我の子供、否、三人の男女のち二匹は駒、残る一匹は存在価値なし、だ。」
「きさんはもう喋りなしゃんな。聞くだけで、反吐が出る。きさんはほんなこて…火影たちん父親か?」
「…さあ、どうだろうか。少なくとも…万葉と火影だけには父親としての情はありますよ。」
「すらごとで塗り固めた言葉ばい、おっさん。」
「嘘か、真か…なんぞ我にしか分からないでしょうに。…さて、我は部屋に戻ります。晴家殿。」
我は視線も合わせず横を通り過ぎたが奴はじとっと我を見ていた。鋭い視線を我を捕らえていたからだ。
「…もう少ししたら、出ていくか…。」
◇
「あ!もう薬が…」
今日も朝餉が終わって薬の準備をしようと思ったらもう薬が少なくなってきた。なので妖退治屋の離れで暮らしている薬師様の元に向かった。
「楽安様。」
「おや…光殿。いかがなされた?」
「寿君の薬が少なくなってしまい…。」
「もうかい?分かった、じゃあ今作るから…おや?」
「どういましたか?」
「原料になる薬草がほんの少ししかなくてね。」
「…では、私が採りに行ってきます。」
「良いのかい?」
「はい。」
「…じゃあ、今薬草の特徴を描くから待っててくだされ。」
「分かりました。」
さらさらと書いている姿を眺めながら私は待った。
「そういえば、最近…体調はどうでしょうか?」
「え?あ、寿君ですか?まだ少し…」
「いや、君だよ。」
「あ!も、申し訳ありません!えっと最近は、良くなってます。以前ほど寝込むことはなくなりました。頭痛に吐き気、立ち眩みもなくなりました。」
「…そうかい。良かった、疾風さんが最期まで心配なさっていたからね。」
「東郷さんに、よくお薬貰って飲んでましたのでそれが今、効いてるのかもです。」
「…光殿。」
「はい。」
ことっと筆を置き紙を差し出しながら楽安様は言葉を続けた。
「私の妖力を、少し混ぜたから効果覿面だったんだろうか。」
「……え。」
「実はね私は、薬を扱う妖なのです。ここが出来た頃からいるのです。あぁ、でもご安心を。私の妖力は人間様には害がございません。」
「そう、なんですね。」
「しかしながら、私は妖でも最底辺。故、遥か雲の上と言える存在である桔梗様の魂を持つ貴方に効くか心配でしたが、効いて、ほんに良うございました。」
安堵したような表情を浮かべた楽安様から紙を受け取ったが、引っかかるものがあり、質問をした。
「…あの…」
「何でしょうか?」
「本当に、効いたのでしょうか?楽安様と、東郷爺の薬…。」
「……!」
「ご、ごめんなさい!突然……き、きっと効いてますよね。だって私、こんなに元気ですもの。」
「光殿…。」
「では、私行ってきます。すぐに帰ってきますね。」
「はい。」
私はぱたぱたと出掛ける支度をし、外に出た。何か忘れているような気がしたけど、大丈夫ですよね。
◇
〈四半時〉
鼻につく薬草の匂い。俺は薬師のとこに向かってた。
「楽安。」
「おぉ、朧かい。どうしたのですか?」
「寿がまだ薬を飲んでいないようだから。」
「…あぁ、もう少ないようだと光殿が私に伝えてきましたよ。なのでそのせいでまだ飲んでいないかと。光殿が薬草を採りに行ってますよ。」
「へぇ、そうなんだ。光殿が…光、殿が?」
「はい。」
「…光、殿が?」
「はい。」
楽安はのんびりゆったりと頷いたが、俺は顔面蒼白で急いで当主殿のとこへ向かった。そして“失礼します”の言葉も忘れ思い切り戸を開けてしまい、凄い音を立てた。
「うお⁉朧!驚いたな…」
「当主殿!」
「何だ!」
「光殿が…出掛けてしまった…」
「・・・は⁉」
当主殿は勢いよく立ちあがった。俺は焦りから自分の爪を噛みながら考えた。
「今すぐ行けば見つけられるかもですが、どこにいるかも定かではないですし…」
「だよな…。何人か隊員を呼ぶか?」
「そのほうが見つける確率が高くなりますね。」
そう話しているとき、ひょこり光殿の犬が顔を出した。
「白銀?お前、光について行ってなかったのか?」
「くぅふ」
白銀は何事だと言わんばかりに首を傾げ、当主殿は犬に伝わらないと思うのに状況を説明していた。すると、大声で“わんわん”と吠え始めた。
「朧。」
「はい、何でしょうか?」
「白銀が匂いを辿り、案内してくれると思う。だから、光を頼んだ。」
「…御意。」
「後、念のため刀を持っていけ。お前のいつもの薙刀だと不利かもしれん。」
「分かりました。」
俺は自室に一旦向かい、刀を腰に差した。白銀は俺の自室までついてきていた。
「…門のとこに行きゃいいのに。」
「わふ!」
「お前さ、まるで人間の言葉を理解してるみたいだよな。」
「くう。」
「んな訳、ねぇか。行くぞ、白銀。」
薬草採取だ、この近辺に違いねぇ。どうか、盈月と鉢合わせすんなよ。
◇
帰ったら、ごほーび。あたしが望んだごほーび。
「…すぐに見つかるわよね~だって銀髪だもの。」
何かを殺すのに、何故かあたしはてーこーがない。だって、あの方がそうしろって言ってるんだもの。あたしが覚えてるのは、大好きな万世様と自分の名前。それ以外は分からない。
「…あの人、本当に誰なのかしら。喉奥で、引っかかるわ。」
あたしはふと自分の喉に触れたが、出てこないものは出てこない。まぁ、気にしなくていいかしら。ふと、地面に視線を向けると小ぶりの小さな花が咲いていた。
「あら!可愛い花!」
しゃがみ、その花に触れながら眺めた。もしかすると、この花は百合山葵かもしれないし、違うかも。だけど可愛くて、目が離せなかった。
「…あ!任務、やらなきゃ。こんなところで道草を食ってたら怒られちゃう!」
急いで銀髪の娘を探して走ってると、ふわっと花の香りがしてその匂いの方向を見ると娘が一人、しゃがんでいた。あぁ、この子だ。銀髪で、観察してると顔を上げてその青い瞳が見れた。
「見―つけた。」
あたしはそっと近づき、“ねぇ”って声をかけた。そしてその子の顔をまじまじと見ることになったんだけど、少し幼さの残る童顔よりの顔立ち。やや垂れた瞳。この顔、見たことあるような…。
「…あんた…」
「え、あ、はい…?」
「会った事、ある?あたしと。」
「いえ、初め…ましてだと思います。」
「…っ!」
ずきんとした頭痛。脳裏に、黒髪の女性がちらついた。誰、なの?いえ、今はそんな事じゃない!頭を左右に振り、忘れさせた。
「ど、どうかなされたのですか?」
「何でもないわよ。…それでね、町までの行き方を知りたいの。あんた、知ってる?」
「いえ、いえ…。」
あっちゃー…まさかの返答。案内させて人気のいないとこで殺そうと思ったのに…。でも、待って。ここでも十分人気がないわね…。
「あ、あの…」
「あ!ごめんねぇ~。分からないなら仕方ないわよね!他の人に聞くから!」
「す…すみません。では、私はこれで。」
彼女はぺこりと会釈してあたしに背中を向けた。…馬鹿な子。背中を向けるなんて、後ろから殺されても問題ないじゃない。あたしってば、運が良い~。薄っすら瞳を開けて、彼女の姿を捕らえて静かに刀を抜き一気に距離を詰めた、その時。彼女が振り返っちゃった。
「やば…」
「え…?」
真一文字に振った刀は止まらない。けど、彼女はしゃがみ頭上すれすれだった。
「きゃあ!」
あ…この子。戦いに向いてない子だ。そうやって、しゃがんで、怯えて、命を乞う。
「んー…どういう殺し方が良いかなぁ。あのお方は出来るだけ残酷に、って言ってんだよねぇ。」
「え?え?」
「でもねぇ、出来るだけ苦しまず殺ってあ・げ・る。まずは一回、窒息する?」
「や!きゃ!」
がっとあたしはその子の首を掴み高く持ち上げて絞めた。人間ってこーやって首絞めるとどのくらいに息が止まるんだろ。
「…あは、苦しい?ねぇ、異端さん?」
「く…は…」
「あんた、崖から落ちても死ななかったみたいじゃない~。なんならいっそ、首を刎ねちゃう?そのほうが、勢いあってすーぐ終わるわよ~?」
「…みず、き…さん…」
「え?」
あたしは思わす目を見開き、彼女と見つめあってしまった。…あれ、この子。こんなに瞳が輝いていたっけ…?その瞬間、どくんと心臓が跳ねた。まるで、岩にせき止められた川のその岩が転がり、その水が一斉に流れ出したように忘れてた記憶が甦ってきた。
「あ…あぁ…!」
あたしの、名前を呼ぶ人の事を思い出してきた。鮮明に、鮮明に…。
…少し高めで、優しい声音の霞ちゃん。
≪盈月さん!≫
はきはきしてて、澄んだ低い声音の渋兵衛ちゃん。
≪盈月!≫
渋くて、落ち着いた低い声の東郷様。
≪…盈月≫
…この子に似てるなぁって思ったのは、あんただったわね。ほんの少し低いけど、柔らかい声の苺依ちゃん。
≪盈月様≫
そして、何より、何度も何度も、脳裏に響こうとしていた大好きな、万世様の声。けど、思い出せない、なんで…一番、聞きたいのに…。
「万世、さ…ま…」
あぁ、後。あたしに必死に話しかけたあの子。朧ちゃん。野太くて、低くて、だけど優しい…
「盈月――‼」
この声…そう思いながら、横を見た。あたしに手を伸ばし駆け寄ってくる朧ちゃん。その手は目の前の子を締めてる手首を掴み、そのまま右に転がった。
「っ…げっほ!げほ、げほ…」
「わぅふ!」
「大丈夫、よ。白銀。」
…なんで、あの子を殺そうとしたんだっけ…あたし。
「おい!盈月!」
「っ!」
彼女から朧ちゃんに視線を移した。怒っている、そんなのは分かってるんだけど、泣いてた。朧ちゃん。
「てめぇ!光さんにてぇ出したらただじゃ済まさねぇつっただろ!」
「……」
「誰の命令だ!誰がてめぇに光さんを殺せっつたんだ!」
「…忘れ、ちゃった。」
「んだと‼」
朧ちゃんは、拳を振り上げた。殴られちゃう、とその瞬間。
「朧さん!」
さっきの子がそう叫び、あたし達は同時に見た。あたしは、またその子の瞳とばっちり合った。さっきより濃くその子の瞳は輝いていた。
「…あ。」
とぷんと海に放り投げられたように、意識が飛んだ。そしてあたしは暗い空間にいた。
(え、何ここ。)
きょろきょろしていると、あの人と、再会した日や過ごした日の事が流れてきた。
≪お前は今日から、我の元で働け≫
…あ、れ…違う、こんな声じゃない。こんな、地を這うような低い声じゃない。もっと、違う。あたしはそう思うと次の記憶、次の記憶へと駆けていた。
≪これくらいの事も、出来ないのか≫
…違う、この声でもない。次、次!
≪いつも距離が近いのだ、お前は。もう少し離れろ≫
違う、違う、違う!万世様は…こんな、人じゃ…!怖い…なんで…
〈盈月〉
あたしはしゃがんで耳を塞いでると、ふとその声が聞こえてきた。顔を上げて、前を見ると、あたしに手を差し出す人が、立っていた。
(…あ、あ、)
〈我はここにいる。…お帰り、盈月。〉
そう、この声。大好きな、この声。うん、この声だ。あんた、そこに居たんだね。あたしはその手を掴んだ。何度も繋いだことのあるその手を。
◇
「盈月、起きねぇんだが?」
「ど、どうしましょ。打ち所が悪かったのでしょうか…。」
「とりあえず屋敷に運ぶ。…光さん。」
俺は盈月を背負いながらふと質問した。
「はい?」
「怪我ねぇか?」
「特に大丈夫です。」
「そっか。」
「ただ…」
「何だ?」
「薬草が全て、笊から出てしまって…。私、もう一度摘んでから帰ります。今度は白銀もいるので平気かと。」
「…わーった。んじゃ、先に帰る。あまり遅ぇと当主殿心配するからな。」
「分かっています。」
俺は背中で寝続ける盈月と妖退治屋に帰った。微かに寝息を感じるから生きてるな。
「…盈月、何でこんなことに…」
こいつが変わった理由、それが俺にとって謎だった。だが、こいつから聞けば分かんだろ。当主殿も、聞きだすだろう。
「今は帰って休め、盈月。…おかえり。」
目覚めたら、もう一回言ってやる。おかえりと。




