雪うさぎと椿 中
一個前にお伝えした通り、中編です(-_-;)
寿君の過去にすごく悩みました( ;∀;)
話は変わりますが、体調不良の原因は花粉症でした~wwスギ花粉、ヤバいよぉ!( ノД`)シクシク…
〈元和元年 三月二十二日 中編〉
「…どんな妖なのか、分からないですね。」
「首がない、とか言っていたけど。」
山に入り、中腹辺り。霧が物凄い濃い。今まで聞こえなかった足音がしてきた。
「何か、来ます。」
そう霞さんに言うと、霞さんは周りの皆に声をかけた。
「全員、配置に着け!救護班は洞窟を見つけ、待機してろ!」
準備が全て整い、それが現れるのを待った。
「…予備の刀とか、あるんですか?」
「多分あると思うよ。あの当主様の事だし。」
「そうですよね。」
と、話していると霧が晴れた。そして奴が、現れた。
「何だ、あれ。」
俺たちより遥かにでかい、首のない筋骨隆々な体つきの男共。見える範囲では五人。
「…行くか。」
「そうだね。」
俺たちは駆け出した。その者たち目掛け。その男たちは歩くのを止め、ぴたりと止まった。好都合だと思い、刀を足に斬り込むが、断ち切れなかった。
「くっ…!」
一旦抜き、後ろに下がった。周りを見ると皆そうだったみたい。
「何これ、固いぞ…。」
「刀が折れた―――!」
こんなのが五人いるとは…。どう戦うか考えているとぶんっと爪の長い腕が襲ってきた。俺は急いで頭を抱えうずくまった。
「首がないんじゃないのかよ…」
離れているのに、明確に俺に手を当てようとした。見えないだけで首があるんじゃないかと疑った。
「寿君!」
その時、いつの間にか霞さんが傍に居た。
「何ですか。」
「毒って効くのかな?」
「…知りませんよ。こんな硬い化け物。」
「じゃ、じゃあおいらの槍に塗ってやってみるね。」
「倒せばいいんですから、やれば良いんじゃないですか?」
「分かった!」
霞さんは腰の巾着から毒の入った小瓶を取り出し、槍に塗った。そして奴に向かって突き刺した。と、全然利かなかったみたいだ。
「ごめん、全然駄目だっ…ぐふっ‼」
霞さんは言い終わる前に奴に吹っ飛ばされた。というか、俺はうずくまったままで良いんだろうか。勝つための作戦、何かないのか。
「…めんどくさい。勝てば、いいか。なら、正面突破のみ。」
俺は正面から走って奴に近づいた。すると、またしても腕が伸びて来る。好都合だ。俺は腕に乗り、そのまま走って首付近に着くと刀を振りかぶった。
「斬れろ!」
肩辺りに刀を入れると、今までで一番すっと入った。
「このまま…!」
ぐっと肉が斬れ初めたが、こいつも大人しいわけじゃない。大きく体を揺さぶり振り下ろされた。傷口は何やら木の根っこのようなもので修復されてしまった。
「くそ。」
落ちても雪が衝撃を和らげてくれ、背中は痛くなかった。
「寿君っ、大丈夫かい⁉」
「…大丈夫だったんですね、あんなに吹っ飛ばされたのに。」
「何とか這い上がったよ。痛かった!今でも背中が痛い!」
若干、目が潤んでる。だったら治療班行けよ。そう言いたかったが胸にしまっておいた。
「そうなんですね。というか、もう無理じゃないですか?」
「え…?」
俺は起き上がり、座って周りを見た。皆が立ち向かっては吹っ飛ばされている。刀もあちこちに折れたものが散らばっている。
「…こんなの、強すぎますよ。俺らには敵わない。」
「で、でも!戦ってまだ、少ししか経ってないよ!これから頑張れば…」
「…はぁー…」
白い息が視界を覆う。指先もすっかり冷え切って赤みを帯びている。刀を握ると痛みが走る。
「それに、君は隊長なんだろう?」
「……」
「隊長が頑張ったら、おいらも頑張れる!今回の副隊長はおいらだから!」
「…そうですか。」
「一緒に頑張ろう、寿君。諦めるには早いよ。」
「……」
俺は霞さんから大男へ視線を移した。ゆっくり瞬きをした後、立ち上がりもう一度霞さんを見た。
「あれ、体が植物で出来てますよ。たぶん。」
「え、そうなの?」
「はい。先ほど斬った時、根っこのようなもので傷がふさがりました。なので、そうかと。」
「じゃあ、斬っても無駄、ってこと?」
「そうですね。」
「じゃあ!どうすれば…」
「燃やせば良いんじゃないですか?」
「燃やす…」
「所詮は植物。燃やせば退治できる。」
「でも、どうやって…」
「…治療班の所に行きましょうか。」
「え?え?」
俺は困惑する霞さんを連れ治療班のいる洞窟に向かった。
「あのさ、酒ってある?」
「え、あ、酒ですか?」
「うん、酒。」
「それなら…非常食の所に…」
そう言ってがさがさと非常時のためにある袋の中から酒を取り出してくれた。
「何本くらいある?」
「に、人数分…と五本…。」
「何本か貰えるか?」
「は、はい。大丈夫です。」
「霞さんも何本か持ってください。」
「わ、分かった。けど、火とかはどうするの?」
「辺りを見渡してください。何故ここはこんなに明るいんですか?」
「…あ!蝋燭!」
「この雪のなかだと、木の枝が落ちているはずです。なので何本か拾い布を巻き付け、たっぷりと酒を浸してください。それから、蝋燭の火を移してください。」
「分かった。」
俺は苦戦してうずくまっている隊員を呼び、それらを準備した。
「…火は持った?」
「「はい!」」
「じゃ、行こうか。」
ここから大男まではそれなりに近い。吹雪いてもない。火が消えることはないと信じる。
「霞さん!酒!」
「はいぃ!」
霞さんが大男の足に酒をかけ、俺が指示する前に松明を投げてくれた。すると、予想は的中し、一気に燃え上がり大男は倒れた。さらに酒をかけ、燃え上がらせた。
「…ごめん、こんな苦しい死に方をさせて。けどさ、地獄はもっと苦しいから。こんなところでもがくくらいなら、さっさとくたばれば?」
そう声をかけると、蠢いていたのがぴたっと止まった。君は極楽なんていけない。沢山の人を、苦しめたのだから。
「この調子で、残りを倒そうか。」
「「はい」」
それからは、先ほどの状況から一変。負けてばかりが嘘だったように倒せた。
「今回は、怪我人が少なく済みそうですね。」
「そうだね。珍しいよ。」
「残りは、一人か。」
「…うん」
俺はそいつに向かって駆け出した。その時。ぶんっと横から腕が俺に目掛け現れた。しゃがまなきゃ、そう思った瞬間には体が軽いし、左目に痛みを感じた。そして意識が戻ったと感じた瞬間には背中に激痛が走った。吹っ飛ばされて岸壁にぶつかった。…折れているな、そう確信した。
(…何が、起きたんだ。…分から、ない…けど、何だか眠い…)
俺はもう一度、意識を失った。人間、死に際に走馬灯を見るとか言うけど本当なんだな…。昔の事が、鮮明に思い出してきた…。
◇
親父と俺しかいない家に雪女の親子がやってきた。母の陰に隠れる娘。人見知りであまり喋らない、十四から五の娘。切り揃えられた前髪に赤紫の瞳が隠れ、髪は全部左上に玉の連なった飾りで結わかれていた。透明に近い白い髪が綺麗だった。
「…本当の家だと思うてくつろいでくんなせ。菫さん、雪華。」
「ありがとうございます、慶壱さん。」
親父と菫さんは言葉を交わすが、俺と雪華は会釈で終わった。それから雪女のいる生活が始まった。けど、何もがらりとは変わらなかった。淡々と毎日を生きるだけ。雪華は俺の視界に入るか入らないかのとこで俺の傍にいた。ある日、畑に行こうと縁側を歩いていると雪華が何やら作業をしていた。
「雪華。」
「!」
雪華は驚き、振り返った。近づいてみると雪うさぎが大量にいた。
「…うさぎが好きなの?」
こくんと雪華は頷いた。俺は雪うさぎを見ていたがふと雪華の髪を見た。
「…雪華。お前櫛とかないの?」
雪華は目を丸くし、その後こくこくと頷いた。だから俺は木を伐りに行き櫛を作ってあげることにした。七日間あれば完成できる。七日後、完成して雪華に渡した。
「…はい、雪華。職人が作ったやつよりは劣るけど、使ってくれたら嬉しい。」
雪華は受け取った後、じっと見つめたが裏を見て嬉しそうな表情をした。
「良かった。」
その日から、雪華との距離が近づいた気がする。逆に、親父とはもっと距離が離れた気がする。まぁ、元々こんな感じだったしな。…一緒に過ごして一年が経とうとした、ある日。家の裏に積んであった薪がもう少しでなくなりそうだった。
「…伐りに行くか。」
俺は準備をして、脚絆を戸口で履いていると雪華が俺の羽織をつまんできた。
「どうした?」
雪華はだんまりだったけど、ついてきたいのかと思いそう尋ねるとこくんと頷いた。
「ついてきても、面白いことは無いよ。」
そう言っても離してくれなかった。
「…行く?」
雪華はこくんと頷いた。なので一緒に行くことにした。けど、これが間違いだったなんて思わなかった。…雪華はさすが雪女。楽しそうに雪の上を歩いていた。さすがと言えば雪華の格好もだ。一見は着物に見えるが裾は太ももまでで、足元は脚絆。だから足はほぼ丸見え。首元に襟巻。見てるだけで寒い。丁度よさそうな木を見つけ、俺は伐って行った。雪華は雪うさぎをせっせと作っていた。彼女が楽しいなら何も言うまい。一刻建ち、籠は木でいっぱいになった。
「はぁ…これくらいで良いか。…雪華、そろそろ帰ろう。」
「!」
雪華は立ち上がり、ぱたぱたと雪を払って俺の隣に来た。
「今夜は鍋にしようか。温かいの、良いか?」
こくんと雪華は頷いた。よく冷まして、与えれば大丈夫だ。帰路に着いて数刻、雪華がふと振り返った。
「…どうした?」
そう尋ねたとき、かちりという銃の音が聞こえた。明らかに俺らへ向けられた銃が視界に入った。
「雪華!」
雪華を庇った次の瞬間…右目に痛みが走った。いや、痛みは一瞬だった。今は熱さだ。
「あ…っ…」
「‼」
しゃがみ込み、右目を抑えた。…白かった地面は赤に染まっていき、雪華はぼろぼろに泣いていた。誰なんだ、人に向けて銃を撃つなんて…。俺は辺りを見渡した。後ろからまたかちりと音がした。撃たれると判断し、俺は雪華を抱き締め横に転がった。
「く…」
弾はわき腹を掠った。何で、俺らは撃たれてるんだよ。
「…雪華。」
「?」
「怪我、ない?」
雪華はこくんこくんと頷いた。
「良かった。」
俺は立ち上がり、雪華を守りながら警戒態勢に入った。…こんな人を撃つなんて、退魔師だろうな。そんな考え事をしていたとき、くらりとした。…目とわき腹から出血してるもんな…。このままじゃ、雪華を守れない。と、雪華は自分の襟巻を外し俺に差し出してきた。
「…何?」
雪華は自分の右目を指した。あぁ、そういうことか。
「血まみれになるよ。」
こくこくと頷いた。構わない、ということだな。俺はぐるぐると止血した。大丈夫、戦えると思い、立ち上がろうとしたら雪華に止められた。
「…どうした。雪華。」
「こ、寿…君は、座っていで。わー、何どがすてみるはんで。」
「……」
喋ったと、驚いていると雪華の髪飾りが外れ宙を舞った。丸から氷柱のような鋭さに変った。
「…姿見へで!わんどが、何すたの!」
そう叫ぶと返事代わりの銃弾。雪華はさっと避けた。
「わっきゃふと殺す趣味はね。すたばって、なんもすてね寿君ば傷づげるのは、怒った。だはんで、わんつかお痛するね。」
銃弾が来た方向に氷柱を飛ばした。「うおっ」という声が聞こえたが、死んではないみたい。
「そっちにも、いるよね?」
そう言って逆のほうにも飛ばした。俺はただただ木の根元に座り眺めていた。痛むわき腹を抑えながら。雪華…こんな傷を負わなかったら、戦えたのに。
「…君を、守りたい…」
生きるのなんて、どうでも良かったのに。もうちょっとだけ生きて、君を守りたい。妖だからなんて関係ない。戦い始めてどのくらい経ったんだろうと考えていると、雪華がこちらへ駆け寄ってきた。
「…雪華…?」
ぺたんと座り込んで、にこっと笑った。
「たぶん、全員…お痛出来だど、思う…。終わっ…たよ。」
「そっか…。ごめんね、ありがとう。雪華。」
「うん。」
そう言うとふらっ…と雪華は倒れ込んだ。
「…雪、華?雪華!」
抱きかかえてみると、心臓の部分を撃ち抜かれていた。いつの間に…。
「…わっきゃ、妖だはんで…すぐに治るど思ってあったんだばって、あれ…普通の火縄銃でねがったみだい…。」
「……」
「ばって、最期さ寿君ば守れで、えがった。」
「…俺は、君を守りたかったよ。ごめん、雪華。こんな傷を負わせて。」
俺は、ぼろぼろと涙を流した。雪華が死ぬって決まったわけじゃないのに。雪華はそっと俺の頬に触れた。
「ねぇ、寿君。…わね、寿君さ会えでえがった。こったらに大切にすてけだの、家族以外で初めでだはんで。」
「…俺さ、不愛想だから…君にそんな良い態度は取れてなかったと思うよ…。」
「…櫛、嬉すくてあった。今ばって、袂にあるじゃ。…わ、たぶん雪の結晶になるはんで、櫛遺るはんで…大切さ持ってほすい。」
「!」
「わ、ね…生まぃ変わり信ずでらの。きっと、何度ばって、寿君の傍さ生まぃ変わるはんで…。その時のわさ、渡すて…。」
「…うん。」
驚くほどすっと出た言葉。雪華は穏やか笑みを湛えた。雪華の体が軽くなっていく。
「後ね、寿君。」
「何…?」
「わ、寿君好ぎ。大好ぎ。」
「……」
「初めで、こぃが恋なんだなぁって思ったの。今は…返事は大丈夫。来世、聞ぎで…。」
俺はこつんと雪華の額に自分の額を当てた。
「…君以外の女性には興味ないよ。どんな君でも、好きだよ。」
そっと雪華の手を取り、手のひらに口づけをした。また逢いたい。雪華は今までで一番の笑みを見せ、そっと眠るように雪の結晶へと姿を変えた。その後はふらふらと歩き、倒れて失神したところを妖退治屋に保護されたんだっけ…。
◆
俺ははっと起きた。目の前は真っ暗。…あぁ、そういうことか…
(寿君…)
懐かしい声音。俺はいつの間にかあのひんやりとした太ももの上で寝ていた。雪華だ…。
(寿君、大切なふとたぢ守って…。それが貴方の、信念だべな?…けっぱって、寿君。)
俺は雪華に触れたくて手を伸ばした。だが触れたのは花だった。かさりという音とつやっとした感触…。
「寿君!」
「…霞、さん?」
「良かった…やっと目を覚ましたんだね…。」
「霞さん。」
「何だい?」
「俺の頭上にあるの、何ですか?」
「え…椿の、花だと思う…。これ、誰か分かる⁉」
「椿で合ってます。」
「だって!」
「…そうですか。」
俺はふらっと立ち上がった。
「っ!駄目だよ!寝ていなきゃ!」
「…どうしてですか。」
「だって、かなり飛ばされたせいで肋骨は当然折れているし、何より!…何より、右目が失明たんだよ。」
「…敵は後、一人なんですよね。」
「だから!それは俺らがやるから!」
「…守りたいんです、今度こそ。俺を助けてくださった妖退治屋に恩を返したいんです。」
「寿君…」
俺はふらふらっと歩き出した。戦うと言ったが自分でもこの状況でどう戦えば良いのか分からなかった。折れた肋骨が肺に刺さり物凄く痛い。何度も吐血した。
「…どこに…いるんだ…!」
(寿)
「!」
ふと脳裏に、親父の声が響いた。…俺は親父が嫌いだ。だから、声なんて覚えてなかったのに…。
(…もし、私のように目が見えんくなったら…耳に集中しなせ。音は、必ず頼りになる。)
「……」
親父は足軽で、戦で両目と片足を失った。自らの意思で帰ってきたくせに、考え方が後ろ向きで嫌いだった。返事は返さないがただただ親父が話しているのを聞いていた。
(…どんげしても、死にきれねかったんだよ。死にたくても。希が、死ぬんでねえて言うてるようでな…。)
煙草の匂い、雪の匂い、飯の匂い…全部、全部親父の匂い。最悪だな、今になって感謝することになるなんて。
「帰れたら、孝行してやるよ。親父。」
俺は耳に集中した。少し先で聞こえる足音。そこにいるんだな。俺は一気に駆けた。音が近づいて来た。すぐ、そこ。横から、気配を感じた。腕だ。俺は乗っかり、そのまま首元へと駆けて行った。
「…お前も、早く楽になりたいだろう?」
飛びあがり、奴の腕を斬った。
「…これで、終わり。さっさと眠って。」
俺は地上に降り立ち、酒を一気にぶっかけた。
「霞さん!火!」
「へ、へい!」
霞さんが火を投げてくれた。妖がどうなったかは分からない。けど、焦げていく匂いが鼻腔に充満した。
「…終わ、った…ごふっ、ぐ…」
…あぁ、親父もこんな気持ちだったんだろうか。もう一度、好きな人に逢いたいから、生きたんだろうな。ごめん、親父。俺、何も親父の事を分かっていなかった。俺の意識は、ぷつんとそこで切れた。




