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愛者永遠  作者: 桜宮朧
31/51

彼岸花。

〈元和元年 三月二十二日〉

俺は井戸の水で顔を洗っていた。すると、珠乃さんが突然現れ声をかけられた。

「とーしゅたまが呼んでるにゃ。」

「そうなのか?」

「何かやらかしたにゃん?」

「え…」

「何となく、そう思ったからにゃん。ほのかにとーしゅたまから怒りの匂いを感じたにゃん。」

「…分かった、とにかく向かうから。ありがとう、珠乃さん。」

「にゃ~。」

俺は珠乃さんが去るまで平然を装っていたがその姿が見えなくなった後、どくんどくんと心臓の音が聞こえるくらい高鳴っていた。心当たりはもちろんある。何とも複雑な気持ちが巡っている。この生活からの解放感、当主様に露見されたんだという安堵感、この先どうすれば良いのか分からない不安、ぐっと息が詰まり吐きそうだった。

「とりあえず、当主様に呼ばれた部屋に向かうか。」

俺は深呼吸してから、その部屋に向かい襖を開けた。

「……ほ、かげ?」

そこにいるはずのない、彼女がいた。火影は一瞬俺と目を合わせたかと思うとふいっと視線を逸らされた。

「翡翠。」

「!は、はい!」

「とにかくそこに座れ。」

「は、はい…」

俺は光さんの前に座った。俺から見て右に出入り口、右に当主様、そして目の前に光さんと光さんの腕に絡みつく火影。に

「…ごめんなさいね、翡翠様。私もここに居て良いのか分からなかったのですが、火影が傍に居てほしいと言ったもので、同席しています。ですので私の事は空気か何かだと思ってくださいまし。」

「え、あ…はい…。」

光さんはこのぴりっとした雰囲気に似合わない、穏やかな笑みを湛えた。俺は笑えない状況なので引きつった苦笑いを見せた。

「…それで、本題のだが。」

「っ!」

俺は、当主様のほうを見た。いつもの穏やかな表情はなく真顔だった。

「全部、火影から聞いた。翡翠。お前がしでかしたこと、どれだけ深刻なことか分かっているな?」

「…火影、が?」

俺は火影を見た。相変わらず視線を合してくれない。

「なぁ、火影。お前、話したのか?」

「……」

火影はこくんと小さく頷いた。

「…お義父様にこのことが、知られたら!俺たち、殺されるかもしれないんだぞ⁉」

「…分かってる、わよ。」

その言葉に、俺は何故か怒りを覚えた。今まで蓄積してた気疲れの糸が、ぷつんと切れたんだろう。

「だったら何で言ったんだ!確かに!この日々からは抜け出したい!だけど…だけど君を傷つけたくないから…ずっと我慢して従っていたのに‼」

叫ぶように言うと、火影はキッと俺を睨み、目に一杯の涙を浮かべ俺と同じ声量くらいに叫ぶように話した。

「こんな日々を続けていたら!貴方様のほうが先に壊れるじゃない‼精神的にも、肉体的も!あたし見てらんない!翡翠様、変わっちゃった!けど…けど…こうなったのは全部全部、あたしが悪いってことも…分かってるの…。」

「……俺は、変わってない…ずっと同じ俺だ。」

「違う…変わった。変わっちゃった…。前はもっと構ってくれた、優しかった、たくさんたくさん、“大好き”って言ってくれたのに…。その全部!今味わってない‼」

「……あ!」

「一旦、落ち着け。二人共。」

俺はその当主様の言葉で、言いかけた言葉を飲み込んだ。

「大丈夫ですよ、火影。」

「ひく…うぐっ…」

光さんは泣きじゃくる火影をなだめていた。俺は俯き当主様の言葉に耳を傾けた。

「翡翠、此度の件は死罪も免れないことなんだぞ?情報漏洩や、色々なことにも繋がりかねない。それを分かった上で、この一件を起こしたのか?」

「…申し訳ないなどは、軽い言葉。何と謝ればいいのか…見当がつきません。」

「罰は、与える。見逃しできないことだからな。」

「何でも、受ける所存です。」

当主様はため息に近い息を漏らし、俺に近づき頭に触れてきた。

「島流し。それが一番いいと思ったんだ。」

「…島、流し?」

疑問に思っていると触れていただけの手を動かし、わしゃわしゃと撫でた。

「暫く、お前は休め。遠くの地に行けば、流石に奴は追いかけてこぬと思う。辛かったな、早く気づかず悪かった。」

俺は自然と涙が溢れ。ぼろぼろと泣いた。その手の温もりがあんまりにも上様に似ていた。俺は上を見上げ、当主様を見た。目の前にいるのは、もちろん当主様だ。だけど、今だけはずっと、ずっと敬愛してる上様に見えた。

「…上、様。」

「お前は、誰かに従いすぎだ。頼る程度良いんだ、人間関係なんてな。これでもかって休んで、心を入れ替えろ。時間はたっぷりあるんだ。」

少したれ目気味な優しい瞳、上唇の上にある髭、春のように穏やかな声、あぁ…上様だ。

「はい。」

上様はしゃがみ、俺に視線を合わせた。

「死にてぇだなんて思うな。今来やがったら、殴ってでも現世に帰してやる。」

「はい…。」

俺が瞬きをすると、もう上様はいない。さっきまでいた部屋だ。

「…あたしも行くから。」

「火影?」

「儂が事前について行ったほうが良いと、提案すると迷うことなく行くと言ったんだ。」

「…私も、そのほうが良いと思っています。」

「光さんも?」

「はい。」

「…やっぱり。別れることはしたくないな。…火影。」

「何?」

「一緒に行こう。俺はずっとお前と生きたい。」

「…うん。あたしはずっと貴方様の傍にいたい!」

火影は、周りの目もくれず俺に抱き着いてきた。安心する体温と、匂いに一層愛おしさを覚えた。

「万葉様、出発は今からにしますの?」

「どうしようか。翡翠たち次第だが…なるべく早いほうが良いと思うぞ?」

「…出発ならば、俺たちはいつでも。火影は?」

「あたしは…姉様ともう少し一緒に居たい気持ちもあるけど…今すぐ出発したほうが良いうのも分かるわ。」

「…完全にここを離れたらさようなら、という訳でもありませんし。落ち着いたころに文通すれば、交流も続きますよ。」

「…そう、だね。絶対に書状を送る。」

「はい。」

そうして俺たちは武蔵へ行く準備をした。今のところ、長期に渡って遠方に行かない者を四人集め、籠も蔵から取り出してきた。俺は歩くから火影だけで良いと当主様に言ったが、当主様の笑顔の圧に負け、俺も乗ることにした。 

  ◇

「姉様…最後に抱きしめていい?」

「良いですよ。」

火影は光に飛びつき幸せそうに抱きしめられていた。

「こちらより、向こうは寒いと思う。くれぐれも気を付けてくれ。」

「はい、分かりました。…本当に、恩を仇で返してしまい…申し訳ありません。」

「お前のせいではない。全ては、あいつのせいだ。」

「……」

儂は眉間に皺をよせ、睨むようにどこかを見つめた。

「さ、もう乗れ。もしかたら、奴が来るかもしれない。」

「あ、分かりました!」

翡翠は火影に先に乗ると伝え、二番目の籠に乗り込んだ。

「…火影も、もう乗れ。」

「……」

火影は光を抱き締める態勢から、腕にしがみつくいつもの態勢になった。

「どうした?」

「…兄様。」

「っ!」

初めて儂の事を兄様と呼んだ。まさか呼ばれると思わず、驚いた。火影は俯いたまま話を続けた。

「あり、がと。色々と…助けてくれて。」

「……」

「もっと、早く…姉様と仲直りしたかった。もっと…三人で、暮らしたかった。」

「火影…。」

火影はばっと顔をあげた。その顔は真っ赤に染まっていた。

「姉様を守らなかったら!どんなに遠くに居ても、すぐにあたしが駆けつけるから!」

「まぁ…。」

「べ、別に?あんたが守れるっていうなら、あたしは駆けつけないけど?ま、万が一ってことも、あるだろうし?」

儂はぽんっと火影の頭に触れ、優しく撫でた。

「儂はこれでも当主をやっている。愛する者は必ず守れるよ。」

「……ふんっ、そう。じゃあ、あたしが駆けつけなくても大丈夫って訳ね。」

「まぁ、たまには帰ってきても良いぞ。儂らの、祝言もあるし。」

火影は目を見開き、儂を見た。その目は輝いていていかにも嬉しそうだった。

「そうね、たまには帰ってくるわ。兄様がどーしても帰ってきてほしいって言うなら。」

「あぁ。」

火影は籠のほうへ駆けてゆき、くるっと振り返り別れの言葉を言った。

「じゃあね。姉様、兄様。何から何まで、本当にありがとう。それと、ごめんなさい。もっとあたしが上手く立ち回れたら、長く過ごせたのかな?」

「火影…。」

「名残惜しくなっちゃうから、もう行くね。またね。」

そう言い、火影は籠に乗ろうとした。だが、火影は何故か降りてきて儂ら二人に駆け寄り飛びついてきた。

「火影?」

火影は、ぎゅっと精一杯の力で抱きしめてきた。

「…生まれ変わっても、この三人で居たいね。どんな関係でもいい。三人、ううん、五人。また一緒になれたら、嬉しい。」

「……」

火影はゆっくりと離れ、頑張って笑みを作っていた。涙でぐしゃぐしゃになっていても。

「でもね、あたしは絶対に姉様の妹になりたい。妹らしくたんと甘えて、妹らしくたんと我が儘言って…今世で出来なかったことをたっくさんしたい。」

「火影…」

「大好き!二人共!って…そう言える、日々を送りたかった…。」

火影は涙を拭いながらしゃくりあげながら、そう言った。すると光が火影に近づき、ぎゅっと抱きしめた。

「私も、後悔していますよ。…火影は、こんなにいい子なのにずっと拒絶して…ごめんね。この先は、私の大事な妹だから。大好きよ、火影。」

火影はわんわんと泣きたかったのだろうか。一瞬顔を歪ませたが、すぐに笑みへと表情を変えた。

「姉様…大好き。」

火影は満足するまで光を抱き締め、しばらくして離れ籠に乗った。光は籠が見えなくなるまで手を振っていた。

「…翡翠が少しでも休んでくれればいいのだが。」

「きっと大丈夫ですよ。火影もいますし。」

「そうだな。…さ、もう中に入ろう。体に障る。部屋のなかは温かいと思うぞ。」

「はい。」

屋敷に入ろうとしたその時、「あの!」という声がした。振り返ると五~六歳くらいの少女が立っていた。儂はしゃがみ、話しかけた。

「どうしたんだい?迷子なのかい?」

「迷子やない!ここに来りゃ、その…えっと、何かを退治してもらえるって爺ちゃんに聞いて来た。」

「…依頼だね。分かった。中にお入り。光、客間に連れて行ってあげて。儂は風雅に茶を持ってくるよう言ってから向かう。」

「分かりました。さ、行きましょうか。」

「……」

  ◇

「梓さん、というんですね。」

「そうやの。わっちの家は木こりでね、そやでその名前を貰った。」

私は万葉様が戻ってくるのを待ちながら梓さんと話していた。

「可愛らしいお名前ですね。素敵です。」

「おっ母も同じこと言っとった。今はもういないけど。」

「まぁ…」

「おっ父はどこに行ったか分からん。そんで、爺ちゃんと二人で暮らいとる。」

「そうなんですね…。」

と、襖がからりと開き万葉様とお茶を持った風雅さんが現れた。

「…冷ますのに時間がかかってしまいました。ごめんなさいね。」

「私たちは大丈夫ですが、梓さんが飲めないですものね。大丈夫ですよ。」

「もう打ち解け合っているのか。」

「梓さんは可愛いです。」

風雅さんが去った後、梓さんから依頼内容を聞くことにした。

「…で、内容はどんなのだ?ゆっくりで大丈夫だからな。」

「んっとね、爺ちゃんのお友達が言っとったんだけどね。山に木を、えいってやりに行ったときに見たんだって。」

「えい?」

「木を伐りに行ったのでしょう。」

「あぁ。」

「それでね、どしんどしんって音が聞こえて、そしたらね、首のねえこーんなに大きな人が現れたんだって。」

「首の、ない?」

「本当に首がなかったって言っとったもん!わっちも…見とらんけど、本当やで…。」

「大丈夫だよ。信じているから。」

梓さんはむっとした表情を一瞬浮かべたがすぐにぱっと笑った。

「それでね、えっとね、村にもえいきょ?が出とるって爺ちゃんが言っとったの。そんで、ここに行けって言われて来たの。」

「影響、か。例えばどんな感じなんだ?」

「うんと、うんと、木こりに出た人たちが帰ってこんくなったり、とか。でも、えいきょはそれだけ。皆、心配しとる。」

「…そうか。そういえば、君はどこから来たんだい?」

「岐阜!」

「まぁ。意外と大和の近くですね。」

「そうだな。早速隊員を集めるか。飛騨、美濃辺りは雪が多い。ということは…あの者か。」

そう言い、万葉様は道場に行ってくると言い、部屋を後にした。私は暫く梓さんと一緒に居た。

「…そういえば、木こりとはどんなお仕事をしているのですか?」

「わっちはまだ小さいやでよう分からんけど、爺ちゃんが言うには、温泉に使う木を、刈りに行くんだって。」

「そうなんですね。」

「そうやお。あ、だけどね山は何でか男人禁制で、他と珍しいの。そんで、山に入らんで、その近うで木を伐っとるの。」

「まぁ、確かに珍しいですね。」

「後、山の禁忌?を犯した者は罰せられるって爺ちゃん言っとった。」

「それは、男性が山に入ったら、ということですか?」

「そうやお!わっちの爺ちゃんは、山の事なーんでも知っとるで。村の皆は山で分からんことありゃ、爺ちゃんに聞いとるの。」

色々とお話してると万葉様が戻ってきて、一人連れてきた。

「何で俺なんですか?」

「いや、雪山と言ったらお前しか思いつかなくてな…。」

「それを言うのであれば、俺一人で戦うことになりますよ?」

「ちゃんと集める。」

「そうですか。」

万葉様は梓さんの目線に合うよう、座ってから話しかけた。

「このお兄さん達が退治してくれる、だから、案内とかお願いしていい?」

「分かった!ちゃんと案内する!」

万葉様はよしよしと撫で、寿様のほうを見た。

「まずは行く者を集め、それから資金や治療に使うものを用意する。宿は現地で見つけるでも良いか?」

「構いません。」

「集める者は何人くらいが良いのだろうか。その妖が何人とは分からぬし…」

「この者に聞けば早くないですか?」

「そうだな。…梓、その者は何人くらいなのだ?」

「んー……分からん。四人って言っとった人もおるし、六人って言っとった人もおった!」

「何人なんだよ。」

「まぁ、ざっと二十五人くらいで良いか?もう少し、多く連れて行くか?」

「そのくらいで良いかと。それに今は遠方にいる者も多いですし、もはやそれくらいか越すくらいしかいないですもんね、治療班は、十八名ほどで良いんじゃないでしょうか?」

「そうだな。」

万葉様はばたばたと支度を始めた。私は何もしなくていいので梓さんと少し過ごした。

   ◇

「何でおいらなんですかぁ?」

「弱気なことを言うな、霞。」

何でこの人と一緒なんだろう。朧さんがいてくれたら、一緒に行きたかったのに。

「…梓さん、また来ても良いですからね。」

「うん!今度は遊びに来たい!お姉ちゃん、優しいで。銀色の髪も、雪みたいで綺麗!」

「ありがとうございます。」

雪のよう…。ふと、俺の脳裏に椿の花がよぎった。袂に、あれを入れているからだろうか。

「じゃあ、行ってらっしゃい。無事に、帰ってきてくれ。ここに帰ってくるとき、全員の顔を見たい。」

「ちゃんと全員帰ってきますよ。では、行ってきます。」

「…うぅ~…寒いの嫌だなぁ…。」

歩き始めて、隣にいる小さいのがずっと手を振っているから、疑問に思い振り返ると光さんが手を振っていた。

「…見えなくなったら前を向け。この時期はとこどころ雪がある。」

「大丈夫!わっちだって雪国育ちやで。」

「そっか」

切るのに失敗してのか分からない、眉毛上の前髪が元気よく揺れる、頬と鼻は寒さから真っ赤に染まっていた。

「こんなに寒かったっけ?外ぉ~。うぅ…」

後ろでがたがたと一人、震えて騒いでいた。正直うるさい。黙々と歩き続けて、やっと近江辺りに着いた。太陽はてっぺんに上がり、昼当たりだった。

「…お前が言ってた場所は、岐阜のどのあたりだ。」

「もっと先!うんとうんと山奥!」

「そっか」

もう少し進み、夕暮れごろには宿に泊まったほうが良いと考えた。そのことを霞さんに話し、頷いてくれた。

「…この先に宿、あるのかな?」

「知りません。」

「みんなぁー寒くないー?」

「今のところは…」

俺はひたすら黙って歩いていた。耳をかすむ冷たい風と共にそんな会話が聞こえた。

「…小さいの。」

「小さいのやない!梓!」

「うん、知ってる。…疲れてないか?」

「疲れとらん。大和に行くときも、この道歩いた。」

「そっか」

暫くすると宿場町に着いた。こんな大人数でも大丈夫そうな宿を見つけ、中に入った。

「お前はどの部屋に行く?」

「お兄ちゃんと一緒がええ!」

「え。」

俺は霞さんと、梓と三人の部屋になった。後、三部屋くらい取った。

「…寿君も火鉢に当たったら?温かいよ。縁側、寒いでしょ?」

「俺は別に。」

梓がとことこと近づてきて、袂を握ってきた。

「お兄ちゃんも温まろ?ご飯、まだだし。一緒に温まろ?」

「……」

俺は仕方なく火鉢に当たることにした。横をちらっと見るとにこにこの笑顔で温まる梓がいた。梓は視線に気づいたのか、俺を見た。にかっと笑ったと思ったら、きょとんとした表情になった。

「お兄ちゃん、右、どうしたの?」

「‼」

「目、ないの?」

俺は、困った。小さいのからの角度だと見えてしまうのか。俺は右目にかかる前髪に触れた。

「目は、ある…と思う。見えないだけ。」

「どうしてなの?」

「……」

「梓さん。」

と、霞さんが梓に話しかけた。

「人には、言えない事情って言うのがあるんですよ。だから、そんなに聞かないで上げてください。」

「そうやの?」

「平たく言ってしまえば、秘密です。梓さんにも秘密はありますか?」

「秘密!ある!」

「それを言ってください、と言ったら梓さんはどうしますか?」

「…嫌。」

「それを今、寿さんは味わっているのですよ。」

「……」

梓はあからさまに悲しそうな表情を浮かべた。小さい子の慰め方なんて知らないから、俺からも言った。

「…本当に、これだけは触れないでほしい。」

「…ごめんね?」

「良いよ。」

意外と素直に謝るんだなと、俺は感心した。

「失礼します。食事をお持ちしました。」

「ご飯!」

「落ち着け。」

その後、ご飯を食べ梓はすぐに寝た。なんだこの生き物はと俺は思った。

「…助け船、ちゃんと仕事していたでしょうか?」

「…仕事、していましたよ。ありがとうございます。」

「それなら、良かった。…ねぇ、寿君。」

「何ですか?」

「兄者も言っていたかもしれませんが、おいらはその傷…恥ずべきではないと思いますよ。」

「…頭では、分かっています。けど、隠していたいんです。」

「…そっか。君がそうなら、それでいい。そういえば、明日はどんな作戦で行くの?」

「決まってないですよ?何人かも分からないのに、作戦を立てるのは無駄だと。」

「・・・当たって砕けろ、と?」

「それしかないですよ。そういう霞さんは何かあるんですか?」

「おいらも特には…」

「あ、当たって砕けろしかないですね。とりあえず頑張りましょう。」

「うん。」

「…霞さん。」

「何だい?」

「ここに一人、残してこの子を見てもらいますか?戦いの場に連れて行くのは、危険かと。」

「…確かにそうだね。後で皆に聞くけど、その子にも聞いたほうが良い。」

「分かってますよ。」

「寿君はもう寝てても大丈夫だよ。おいらが聞くから。明日に備えなくちゃね。」

「俺が聞きます。一応今回の隊長なので。」

「分かった。」

俺は立ち上がり、各部屋に向かった。たまたま風雅さんも同行していたので、梓がいかないと言った場合、見ておくと言ってくれた。

                               (続)

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