天竺葵はあの頃に還えりたい
まだ愛者永遠は続きますが、物語の先がまだ考え中なので
しばらくお休みとなります。
どうかご了承願いますm(__)m
〈母が亡くなる日〉
久々に夢を見た。真っ暗闇に兄様がぽつんと立っていた。手には提灯を持っていた。嬉しくて私は兄様のところへ駆け寄った。
「兄様!」
「今はまだ来てはならない。」
「え…?」
「…苺依、子供は何人だ?」
「えっと…ひと、」
「何人だ?」
「…三、人…」
「後のもう二人は、どこにいる?」
「し、知らない…わ。」
「苺依…。」
「本当に知らないわ!一番上は、兄様がどこかへ連れて行って、二番目は勝手にいなくなったわ!だから…」
水面が揺れる音がした。私は顔をあげ、兄様を見た。悲し気な笑みを浮かべていた。
「苺依は今、幸せかい?」
「…幸、せ?」
「我は、家族や苺依が幸せなら嬉しいんだ。顔を見ることが出来なかった子達が元気か心配で仕方がなかったんだ。」
「どういう、意味ですか?兄様…」
私は少し悩んだが、最悪の考えに辿り着いた。塞がない口を手で覆った。
「……そう言うことだよ、苺依。だから…もし、こちらに来るならお前がやるべきことをやってから来なさい。我は怒らない。」
「…兄、様…」
「もうそろそろ、夜が明けるね。…またね、苺依。」
「待って、兄様!」
◇
「ん…」
誰かに起こされずに起きたのは何時ぶりだろう。頬が濡れた感覚がして触れてみると私は泣いていた。あぁ…夢の中で、本当に会えたのね。兄様。
「…やるべき、こと…」
私は枕の上に置いてあった杖を持ち、庭へと向かった。杖にすがりつくように歩いた。…私のやるべきこと…多すぎてどれからやればいいか分からない。もっと生きたい。だけどもう、叶わない。
「あ!」
杖を滑らせてしまい、体を思い切り床に打ち付けてしまった。
「うぅ…」
何とか、杖を立て起き上がった。こんな体の痛み、あの子に比べれば平気よ。
「…二人に…会いたい、謝りたい、抱きしめたい…。名前を、呼んで…あげ、たい…」
ごめん、ごめんね。兄様。私はきっと…いえ、絶対に貴方の元へは逝けないわ。私は、地獄に落ちるの。大切な子供を、しっかりと育てなかったもの、育て上げたのは火影だけ。…もっと二人を愛してあげたかった。どうして、今更…母としての情が湧くのだろう。もう、遅いのに。…暫く歩いていると“兄様”のいる庭に着いた。
「…兄様」
そっと声をかけると、その人は振り返った。
「苺依、起き上がっても平気なのか?」
「少しだけ、調子がいいのよ。…それより、少しお腹が減ったわ。」
「…ならば火影とか誰かに粥を作ってもらえ。」
私は、その言葉が可笑しくて俯き笑いを堪えた。顔をあげ目の前にいる人を睨んだ。
「お前は誰だ?」
「……」
その人はふっと笑い、前髪を掻き上げた。
「そういうことか、苺依。」
「…妖退治屋として、恥ずべき事であり汚点だ。お前は、一体なんだ?」
「我はお前の兄であり、夫だ。」
「ならば私が先ほどした質問を正しく答えて。」
「っ……」
「分からないの?ねぇ、本当に兄様なの?」
「…ふ…ははははは!兄様、か。そんな存在、“もうこの世には存在しない”」
「……そう、やっぱりね。あんた、兄様の他にも“盈月さん”を知らない?」
「盈月?…あぁ、我の傀儡か。退魔屋敷にいるぞ。」
「退魔⁉……本当に、お前は何だ。本当の正体を現せ!」
「正体?そんなの見せる訳がなかろう。我は望みを叶えるまでこの姿だ。何とも便利だな、この姿は。」
「これ以上…兄様の顔に泥を塗るな!兄様は…ひゅ!ごほ、げほっげほげほ…」
「まだ寒い時期だ、体に障るぞ苺依。部屋に戻れ。」
「ひゅー…ひゅー…、っお前に…心配など、されたく、げほ、ごほごほ…ない…」
「そうか、ならば部屋に戻すのを手伝わん。我はお前と、赤の他人だもんな。」
そう言ってその者は自室に向かった。息が整うを待ち、私も自室に戻った。その途中、火影と鉢合わせた。
「っ!母上!こんなとこで何をしているんですか⁉朝餉を用意して母上の部屋に行ったらいなくて心配しました。」
「…ごめんね、火影。」
私は火影に支えられながら部屋に戻った。…そうだ、この子に託そう。この子ならきっとあの人の呪縛を解いて二人に会いに行ってくれるかも…。火影がそっと私を布団に戻してくれた後、火影の手を握った。
「どうかしたの?母上。」
「…火影、私の最期の願いを託します…」
「願い…?」
「兄と、姉に会いなさい。そして、私の言の葉を届けて。」
「……分か、った。」
「…まずは、謝りたいわ。ごめんなさいって…。愛してあげなくてごめんねって…。だけどね、私の大切な子供には変わりない。」
「うん…うん…」
「それからね、生まれ変わった先でまた、私の胎内に宿ってほしい。今度こそ…ちゃんと名前をあげて、抱きしめて…沢山沢山、愛情を注いで育てたい。」
「…あたしも、生まれ変わっても母様の娘でいたいです…。母様が、姉様達に愛情を注ぐなら、私も沢山沢山、姉様に甘えたい。」
私は火影の頭を撫でた。そっと優しく慈しむ様に。
「…火影も、色々とごめんね…。沢山苦労をかけて…。だけどもう、貴方は貴方の人生を歩みなさい。これは母として…最期の願いです…」
「でも!そんなの…出来ない…」
「どうして?」
「だって…父様が…」
「火影。」
私は、火影の両腕を掴みその瞳を見つめた。
「貴方には、貴方の人生があります。他の者によって勝手に決められた人生を歩きたいのですか?」
「っ!」
「火影。どうか…翡翠さんと幸せに、二人で生きて…お願い…」
「…翡、翠…様。」
火影はぽろぽろと泣き始めた。私はぐいと火影を抱き寄せ、力いっぱい抱きしめた。私もいつの間にか泣いていた。
「大好きよ、火影…。やっと…言えた…。あの子達にも、直接…言いたい。」
「…あた、しが…伝えるがら…。ぢゃんど…」
「うん、うん…」
一頻り、泣いた後私はもう一度眠ると火影に言った。寝っ転がった後、ふと庭を見た。
「…榛が、咲いている…」
会いたい、私が腹を痛め産んだ子に。会いたい、水樹さんや妖退治屋の皆さんに。
「逢い、たい…兄様…」
…眠くて眠くて仕方なかった。すぅっと私は眠りについた。よく分からないけど、もうこの瞳は開かない気がする。
「…ん…」
そう思っていたのに、自然と瞼が開いた。真っ白な世界にぽつんと立っていた。
「苺依。」
「!」
振り返ると、兄様がそこにいた。
「…来ていいよ、苺依。本当に、最期までありがとう、お疲れ様。」
優し声音に私は涙を流し、兄様の胸に飛び込んだ。
「兄様…兄様…私は、そちらに行ってもいいのですか?」
「あぁ。」
「…私ね、兄様とたくさんお話したいの。」
「いいぞ。全部聞く。時間はもう、ないのだから。」
大好きな兄様、もう離れ離れになりたくない。永遠に、貴方だけを愛している。




