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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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三粒の南天

〈元和元年 三月十九日〉

「光、気を付けて行ってこい。」

「はい。墓参りが終わり次第帰ってきます。」

「迷ったらすぐに書状を送れ。後他に困ったことあれば…」

「万葉様。」

「何だ?」

「私はこれでも十六の娘です。本当、心配性な部分が兄さんらしいです。」

私は万葉様のあまりの心配性に少し笑ってしまった。

「す、すまん…」

「ですが、本当に困ったならば白銀を行かせますから。」

「分かった。じゃあ、行ってらっしゃい。」

「はい、行ってきます。」

  ◇

白銀は匂いで分かるみたいで、案内してくれた。桜峠まで遠く感じたが東郷さん…東郷爺に会えると思えば苦ではなかった。

「わふ。」

「少し早いわ、白銀。ちょっと休憩しましょ。近くに川があるみたいだから。」

「くふ。」

私は少し川に寄り、水分を補給した。少し寒さが残る季節だが歩いて火照った体には、気持ちよく感じた。

「…さて、行きましょうか。もう少しですか?」

「わう!」

「分かりました、頑張ります。」

四半時、歩くと福寿草の花畑の中、ひっそりと大きな石が二つ鎮座していた。

「…東郷爺、と…鈴様?だよね。万葉様が言ってました。」

私はしゃがむと同時にお酒を置いた。

「お久しぶりです、東郷爺。初めまして、鈴様。…このお酒は万葉様が東郷爺がずっと飲んでみたいと言っていたお酒だそうです。」

「くぅふ…」

「…最近、やっと思い出せたんです。東郷爺との思い出を。温もりや言葉は辛うじて覚えていたのですが、何故か東郷爺だけは忘れてしまっていました。」

さぁぁぁと、静かに風が吹いた。ふわりと福寿草の匂いが私を包んだ。

「ごめんなさい、東郷爺。子供だった頃とは言えたくさん貴方から学んだのに忘れてしまって。だけどこれからはちゃんと覚えています。東郷爺の事も学んで得たことも…。」

私はそっと東郷爺のお墓に触れた。

「今まで、本当にありがとうございました。一番伝えたい気持ちはそれです。また今度、来ますね。万葉様と一緒に。」

私は立ち上がり、着物についた土を少し払った。

「…白銀、お酒どうしましょう。ここに置いて行きますか?」

「わう。」

「置いて行きましょうか。多分盗賊さんとかに持っていかれそうですが…」

「わふぅ…」

「帰りましょうか、白銀。」

「わん!」

私は、さっき通った道を戻った。

「あの!」

するとその時。後ろから聞きなじみある声がした。

「…何か、御用でしょう…か?」

もちろん相手は火影だった。だけどその姿は、前に会ったの時とまるで違った。何故か裸足で、髪には艶がなく目も少し赤く腫れていた。私は、すっかり忘れていた“姉”としての心配が心に沸いた。

「どう…したの?」

「……」

「火影?」

「…った。」

「え?」

「母上が…亡く、なった。…母様が!亡くなったの‼」

「え…?」

火影はぽろぽろと泣き始めた。

「母様がね、最期に言ってた。兄妹仲良くしなさいって…。意味わからないよ!」

「っ!」

「今まで…あたしは、貴方に酷いことした、なのに今更…今更仲良くなんて出来るわけない‼」

「…火影?」

火影は、泣きじゃくり俯いていた顔をあげ私を見た。

「あたしは…姉様が好き、ずっとずっと昔から。」

「……」

「ごめんなさい!…ごめんなさい…ごめんなさい…。どれだけ謝ればいいか分かんないし、どう接すればいいか分かんない‼」

「ほか、げ…」

「っ…ひぐ…ごめん、なざい…」

どうしよう、どうすればいいんだろう。こういう時。ぎゅっと着物を握り思考を巡らせた。よく考えれば、火影って私に何か酷い事したっけ。思い出して思い出して。何でもいい、何でもいいから。私は瞼を閉じた。と、その時。東郷爺の言葉を思い出した。

(許すという選択を必ず選べ。どれだけ憎くて許せなくても、許すというのは心の大きさを表す言葉だ。)

「…許、す…」

私は、顔をあげ火影を見た。そうよ、考えればこの子は何も悪いことをしていない。私が、あの人の傍に居るというだけで拒絶していたんだ。火影は、たった一人の大切な妹だ。私はそっと火影を抱きしめた。

「……姉、様?」

「火影。私が一番、謝らなきゃ駄目だわ。…ごめんね火影。」

「…姉様は、謝らなくていいんだよ。あたしが悪い。父の言うことしか聞けなくて姉様を追い込んでしまったのだから。」

私は、ぎゅぅっと火影を抱きしめた。

「辛かったね、貴方も私と同じ思いだったのに、無視してごめんね。助けずに拒絶を続けてごめんね。もう、大丈夫だから。」

「っう…う、ひくっ…姉、様…姉様…」

一旦傍にあった岩に座り、火影が落ち着くまで背中をさすってあげた。

「…ねぇ、火影。」

「なんで、ずか?」

「もしかして万世から逃げきたの?」

火影はこくこくと頷いた。

「もしかしたら、何処かで貴方を監視してるかもしれないから、妖退治屋に一緒に行きましょう?」

こくこくと火影は頷いた。火影は大切な妹だ。万葉様に話せば…。

「…あの事も説明しなくては…」

火影はどれだけ怖い思いをしたのだろう、私とはまた違う恐怖を味わったと思う。帰っている際も火影は私の腕に抱き着いていた。こうしてみると、妹って可愛いなと癒された。

  ◇

「…光、腕のその娘は一体…」

ただいまと声がして急いで玄関に向かって出迎えると光ともう一人増えて帰ってきた。火影とは一切関りがない故、どうしてもあの日を思い出す。

「あ、あの…一旦にらみ合いは終わりにして大広間に行きませんか?その、色々説明を致しますので…」

「あぁ、分かった。」

「ふんっ」

火影はぷいっとそっぽを向いた。仲良く出来る自信がないなこの娘。とりあえず広間に行き、風雅に茶を頼んだ。

「で、一体何があった?」

「それが…」

光は事細かく話した。一度も会えずに母が亡くなった事や火影自身も万世が嫌いだということを。

「なるほど、な。それで万世がどこかで見ている可能性もあったためにここに連れていたと。」

「はい…。後、万葉様気づいているかと思いますが…火影は万葉様の妹でもあります。」

「…確かに。」

儂は未だに光の腕を抱きしめている火影を見た。やはり火影は儂と目が合うとそっぽを向く。

「で、暫くここに居るのか?」

「当面…もしくは、ずっと…ですかね。」

「…それは、無理…だと思う。」

「万世のせいか?」

「それも、あるけど…」

「火影、言いたいことがあれば言いなさい?万世のせいで自分の意見がなかなか言えないのは分かります。だけど、ここに居る皆さんは優しくて味方ですから。」

火影は少し悩んだ後、ぼそりと言った。

「……翡翠様を、助けてほしい。」

「え?」

「翡翠?」

「翡翠様も父様の言いなりなの!昼の手前まではこっちにいるけど、それ以降は退魔屋敷で過ごしてる…父様の言うことを聞かなきゃ、離れ離れにされるから…」

「それは…」

「規律違反でしょ?知ってるよ、火影。翡翠様がずっと怯えてたもん。」

「……本人に聞かなくては…」

「今、いらっしゃるのでは?」

「いや、妖退治に出てしまっている。」

「いつ帰ってくるのですか?」

「明日…だと思う。」

「…翡翠様は昔の事もあるから、逆らうのは怖いって。だけど自分の主に嘘を吐いているのも辛いって言ってた。」

「昔?」

「翡翠はずっと、殿様の元で働いていたんだ。だから誰かに逆らったりとかは苦手な真っすぐな性格なんだ。」

「まぁ、そうなんですか。」

「言われてみれば可笑しな挙動が多かった。あいつは嘘を吐くのが下手だからな…。声をかけても大丈夫とはぐらかされていた。」

「ここで悩んでも、翡翠様が居ないのですから。明日、確認しましょう。」

「そうだな。」

と、火影が恥ずかしそうに口を開いた。

「…ねぇ。万葉様、姉様。」

「どうしたのです?」

「我儘、一つ…言っていい?」

光は目を丸くするがすぐに微笑んだ。

「良いですよ。」

  ◇

〈戌の刻、大広間にて〉

「わぁ~!あたし、真ん中!絶対に真ん中‼」

あたしは嬉しくて、真ん中に勢いよく寝っ転がった。

「火影の我儘というのは三人で寝ることだったのですね。」

と、姉様が喋ったのが聞こえ姉様のほうを見た。万葉様は何故か顔が真っ赤だった。

「…なぁ、兄妹とは言え、女子が二人いる中に男一人が混じっていいのか…」

「大丈夫ですよ、真ん中に挟まれる訳でもありませんし。」

「・・・そうだな。儂は、外側に寝る。」

「分かりました。」

「じゃあ、蝋燭消すぞ。」

「はーい!」

「では、おやすみなさい。万葉様、火影。」

「おやすみ。」

「おやすみなさい、姉様。」

…四半時、経ったがなかなか寝付けなかった。ごろんと寝返り姉様を見た。もう、起きてないのは分かるけど…ちょっと声をかけてみよう。

「…姉様、姉様?」

「ん…どうしたの?火影。」

「あ、ごめんなさい。起こしちゃって。」

「大丈夫よ、それでどうしたの?」

「ちょっとお話したくて。」

「良いわよ。」

あたしは退魔屋敷でのお話とかした。辛いときじゃなくてせめて楽しかったときを。姉様も色々とお話してくれた。

「…あーあ、ずっとこんな時が続けばいいのになぁ…」

「私も同じ気持ちですよ、火影。」

「…三人離れ離れにならずに、普通の暮らしをしていたらこんなことにも…ならなかったのかな?」

「普通の、暮らし?」

「うん。幼い頃から一緒で父様も母様も普通で、全部が普通の当たり前が幸せだなっていう暮らしを送りたかった。」

「火影…私も、ずっと希っていることですが、一度歩んでしまった人生は戻ることは出来ないのです。今歩いている路が今世での路なんです。後戻りが出来れば何の悔いもなく生きられるのですが。」

「…そう、だよね…」

「でも人間には、輪廻転生というものがあります。例え今が最悪な状況でも、何度も何度も巡って生まれ変わればいつか報われる、と私は思っています。」

「でも!生まれ変わっちゃったら、あたしの事も覚えてないでしょ?だったらあたし、死にたくないし輪廻転生もしたくない。」

「…きっと、大丈夫ですよ。火影。例え覚えていなくとも隣に居て安心できる方は前世で繋がりがある方だと信じてます。…火影の言う通り、私も死にたくありません。」

「…やっぱり、皆思うことなの?」

「そうですよ。死ぬのが怖くないという方は少ないでしょう。天寿を全うして死ぬ方も処刑されて亡くなる方も、自ら命を絶つ方も、皆…死ぬのは怖いものです。だから、火影。」

姉様はそっとあたしの頬を撫でた。

「生きてください、その命が尽きるまで。天寿を全うして死に候え。」

「…何、で…まるで姉様の分まで生きてみたいなこと言うの?姉様、死なないよね?姉様も、天寿を全うしますよね?万葉様と夫婦になって。」

姉様は少し微笑んだ。その笑顔の意味が理解できない。

「…じゃあ、もう寝ましょうか。火影。おやすみ。」

そう言って姉様は寝に入ってしまった。…そんなこと、ないよね。姉様。

〈続〉

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