〈幕間〉貴方は必要不可欠の花。
〈丑の刻、朝方:小話〉
光はまだ起きなかった。だいぶ疲れたのだろう。僕は水緒から貰った…否、返してもらった鏡を見た。光を起こさないように人間の正装ではない姿になり持って見た。
「…桔梗…」
君が何故、水緒に預けたのか分からない。ふと僕は万葉を待っているに慈雨との会話を思い出した。
◆
「ひ、光っていう娘…本当に人間なのかい?そ、そそその、人間とは桁違い…だ。霊力とか、その、妖力?が…」
「今のところは、人間だよ。だけど、今度の新月で完全な妖となる。」
「で、でも…新月って何度も巡っているよね?な、なのに何で今、今更…妖と成り果てるの?」
「…確かに、そうだな。…光は、桔梗の瞳を宿している。それから妖力を得ていて、力を蓄えていた…とか。」
「た、たたた多分、それが有力じゃない?ね?」
「…なぁ、慈雨。」
「な、何?」
「来過の儀は行われると思うか?」
「へ…?」
「ふと思ったのだ。桔梗が持っていた頃は、桔梗が望むものがなかったから行われなかったと言われているが実際は、“妖力が足りなかった”だと僕は思うよ。」
「え、えっと、確か懐古玉と予来鏡は、その…桔梗の妖力から、う、うう生み出したんだよね?」
「あぁ。全ては桔梗の慈悲から生まれた、三種の神器は。」
「そ、そうだったね…」
「…光は、行うのだろうか。来過の儀を。」
「もし、行うなら…桔梗は読んでたんじゃないか?そ、そそその予来鏡で。」
「予来、鏡…?」
「…ど、どうしたの?何か、分かっっていうような、顔をしてるけど…」
「…桔梗は、全部…知っていたのだ。予来鏡で、何もかも全部…」
「・・・あ」
「ただの思い込みかもしれないが、僕はそうとしか思えない。桔梗は水緒に予来鏡を預けたとき、何か言っていたか?」
「え、えっと…確か…“水緒と同じ齢の娘が来る”」
「…なるほど、ね。全く桔梗が分からないよ、同じ仲間だというのに。」
「ま、まぁ仕方ないんじゃないの?わ、吾輩だって皆の事を知っているわけじゃないし。」
「そう…か。」
◆
桔梗、もし君が全部を知っているのならば何も関係のない光を巻き込むのだ?君は何故、光に乗り移ったのだ?
「…分からないな…」
ふと、桔梗がいなくなる前の言葉を思い出した。
(あざみを、探したいんです)
「もしかして…」
あざみを探すために、光…いや人間に乗り移ったのか?…教えてほしい、桔梗。僕は君じゃない、君の思考なんて分からない。
「…懐古玉…!」
万葉から懐古玉を貰えれば、分かるかもしれない。何故もっと早く気づかなかったのだ。…でも、桔梗の一番大切なものは何だ。予来鏡と交われば全てが変わる儀式になってしまう。
「…光を、もっと知ろう。光の家族を。そうすれば何かに辿りつける。」
「…んぅ…」
と、その時。光が寝返りを打ち起きそうだった。そろそろ犬の姿に戻らねば。
◇
ひんやりとした朝、雀の鳴き声、凛とした緑の匂い。私はまだぼんやりと眠いが起き上がった。襖を開け朝日を浴びた。
「…あぁ帰ってきたんだ…」
やはり、こちらのほうがほっとする。…万葉様、起きてるかしら。隣に行きそっと襖を開けると机に突っ伏し寝ている万葉様がいた。寝顔、初めて見た。起こさないように、静かに近づき寝顔をじっと見た。胸の奥から大好きな気持ちが溢れ、頬に少し口づけをした。
「…ん…」
と、その時、万葉様が目覚めてしまった。目が合い万葉様はふっと笑った。
「おはよう、光。」
「お、おはようございます。」
「よく寝れたかい?」
「は、はい…」
「…やっぱり君が傍に居てくれるのはいいなぁ…。幸せだ。」
…これは…寝ぼけている、のかしら?
「わ、私も万葉様が傍に居て幸せです。」
「ん、そうか…。」
と、万葉様はもう一度寝てしまった。あの言葉は寝ぼけて発したと思うけど、嬉しい言葉だった。…もう少し、もう一歩、妖退治屋の皆さんを信頼しようと思った。
(続)




