悪戯好きな二輪の桃色ビオラ 中
〈元和元年 三月十七日:中編〉
「…もうすぐ着くな。」
「な、長い道のりだったな…」
「疲れた?」
「少しだ、大丈夫。」
するとぱっと霧が晴れ、大きな屋敷が現れた。と、同時にぼんやりと人影が見えた。
「おや、客人かえ?それも匂いからして人間…。久しぶりじゃのう。」
一人の薙刀を持っ少女が現れた。真ん中で分かれた前髪に横髪はだらりと長く、髪は一本に纏め後ろで結んでいた。尖った耳の上には龍の角があった。上は普通の着物で、下は雫のように膨らんだ袴。そして何より特徴的なのはその声。見た目は十代前半だと思われるのに驚くほど低かった。
「ほんにそうじゃう、姉者。招かれざる者かは知らぬが…どうしてくれよう。」
その少女の後ろから見た目が全く同じ少女が現れた。
「ふ、たご?」
「んふふ、この男驚いとるぞ?」
「そうじゃのう、姉者。ほんに面白い。」
「…はぁ…、いい加減通してくれないかな?凉暮、弥凉。」
と、霧に隠れ見えなくなっていた現れ白銀が声を発するとその少女二人は目を輝かせた。
「八剱様じゃ!八剱様じゃ!」
「八剱様~!」
と白銀に駆け寄った。それと同時に白銀は袂から金平糖の入った袋を見せた。
「…人間の世界で、珍しいお菓子だ。いる人。」
「はいはい!儂じゃ、儂じゃ!」
「あぁ~!儂もいるのじゃ!」
「じゃあ、ここを通して慈雨のところに案内してくれたらあげる。」
「了解なのじゃ!ついてくるのじゃ!」
そう言って、門を開いてくれ中へと入った。
「…こんな簡単に入れるものなのか?」
「いーや。…まぁだけど大体食い物を見せたら中に入れてくれる。」
「大丈夫なのか?」
「平気だよ。見た目に反してこの子達、結構強いし。」
暫く歩いていると、一人の男性と女性が見えてきた。
「…水緒様、慈雨様!連れてきたのじゃ、客人を。」
「偉い?偉い?」
(偉いですよ。弥凉、凉暮。)
「「わーい!」」
その女性は直接脳裏に語り掛けていた。そしてその双子は頭を撫でられた後、白銀に抱き着いた。
「人間界のお菓子!」
「儂ら案内した!褒美、褒美。」
「はいはい、いいよ。二人で仲良く食べてね。」
「姉者、姉者!良いもの貰ったのう。」
「そうじゃのう、後で一緒に食べよう。」
そう言って手を繋ぎ、先ほど通った橋を戻っていった。
「…よ、久しぶり。慈雨。」
「ひ、久、久し…ぶり。な、何年ぶりだろ…。ね、銀鉤。」
「覚えてないなぁ…。けどさ、」
「な、何?」
白銀は慈雨と呼ばれた者にずいと近づき、ぺちんと額に触れ一気に前髪をあげた。
「お前のその性格、全然変わってないな。」
「ひゃあ!」
慈雨殿はぱっと後ろに下がり、前髪を必死に直していた。
「そんなに驚くなよ。」
「そ、そそそそそんなこと言われたって!お、おどろ驚くものは驚くよ!」
「ごめん、お前の声小さすぎて何言ってるか分からない。」
「うぐぅ…」
「し、白銀。あまり虐めるのは良くないのではないか?」
「いつもこんな感じだよ、虐めてない虐めてない。」
(あ、そういえばご挨拶がまだでしたね。)
と、女性が脳裏に語り掛けてきた。初めての感覚であまり慣れない…。
(私は、水緒と申します。そしてあちらの方は飛泉誠慈雨様です。慈雨が真名ですので慈雨様で宜しいですよ。)
「…あ、儂は万葉と申し、妖退治屋六代目当主です。以後お見知りおきを。」
(はい、以後お見知りおきを。)
と儂は水緒殿と握手をした。
「え…っと、光は…」
(奥の部屋にいますわ。ご案内します。)
水緒殿の後を追いかけようとしたその時、白銀が肩を掴んできた。
「白銀?」
「僕はここで待ってるよ。お前一人で行ってこい。」
「わ、吾輩も、銀鉤とま、まま待っている。」
「…分かった。必ず連れ帰ってまいる。」
「あぁ。」
儂は水緒殿について行った。歩きながら儂は水緒殿に話しかけた。
「…光が何故ここにいるのかと、どのような様子なのか教えてはくれぬか?」
(光さんは、崖から落ち木の上にいたのを発見しました。足を挫いたようです。)
「そう、なのか…」
(それから、何故あんなところにいたのかも話してくださりました。)
水緒殿はぽつりぽつりと光のことを話してくれた。水緒殿の話を聞いていればいるほど、光に逢いたくて堪らなくなった。
「光…」
(…本当に、お好きなのですね。)
「あぁ。好きだよ、光の事。ふんわりとした温かい雰囲気や花が開くような笑みが愛おしいのだ。」
(素敵です。)
水緒殿は振り返り、くすっと微笑んだ。だがはっと何か思い出した顔をした。
(そういえば、光さん。ここのところずっと眠っているんです。今も、起きているか分かりません…)
「そうなのか?」
(はい…)
「では、少し急いでもらっても良いか?」
(構いません。)
儂と水緒殿は足早に部屋に向かった。
(ここですわ。…私は外にいます。)
「分かった、ありがとう。水緒殿。」
(いえ。)
水緒殿は一歩下がり、儂は門を開いた。
(続)




