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愛者永遠  作者: 桜宮朧
22/51

君のお陰で咲けたムスカリ

〔元和元年 三月?日〕

(…光さん、人間の世界に帰したほうが宜しいと思うのですが…)

「わわわわわ分かっているけどさぁあの子がどこに住んでてぇ、誰と暮らしているか分からないじゃないかぁ。」

(そうですよねぇ。)

私は朝から慈雨様と頭を悩ませていた。光さんは人間だ。だから帰したほうが良いのは重々分かっている。と、その時。慈雨さんの部下が、ひょっこりと現れた。

雁来(かりき)建未(けんび)。)

雁来は全体的に短髪のでひょこひょこ跳ねている髪が特徴的で、建未はふわりと短髪だが毛先が長くくるんと跳ねている。そして唇に飾りがついている容姿だ。

「よ!水緒様。なんか書状が届いたんだ。はい、主様。」

「あわ、ああぁあぁありがとう…」

慈雨様は恐る恐る書状を開いた。

(…誰からでしたの?)

「……八剱からだ。」

(まぁ!)

八剱様、懐かしい名前だ。元気になされていたのね。

「内容は…なんでしょうか?我が主。」

建未が口を開いた。私も内容が気になりそわそわした。

「えぇぇええぇえっと、な、なんかその、光さんはそちらにいますか。っていう…内容。」

(まぁ!丁度良い書状ですね!)

「そ、そうだね。えっと、あの…返事、かかか書いてくる…。」

(はい、分かりましたわ。)

慈雨様はぱたぱたと部屋を出て自室に行った。

「…そーいや、光さんて離れにいる女ですか?」

(えぇ、そうですよ。)

そう返事をするとぺろりと雁来は唇を舐めた。

「どうか、したのか?雁来?」

「あの女さ、桔梗様に似てね?妖力とかさ。」

「…言われてみれば。」

(…あなた方も、察していたのですか?)

「まぁ、そうだな。…あ、そうだ。水緒様。」

(何でしょうか?)

「“あれ”で試したら?」

「雁来、それは流石に。割りでもしたら怒られるのは我々だ。」

「でもよぉ…」

(そうですね…建未の言う通りです。割ってしまった場合を考えると少し、怖いです。)

「雁来、水緒様の言う通りにしましょう。」

「…わあーったよ。」

「……雁来は、本当に聞き分けの良い子ですね。後で…」

建未は何やら雁来に耳打ちしていた。雁来は段々と顔を真っ赤にした。

(私はそろそろ光さんのとこに行ってきます。)

「は、はい。」

「では、我々もこれで。」

私は光さんのところに、ぱたぱたと向かった。光さんは燐と遊んでいた。燐は私に気づくとそっと微笑み光さんに私が来たことを告げ、部屋を後にした。

(光さん)

「あ、水緒さん。」

(体調のほうはいかがでしょう?)

「段々と良くなってきました。」

(…あ、あの…崖から落ちた時の事、話せますか?無理強いはしませんが…何となく、気になってしまい…)

「…あ…」

光さんは少し、悩んだ後ぽつりぽつりと話してくれた。生い立ちとかも話してくれた。聞いているだけで私も涙が出てきた。それなのに光さんは涙を見せることなく、話してくれた。

「…と、こんな感じです。私の中に誰の魂があるのかは分かりませんがそのせいで私は髪が銀髪なんです。」

(気軽に、聞いてしまいごめんなさい…。それはお辛いことですね…。)

「帰っても、意味があるのかな…なんて思ってします。」

(…光さん…)

私はそっと、光さんに寄り添った。

(…私も、お話させてください。)

「水緒、さんの?」

(はい、光さんが話してくれたのに、私が話さないのは可笑しいです。)

「…水緒さん…」

私は、自分の過去を語った。

  ◇

…私の村は、水の資源が豊富だった。そのお陰で水に関する作物で有名な村になれた。それもこれも全部、近くに住んでいると言われている龍神様のおかげだった。感謝の意を伝えるため、月に三度、六月と年末と年明けに慈雨祭りというのを行った。村の者は皆、竜神様が大好きだ。崇め感謝し、友好な関係を築けたと、思われたある年。長老が逝去された。そして後を追うようにその奥方も亡くなられた。悲しみに暮れる村だったが、その息子夫婦が村長になりたいと志願した。村長の息子ならと皆が賛成した。だがそれが間違いで、息子夫婦は早速、ここが水の資源が豊富で金になるというのに味を占め、今よりもっと欲しいと思うようになった。そこでとった政策は贄の娘、“夏越(なつごし)(ひめ)”を用意することと龍神様に媚びへつらい、もっと川を流すように直々に伝えに行った。そしてそれが普通となったある日に、私が産まれた。もちろん私も夏越姫の候補になってしまった。普通ならば喜び丁重に育てるが私の親は、違った。普通の娘のように育て愛してくれた。ただただ幸せだった。

「お母さん、お母さん!今日のご飯はなぁに?」

「…あんたの好きな物ちゃ。今ね、お父さんが魚を捕りに行っとるさかい、塩焼きもあるわ。」

「わーい!」

本当にどこにでもいる、普通の家族。だから私も自分が夏越姫だということは忘れかけた。…夏越姫が次々と贄として差し出される日々、私も段々と近づいたある日。ふらりと散歩で龍神様がいる洞穴に行ってみた。昔はよく行き来があったみたいで、道も綺麗だった。

「…怒られそう。けど、気になるわ。少しだけ。」

坂を登り、やっと辿り着いた。そこを覗くとふわりと冷気が漂ってきた。自然と私の足はその中へと入っていった。そして辿り着いた先にいたのは、鎖でつながれた傷だらけの青年が一人、浅い水の上に膝を抱え座っていた。この人が龍神様なのだろうか。てっきり龍の姿で佇んでいるものだと、勘違いしていた。龍神様は私に気づいたのか、閉じていた瞼を開けた。ぼさっと目にかかる前髪の隙間から見えた瞳は、白い瞳に黒い瞳孔は龍の鱗、薄っすらある光は雫の形をしていた。

「…贄の、娘かい?」

「あ、えっと…一応、そうです。」

「帰ってくれない?」

「え…?」

「吾輩さ、贄の娘…嫌いなんだよね。ていうかさ、貴様らの欲望の塊じゃないか。贄の娘なんて。だから吾輩は嫌いなんだよ。」

「……」

「昔の状態のほうが!何倍も良かったのに‼何故欲する…。何故与えられた分で満足しないのだ‼」

彼は突然、声を荒らげ今までの不満を吐露した。その姿が可哀そうで私は、胸が痛くなった。

「…龍神様…」

「何だよ!人間!」

「私の意思で、ここに来ました。来たくて来てみたくて来ました。」

「……なら残念と、思っただろう?」

「何故ですか。」

「こんな傷だらけで鎖と封印の札が張り付けまくられてる何の威厳の無い、吾輩で。」

「…それ、村長のせいですか?」

「そうに決まっているだろう。」

「剥がしたら、鎖を断ち切ったらどうなりますか?」

「し、知らないよ。」

私は、その札と鎖に触れた。ばちぃと凄い音を立て、跳ね返されてしまった。

「いっ!」

「お前‼危険だよ!何しているんだよ、馬鹿じゃないか?これは多分…由緒正しいお坊さんじゃないと…」

弱気な姿勢に、私は腹が立った。良いように言いくるめられて、こんな姿になっているというのに。

「貴方はどうしたいの⁉」

「え…?」

「自由になりたいのか、そうじゃないのか⁉初対面だけど私は、人間のために利用されている貴方を見てられない‼絶対に、諦めないから。」

「…吾輩は…」

「外の世界、見たいでしょう?」

私はその後、試行錯誤格闘し手に火傷を負いながら何とか断ち切れた。

「す、すごいや。」

「…はぁ…。えへへ怪我しちゃった。けどきっとすぐ治るかしら。」

私は手を見つめながらそう呟くとひんやりとした手が私の手を包んだ。龍神様の手だった。すると光を帯び、龍神様の髪が少し薄くなった。暫くすると光が落ち着き手を離した。

「…ほら、治った。久々だったから…疲れた。」

「な、なんか…ごめんなさい…」

「いいよ、礼だから。あ、ついでに名前教えて。知りたい。」

「え、えっと…水緒です!水に緒と書いて水緒です。」

「…いいじゃん、君。気に入った。」

「え?」

少し声が小さく、上手く聞き取れなかった。

「ううん、何でもない。…また、明日も来て。来れる?」

「大丈夫です!」

「…そっか。じゃあ。」

彼は少し、微笑んだ。洞穴の出口までついてきてくれた。坂を下り見えなくなるまで手を振ってくれた。私も、目ぇいっぱい振った。それから人間の食べ物が食べるか分からないけど、おにぎりを作り持っていった。すると大丈夫だと言い口いっぱいに頬張りながら食べてくれた。

「あ、米粒ついてますよ?」

「ん。どこ?」

「ここ。」

「…ありがとう。」

私は、家族と居る時と同じくらい幸せだった。この人と、夫婦になれれば…なんてことも、考えた。贄の娘何かがなれるのだろうか。

「…龍神様?」

「何?」

「昔はどんな感じだったのですか?」

「…よく村に遊びに行っていた。それで子供とよく遊びたらふくご飯を、一緒に食べた。」

「そう、だったんですね。」

「今、行ったら捕まるだけだ。」

そう言って寂しそうな笑みを浮かべた。

「もしかして好きな人とかいましたか?」

「いないよ。恋仲になりたいなとかそう思う人、いなかった。けど…」

「けど?」

「…何でもない。」

暫くここに通う生活をしていた…そんなある日。村長が私の家に来た。不運にも父は田んぼに行っていた。

「何用に、ございましょう。」

「お前のとこに、夏越姫がおるやろう。そー連れてこい。話したいことがある。」

「私が同伴でありゃ連れてまいる。」

「許可しよう。」

そうして家に入ってきた。私は怖く母にしがみついた。もう村長の瞳が欲にまみれていた。

「して、話とは何でしょうけ?」

「…水緒。お前、龍神様の洞穴に行っとるやろう?」

「っ!」

村長は母を押しのけ、私の腕をがっと掴んだ。母は村長の奥方に手首を掴まれて身動きが出来なかった。

「そんなに仲が良いがならば、もっと水を寄越すよう伝えられ。最近なぁ段々枯渇してきたがやちゃ。それにお前、鎖を断ち切ったそうだな。それのお詫びとしてもっともっと水を寄越すよう言うてこい。」

腕の痛みと、村長の圧で怖くて怖くて声が…出なかったが絞り出すような声で一言言った。

「嫌、だと言いましたらどうなるのでしょうか?」

すると村長はにたぁと笑った。

「お前を含め家族全員、斬首刑のち晒し首や。」

想像したくないのに想像してしまった。あぁこの人には逆らえない。行かなきゃと自然と立ち上がり飛び出すように家を出た。

「水緒‼」

「…夏越姫としての宿命やちゃ。」

家からそのような会話が聞こえたが私には聞こえてなかった。私はがむしゃらに洞穴に行った。そして入り龍神様と顔を合わせた。

「水緒。」

彼の優しい笑みに、今まで泣くのを我慢していたのが解け胸に飛び込み泣きじゃくった。龍神様は優しく背を撫でてくれた。

「…龍、神様…」

「何だい?」

「村長が…村長が…、もっと水を寄越せって…」

「な…」

「だけどもう貴方様に力を使ってほしくない‼」

「水緒…」

「でも…でも、お願いしなきゃ殺されるし…怖かった…」

「…水緒。」

「はい…何でしょうか?」

「君の家族を、ここに連れてきて。吾輩…もう我慢できない。」

私はそう言われたので村に帰った、すると母と父が村の入り口に立っていた。

「…お母さん、お父さん…」

「水緒!」

駆け寄ると二人は抱きしめてくれた。

「良かった…心配していたんだぞ。」

「お父さん…」

「それで、龍神様は?」

「えっと…」

私は先ほどの事を両親に言った。父は少し考えた。

「…じゃあ、俺が村長に龍神様にお願いが伝わったと伝えに行く。」

「え!でも!」

「…何、大丈夫だ。心配するな水緒。」

「お父さん…」

そう言って父は村長の家に向かった。

「…お父さんに任せましょう、水緒。」

「う、うん…じゃあお母さんは一緒に…」

「私ちゃ行きません。」

「…え」

予想外の事でただただ驚いた。そして母はそっと私の顔を包み微笑んだ。

「水緒、私ちゃ村の一部や。村が終わるその時もずっと一緒や。水緒、産まれてきてくれてきのどくな。もうちょっこし傍におったかった。祝言の姿も孫の顔も、見たかった。」

「どう、して…そんなこと言うの?一緒に、行こうよ。お父さんも、きっと来るでしょ?」

「…かんに、水緒。あんただけは生きて。あんたは穢れとらん、純粋無垢なその心をどうか保ってね。…またね、私の水緒。」

母はそう微笑み、私を村の外に追い出し何か呪文を呟き結界を張ってしまった。

「お母さん‼」

「いかっしゃい!水緒‼」

私は、龍神様のとこに戻った。

「…水緒、家族は?」

「……」

「良いんだね。」

「うん…」

そう頷くと、龍神様は今持っている力を全て使い村を洪水に飲み込んだ。私はぎゅっと龍神様の着物を握った。

「ねぇ、水緒。」

「…何でしょうか?」

「今言うことじゃないと、思うけどさ言っといたほうが良いと思って言うけど…」

「はい…」

「本当の村長の息子…いや、子供は…君の母親だよ。」

「え?」

「あんまり外に出てこなかったから、子供がいるのは知れど性別は知らない。それ故にあの愚か者共が名乗っても皆の者が違和感を持たなかった。端からこの村は、間違っていたよ。」

「…う、そ…」

「水緒。」

「…はい?」

「吾輩と、一緒に生きてくれないか?」

「……」

「水緒が、良ければ…」

「はい!」

だけど、早速問題にぶつかった。私がただの人間だということ。霊力があればすんなり夫婦になれるがなかったため、私は“声”を差し出した。それをあげるから夫婦にしてくれと。そうしたら今度、龍神様が声を聞けないのは悲しいと、偉い方に泣いて懇願し頭に直接話しかけれる能力を与えられた。口から発することはもう出来ないが、彼の優しい水面のような声を聞けるだけで私は幸せだ。

  ◆

(…と、こんな感じです。)

「水緒さんも、辛い過去が…あるのですね。」

(えぇ、まぁ。けど…彼がいたから私がいる。私が、生きてと願ってそれに答えるように生きたいと思ってくれて嬉しいです。)

「水緒さん…」

(そういえば…泣いて懇願した時、慈雨様は“大妖怪御五家”に必ずなって見せるというのを交換条件になされました。だけど、ここの地位に来るのはとても難しいことです。)

「そう、なんですか?」

(えぇ。たくさんの条件を全て満たした者のみなれる地位なんです。それを全て満たしたとき、私たちは泣いて喜びましたが途中からの新参者に優しくしてくれるか心配だったのですが…ある方のお陰ですんなりと慣れました。)

「ある方?」

(はい、名を“桔梗”と言います。)

「き、きょう?」

(はい。…桔梗は、とても気さくな方で、皆の中心にいるような方でした。慈雨様と共に、馴染めず固まっているとき、初めて声をかけくれたのが…桔梗でした。)

「…どんな方なのか、分かりませんが…優しい人だということは伝わります。…その桔梗さんって今もいるのですか?もしいるなら、会ってみたいです。」

(…今は、いないのよ。もう、永遠に…)

「え…?」

水緒さんは寂しそうな笑みを浮かべ、俯いてしまった。聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、わたわたするとそれに気づき、ふんわりと笑ってくれた。

(そうだ。桔梗が遺してくれたものがあるの。良かったら見る?)

「え!い、良いんですか?」

(はい。あ、でも慈雨様に許可を得ねば…。少し待っててくださいな。)

そう言って水緒さんは部屋を出ていき、説得に時間がかかったのか四半時ほど経ち、戻ってきた。

(大丈夫みたいよ。でも目的の物以外は触れないように、だそうです。)

「分かりました。」

私は初めて、このお屋敷を散策した。やはり龍の屋敷というだけありあちこち水が満ちていた。

「…綺麗ですね。」

(ありがとうございます。私もかなり気に入っているのです。ここを受け継いだときは眩しすぎて目がくらみました。)

「そうなんですか。」

色々とお話をしながら、秘蔵庫に着いた。そこは滝が門となっていて、両脇には龍の像が鎮座していた。

「おやぁ、水緒様ではありませんか。」

すると、老婆の声が聞こえてきた。辺りを見渡しても人はいなかったあるのは、門に絡みついた睡蓮の花。中央に大きな花が咲いていた。

(こんにちは。慈雨様からここを開けて良いという許可を頂きました。なのでここを開けてくださりませんか?)

そう、その花が喋ったのだ。私は驚き呆然と眺めていた。

「ふぅむ…、それは良いのですが…そちらの娘も入るのですか?」

(えぇ、そうよ。)

ぐいと睡蓮の花は近づいてきて私の顔を見た。

「…人間というのは欲深い生き物、目的の物まで辿りつけるかい?ひひひ…」

(入る前から疑ったら失礼よ。光さんには言い聞かせているわ。)

「そうかい…。水緒様がそう仰るなら。」

そう言ってしゅるりと睡蓮の蔦が解け始め、滝の門が割れた。

「行ってらっしゃいませ。」

(…さぁ、行きましょう。光さん。)

「あ、はい…。」

水緒さんは私の手を繋ぎ、橋を渡った。確かにここは色々なものが置いてあった。けど、私はどれにも興味を持たなかった。…何故か、段々と懐かしいものに触れられる心地がして、脇目を振らずただ歩いた。暫くすると、一つ…鏡が鎮座していた。

(…これはね、“予来鏡”と言って少し先の事を予測できる不思議な鏡なのよ。)

「そう、なんですか…」

水緒さんはそっと持ち上げ、近くで見せてもらえた。桔梗さんが持っていたというのにも納得がいくほど、その鏡は一番上に桔梗の花、花からは蔦が途中まで巻かれその先は紅い蝶々結びから紅白の紐が交互に巻かれていた。一番下には狐の尾っぽがぐるりと丸くなりその中心には瞼を閉じた狐の瞳があった。

(この鏡は、桔梗にしか使えないの。後…“懐古玉”というのと“妖癒瞳”があるのだけれど、瞳は桔梗自身の瞳だから今はもうこの世からないと思っているわ。だけど…“懐古玉”だけはどこかにあると思っているわ。)

「懐古玉…?」

(えぇ。それは誰でも一応使える代物だけどその分の代償が大きいの。)

「そうなんですか…」

(…だけど、この鏡と玉は決して合わせてはいけない。鏡に玉を映したとき、この世界は二つを所有した者により書き換えることができるの。)

「…どういう、ことですか?」

(つまりは…あったことがなかったことに出来て、なかったことがあったことに出来るの。)

「記憶、改変ですか?」

(簡単に言ってしまえばね。だけど…それは絶対に思い出すことは不可能なの。)

「……」

(桔梗はいつも細心の注意を払っていた。二つが交わり儀式が行われないように。)

「儀式?」

(…はい。“来過(らいか)()”と言います。その儀式はよほどのことがなければ起こらない儀式です。…代償は行った者の一番大切にしているのを失うことです。)

「…大、切…」

(桔梗はこの儀式が嫌いなので、私が生きてきた中で見たことはありません。…桔梗の大切なものは記憶なので。)

「確かに…思い出などは何よりも大切ですよね。失いたくない気持ち、分かります。」

(ねぇ、光さん。)

「はい!なんでしょうか…?」

水緒さんは鏡をそっと私に向けた。

(桔梗はこれを預けると言いました。…ですがもう桔梗は帰ってきません。なのでこのまま私が持っていても宝の持ち腐れです。)

「えっと…」

(光さんに、託しても宜しいでしょうか?)

「……え」

水緒さんは思いがけないことを言った。桔梗さんのみ使えるのに何故、私に託すの…?

「あ、あの何故私に?私、使えませんよ?それ、なのに…」

(…大丈夫です。)

そう言って私の手を掴み、触れさせた。すると、ぱぁーっと光輝いた。

「あ…」

(貴方なら託しても大丈夫です、慈雨様にその旨を伝えますね。)

「は…はい…」

一旦鏡を置き、その部屋を後にした。私は去り際、振り返りもう一度鏡を見た。

「…万葉様…」

まるで桜の花のようだ。咲いては離れを繰り返す。今度こそ貴方の事を知りたい

                                  (続)

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