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愛者永遠  作者: 桜宮朧
18/51

初恋に気づく躑躅

〈元和元年 三月十一日:滞在三日目〉

「つ、躑躅ちゃん!躑躅ちゃん!」

朝起きて、髪を梳いていたら様子の馨が現れた。

「どうしたのよ。」

「事件、事件!こっちこっち‼」

そう言われて馨について行った。連れていかれた場所は、道場だった。陰にこっそり隠れながら移動した。

「事件って何?」

「あれ!あれ見て。」

と、馨が指を指した先にいたのは幻中と朧さんだった。

「…朧!鍛錬、お疲れ」

「あ、あぁ…。確かおめぇは…」

「みこ!」

「みこ?」

「みこと!」

「ふ~ん…」

何してんのかしら、あの人たちは。

「…事件っていうから、何事かと思ったけど大したことないわね。あたしは戻るよ?」

「事件じゃん!だって朧さんが他の女の子と話してるんだよ⁉」

「それが何?」

「っ~…!だって躑躅ちゃん!朧さん好きじゃん‼」

「っ!は、はぁ⁉べ、別にあたしあの人の事、好きじゃないし!」

「…本当に好きじゃないの?」

「す、好き…じゃない。」

む~っと馨は頬を膨らませた。

「…この馨様に嘘を通せると思ってる?」

「う、嘘じゃない!本当に好きじゃない‼あんな男、好みでもなんでも‼」

「何してんだ?てめぇら。」

「っ‼」

「あ、朧さん。おはようございます!」

「何か声が聞こえたと思って見に来れば、何してんだ?」

「き、聞こえたって何⁉」

「え?…あぁ…てめぇが、俺を好きだなんだって、話。」

「っぅ‼あ、あたしがあんたの事好きなわけないでしょ⁉いっつもいっつも、目を合わせれば口喧嘩してるあたし達だよ?女っ気一つもないあたしに惚れるようさなんてないでしょ。」

「…そうか。」

思ったより、あっさりとした返答だった。

「な、何よ。そういえばあんたって、幻中さんみたいな大人しい子が子のみだったわよね?良かったじゃない、幻中さんも前にあんたが好みって言ってたわよ。」

「つ、躑躅ちゃん…」

「あいつは大人しいっていうか、何というか…。あんまり馬が合わねぇよ。」

「そ、そんなこと言って!本当は気があるんじゃない?」

「ねぇよ。俺が好みなのは、隣に居て安心して話も弾む奴だ。後…料理が下手くそな奴。」

「…え?最後なんて言った?小さくてうまく聞こえないんだけど?」

「別に、何でもねぇよ。もうすぐ朝餉だと思うから行ってろ。」

…あたし、いつもより早口で喋っちゃたなぁ。もう少し素直になって朧さんと話したいのに。何か朧さんと話すと、落ち着かない。

「…かお、真っ赤だよ?躑躅ちゃん。」

「へっ⁉そ、そんなことない‼多分…」

朝餉を終えた後、朧さんと当主が何やら話していた。聞き耳を立てると退治の話だった。

「…で、遠方になるが大丈夫か?」

「あぁ、はい。構いません。」

「すまないな、ありがとう。朧。」

「いえ、それが我々の仕事ですから。」

…遠方に行っちゃうんだ。なんで“寂しい”なんて思うんだろう。

「べ、別に恋仲でもないし!これは何かの気の迷いよね‼」

当主と話し終わると、あたしに気づき近づいてきた。

「よぉ、躑躅。こんなところで突っ立ってどうした?」

「別に。ちょっと鍛錬しようかなって。」

「なら。お前の後ろのほうだろ?」

「っ!ま、間違えただけよ!失敗なんて誰もあるじゃない。」

「…話、聞いてたんだろ?」

「……」

「帰ってこれるのは、いつか分からない。それで…てめぇに…いや、躑躅にお願いがあるんだが、いいか?」

「な、何よ。」

「…何か、食いもんを用意して迎えてくれ。」

「……馬鹿なの?」

「何がだよ。」

「あたしが料理できないの、あんた知っているでしょ⁉」

「それでもいい。ただお前の飯を食いたい。疲労して帰ってきて、腹いっぱい、躑躅の飯を食いたい。…それだけだ。よろしくな。」

ぽんぽんと頭を撫で、去っていった。あたしはしばらく固まった。どうしよう…。魚を焼けば炭と化するし、ご飯なんて炊けば焦げて食べ物にならないし…味噌汁だって、味の加減が分からなくて飲めた代物にならない。

「…あぁ~…」

馨も下手だし…珠乃も魚を焼くことしかできないし…風雅さんは忙しいし…

「あっ。」

 ◇

「…私も、お役に立てるか分かりませんよ?」

「それでも!光が料理上手いの知っているし、お願い!」

「…分かりました。では、練習あるのみですので台所に行きますか。」

「了解。」

私は躑躅さんと一緒に台所に行った。

「最初に簡単なおにぎりから作りましょうか。」

「はい。」

「…まずはお米を炊きましょう。ではお米に水を入れてくださいな。」

「ど、どのくらい?ひたひたくらい?」

「ひたひたではなく、丁度良いくらいに入れてください。」

「分かった。」

躑躅さんに指示し、米に水を入れ洗っては水を捨てを繰り返してもらった。

「そしたら、次に火を起こしましょうか。薪ってこっちですか?」

「あ、そうそう。あたしが持ってくよ。」

「ありがとうございます。」

その後、火を起こしたのだがあまりにも火力が強かったので落ち着かせるのにわたわたと慌てた。何とかちょうどよくなったので、米を炊き始めた。

「…ふぅ。ここまで上手くいったの初めてだわ。」

「良かったです。料理は繰り返し練習あるのみです。」

「ありがとうね。光。後はこれを握るだけだよね。」

「はい。」

「やっと米を炊けるようになった~…。もっと早く光に出会いたかった。」

「躑躅さんは今までこういうことしたことないのですか?」

「まぁね、というより一切無縁だった。だってあたし、元々姫の地位にいたもん。」

「えっ?」

「あはは、意外だよね。でも本当の事なの。まぁ全く知名度のない武士の父の娘だからねぇ。」

「そう、なんですね。驚きました。」

「ま、姫のかけらも何もないからね。昔のほうが髪が長かったし。私が姫だって気づかれないように切ったの。家臣…とかに。」

「髪の長い躑躅さん、何だか思いつきませんね。でも、さぞ可愛らしいのでしょうね。」

「ないないそんなこと。…で、全く料理とか普通女性が出来ることを一切やってないからこんな感じなんだよねぇ。」

「そう言った身分ですと、やはり怪我など心配なさる方が多いですよね?」

「そうなの!暇だからと思って料理とかしようとすると、全力で止められてさぁ。特に止めてきたのは、お父様だった。」

「少しでも、修行と思ってやれば損はないと思いますのに…。」

「だよねぇ…。ほんと過保護だったな。お父様は…。」

「過保護?」

「あ…ごめん。地雷だったかな?」

「いえ、気にしません。むしろそういう家族とのお話、好きですよ。」

「光…。ほんと、可愛い。妹みたい。」

「そんな…」

躑躅さんはぎゅっと抱きしめよしよしと頭を撫でてくれた。

「…で、お父様との話だけどね。あたしがどこか嫁いでもいい年齢になったとき、すごい口喧嘩しちゃって。全然あたしの意思を汲み取ってくれずここがいいだの、あそこがいいだの、言われて。まぁ、従うのが普通だけどあたしはどの男も、嫌で仕方なかった。」

「そうなんですか?」

「似たような男ばっか。性格や権力、中身もさ。」

「……」

「それで、今世紀最大の喧嘩したのに謝ることも出来ずに…お父様は…」

躑躅さんは寂しそうな笑みを浮かべた。これ以上は、聞かないほうがいい。そう悟った。

「も、もう大丈夫ですよ。ごめんなさい、なんか…その…」

「え!あぁ、こっちこそごめん!やっぱこういう話、辛気臭くなるよねぇ。あはは。あ、でね、そっから最悪で!」

「最悪?」

「そう!お父様の家臣が、好機だと思ったんだろうね。あたしに求婚してきて。そっこー断ったんだけど、全然理解してくれなくて。」

「…もしかしてここに来た理由って、逃げるためですか?」

「光凄い!ご名答‼もうしつこくてさぁ。あたしの傍によくいてくれた侍女の雫が提案してくれて。もう何年も経っているから探してないと思うけど…」

「そう願うしかないですね。」

「…あ、ちょうど炊けたんじゃない?」

「あらそうですね。」

その後、一緒におにぎりを握った。

「…うぅ…不格好…。光のやつめっちゃ綺麗~。」

「ありがとうございます。でも、躑躅さんも十分上手ですよ。頑張ったという証です。」

「ありがとう~…。ま、美味しければいっか。」

「お!何してんの~二人共!」

「馨ちゃん。躑躅さんとおにぎりを作ってました。」

「え…、あの食材を消し去る天才の躑躅ちゃんと?」

「失礼ね!今回は上手くいったのよ‼光のおかげで。」

「え~ほんと~?」

と、馨ちゃんはにやにやしながらおにぎりを見た。するとぎょっとした顔を見せた。

「これ…ほんとに躑躅ちゃんが作ったの?すっごいじゃん!形!保っているよ‼」

「光の教え方が上手かったのよ。」

「…あら、何だか人が集まっていますわ。」

「あ、神楽さん!」

いつの間にかほとんどの女性が集まった。

「おにぎりを作っていたのですか?」

「はい、躑躅さんが料理を教えてほしいと言われたので。」

「そうなんですの。…一つ、貰ってもよろしい?」

「構いませんよ、ただの塩むすびですが…」

「じゃあ、私も貰う~。」

二人共、躑躅さんのと私のを手に取った。

「ん。どちらも美味しいですわ。」

「分かる~。」

「…良かったですね。躑躅さん。今度は汁物でも作ってみましょうか。」

「が、頑張るしかないわねぇ…。」

と、その時。ひょこりと朧さんが現れた。

「っ!」

「躑躅、ここに居たのか。そろそろ出ちまうから伝えようと思ったが探してもいなかったからな。…これ、お前が作ったのか?」

「そ、そうだけど?」

朧さんは、言わずもがな躑躅さんの握ったおにぎりを口に運んだ。

「…旨いな。でも…あぁ何でもねぇ。」

「何よ、でもって。美味しいならそれでいいでしょ?」

「むっとすんなよ。」

「してない。」

「じゃあ、行ってくるからな。」

「…うん。」

そういい、朧さんは去っていった。躑躅さんは俯いているが耳まで真っ赤だった。…なるほどです。

「…もしかして早乙女さんって…」

「分かりやすいよねぇ。」

「な、何か言った?」

「何も~」

その後、残りのおにぎりを食べながら話に花を咲かせた。こういう時間も、いいなと思った。

  ◇ 

巳の刻辺り、風雅さんがおろおろしてて話を聞くと、朧さんが珍しく忘れ物をしたらしい。それであたしが持っていくと預かった。

「…当主様!朧さん、忘れ物をしたのですが届けてもいいでしょうか?」

「あ、そうなのか?じゃあ、行ってきても良い。多分、あいつの速度だともう町にいると思う。」

「ありがとうございます!」

あたしは急いで支度した。朧さんたら、形見の簪忘れているじゃない。いつも持っていくくせに。

「…あら、何処か出掛けるのですか?」

「あ、光。まぁね、朧さんが忘れ物してて。」

「そうなんですか。どうかお気をつけてください。」

「了解!あ、なんか町で買ってきてあげるよ。美味しいものとか」

「いいんですか?ならばお言葉に甘えて。」

ぽんぽんと光を撫で、走って町まで向かった。朧さん、結構平均身長より高いから見つけられるはず。暫くし町に着いた。

「勝色の羽織に、背の高い人…」

きょろきょろと探しながら歩いていると、やっと見つけた。

「朧さん‼」

はっとした顔で、こちらを見た。

「躑躅、どうした。」

「これ!忘れていったでしょ?」

「・・・あぁ!悪ぃ、ありがとな。」

「今度からは気を付けること!じゃね、あたしの役目は終わり!…行ってらっしゃい。」

「…行ってくる。」

あたしは光や馨のために買い物するため、移動した。

「…兄者?どうかしたんですか?」

「いや…少しだけ、辺りをうろついていいか?」

「あ、構いません。いいですか?皆さん。」

「「はい!」」

  ◇

「あ、これとか良いわね。特に光が喜びそう。」

久々に来たので、色々と吟味した。あたしにとっては珍しくないが光が来たら、きっと大喜びしそうなものが多かった。

「…姫様。」

あたしは…背筋が凍った。振り返らないほうがいい、そう思っていたのに自然と、振り向いてしまった。そこにいたのは、優し気なたれた瞳に、左に重たくかかる前髪の男。

「……」

「やはり姫様でしたか!ずっと探していたのですよ?」

「…あんた、誰?」

「……あはは、私ですよ。私。水仙です。覚えていませんか?」

「知らない。記憶にもないわ。」

「う~ん…姫様、何だか昔と口調が変わりましたね。まぁ私はどちらの姫様も好きですが。」

「だから!あたしはあんたなんて知らないんだってば‼」

「…躑躅姫、でしょ?」

「っ!」

「ほら、もう言い逃れできない。…ずっと、お慕い申しておりました。姫。私と一緒に城に戻りましょう?ね?」

「嫌だと…言ったら?ていうかもう何年も前の話でしょ?今のあたしは早乙女躑躅!姫でも何でもない、普通の身分よ‼」

「いえいえ、私にとっては可愛い姫に間違いありません!さぁ、帰りましょう?貴方様がいなくなってから、国が滅亡の危機に晒されているのです…。そこで!偉大なる早乙女十蔵郎様の血を受け継いでいる貴方と私が夫婦になれば、国がもう一度栄えます‼」

「…あたしは、死んでも貴方の妻にならない‼この変態っ‼」

じりじりと距離を詰めてこないでほしい。ほんと、こいつが嫌いで仕方ない。

「私は変態ではありませんよ?水仙という立派な名前がございます。」

「どこか行って!これ以上あたしに近づかないで‼」

「……優しく、連れて行って差し上げようと思ったのに。」

がっとあたしの手首を掴んだ。気持ち悪くて仕方ない。小刀を持っとけば良かった。あたしの馬鹿。目の前の人は、あたしのもう一方の手首を掴んだ。もう、駄目だ。八方塞がり。と、その時。朧さんの顔が脳裏に過った。

「…おぼ、ろ…さん…」

「誰ですか?その人。姫様の好きな殿方は、私一人でしょ?」

「…あんたなんか…本当に心底嫌い。この…父親殺し‼」 

  ◆

「…戦死なされました。」

家臣の一人から、聞いた一報。寝耳に水だった。

「嘘…でしょ?ねぇ、お父様…生きてるでしょう?」

家臣は静かに、首を振った。言えなかった。“ごめんなさい”の一言を。

「…分か…った。うん…」

喪失感が重くのしかかると同時に罪悪感にも苛まれた。

「上様亡き後、どうするのかしら。」

「やっぱり姫には嫁いでもらわないと…」

嫁ぎたくない…。良い殿方なんて、この世には存在しないのよ…。

「…水仙様もいたらしいけど、一番最初に逃げたらしいよ。」

「本人曰く、助けを呼びに行ったらしいけどそんなことしても意味ないのにね。」

水…仙。一番、お父様が信頼を置いている家臣だ。

「…あいつ…」

煮えたぎる怒りを抑えつつ、部屋に戻った。

「あ、お帰りなさいませ。姫様。…此度の事は真にご愁傷さまです。」

「…腹立つ。」

「どうかなされましたか?」

「水仙とかいう男が、お父様を見殺しにしたそうよ。雫。」

「…あの方ですか…」

「前から嫌いだけど、もっと嫌いになった。」

「あらあら…確かに、あの方は嫌われていますよねぇ。」

「あいつさ、ずっと前からあたしに言い寄ってんだけど。」

「まぁまぁ身分違いですのに。」

「なんか…嫌な予感。」

あたしの言う通り、嫌な予感は的中した。あたしがどこに嫁ぐか問題のときに水仙が、あたしを娶ると発言したそうだ。皆の者は嫌悪感たっぷりで睨みつけたらしいがお構いなく、絶対に娶ると、あたしは水仙の事が好きだという勝手な妄想までしているそうだ。それからずっと言い寄ってきた。あたしは嫌で嫌でずっと断ってきたのに、ただの照れ隠しと受け取られる始末。

「もーーーーっ嫌‼」

「姫様…」

「あんな奴、さっさと打ち首にしてほしい!」

「皆の者、そう言っているみたいですが直接的に殺したわけでもないので出来ぬと言っておりました。」

「歯痒い…。」

なんか、もう外に出ればあいつが現れるから引き篭るようになった。そんなあたしを見かねてか雫が提案した。

「…ここから逃げますか?」

「えっ⁉」

「妥当な案だと思いますが、姫様次第にございます。水仙様が本当に嫌ならお逃げください。私が、何とかしますから。」

「雫…。で、でも!あたしは雫と…離れたくない…。ずっと、傍に居てくれたから。」

「…姫様…」

あたしは少し、悩んだ後逃げることを選択した。そのためにまずは、髪を切った。大好きだった長い髪を。別にまた伸びてくるし。最低限の荷物を持ち、夜明け前出発した。

「…雫。今まで本当にありがと。落ち着いたら書状とか送るから。」

「はい、楽しみにしています。…私はずっと貴方様のお傍にいますから。」

「…雫…。ほんと、母親みたいな存在ね。」

「姫様…。勿体なきお言葉です。…そういえば、姫様の好みの男性とはどういった方なのですか?」

「え⁉え…えっと…」

「あ、申し訳ありません。早う行かなくてはいけないのに。」

「いいの。もう少しだけ話したいし。…そうだなぁ…あたしの好みの男性…」

少しだけ悩んだ後、あたしは答えた。すると雫は優しく微笑んだ。

「きっと、外の世界にはいますよ。姫を心の底から好いてくれる方。」

「うん!きっと。またね‼雫。また会おうね。」

「…はい、必ずや。躑躅様。」

それから何故か、雫からの書状は来なかった。きっとまだ忙しいのだろうと思っている。

 ◆

「父親殺しとは、酷いですねぇ。私は救うために助けを呼びに行ったのですよ?」

「…っう…は、離して!嫌っ‼」

と、その時。低く落ち着いた聞きなれた声が響いた。

「おい…その汚ねぇ手を放しやがれ。」

「…朧…さん?」

「あぁ?…ふ~ん、この人が朧って言うのかい?何だか女子みたいな名前だねぇ。朧さん?」

「てめぇに俺の名を呼んでほしくない。俺と、躑躅の名を。」

「ははは、威勢良いねぇ君。だけど…姫様は君には渡せないんだよねぇ。姫様を国に連れ帰って、祝言を挙げるつもりなんだ。それから…」

うっとりと水仙は説明したが全く耳に届いていない様子で朧さんはずんずんと近づき、拳を振り上げた。

「姫様は私と居ることでっ…」

「……」

朧さんは思い切り、水仙を殴った。そのままそいつは倒れた。ぽかんと固まった後、殴られた部分を抑えながら朧さんを睨んだ。朧さんはぐっとあたしを引き寄せた。

「な!なんだよ!お前っ。平民の君が、この私を殴っていいと思っているのか‼」

「てめぇの身分何か知らねぇよ。ただ分かるのは、躑躅に付きまとう変態だということだ。」

「な…!君も躑躅も!何故私を変態呼ばわりするのだ‼」

「何年も経ってんのに、諦めきれずに探して挙句の果てに躑躅を嫁にしようとしているからだよ。」

「ぐぅ…」

「それにてめぇ、この女を嫁にするのは止めておけ。後悔するぞ?」

「ちょ!あんた何言っているわけ⁉あんたねぇ…」

黙れと言わんばかりにあたしを抱きしめた。

「…てめぇには勿体なさすぎる女だ。それに、てめぇはこいつの何を知っている。」

「えっ?え…っと…、優しくて、皆に分け隔てなく…接してて…」

「はぁ…。あっっっっさいな。」

「はぁ⁉正しいことを言ったまでだ!」

「躑躅はなぁ、料理は超がつくほど下手で姉御肌で、少しおっちょこちょいなとこがある、可愛い女だよ‼」

何言ってんのこの人、真顔で。恥ずかしいんですけど⁉

「…そ、そんなの‼姫様じゃない!じゃあ、その女は偽物だ‼そうに違いない‼」

「てめぇがそう思うならそう思っとけ。ていうか、そう思え。」

「…っうぅうぅ…うるさいなぁ。姫様は!私と居るべきだ‼さぁ、姫、こちらに来てください。私の手を取ってください。」

そう言いながら、水仙は手を差し伸べてきたが掴む気はない。すると怒気を含んだ声で朧さんんが口を開いた。

「…躑躅。」

「?はい?」

「殺さない程度に、ぶっ倒していいか?」

「…構…わない。」

「よし。」

そう言い、朧さんは水仙に近づきすごい音を立てながらそれもう、殴る蹴る三昧。

「あ、ここにいたんですね~。探しましたよ。…ってあらら、兄者を本気で怒らせたんですね。」

と、霞さんがやってきた。のんびりとした声が落ち着く。気のすむまで殴ったのか胸ぐらを掴み、何かを問いただしていた様子だった。水仙の顔は…ほぼ誰か分からない。

「…す、すごい…なぁ。」

「…兄者、落ち着いたみたいですね。おいらは仲間のとこに行きますね。無事だったと。」

「え、これ…無事なの?」

「はい!相手は無事ではないですけど、兄者が無事なので広い目で見れば無事です。」

と、満面の笑みで霞さんは言った。

「なら…いいけど。」

「…それにしても、兄者がこれほどまで怒るのは珍しいですね。いつも何か腹立たしいことがあっても、何とか自分を落ち着かせているのですが…」

「そう…なの?」

「早乙女さんが忘れ物を届けてくれた際、早乙女さんをつけている変な奴がいるって言って、ついて行ったんですよ。そしたら…」

「こう?」

「はい。…では、何かもう片付いたみたいなのでおいらは行きますね。」

「あ、はい…」

霞さんが去ると同時に朧さんが近づてきた。

「…躑躅、ごめん。来るのが、遅くなった。」

「う、ううん。別に。その、ありがとう。」

「野郎の血がついているから、本当は触れたくねぇが…」

そう言い、少し着物で手を拭きあたしの手首に触れた。

「朧…さん?」

「…ここ、あいつに触れられただろ。気持ちわりぃ…」

と、ぐりぐりと強めに触れた。両手とも。そしてあたしの左手を持ち上げ、手首にそっと口づけをした

「っ!っ⁉」

「…さっさと終わらせて、帰ってくるから。待っていろ。躑躅。」

「う、うん…」

朧さんの背中を見送りながら、雫に言ったあたしの好みの男性の特徴を思い出した。

「…強くて、優しくて…あたしの駄目な部分も好きになってくれる…素敵な方。後、最近想ったのは…左目の傷も、誰かを守った証と言える自信のある人。」

…あぁ…あたし、朧さんが好きなんだな。あの人が帰ってきたら絶対に言おう。

  ◇

〈躑躅が忘れ物を渡しに行っているのと同刻〉

「…万葉様、お茶は要りますか?」

「あぁ、光。頼めるなら欲しいかな。」

「分かりました。ただいま用意しますね。」

「…光。」

「は、はい?」

「ここに来てから、表情が柔らかくなったな。」

「っ!そ、そうですか?」

「あぁ。」

「あ、ありがと…ございます?」

…まだ、妙な距離感が光と儂の間にあるなと、感じた。もう…昔に戻れないのだろうか。

「そういえば、簪はどうしたのだ?」

「えっと、壊れてほしくないので部屋に置いてあります。」

「そうなのか。壊れても、また買ってやるのに。それとももう一つ買ってやろうか?」

「い、いえいえあんな高価なもの、二個も三個も大丈夫です!一個で…十分です。」

「そうか。」

「お、お茶淹れてきますね。」

「あぁ、ありがとう。」

光がぱたぱたと去った後、襖の隙間から白銀が現れた。

「よっ。」

「えっと…」

「白銀でいいって言わなかったけ?銀鉤だと堅苦しくて嫌なんだよ。」

そう言いながら後ろ足で耳を搔いていた。

「…白銀、どうしたんだ?一体。」

「実はな…桔梗の三種の神器の内、一つが見つかった。」

「何⁉」

「蓬莱神楽が所持している玉、あれは間違いなく“懐古玉”だ。光によく共鳴している。だから彼女が近くにいるこの場所だから光が濃く眩しくなっている。」

「…ここに来た時、ほんのり光っていたがただの首飾りだと思っていた。」

「まぁ、だろうね。普通の者が持つとただの玉に見える。けどまぁ懐古玉は誰が使っても過去が見えるがその代わりの代償がでかい。」

「代償…?」

「それは…あ、光がそろそろ戻ってきそう。また後で話すよ。」

「え、あ…分かった。」

その後、白銀の言う通り光が戻ってきた。

「おまたせしました。万葉様。」

「ありがとう、光。」

光はことんとお茶を置くと、ちょこんと儂の近くに座った。何だか少し、眠そうだった。

「…光?眠いなら寝るか?布団用意するぞ?」

「え!あ、大丈夫です‼いつもの事なので。でも最近は眠気が強くて。」

「大丈夫か?」

「はい…。た、多分妖の魂のせいかなぁ…なんて。」

と、彼女は気丈に振舞ったがどこかぼんやりとしている。出来るなら、彼女から妖の魂を取ってあげたい。

「辛くなったら、すぐに言え。必ず助けてやるから。」

「万葉様…。ありがとうございます。本当に、お優しいですね。」

と、寂しそうな笑みを浮かべた。そういえば、光の顔をまじまじと見ればどことなく儂と似ていることを知った。特に目元。

「…そういえば最近、蓬莱と仲がよさそうだな。」

「はい!神楽さん、話してみるととても優しい方で、大好きです。」

「良かったな、光。」

「皆さん、本当に優しくて温かくて…幸せとはこういうことなんでしょうかね。毎日が平穏で大好きな人が傍にいることが。」

「…きっと、そうだろうな。」

「そういえば、最近まだ寒いですが段々と春の暖かさが出てきましたね。」

「確かにな。今年も花見を開催…いや、桜が咲いたら花見ではなく祝言を挙げるか。」

「へっ⁉しゅ、祝言⁉」

「当たり前だろう?儂は、お前と夫婦になりたいのだ。掟とかではなく本心としても。お前と恋仲になったときから、そういうことは視野に入れてたぞ。」

「め、夫婦…。万葉様と…。」

光は顔を真っ赤にし、頬を両手で包んでいた。

「…嫌か?光。」

「え⁉そ、そのようなことはありません!寧ろ…嬉しい、です。こんな私でも妻にしたいと言ってくださりありがとうございます。」

そう言って光は微笑んだ。

「光の白無垢姿、さぞ美しいだろうなぁ。今から楽しみだ。」

「まぁ、万葉様ったら。ふふっ」

儂は暫く光との会話を楽しんだ。仕事は後でやっても問題はないだろう。 

  ◇

〈退魔屋敷にて〉

縁側で僕は神楽からの書状を見ていた。すると間抜けたようなふわふわとした声が降りかかった。

「わわ!それって、神楽ちゃんからの書状ですか?」

「…織戸か。そーだよ、向こうでも元気にやってるって。」

「わぁ~…それは良かったですね!神楽ちゃんが帰ってきたら早く話聞きたいです。」

周りが僕たちを嫌悪している中、何故かこいつはしょっちゅう構ってくる。自分の評価が下がるって思わないのか。

「幻中のほうからでも良くないか?」

「う~ん…みこちゃんでも良いんだけど、よく眠る子だからさ。覚えていられるかなぁ…って。で、でもみこちゃんと話すのは好きだよ‼」

「……ふ~ん。」

「あり?思ったより薄い反応…。」

「友達とか、興味ないし。僕が興味あるのは神楽だけ。神楽が死んだら僕も死ぬ。それくらい神楽が大切だよ。」

「わぁ!本当に大好きなんですね、神楽ちゃんの事が。素敵です~。」

と、そこに僕が二番目に苦手なあいつが現れた。

「何しよーったい、織戸。」

「あ!小夜ちゃん。あのねあのね、神楽ちゃんから書状が来たんだって!だから天禰君とお話してたの~。」

「ふ~ん…、他ん者が冷たか目でわいらば見よーちゅうとに?」

「え?皆そんな目で私たちを見ているの?なんで?」

「織戸んそん性格、羨ましかね。」

「え~褒めても何も出ないよぉ、小夜ちゃん~。」

こいつも、僕が京を殺すためにここに居るのは知っているのに、ほんと…馬鹿だな。

「…もういい?僕は部屋に戻るよ。」

「あ、またね!天禰君~!」

ぶんぶんと織戸は手を振っていた。夕餉んときとかにも会えるだろーが。

 ◇

「…なんでそがんあいつらに優しゅうするばい?」

「え?…ん~…なんでだろうね。京様を殺したいっていう理由でいるっていうのは理解しているんだけど、それが本当の魂胆なのか理解できないんだよねぇ~。」

「……」

「それに、私たちって人間でしょ?だから一生懸命話しかけていたら、心を開いてくれて仲良くできるかなぁって。」

「…うちゃ、そがんあんたば理解できん。ばってん…きっと、そうじゃろうね。話しかけたら打ち解くることも、出来るじゃろう。」

「時間はたっぷりあるもん!それに、みんな仲良くが良いでしょ?ね!」

「…そがんしたかなら、まずここん空気ば変えんばならんじゃろう。」

「・・・そう、だね。」

織戸はしょんぼりとしてしもうた。泣くことはなかと思うばってん…こいつば泣かせたら最後。どがん手ば尽くしてんそう簡単に泣き止まん。

「織戸。」

「ん?なーに?」

「茶屋に行くか?良かところば見つけたんや。」

きょとんとした顔からぱぁーっと明るか満面ん笑みに変わった。

「うん!行く!行こ!小夜ちゃん‼」

本当、よか意味でお気楽な奴や。うちも、あいつば見習うてお気楽に生きてみたかもんや。

「…どうしたの~!早く行こぉうよ~!」

「分かっとー。後、うちも持っていくがわいも金ば用意せろ。おおかたうちだけんお金じゃ足らん。」

「分かってるよ!というより今日はいつもより少なめに食べるつもりだから!」

「どうだか。」

「本当だよ‼だって夕餉が食べれなくなるもん!今日の夕餉は、天ぷらだよ‼お団子でお腹を満たしたら食べられないじゃない!」

「食べるとがほんなこて好きなんばい。」

「えへへ~。」

そん後、茶屋に行ったけどほんなこて織戸ん言う通りそがん食べんじゃった。給料がそれ程減らんで済んで安堵した.

(続)

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