表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛者永遠  作者: 桜宮朧
17/51

人情を思い出す蔓日日草

〈元和元年 三月十日:滞在二日目〉

「おはようございます、光さん。」

「……」

昨日とは打って変わった態度に私は呆気を取られた。少し引きつっているのを感じたがぐっと堪え、微笑み返し挨拶をした。

「お、おはようございます。本日は良いお天気で。」

「えぇ、そうね。」

ちらりと外を見やると、鮮やかな紫の花が咲いてた。

「片栗が咲いていますね。き、綺麗…ですね。」

「…そうかしら。私は蔓日日草という花が一番綺麗だと思いますわ。」

「蔓…日日草?」

「えぇ。…天音が私の誕生日にくれた花ですの。」

「そ、そうなんですね。どんな花でしょうか、その蔓日日草という花は。」

「蔓ばかりでそう簡単に見つからないと思いますわ。」

くすりと蓬莱さんは微笑んだ。笑み一つでこんなに色気がある人、初めて会った。緋色さんとはまた違った雰囲気。

「そういえば…、貴方の言う通りなかなか堕とせそうにないわね、万葉様。」

「っ!」

「まぁ、後三日ありますし心配ご無用ですね。」

「それは…確実に堕とすということですか?」

「さぁ、ね。」

私、この人と仲良くなれる自信がない。無理して…仲良くならなくてもいいかしら。と、思った。ふと、蓬莱さんの胸元を見ると首から下げていた玉がなかった。

「あ…あの、首元にあった玉はどうなされたのですか?」

「え?…あぁ、紐が切れてしまって。貴方、観察力があるのね。」

「いえ、私にはそんな能力はありませぬ。ただ…」

あの玉に親近感がある、なんて変なことは言えない。言葉に詰まった。

「ただ…、なんですの?」

「…なんでもないです。とても綺麗でしたので覚えていただけです。」

「確かにこの世とは思えぬ、代物ですよね。」

と、言いながら保浦さんは鎖骨を撫でた。

「…あの、そこをどいてもらってもいい?邪魔なんだけど。」

突然、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには寿さんがいた。

「あ、おはようございます。すみません、いまどきます。」

私は横に避け、通れるようにした。

「…ありがと、後おはよう。」

そう言うとすたすたと去っていった。小脇に書物を持っていたので蔵に行くのかなと思った。

「…では、私もこれで。」

「あ…はい。」

私の横を通り過ぎるとき、ふわりとお香が香った。昨日と違う匂いだった。

「光――!」

「わっ!」

背中に抱き着いたのはきっとみことさんだろうと思い背中を見てみた。

「おはよう~」

「みことさん、おはようございます。」

「さっき、神楽といたの?」

「え?えぇ、まぁ。少しお話を。」

「ふ~ん。」

みことさんは少し不機嫌そうな表情を浮かべた。

「あ、あのどうなされたのですか?」

「みこ、神楽嫌い。京様に反抗する。」

「京?」

「京様!みこ達の当主様‼」

「へぇ~…」

「強い!冷酷!しゅてき‼」

「…何だか…怖そうな人ですね。」

「怖いのもしゅてき‼皆の憧れ‼」

みことさんは目を輝かせながら語っていた。

「あの、みことさん。その、京さんの下のお名前って何ですか?」

京寂(せき)(ちく)!」

「京…寂筑…」

後で万葉様に報告すべきかなと、思った。

「光、光。今日もみこに構って。」

「あ、いいですよ。今日は何しますか?」

「何でもいい!」

「分かりました。」

 ◇

私は光さんと別れてから自室に行き、玉を見た。

「…なかなかこの光が収まらないわね。ここに来てからずっと光を帯びている…」

そう思いながら掌で玉を転がした。この玉は親から受け継いだものだ。旅人らしき女性が泊めてくれたお礼にと渡したものだそうだ。だけど、暫くしたらこの玉は光を帯びなくなり、ただ不思議な色がころころと変わったのみ。売ればそれなりの額になりそうなのに、一切売らなかった。お礼に貰ったのだから大切にと言われたからだ。

「持ち主が分かるなら、返してしまいたい。」

早く持ち主に返したい。。だってこれを持っていると必ず、不幸なことが起きる。気味が悪くて仕方ない。私が受け継いだ次の日に、村を襲われて天禰の親諸共亡くした。

「…早く討たねば…京を。」

 ◆

〈蓬莱・出雲の過去〉

千五百九十五年に私が産まれ、その翌年に天禰が産まれた。家が隣同士でいわゆる幼馴染だった。天禰は最初、何考えているのか分からない子だった。のんびりとおっとりとしていて名前を呼ばれるまで気づかないほどぼーっとしていることが多かった。私のほうがお姉さんだからという謎の自信からよく虐められる天禰を守っていたが、逆に私のほうが標的になってしまった。私が六歳ほどの時、いつも通り一緒に遊ぼうと思って家に行ったけど、朝から出掛けたきり分からないと天禰のお母さんに言われた。探してると思い切り人を殴る音や許してという声が聞こえてきてこっそりと見に行くとそこには天禰と虐めっ子がいた。血しぶきが上がらないように力加減はしていたけど、ものすごく腫れていた。虐めっ子が。三人とも、顔面が分からないほど殴られたみたいだ。

「ねぇ、僕の神楽を傷つけないでくれるかなぁ。僕はいくら傷ついても構わないけど、僕を守ろうと努力してくれた神楽を虐めるのは違うんじゃないかなぁ。」

がっと相手の前髪を天禰は掴んだ。

「次、神楽を虐めたらこんなもんじゃ済まさないからね。ぶっ殺す。」

「ひ!ひぃいぃぃいぃ~‼」

三人とも転がるように逃げて行った。私は、そっと声をかけた。

「…天…禰?」

くるっと天禰は振り返ったが一瞬その瞳は一切の生気がなかった。だが私を見るといつも通りの満面の笑みになった。

「あれ?神楽。どうしたの?」

「えっと、いっしょに遊ぼうと思って、家に行ったらいないと言われて探してました。」

「ふ~ん…。ね、神楽。」

「は、はい!」

「見た?」

「え…?」

「さっきの。」

「…み、見てしまったけど…」

「母さんに言う?」

「ううん…言わない。逆に感謝を伝えに行きます!だって、天禰。かっこよかったから…。」

天禰は、きょとんとした。もしかしたらさっきの見て私が嫌いになったかもしれないと思っているんじゃないかと、予想した。

「…かっこいい?僕が?」

「う、うん。」

「…嬉しいなぁ…僕もやっと、神楽を守れる年になったよ。だから、今度は僕が君を守る。この命に代えても。」

「命は大切にしてください!」

「あはは、ごめん。」

天禰の笑顔が好き、温もりが好き、全部…好き。ずっとここで天禰と幸せに暮らすんだ、そう思っていたのに、千六百六年…村が襲撃された。どこかの戦に巻き込まれたのかと思ったが、違った。“妖”なるものが襲ったと言われたがそんなもの、どこにも見当たらなかった。

「南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」

「こっちだ―――!早く逃げろ‼」

突然のことで、混乱し息がうまくできない。

「…神楽!」

私の手を、天禰が握った。

「天、禰。お父さんと…お母さんっ、は…?」

「きっともう、避難している!だから、神楽も…」

と、その時。天禰のお母さんの声がした。ぱっと見てみると燃えて原型の無い家の横から何か叫びながら出てきた。

「天禰―――!神楽ちゃ―――ん!どこにいるの―――!」

「神楽―――!」

私の母と父も一緒に探していたようでぞろぞろと出てきた。

「私たちの名前を呼んでいる!天禰、一緒に行きましょ。」

「そうだな。」

私たちは駆け出した。お父さんたちと合流するため。ここだよと、言おうとしたその時。お父さんたちの後ろから馬に乗った誰かが近づき、天禰のお母さんを斬った。あまりの光景に、足が動かなくなり呆然と眺めることしかできなかった。

「父さん!母さん‼」

次々と、殺されていく。天禰が動き出した。だけど、敵うはずがないと踏んだ私は天禰を止めた。

「何するんだよ!」

「駄目、天禰が死んでしまう…。今は逃げよ、ね。」

私も胸が苦しい、張り裂けてしまいそう。だけど、残された命を大切にせねばと思った。天禰は唇を噛み、拳を震わせてた。

「・・・分かった。」

顔は覚えた。顔、というより身に着けているお面。猫の面に総髪の男。必ず、討ってやる。あの男を。…それから自然に炎が消えもう跡形もない村を天禰と呆然と眺めた。残ったのは、お母さんから貰った不思議な玉と天禰。

「…ねぇ、これからどうやって生きる?」

「まずは、あの男を討つ。あいつを殺さなければ腹の虫が収まらない。」

「でも、居場所が分からないじゃない。」

「血眼になってでも探してやる。あんなに特徴的ならば見つけられる。」

「……」

「妖なんて端からいなかったんだ。あの男が村を襲撃したんだ。これだからどっかのお殿様は嫌いだ。」

「あの人、殿様なの?」

「あんなに高貴そうないで立ち、間違いない。」

「そう、ですね…」

天禰はすっくと立ちあがった。

「探しに行く。…神楽…っ…」

ついて来い、そう言いたいのだろう。だが、危険な目に私を曝したくない。そう葛藤しているのだろう。私は迷わず天禰の手を握った。

「私も、ついて行きます。…天禰の傍にいさせて。この命…尽きるまで。」

「神楽…」

天禰も私の手を握り、こくりと頷いた。それから私たちは探す旅に出た。だけど有力な情報は手に入らなかった。強いて言えば名前くらいだ。“京寂筑”それから二年探し、やっと…見つけた。道中歩いていると、“磐長寺”という寺の前で掃除をしている、左目の下に泣き黒子がある優しそうなお坊さんで、駄目もとで聞いてみると知っているようで丁寧に教えてくれた。教えてもらった通りに行くと、それなりに大きな屋敷があった。木の板に退魔屋敷と彫ってあった。

「…ここだな。」

「行きましょう…天禰。」

門を叩き暫くすると小柄な女性…?が出てきた。

「なんや?わいら。こけーに用があるとか?」

「ここに入りたい。神楽…この者と一緒に。」

その人は私と天禰を見た。

「…ちょっと待っとって。当主に話ばしてくる。」

そう言い、一旦屋敷に戻っていき四半時くらいしたら戻ってきた。

「入って良かそうだ。くれぐれも失礼んなかごとな。」

と、言われその人の後をついて行った。

「…あの、当主様の名前って何と申すのですか?」

「え?…あぁ、京や。京寂筑。皆ん者は京当主とか呼んどー。」

「そうなのですね。」

私と天禰は目を合わせた。間違いないと。と、いつの間にか一番奥まで行き襖の前で止まった。

「客人二人、連れてきた。」

すると、少しだけ高いが柔い声がした。その人は襖を開け、座布団のある所に座れと言ったので私は奥のほうに座った。土下座の前にその男の顔を聢と見た。間違いない、猫の面をつけていた。ふとその男の右を見ると男が一人、座っていた。別に、気にしないけど側近かしら。

「…出雲天禰と申します。そしてこちらは…」

「蓬莱、神楽にございます。」

「ほう。で…何故、ここを見つけることが出来たのじゃ?山奥の辺鄙な場所にあるのに。」

「…ここを知っている者に訪ねたまでにございます。」

と、天禰が口を開いた。天禰のほうが口が達者だ。任せておこうと思った。

「ほお、そうなのか。…されど、ここを知っている者なんぞ極僅か…いや、なんでもない。して、ここに入ろうと思ったのは何故じゃ?そこの女子も。」

と、扇子で私と天禰を指した。天禰は土下座していた体制を起こしその男を睨めつけるように見つめた。

「お前を殺すためだよ。」

その場にいた者、特に男連中は刀を抜こうともしていた。一斉に警戒態勢だ。

「お、お前ら!何を言っているのか分かっているのか⁉」

「当主殿、このような奴ら即刻!首を刎ねるべきです‼」

「ふ、ふははははっ」

だが、京は笑い出した。皆の者が我々の処刑を所望するなかだというのに。

「何がおかしい。僕と神楽はお前に村を襲撃され僕らの両親をお前に殺された。仇討ちせねば、腹の虫がおさまらないのだ‼」

「…失敬、あまりにも意外な理由でな。なぁ、そう思うだろ?万世。」

「そうですな。我らの当主を殺すために入るとは誠に、可笑しな話ですな。」

と、隣にいた男が口を開いた。京に、この当主に殺されたというのに、何故この人たちは笑っていられるのか神経を疑った。

「…まぁ、せいぜい頑張れ。出雲に蓬莱。余の首はここにある。余に戦いを挑むのならばいつでも相手にするぞ?」

「っう……」

「…後で愚痴を聞くから、堪えて。」

天禰が今にも殴りかかる勢いを感じたので急いで止めた。

「では、会議は終了とする。小夜丸、部屋に案内してあげてくれ。」

「…地下ん座敷牢と?」

「ははは、違う違う。部屋が何個か余っているだろう?そのどこかに案内してくれ。」

「はぁ…分かった。行くぞ、二人共。」

と、言いながら立ち上がった。私たちはその人について行った。案内している途中、その人は口を開いた。

「…当主ん前であがん発言したけん、わいらはもう敵認定されたぞ。おおかた…居心地は悪うなる。馬鹿ばい、わいら。仇討ちなんぞ黙ってやれば…いや、そもそも仇討ちなんて止めておけ。」

「はぁ⁉何が止めておけだ!僕らは絶対、あの男を殺す。」

「…そうか。」

一番隅っこの部屋に案内された。襖を開けると同時にその人は私たちを睨みつけた。

「仇討ちほど無駄なことはなか。当主ば殺したところで何になる。殺した先で、何があるばい。達成感と幸福か?否、そがんなものはなか。あるとは永遠の喪失感や。ここで暮らし、あの男ば観察してみぃ。」

それだけ言い、反論を言う間もなく立ち去った。

「…なんだよ、あの人。なんでも上から目線で。腹立つ。」

「ま、まぁとりあえずあの人の巣窟には入れたんだし、良しとしよう?」

それから私たちは退魔屋敷にいる。天禰は虎視眈々と狙っている。

  ◆

「…ん…」

…いつの間にか、私は寝ており昔の事を思い出していた。いや、この玉が見せたのだろう。ずっと掌で輝いている。これは“過去を見せる”玉なのだ。

「あんたのせいで、嫌なこと思い出したじゃない。」

もちろん、返事はない。私は一瞬、はっとした。…もしかして、これでもう一度過去を見ればこれの持ち主が分かるんじゃないかしら…。絶対、そうだろうと思った。だけど、二度も使いたくない。これのせいでまたどこかで災いがあるのではないかと、不安に思ったからだ。

「神楽?」

ひょこりと顔を覗かせたのは、幻中さんだった。

「どうかなされたのですか?」

「書状~…」

すっと、渡してきた。万世様かしら…もしくは、京。そう思いながら開いてみると、差出人は天禰だった。内容は、天禰らしいものだった。早く帰ってきてほしいだの。

「…天禰ったら。」

「神楽~。」

ぽてんと、幻中さんは正座している私に抱き着いた。

「どうしたの?」

「なかなか、妖退治…しないねぇ。みこ、つまんなくなってきた。」

「我々がいるのは五日ほどですもの。たまたまない日にぶつかったのでしょう。」

「じゃあ、なんて報告、すればいいの?」

「正直に…いうしかありませんよ。」

「ふ~ん…」

「…それと、幻中さん。」

「何?」

「毒針、渡してくれませんか?両手に持っているのは知っているんですよ。」

「…ちっ」

私は突き放すと同時に、後ろへ飛んだ。

「隊員同士の殺し合いはご法度ですよ。貴方は私より先輩なんですから、知っていますよね?」

「みこ、神楽嫌い。だから殺す。神楽、生きてると当主が殺される。」

「…戦いならば、いつでも相手をしてやる。ここで揉めるのは禁ずる。」

「うるさい、死ね。」

小柄だから、瞬発力が高い。だけどここは、穏便に済ませたい。真っ向から突っ込んできた幻中さんを受け止め、同時に両手首を叩き針を落とさせた。

「っ!」

またやられるのは困るので、首の後ろを叩き気絶させた。と、ぱたぱたと走る音が廊下から聞こえた。

「な、何事ですか?先ほどから大きな音が…」

光さんだった。この状況を理解し人を呼んでくると言った。

「…毎度毎度、同じだ。退魔屋敷でも殺されかける。…やはりあの発言は、良くなかったわ。」

しばらくして、万葉様が来た。一通り私は話した。私は自己防衛ということだったのでお咎めなしだった。

「確かに…みことさん、仰ってましたね。蓬莱さんが嫌いだと。」

「そうなのか?」

「えぇ…」

「……私が…私達が悪いのです。」

「えっ?」

私は、話した。あの日の事を。誰にも話すつもりはなかったが何故こんなことになったかは言わないと、と思ったからだ。

「…とにかく、申し訳ありませんでした。もう、無いように努力します。」

私は、ゆっくりと立ち上がり自室に帰った。と、後ろをついてくる足音がしたので振り返った。

「光、さん。」

「…あ、あの少し心配になりまして…。」

「何?同情?あんたの男を取ろうとしている女に?」

「…蓬莱さんは、万葉様を本気で取ろうと、してないですよね?」

にこりと彼女は笑った。

「何故、そんなことが分かるの?」

「だって、あまりぐいぐい行ってないですもの。それに、本当は蓬莱さん、優しい性格の持ち主ですよね?」

「っ!さっきの話、聞いてなかったのですか?自分の当主を、殺すために入っている者なのに、優しいだなんて。そんな感情、もうここには…」

「ちゃんとありますよ。」

「……」

「もう少し、笑ったらどうですか?…と言っても、私も本当の笑い方は知らないのですが…」

「笑う…?」

「私も…少々、貴方の事が苦手でした。だけど、生い立ちを知ったら少しは歩み寄れるのではとも、思いました。」

「やっぱり、同情じゃない。私はそういうの嫌いなの。」

「いえ、同情ではありません。私も、一人…憎んでいる方がいるのです。だから、ほんの少し似ているなと。」

「……」

「それに、蓬莱さんは柔らかい空気を纏っています。信頼しても、良いかなと思いました。」

「光さん…」

「あの時は、睨んで申し訳ありませんでした。これから三日間、どうか私と仲良くしてくれませんか?嫌なら、宜しいのですが…」

あぁ…この子は、優しすぎる。どんな生い立ちかは分からないけど。私も、歩み寄って打ち解け合いたい。退魔屋敷の皆さんと。

「…じゃあ、光と呼ぶわ。貴方も、神楽と呼んで。」

「あ、はい!神楽さん。」

彼女は笑った。十分、可愛いじゃない。それから私と幻中さんは残り三日間、接触禁止令を下された。部屋を分けなくてはならないが一つしかなく私は光の部屋で過ごすことにした。

「い、犬、大丈夫ですか?」

「犬?…あぁ、この子。」

部屋の隅で丸まって寝ている犬を見た。片時も光から離れない犬。

「大丈夫よ。可愛いわね、この子。そういえば名前なんて言うの?」

「白銀と言います。撫でても大丈夫かと。」

さわさわと撫でたが、光の言う通り大人しかった。

「不思議な犬ね。ここまで大人しい犬は初めてですわ。」

「私もです。」

と、突然白銀は立ち上がった。

「わぅん!」

「あら、どうしたのかしら。」

白銀は、私の風呂敷を嗅ぎ始めかしかしと前足で触り始めた。

「白銀?それは神楽さんの荷物ですよ。」

「くぅぅん…」

「何か、気になる物でもあるのでしょうね。開けてみます。」

私は、風呂敷を開けて見せた。その拍子にころころとあの玉が転がり出た。と、白銀はそれだと言わんばかりに、飛びついた。

「まぁ、あの玉…ですが、何か光輝いていませんか?あの時より。」

「えぇそうなのよ。ずっと収まらなくて。困っているの。」

白銀はふすふすと鼻を鳴らしながら、ずっとその玉を見つめていた。

「白銀、食べたら駄目よ。神楽さんの所有物なんだから。」

「あ、いえ。私の物…というより貰ったもので。…早う手放したくて仕方ないのです。」

「何故…ですか?」

「これを使うと、必ずと言っていいほど不幸な目に合うのです。どのくらい前に貰ったかは忘れましたが、知っている限りだと祖母が受け継いだ際は、盗人に家を荒らされてたまたま居合わせた祖父を殺されました。」

「まぁ!」

「そして母が受け継いだ際は、父が遊郭に何度も通っていたことが発覚したり、家が火事にあったりと。私が受け継ぐとその次の日に、村を襲撃されました。」

「…壮絶…ですね。」

「だから…本当の持ち主に返せばそういうこともなくなると考え、私は探しているのです。」

「…見つかるといいですね、本当の持ち主さん。」

「そうね。」

「…神楽さん、あのこの書状は…」

「っ⁉」

「か、顔真っ赤ですよ?神楽さん。」

「こ、これは別に!その…」

「好いている方から書状ですか?素敵ですね。」

「べ、別に好いている方っ、じゃなくて、その…幼馴染の天禰から…」

「…好きなんですね、その天禰さんという方。」

「…っぅ~…」

「あら?神楽さん、一番後ろに何か書いてありますよ?」

「え?どこですの?」

光さんに教わりつつ広げてみると一番後ろの隅っ方に、一文書いてあった。

「…妖退治屋にいる…最後の日の前日、お前に会いたい。妖退治屋の屋敷にて待っていろ。」

「ということは、明後日…ですか?」

「そう…ね。」

「わふぅ…」

「あ、白銀。どうしたの?」

「わふ!わふ!」

「…何だか、その玉が欲しそうね。けど…渡して光さんにも不幸が降りかかったら私、嫌だわ。枕を高くして眠れない…。」

「う~…ん、でも十分不幸な目には慣れてますし大丈夫ですよ。」

「そんなことを言わないでくださいまし。」

そう言いながら、私は光の手を握った。少しひんやりとしている手だった。

「…神楽さん…。…少し、触れてみても良いですか?」

「え?あぁ、それなら大丈夫ですよ。」

と、伝え光はそっと触れた。するとさらに光が強く輝いた。だけど眩しくはなかった。ただ…暖かい。ふ…っと瞬きをし光さんを見ると、少し泣いていた。

「ひ、光さん?どうかなされたの?まさか、私以外で能力が発動したのですか?」

「…いえ、何だか酷く懐かしくて。私も…以前、これを持っていたのではないかという、感覚になりまして。」

「…光さん…」

「わふっ!」

…渡したほうがいい、なんて言葉が頭をよぎった。でも、不幸が降りかかってほしくない。

「…神楽さん。」

「な、何かしら?」

「これ…、私が受け継いでもよろしいでしょうか?」

「……えっ?」

「無理なら強要しません…。良かったら、という感じです。」

私は少し悩んだ。光が受け継いで良いものなのかと。だけど、犬のほうはすごく欲しそうにしているし…。

「…少し、考えさせて。でもきっと最終日には答えを出すから。」

「わ、分かりました。でも、本当に無理なら構いません。」

「分かったわ。」

本当に光は良い子だ。その真っ直ぐさが…どうか穢れませんように…。

                              (続)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ