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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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躑躅と露草

〈元和元年 三月九日:滞在一日目〉

「万葉様。はい、粗茶にございます。こちらの茶は冷めてしまったでしょう?なので新しい茶を淹れてまいりました。」

儂が、書物を書いていると蓬莱が茶を持ってきてくれた。確かに傍に置いていた茶は冷めていた。

「…あ、あぁ。ありがとうな。」

「どういたしまして。」

いつも、光が淹れてくれるものだから少し困惑した。一口、飲んだがやはり光のほうが美味しい。蓬莱のも美味いが何というか舌に苦みが残る。光はまろやかですぅと入ってくる。

「天禰以外の殿方に茶を淹れるのは初めてなのですがいかがですか?」

「あ、うん。美味しいぞ。」

「あら、嬉しい。ふふふ」

そういえば、蓬莱の距離が近い気がするが…気にしなくていいか。と、思いながらもう一度、茶を口に運んだ。

「…そういえば…光さん、貴方様の妹だと万世様から聞きました。」

儂は思わず、茶を吹き出しそうになった。光とは“普通の関係”で“兄妹の関係”は無視していた。まぁ、いずれかは皆に話すが。というより唐突な質問で驚いた。

「何故…そんなことを聞くのだ?」

「だって、とても仲睦まじそうに見えるんですもの。それでもって、絶妙な距離。恋仲でしたらもう少し近いでしょうし、兄妹にしては遠い距離。故、絶妙だわって思ったんです。」

「っ……」

「あら、図星ですね。ふふふ、そういうところは兄妹ですね。光さんも似た顔をしましたよ、図星を指されたとき。」

蓬莱は、妖艶な笑みを浮かべた。普通の男ならその笑みだけで惚れるだろう。だが、光の笑みのほうが何倍も愛らしいので、特に心は揺さぶられなかった。きっと、それが的中したのか、蓬莱は不機嫌そうな表情を一瞬、浮かべた。

「…では私はこれで。」

「あ、あぁ。」

少し毒蛇にでも噛まれたようなぴりりといた痛みが胸に走った。嫌な予感がするような気がする。首を撫で溜まった仕事を眺めた。

「…気のせいでも、片隅には入れとくか。」

 ◇

「…むむむ…」

何となく暇で散歩していると角の辺りで、じっと何かを見つめ張り付いている馨を見つけた。

「どうしたのよ馨。」

「はっ!躑躅ちゃぁ~ん…光ちゃんが~」

そう泣きついてきて、引いてる自分をぐっと隠しながら馨の目線の先を見ると、のんびりとお茶を飲んでいる光とみこと…だったかしら。その子が光の腕に絡んですりすりとしていた。

「…どうしたの?あれ。」

「もうずっとあんな調子なのよ1一日に一回は光ちゃんを摂取しなきゃなのに~。」

「待って。今の変態発言、聞き捨てならないのだけど?」

「くぅぅ…、あそこは私がいるべきなのに~‼」

「あたしの質問は無視なのね。」

「え?なんか言った?」

「何も。てか、触れてないって言ってもたかが一日でしょ?」

「たかが一日!されど一日‼あの子が着た瞬間からあれだから!私!わたしぃ…」

「泣くな泣くな。」

めそめそと泣いてしゃがんだ馨を何とかなだめながら一緒にしゃがみ背を撫でた。その間にもぽろぽろと愚痴が零れた。

「一回は近づいたよ!だえど、あの子見た目に反じて!可愛げがないの!背が小さいのもいいごとに、睨んでくるじ‼なんなのよ~…」

「ならあたしが話つけようか?」

「え…?」

「あんた、そうやってぐすぐす泣くでしょ?だからあたしが話をつけてくるよ。」

「げんがにならない?」

「……たぶん。」

「なるじゃ~ん…」

「だったらあんた、ついてきなさいよ!それくらいなら出来るでしょ⁉」

「ゔん…。」

「なら行こ。」

「え、今?」

「今でしょ?」

「光ちゃん離れてからとか。」

「…あんたねぇ、さっきから話を聞いていると一切光から離れる気配ないんでしょ⁉だったら力づくではがして!話つけようじゃない!」

「わぁ…、躑躅ちゃんのそういう豪快なところ好きだわ。」

面倒だけど、あたしも確かにくっつきすぎだと思うから話すことにした。

「…ねぇ。」

光と同時にみことが振り返った。

「あら、躑躅さん。どうかなされたのですか?」

「その子、借りていい?」

「あ、みことさんですね。構いませんが…」

「やだ!」

ぴきっと青筋の立つ音がした。

「つ、躑躅ちゃん。落ち着いて落ち着いて。」

「・・・ふぅ…」

馨の声で一呼吸置いた。精一杯の笑みを浮かべ、くいっと親指を立てた。

「すぐ終わるから。ついてきて。」

「……」

みことはふいっと光の事を見た。そしてあたしらには一切向けなかった可愛い顔した。

「ねぇ、ここで待っててくれる?」

「え?あぁ…分かりました。」

「じゃあ、行ってくりゅ。」

苛立つ気持ちを堪え、人気の無いとこに行った。

「なーに?」

「あんたさ、光にくっつきすぎじゃない?」

「えぇ~駄目なことなの?だって、光ちゃんだって嫌がってないし。」

「確かに光はお人よしで嫌とか言わないけど…。」

「そ、そうだよ。ほんとは嫌がっているかも、だし。」

「えぇ~…そんな素振り、みこは見れないんだけど。」

くすりといたずらっぽい笑みを浮かべた。あぁ馨が言っていた意味、分かる気がする。

「あんた、普通に喋れるでしょ。なのに何なのさっきの口調。」

「喋るのって面倒でしょ?だからみこ、必要最低限のことしか喋りたくな~い。」

面倒だな、この子。と心底思った。さっさと終わらせよう。

「で、なんであんなに光ちゃん引っ付くわけ?」

「え~、それはねぇ。」

くるりとみことは回った。こいつ人の話を聞く態度知っているのかと思った。そして回り終わると思いもよらないことを口にした。

「…光ちゃん、好きだから。」

「「…は?」」

その言葉に食いついたのは馨だった。

「す、すすすす好きって、と、友達、として、だよ…ね?」

「ううん。みこ、本気で光ちゃんが好き。情愛だよ。」

馨は一切、言葉が出てこない様子だった。もちろんあたしも。

「え…っと…」

「みこね、男性も女性も大好き。どっちにも情愛を抱くの。」

「…だから…何?」

ぺろりと唇を舐め、弧を描くように笑った。

「朧左衛門とかいう人も、好みかな。」

「っ!」

「あれれ?なんでそんな反応するの?光ちゃんはあの万葉とかいう男がいるから、半分諦めているけど、朧さんはいいよね?」

あたしの顔を覗き込んできた。その笑みがさらに苛立たせた。

「だ…、だっ駄目に決まっているでしょ⁉」

「……」

「あんた、朧さんのなんでも知っているわけ⁉知らないわよね?だって一日しか来てないじゃない。なのに何が朧さんが好みよ!」

「ん~でも、あの体格とか性格が好きになっちゃった。」

「ふ~ん、上辺だけじゃない。あれは当主様の前だから柔らかい性格だけど、本当の性格なんて乱暴だし、短気だし、だけどたまに!っ!」

あたしはばっと口を塞いだ。するすると朧さんの性格を言っていた。何か恥ずかしくなった。

「……ふ~ん。」

「と、とにかく朧さんは駄目!駄目…だけど、あんたがどうしてもって言うなら別に、いい。」

「…躑躅ちゃん?」

「も、もう話は終わり!あんたは光ちゃんにくっつく回数を減らして。以上。」

「ちょ、躑躅ちゃん!」

…やっぱり、変だ。朧さんの話をすると胸騒ぎがするし体温も上がる。と、部屋に戻ろうとしたとき、運悪く朧さんと鉢合わせた。

「っ!」

「おぉ、躑躅。」

「た、鍛錬終わり?」

「まぁな。」

「そ。おつ…かれ。」

「どうした、躑躅。妙に優しいじゃねぇか。いつもなら喧嘩吹っ掛けてくるのに。」

「…うるさいわね。」

ふいと私はそっぽを向いた。早くどっか行ってよ。そんな事とは反してずいと朧さんがあたしの顔を覗き込んだ

「っ‼」

「お前、顔真っ赤だが大丈夫か?熱あるなら…」

「へ、平気!熱も何もないし‼」

「そっか?」

「そうよ!」

「…体は大切にしろよ。」

ぽんとあたしの頭を撫で、去っていた。あたしは微かに残った頭の温もりに触れた。…あたしは、この温もりが好きだ。まるで、お父様みたいで。

「…お父…様。」

                                (続)

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