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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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ただいまと言えた金盞花 上

〈元和元年 三月七日:前編〉

「…では、改めて作戦を会議する。」

早朝、当主殿に収集された。俺は少し、頭が痛かった。昨日の酒のせいだろう。

「大丈夫か?渋兵衛。」

「え?あぁ、まぁ。昨日少し酒を飲んでな?」

朧が小声で話しかけてきた。頭を押さえていたからだろう。

「なんだよ、ひとり酒か?俺も呼んでくれれば良かったのに。

「あはは、たまには一人で飲みたくてな?」

「…兄者、渋兵衛。当主様が話している。ちゃんと聞いてください。」

「あ、すまないすまない。」

霞に肘を小突かれ、話に耳を傾けた。

「…で、今回の部隊に花宮を早乙女に変える。構わないか?二人とも。」

「了解です。」

「分かりました~。」

「どんな妖かは分からぬが、遠距離でも攻撃できる火縄銃を使えるのは早乙女だけだからな。」

「おぉ!なるほど~。躑躅ちゃんは得意だもんね、銃。」

「面倒よ、あれ。」

「隊員は二十五名ほど行かせる。治療班は十五人ついていけ。」

「「了解です」」

「此度の一件の、隊長は朧左衛門に任命する。副隊長は獅子王、頼めるか?」

「分かりました。」

「…急な作戦変更、大変申し訳ない。どうか、よろしく頼む。」

当主殿は深く頭を下げた。

「いえっ、気にしないでください!当主殿‼」

「我々は貴方の命令を聞き、妖を倒す者。作戦が変わってもそれに従うまで。」

「それに、作戦はいつもその都度、順応に変えているじゃないですか。気にしないでください。」

「ありがとう、皆の者。」

「…さて、準備したら行ってまいります。」

「あぁ、行ってらっしゃい。ここで、無事を祈っているよ。」

そして、全員支度しに部屋に戻った。…この勝色の羽織に腕を通すと一気に気が引き締まる。俺も、ここの一員なんだという証。

(…僕を置いて、死なないでくれよ。)

ふと昨日、銀鉤が言っていた言葉を思い出した。切なそうに言った言の葉。

「…必ず、生きて帰ってくるんだ。当主殿や皆がいるから。」

俺は刀を腰に差し、皆が集合しているとこに向かった。と、その途中。一羽の烏が塀に泊まっているのに気が付いた。さっきまでいなかったのに…。じっと眺めていたが、すぐに烏は飛び去った。

「あっ、渋兵衛!今向かうとこ?」

「あ?あぁ、そうだ。」

「じゃあ、一緒に行こうよ。兄者はすでに行ってしまって。」

「あはは、そうなんだ。」

霞と、雑談しながら集合場所に向かった。

「…うぅ…少し胃が痛い…。」

「大丈夫か?」

「まぁね、いつもの事だからね。妖退治って怖くて堪らないんだよなぁ。皆、勇猛果敢ですごいよ。」

「確かにな。…一人でも、多くの命を救いたいから、あんなに必死に戦えるんじゃないか?」

「そうだよね。妖によって奪われる命を一人でも多く救いたいよね。」

「……」

俺は、霞の言葉で“みせばやの最期”を思い出してしまった。もう、悲しみには十分浸った。今は、現状に立ち向かう。…皆、集まったことを確認して、昨日向かった場所に再度、赴いた。

「う…」

「兄者、何か前より妖と人の肉が腐った匂いが強くないですか?」

「あぁ。」

「うっ、おぇえぇぇえぇ…」

「ちょっ、あんた大丈夫?」

妖に近づく前から悪臭が酷く、嘔吐する者や失神する者が殺到した。おかげで隊員は一気に減り、十五名ほどになってしまった。

「とりあえず!布で口元を塞げ‼」

「「分かりました!」」

「ねぇ、朧さん。いつ撃てばいいかしら?威嚇に一発撃つ?」

「いや、まだいい。それにそれ、詰めるの大変だろう?撃つときになったら指示する。」

「分かったわ。」

深い、深い森に進むにつれ、匂いが濃くなってきた。すると、木陰から小さい鬼がわらわらと現れた。

「雑魚どもか?なら、さっさと…」

「ここは我らに任せ、先に行ってくれ。朧。」

「与一…。礼を言う。後で美味い酒、渡すからな。」

「楽しみにしている。」

数が多かったため、十一人でそこは対応してもらった。

「…朧、四人で平気なのか?」

「大丈夫だろ。俺とお前、霞と躑躅がいれば何とかなる。」

そして段々と妙な音がしてきた。ぼり、ぼりという。そしてやっと、妖の姿を目視できた。そこにいたのはでかい図体をした鬼だった。今もまさに人を喰らっていた。先陣を切ったのは、朧だった。静かに薙刀を振り上げ、斬りかかった。鬼は殺意に気づいたのか、上に飛んだ。それと同時に朧が叫んだ。

「撃て!躑躅‼」

早乙女は首を狙い定め、撃った。だが掠っただけで、致命傷にはならなかった。

「あぁ‼早く詰め直すわ。」

「刀を抜け!お前ら‼」

「「はい!」」

一斉に、抜刀した。もちろん、俺も。鬼はどしんと着地し、ぼりぼりと頭を掻いた。

「いでぇなぁ、何すんだよぉ。」

「るっせぇ!てめぇは一体何人、喰ったんだ⁉」

「あぁ?そんなの、おでは知らん。腹が減ったから満たしただけだ。人間と同じじゃねぇか。」

「確かに、お前の言う通りだ。」

「渋兵衛…。」

俺は、ついその鬼の言うことに頷いてしまった。確かにそいつの言っていることは正しかった。けれども…

「けれどもお前は、罪なき人間を殺め喰っている。本来人間は、足掻きもがき必死に明日を生きるものだ!俺らが腹立たしい思うのは、そういうとこだと思う‼」

俺は、思い切り足に力を込め大地を蹴った。そして鬼に目掛け刀を振り下ろした。鈍い音がするだけで、一刀両断は出来なかった。

「く…くっふ…」

「一旦下がれ!渋兵衛‼刀が折れてしまう!」

朧がそう言ったので、仕方なく下がった。

「霞!」

朧が叫ぶと同時に霞は鬼に駆け寄り、足を狙い薙刀を振った。そして飛び上がったのと同時に朧が心臓に狙いを定め、一突きした。

「かっった!」

「霞さん!頭を下げて!」

早乙女が銃を放った。次は命中し首を貫いた。

「渋兵衛ぇえぇぇえぇ!」

朧が叫ぶと同時に俺は、大地を思い切り蹴り飛びあがった。首に開いた穴が段々治っていくのが分かった。だが、その前に首を刀で切り落とした。朧の言う通り、固かったが腕に目いっぱい力を込めた。

「くっ…っう…だぁあぁぁあぁ!」

やっと、首を切り落とせた。首はごろりと転がり体の崩壊が始まった。首は死してなお、何か文句を言っていた。

「おでも必死に生きていたのに!こんなのあんまりだ!人でなしだぁ‼」

あまりにも叫ぶものだから俺はそっと話しかけた。

「…人さえ食わず、ただ懸命に生きていればこのようなことはならなかっただぞ。罪を悔い改め、改心して生まれ変われ。」

そう言うと、文句を言うのを止め瞳を閉じた。俺は静かに合掌した。

「…さて、この骸たちを埋めるか。」

「そうですね、兄者。」

「あぁ…大変。」

その後、あの鬼の手下と戦っていた者とも合流し埋葬に勤しんだ。俺もせっせと、運んでいたその時。ふと辺りに視線を向けると、懐かしい影が木の傍に立っていた。

「…し、はん…?」

師範と思われるその人物はふらりと立ち去ろうとした。俺は、自然と足が動いた。確認したい、あの人が師範なのかを。ずっとずっと、会いたくて堪らない大切な人。しばらく森を歩くとぽっかりと開いた場所に出た。目の前には、師範がいた。やはり、師範だった。ついて行きたいと切望するような背中…。やはり、師範に変わりなかった。

「師範…ですよね。ずっと!ずっと何処にいらしたのですか?」

「……」

「朧も、霞も、“(えい)(げつ)さん”も会いたくて帰ってきてほしくて堪らないのですよ?また、師範が、当主殿が妖退治屋に帰ってくるものだと皆思っています。だから!」

と、その時。木の陰からすごい速さで誰か一人が出てきた。俺は咄嗟に刀を抜いた。そして刀と刀がぶつかる鈍い音がした。

「くぅ…人、間か…?」

その者は何も言わず、ただただ斬りかかってくる。その瞬発さは抜群で全く対応できなかった。

「師範‼貴方様も刀を抜かれよ!敵にございます!」

そう投げかけても、こちらに振り返らなかった。師範…師範…ずっと、会いたかった人。だけど、今のあなたは“本当に師範なのですか?…ずっと、一騎打ちで鈍い音が響かせていた。と俺はいつの間にか師範に背中を見せる状態になった。この距離なら師範の顔を確認できそうだが、相手に一瞬の隙を見せたら押し負けそうで、確認できなかった。

「っう…う、だっ!」

何とか、相手を押し負かすことが出来た。それと同時に痛みが胸に走った。

「師…範…?」

師範が、俺の胸を貫いたのだ。何とも言えぬ気持ちが渦巻いた。

「…何。ただの、“妖退治”よ」

そういうと、一気に刀を引き抜いた。

「かはっ…」

倒れそうになる刹那、俺は地面に刀を突きさし何とか立った。師範の顔を、よく見た。冷徹で冷ややかな瞳を宿していた。

「…師、範…。何、故…」

「……」

師範は何も答えなかった。

「…師範…耳…飾りは、いかがした…」

俺は、もう眠たくて痛みも感じなくなってそのまま瞳を閉じた。と、ふと心地の良い春の風を頬に感じた。桜の匂いもした。俺は瞳を開けた。すると、そこには皆がいた。

「…渋丸…」

もう一度聞けた、優しいみせばやの声。俺はふらふらとみせばやや皆のいるとこに向かった。

「みせ、ばや…。黒幻、あやめ、轍、鉄…」

皆はそっと手を差し出した。

「「おかえり」」

俺は涙が溢れた。涙を流したまま、皆を抱きしめた。銀鉤、ごめんな。ここが、心地いいんだ。

「…やっと言えた…ただいま。」

  ◇

「…止めを刺しますか?我が主。」

「いや、いい。もう死んでいるだろう。帰るぞ、花蘇芳。元の姿に戻れ。」

「御意。」

また一人、消すことが出来た。一匹の烏を肩に乗せ、ほくそ笑みながら退魔師の屋敷に戻った。ふと、彼奴の最期の言葉が引っかかり右耳に触れた。

「…別に、気にしなくて良いか…。」

次は、誰を消そうか今からぞくぞくが止まらない。

  ◇

「よし、これで終わりか。」

「…兄者、渋兵衛を見ませんでしたか?」

「え?そこら辺にいるだろ?」

「いや、どこにも見当たらないのです。骸を埋葬した場所を何往復かしましたが、渋兵衛の姿がなくて…」

「……探すぞ。」

俺らは一斉に捜索した。だがどこにも渋兵衛の姿がなかった。

「渋兵衛――!」

「兄者、あちらにはいなかったです。」

「そうか。」

「こっちにもいないわ。」

「…とにかく探そう。きっとどこかにいるはずだ。」

渋兵衛が何も言わず、消えるはずがない。きっとまだ誰かを埋葬しているに違いねぇ。俺は叫んで叫んで渋兵衛を探した。と、ぽっかりとそこだけ木がない場所を発見したと同時に、渋兵衛らしき姿を見た。急いで近寄り顔を確認しようとした。

「渋…兵衛?」

そう声をかけてもぴくりとも動かなかった。いや、それ以前に渋兵衛触れても一切の温もりを感じなかった。こんなことは考えちゃいけねぇのかもしれないが渋兵衛は、死んでいる。そんなこと信じたくない、また大切な者を亡くしたくない。俺は必死に声をかけたが、応答はなく、脈もなかった。

「兄者?」

と、いつの間にか霞が後ろにいた。

「霞…」

「渋兵衛、どうしたんですか?生きて、いるんですよね?」

俺はその言葉に、静かに首を振った。霞も信じられないというように目を丸くし、切なそうに顔を歪めた。

「…皆に、伝えてまいります。妖退治屋に埋葬してあげましょう。」

「…あぁ。」

それから、皆に伝え俺が渋兵衛の骸を背負い、妖退治屋に帰った。門を叩いたら光さんが出迎えた。

「お帰りなさい。…あら、渋兵衛さん?お疲れで眠ってしまったのですか?」

「え、えっと…」

渋兵衛の死に顔はあまりにも穏やかだったものだから、光さんは眠っていると勘違いしたのだろう。悪気があって言ったわけでない。俺が何と返答しようか困っていると霞が口を開いた。

「光さん、茶を人数分貰えますか?少々喉が渇いてしまって。」

「あ、分かりました。でしたらおにぎりも作りますね。」

光さんはぱたぱたと台所に向かった。

「…なんて説明しよう。」

「光さんも、子供じゃあるまいし説明すれば分かってくれるでしょう。…おいらは当主様を呼んでまいります。」

「あぁ。」

俺はその間に布で骸を巻いといた。

「…渋兵衛…」

と、その時。光さんといつも一緒いる犬ころが現れた。

「くぅぅ…ん」

「どうした?」

その犬はしきりに渋兵衛を嗅いだ。確かにこの犬は渋兵衛と遊んでいた。…最期に顔を見してやるか。

「ほら。よく遊んだ奴だろ?もう、黄泉の国へ旅立ったんだ。」

「くふ…」

俺は切なそうに鳴くその犬の頭を撫でた。犬はしばらく横にいた。それから当主様が来ても離れず妖退治屋の屋敷の裏にある隊員の骸を埋葬している場所までついて行き、渋兵衛を埋めるまで傍に居た。

「…当主様、あの犬連れて行ったほうがよろしいでしょうか。」

「いや、いいだろう。しばらく傍に居させてあげろ。光には色々と説明しとく。」

「御意。」

その犬は、尻尾をだらりと下げしばらく座ってじっと見つめていた。

  ◇

「渋丸…。淋しいよ、また一緒に呑めると思ったのに…。」

こんもりと土を盛った墓にそっと話しかけた。もちろん、返答はない。

「…でも、これが君の幸せの形なんだよね。…みせばやさんにもう一度、逢えたかい?」 

さぁぁと、静かに風が吹いた。まるで渋丸が答えたかのように。

「これからの事は、僕に任せて。ゆっくり眠ってくれ。」

僕はくるりと踵を返し、光のとこに戻った。…渋丸の、あの傷。誰かに殺されたような傷だった。まぁ、きっとあの朧とかいう男が万葉に伝えているだろう。

                               (続)

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