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愛者永遠  作者: 桜宮朧
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百合に惚れた桜 下

後編ですm(__)m

〈文禄三年 十一月十九日。天候:雪〉(後編)

小さな籠に、赤子が一人。東郷さんが小脇に抱えて妖退治屋の屋敷に連れてきた。

「っ!何故赤子が‼こんなに寒かったら死んでしまうのに。」

「…重湯を作ってくれ、風雅。それと、珠乃はちょうどいいお湯を用意してくれ。」

「分かりました。」

「了解にゃん。」

「…東郷殿、その子は一体…」

「……」

東郷さんは俯き、黙ったままだった。

「東、郷殿?」

「…き…とう、ゅ。」

「え?」

「次期、当主となる者だ。」

「……」

俺は、その言葉に耳を疑った。俺もそれなりに妖退治屋の事は叩き込まれた。故、今“次期当主はここに居るはずがない”

「とにかく、中に入れるぞ。」

「あ、はい。」

淡々と俺は、東郷殿の後をついて行った。東郷殿は赤子を風雅さんに預けた。そして俺は東郷殿に部屋に来いと言われたので、ついて行った。

「…万世が、ここに預けてきやがった。」

「え?」

「あやつは、ここの掟を知っているはずなのに。何故か。」

「……」

「預けるくせにご丁寧に名前だけはつけたみたいだな。だったらそっちで、七つまで育てろと、儂は心底思うぞ。」

「…名は、名は何というのですか?」

東郷殿は、振り返り俺の顔を見て言った。

「万葉。そう、殴り書きされていた。」

「…まん、よう。」

「意味があるのかないのか定かではないが、ちゃんと意味を与えようと、儂は思う。意味があって初めて名前が確立するからな。…お前はどう思う?」

「意味をつけるか、どうかですか?」

「あぁ。」

「…名前があるならば、意味もつけてあげたほうが宜しいかと。」

「…分かった。」

それから、妖退治屋一同で育てた。特に霞が喜んでいた。自分にも弟が出来たようだと。次期当主となる者であっても、こういう感じは良いだろうと誰も咎めなかった。万葉殿はすくすくと育ち、勉学にもよく励まれ体力作りも霞と遊んでいるおかげで体力がついた。

〈千五百九十九年 六月 天候:雨〉

東郷殿は俺と万葉殿を呼んだ。そして書状を広げた。

「…最近、妹が出来たらしいな。」

「妹!」

「妹、ですか。」

驚きと同時に喜びを感じた。当主様の許嫁が産まれたという意味だ。

「東郷じい!どんな容姿なのだ?名前は?」

万葉殿はよほど嬉しいのか、東郷殿に質問攻めをした。だが東郷殿は優しく微笑み頭を撫でた。

「…すまんな、そこまでは分からないんのだ。」

「え~…」

俺もまじまじと書状を見たが、書いてあるのは妹が出来たこと、それともうすぐ二人目も産まれる可能性があること。それ以外はさっぱり分からなかった。万葉殿は不満げな顔が隠しきれてなかった。

「…じゃあ、霞と遊んでくる。」

「あぁ、行ってこい。」

ぱたぱたと万葉殿は走って行ってしまった。

「…くそっ!」

万葉殿がいなくなった瞬間、東郷殿は床に拳を叩きつけた。

「…妹さんが、心配ですね。」

「あぁそうだな。万葉みたいなことをしないか不安だ。しばらく青柳村にいたほうが良いのだろか。」

「確か、当主様の生家と比較的近い村ですよね。東郷殿、そこに住まわれているのですか?」

「まぁな、薬の調合やらそういうので。」

「…万が一、がありますしね。」

互いに悩んだが、やはり心配ということで村に滞在することになった。

〈千六百二年〉

一通の書状が届いた。

万葉の妹と思わしき娘を保護した。名はなく骨も浮き出るほど飢餓状態である。この子が成長するまでそちらには戻れぬ、

そう書いてあった。そっちでは万葉の世話も頼むとも書いてあった。それから俺らは東郷殿に代わり、勉学を教えたり妖退治屋について教えた。それから六年の月日が流れた頃、東郷殿に桜峠に来いと言われた。酉の刻、桜峠についた。

「…東郷殿。お久しぶりです、何かありましたか?」

「…前に、書状を送っただろう?」

「はい。」

「やはり、万葉の妹だった。」

「そうでしたか。…早く万葉殿に…」

「いや、止めておけ。」

「…何故、ですか?こんなに喜ばしい事なら、皆のものに伝えねば…」

「…容姿に問題があってな。」

「容姿?」

「妖に近い容姿なのだ。万葉に言ったらどうなるか…。まぁ、優しい性格のあいつだ。心配ないだろう。だが、問題が、娘のほうでな。親のせいで人間不信でな。そんな状況で、兄がいるなんぞ言えば…最悪、卒倒するやも知れん。」

「……」

「だが…万葉とは会わせておきたいな。」

「…会っても、大丈夫なんでしょうか。色々と…」

「会っても、将来忘れてしまうかもしれない、ということか?色々というのは。」

「まぁ…はい。」

「…会わないよりましだろう。微かに憶えていて会った瞬間、どこかで…ってなったら万々歳だがな。」

「そう、ですね。」

「だから、いつかお前のところに行く。…何時ぐらいが良いだろうか。」

「ちょうど珍しく、全員出払っている日にちがあったような…。」

「じゃあ、そん時行く。早めに書状を願う。」

「了解しました。」

そう言って、解散しようとしたその時。東郷殿が声をかけた。

「…獅子王」

そして、日にちが分かったので東郷殿に書状を送った。このことを万葉にも言っておけとの命だったから、俺はこっそりと万葉殿にも伝えた。一切、妹とは言わず万葉殿に会わせたい女子がいると伝えた。

「ほ、本当か?獅子王!」

「はい、本当にございます。」

「…緊張するなぁ。どんな子だろう。」

嬉しそうな万葉殿の表情は今でも覚えている。

〈千六百八年 四月〉

「い、いつ来るのだ?いつ来るのだ?獅子王。」

「もうじき来ると思います。門を叩く音がしたらそうでしょう。」

万葉殿はずっとうろうろと動いていた。そわそわしている、とも合っていた。と、その時。門を叩く音がした。

「!獅子王‼」

「はい、行きましょうか。」

門を開け、東郷殿とその娘…光殿を出迎えた。

「お帰りなさい、東郷殿。それと…初めまして。光殿。」

「……」

少し怯えたように東郷殿の背中に隠れた。光殿の視線に合うようしゃがんだのだがな…

「おや…」

光殿はゆるくまとめた髪で、前髪の横に垂れた髪が揺れる度に銀色が輝いた。そして、くりんと大きな瞳が愛らしい少女だった。

「あ、万葉殿。挨拶を…」

と、万葉殿を見ると光殿に釘付けになっていた。どこか頬は赤みを帯びていた。

「き、綺麗だね。」

「え…?」

万葉殿の初めてかけた言葉は“綺麗”だった。俺は驚いたが東郷殿の顔を見ると予想通りという表情をしていた。

「ま、まるでお人形さんみたいだね!髪とかすごく綺麗で素敵で、瞳も綺麗!」

「……お世辞、ですか?」

「お世辞?そんなわけないよ!本当に綺麗だから言っているんだよ!」

光殿はまるで初めての生き物に出会ったかのようにたじたじとしていた。

「…ささ、立ち話もなんですし。中に入りましょう。」

そして梅の間についても、ずっと万葉殿は光殿を見ていた。

「…光、この男は万葉という名だ。万葉、挨拶しろ。」

「あ。…初めまして、儂は万葉という。よろしくね。」

「……どうも。」

「光も、挨拶。」

「…光。よろしくお願いします。」

「年も近いし、仲良くしてくれ。光の人慣れにもよいだろうと思ってな。」

「…光、人間が嫌いなの?」

「……見れば分かるじゃない。容姿が、普通の人と違うの。」

「うん、それがどうしたの?」

「え…?」

万葉殿はにかりと笑い、まるで石ころでも蹴ったかのように光殿の不安を消した。

「素敵じゃないか、その容姿。なんだか特別って感じで。」

「……貴方、不思議ね。」

微笑ましい光景につい頬が緩んだ。

「…なぁ、万葉。せっかくだから光に妖退治屋の屋敷内を案内したらどうだ?」

「うん!そうする!行こ、光。」

「分かりました。」

ぱたぱたと駆けていく二人の背中を見つめた。

「…微笑ましいですね、あの二人。」

「あぁ。馬が合って良かったと思う。」

「…東郷殿。もしかして、この件の本当の目的とかあるのではないでしょうか。」

東郷殿は、外を眺めていた瞳をこちらに向け、にやりと笑った。

「気づいておったか。…そうだな、ある。」

「見合い、でしょうか。」

「まぁ、そういうとこだろ。あの二人が、本当に夫婦になるかは分からんし、将来に再会するかも分からん。」

「……」

「せめて光が、隣にいて安心できる者を想ったまでよ。」

「…もしかして、光殿は将来…東郷殿も忘れてしまうんじゃないでしょうか。」

「……」

東郷殿はそんなことは分かりきっているというような淋しそうな表情を浮かべた。それからは何も言えず、子供二人が遊んでいる姿をそっと眺めた。鹿威しの音が静寂の中に響いた。

  ◆

「…あの時のこと、今でも憶えています。当主殿が頑張って、光殿を笑わそうとしてたあの姿も、瞼を閉じれば思い出します。」

「…獅子王…」

「っ!どうかなされたのですか?当主殿。」

気づけば、当主殿は泣いていた。俺と白銀でおろおろとした。

「話、きつかったか?」

「いや…違う。色々と思い出した。光と、遊んだ記憶…楽しかったなぁ、本当に…。」

「当主殿…」

「…礼を言う、獅子王。ありがとう。」

「いえ、そんな。」

と、突然。銀鉤が手を叩いた。少しびくりとしてから銀鉤を見た。

「…で、光とはどうやって向き合う?これが一番の問題じゃない?」

「あぁ、そうだったな。銀鉤。」

「光は、どんな感じだったのだ?」

「昔の光に戻りそう。」

「……」

昔の光殿、たぶん一切笑わず、他人を寄せ付けないあの雰囲気なのだろう。

「後、元いたあの家に戻ろうとも検討しているみたいだ。」

「なっ!」

「…一刻も早く、光の心を救わなくては。万葉。かといって、何かいい案も思いつかない。」

当主殿はしばらく考え込んだ。

「…当主殿の、今の気持ちを伝えたらどうでしょうか。」

俺はふと、そう言った。光殿の心を救うのであれば、素直な言葉が一番良いと思った。

「今の、気持ち…」

「いいんじゃない?それでも。」

「…そうする。光に、儂の気持ちを伝える。度々ありがとうな、獅子王。」

「参考になったのならば、嬉しいです。」

「確かに儂は、光に一切気持ちを言えてなかった。…あの時の告白みたく伝えてみる。」

「…さて、これで解散とするか。と、その前に渋丸。一杯やろうぜ。」

「お、いいな。久々だし。」

そう言いながら獅子王は立ち上がった。

「…万葉。」

「なんだ?白銀。」

「健闘を祈るよ、僕が出来ることはそれだけだから。」

「俺も、陰ながら応援させていただきます。」

「ありがとう。明日、任務から戻ったら光に言うよ。」

獅子王は一礼をし、白銀は手を軽く振った。

  ◇

「あぁ~…しばらくこの姿でいたい。犬の姿をずっとやっているのきちぃ…」

「だったら俺みたいに人間の姿でいればいいんじゃないか?」

「光の事も考えろよ。突然犬の姿の僕がいなくなったら、不安になると思うよ。」

「…それも、そうか。」

「そういえば、どこで酒を飲む?渋丸の部屋?」

「そうだな。酒を持ってくるから行っててくれるか?」

「了解。」

僕は何となく匂いで分かったから渋丸の部屋に向かった。皆寝静まっているけど、僕は妖だから足音はそんなしない。だから余裕で渋丸の部屋に行けた。しばらくして渋丸がお盆に酒を乗っけてきた。

「お、来た来た。久しぶりだなぁ。」

「あんまり飲みすぎるなよ。酔っぱらった犬なんぞ聞いたことない。」

「分かっているって。」

盃に並々と酒を汲み、一気に煽った。

「ん~…ま。やっぱ酒はいいなぁ。」

「何年振りなんだ?酒は。」

「ん?そんなの覚えてないよ。でも、結構飲んでないよ。…大妖怪御五家にいた頃はほぼ毎日、宴を開いていたなぁ。」

「そうなんだ。」

僕らはしばらく飲んだ。飲んだり話したり懐かしくて楽しかった。

「…あぁあ、もう少しだけこうしていたいなぁ。ていうかさ、渋丸。」

「なんだ?」

「お前、そんなにすぐ顔赤くなったっけ?」

「っ…」

「酒樽、全部飲んでも酔わなかったくせに。」

「酒樽ごと飲んだことはないぞ。」

「ははは、例えだよ例え。そんぐらい飲んでも平気だったのにこんな徳利何本かで酔うなんて…やっぱり僕の考えは正しかったか。」

「考え…?」

「お前の体、人間近くなっている。」

「……」

祷丸は目を見開いた。そんなことは知らなかったとでも言うように。

「…死ぬときは、人間と同じだよ。亡骸は消えず土に還される。後、僅かな傷さえ致命傷となる。」

「俺は…そんな体になっていたのか。」

「“渋丸”でも良かったんじゃないか?名前。君は、中途半端な妖だ。僕よりは下だが緋色とかに比べれば上。それ故、名前とか確率したらぐんと妖力は減る。そのことを分かった上で、“獅子王渋兵衛”と名乗っているのかい?」

「……」

渋丸は自分の手を広げたり閉じたりと見つめていた。

「…死んでほしくないな、僕は。獅子王に。昔みたいにこうして飲んで食って騒いで。」

「…銀鉤…」

「もちろん、君の生き方を否定したいわけじゃない。ただ、それでいいのかなって。せめてもの、友人としての、慈悲だよ。」

「…俺は…俺は、誓ったのだ。ここで生きていくと。ならば、妖であることを捨てるのも、厭わない。」

「……そっか。」

「確かに銀鉤が言った言葉から察すると、死が隣り合わせってことだね。」

「ん。」

渋丸はそっと月を眺めた。切なそうに瞼をゆっくり閉じた。

「……だが、俺は嬉しいよ。人間に近い体になれて。」

「?どうしてだ。」

渋丸の、青い瞳だけが僕を捉えた。

「すぐに皆の、元に逝ける。」

「……」

「俺は、早く仲間に愛おしい者のところに逝きたい。」

「渋丸…」

「妖は、正しい退治方法でしか死ぬことが出来ない。傷がつこうが病にかかろうが、それでも死なない。」

「…僕を置いていくの?」

「銀鉤。」

「…死は隣り合わせだが、人間よりは長く生きる。それなのに、死にたいというのかい?」

「…死ぬことが出来るときに死ぬさ。それがいつかは分からぬ。だから生きるよ、俺は。その時になるまで。」

渋丸は少し微笑んだ。僕もつられて少し笑った。

                                 (続)

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