7 幸せそうに見えないのは、幸せじゃないから
「えっ、ななっ、何でしょうか?」
急に強気な態度になった相手に、ひるんだマサトは、身構える。
マサトの鼻先を飛びながら、手のひらサイズの女性は述べる。
「今、マサトさんは、御自分の人生を振り返って、正社員になれたのが大成功で、奇跡だとおっしゃった。だったら、もっと幸せをかみしめて、毎日、楽しそうに生きたらいいじゃないですか」
「楽しそうに……生きる?」
マサトにとっては、予想外の指摘であった。
うなずいた女性は、
「でも、マサトさんはちっとも楽しそうじゃなかった。仕事に打ち込むでもなく、趣味に没頭するでもなく、青春時代の未練を引きずって、疲れた顔で、しょっちゅう、ため息をついてばかり。だからこそ、それが負の感情のオーラとなって、外に放射されていたのです。で、私に見つかってしまった」
マサトはうなり、
「うーん。あなた、さっきもそれ言ってたけど、そんなに僕だけが負の感情を発してるとは思えないけどな。世の中、もっと苦労して悩んでる方々が、大勢いると思うんだけど。なんで、そっちへ行ってあげないのさ?」
マサトとしては、正論を吐いたつもりであった。
ところが、あっけなく言い返されてしまう。
「そうやって、他人と比べて、あの人たちよりはマシだとか思ってる時点で、それが負のオーラなんですってば。要するに、リアルを生きてないんですよ。よそ見ばかりして、ちゃんと自分の人生と向き合っていない。逆に、苦労人であっても、目的意識を持って前向きに生きている人には、私の姿は見えない」
「えっ、見えないの?」
「はい。集中力が違いますから。同様に、悲しいことですが、自殺を考えるほどに苦悩している人にも、私を見ることは出来ません。関心がそっちへ集中してしまい、精神に余裕がないからです」
「……僕は、そのどちらでもない、と。人生を楽しんでもいないし、息が詰まるほど大変でもない。一番、特徴のない、中途半端などうしようもないパターンってことか」
つぶやきつつ、マサトの胸の奥がチクッと痛む。図星だからであろう。
とはいえ、マサトにも言い分はある。もはや結果は変えられないのだとしても、言わずにおれるか。
「だけど、僕みたいな人生観の人って、世の中に一定数いると思うんですけどね。僕だけが突出して怠け者だとも思えないけど。少なくとも、数十年の中の一人に選ばれるほど、僕だけが異常ですかね?」
【続く】
次回、妖精の返答にマサト失笑。




