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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第三章 成り上がりは 慌てず、浮かれず、ささやかに
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65 好きな子が目指してる場所

 タイムリープ以前、「一回目」の中学校生活では、マサトはさほどケイコと親密ではなかった。

 したがって、ケイコがどこの高校に進学したのかも、マサトは知らなかった。

(でも、多分、この農業高校へ行ってたんだろうなあ)

 という推測が成り立つ。

 ケイコの置かれた境遇として、農業というのはごく自然な選択肢だからである。


 で、その前提を、横に置いておいて。

 マサト自身は、ケイコのその人生に、どう関わるのか。全く考えないというわけにも、いかないだろう。

 たしか、ケイコには弟がいる。

(実家の後継ぎは、弟さんなんだろうけどなあ……)

 そんなことを考えているうちに、正門前に着く。立ち止まる二人。


 真っ正面に、大通り風の、太い道。行き止まりに、くすんだクリーム色の校舎。ここら辺は、普通科の学校と同じだ。

 ただ、太い道の、両側が違う。

 まず、様々な大木がそびえている。さっき、近所からでも見えたものだ。都会には、このうちの一本を植えるスペースすら、そう簡単には見つからないだろう。

 とまっているセミの数も、けた違いであろう。鳴き声が合わさって、溶け合っている。厚みのある大合唱は、もはや、セミの種類も聞き分けられない。


 次に、太い道の両側に、わき道が幾つもあることだ。

 道が枝分かれした先には、それぞれ、小さな施設が設置されていた。

 例えば、倉庫や、プレハブ状の建物。または、ビニールハウス群。あるいは、畑と小屋が見える一角も。

(農村を細分化して、一区域に、分かりやすくギュッと固めた感じだなあ……)

 マサトの第一印象であった。

 首すじに、汗がにじんでくる。日が高くなってきた。


 正門のところで、学生服の男女が突っ立っているのは、なかなかに目立つ光景だったようだ。

 正門の横にある守衛所から、初老の男性警備員が出てきて、

「見学ですか?」

 声をかけてきた。青い制服姿。


 ケイコが、おかっぱの髪を片手で押さえて、

「あっ、はい。来年、受けるので、ちょっと見に来たんですけど……」

 緊張で、笑みは引きつっているが、はっきり答えた。

「御予約は?」

 警備員の声は大きく、ケイコが若干ひるんだため、マサトが割って入る。

「済みません、してないです。今日は、道を覚えようかと思いまして」

「ああ、そうですか。じゃあ、見学はここまでだなあ。悪いけど。今、夏休みでしょう。職員もね、あんまり来ておらんのですよ」


 マサトは会釈をして、

「いえ、こちらこそ、突然伺ってしまったので。お気遣きづかい、ありがとうございます」

 ほぼ同時に、

「ありがとうございます」

 と、ケイコもぺこりと頭を下げた。


 中学生らしからぬ、その礼儀正しさを、ほほえましいと感じたのだろうか。白髪混じりの警備員は、

「ここから見える範囲でよければ、軽く紹介しようか? どうします?」

「ん……と」

 とっさのことで、ケイコがマサトを見てくる。マサトが軽くうなずいたら、

「あの、じゃあ、お願いできますか?」

 警備員を振り返るケイコの声音こわねは、少し明るくなっていた。


 正門付近に立つ三人。

 初老の警備員は、敷地内のあちこちを指で差しながら、説明していく。

「あそこに見えるビニールハウスは、手前が野菜。奥が花」

 ケイコは、

「花というと、園芸部のやつもあるんですか?」

「よく調べてるねえ。あるよ」

「えっ、部活……?」

 疑問を挟んだマサトに、ケイコが首肯しゅこうして、

「お花を育てる部活なの。花びらの色の品種改良の研究とか、あと盆栽もやるんだよ」

「盆栽……」

 マサトの日常には出てこない単語に、さらに戸惑う。


 また、警備員は、別の方角の建物を指差して、

「あっちは、畜舎ちくしゃになってる。牛や豚が飼育されてるんだよ。ほら、今、ちょうど、牛の散歩をやってるね」


 警備員の解説のとおり、畜舎の外で、手綱たづなを引いて、自分の後ろに各一頭ずつ、牛を歩かせている者が三人いた。

 三人とも、グレーの作業着姿。遠目なので、性別などは分からない。

 ケイコが尋ねる。

「あの三人の人、生徒さんなんですか?」

「うん。夏休みも、交代でね」

「牛に散歩させたり、するんですねー!」

 と、マサトが驚くと、警備員より先に、ケイコが答えた。

「そりゃ、生きてるんだから、運動させなきゃ駄目でしょ。お肉も牛乳も、出来が違ってくるよ」

「まあ、大事な仕事だね。牛を、効率よく別の場所へ移動させる技術は、必ず使うからね。一年生は、最初はこわごわ、という感じだけどね」

 警備員も、当然という表情でうなずく。

 マサトは知らなかったけれど、どうやら、関係者には常識であるらしい。


「――」

 意気投合している様子の二人を前にして、マサトは疎外感を覚えた。

(なんだよ。さっきは、僕が間に入ってあげたから、警備員と話せたんだろうに。誰のおかげだよ!)

 こんな、大人げないことを思う自分が嫌で、ますます気持ちがささくれる。


 中学三年生にして、既に自分の道をしっかり見据え、しかも知識のみならず、リアルな生活の一部としているケイコ。

 対するマサト。タイムリープしてきたので、本当は「四十五歳」。それなのに、いまだ何も決められず、究めてもいない自分。


(やれやれ。今日は、ロマンチックどころか、結構、つらい日になりそうだなオイ)

 気づきたくないことに、気づいてしまった。フワフワした、自分の薄っぺらさ、中身のなさ。

(――僕は、ただ、何となく、今よりもちょっと、ハッピーな毎日になれば、それでよかったんだろうな。あーあ、やっぱり、タイムリープなんて、したくなかったぜ……)


 いつしか、マサトなどいないかのように、農業の話で盛り上がっているケイコと警備員。

 マサトは、すっかり置いてきぼりであった。

【続く】


何か、書いてるうちに内容が変わってきちゃいました。

この学校見学は、もうちょっと楽しくなる予定だったんですけどね。


お土産に、生徒が作った野菜を持ち帰るとかね(笑)。

でも、今までの筋を踏まえつつ、農業高校という舞台にマサトとケイコを配置したら、こうなってしまった。

まあ、この展開が、最も自然な流れなのでしょう。

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