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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第三章 成り上がりは 慌てず、浮かれず、ささやかに
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59 男からはしにくい注意

 相手がどう出るか、ちょっと読めない。

 が、既に、前置きは終わってしまった。

(さっさと、本題に入らなければ!)

 もし、先にリナがしゃべって、話題を変えられてしまっては、台無しである。


「コホッ」

 せき払いを一つしてから、マサトは、電車の走行音に紛れ込ませるように、リナの耳もとでぼそっと、ただし、ゆっくりとささやく。

「――まあ、中にブルマーとか体操服とか着れば、見えちゃう心配はないか」

「えっ?」

 リナは、とっさには意味をつかめなかったようだ。小首をかしげて、マサトを見上げる。

 とはいえ、一瞬ののちには、マサトの意図を把握したようだ。

 話の展開として、短いスカート、見えちゃう、と来れば、おおよそ、言いたいことは伝わるはずである。

「――」

 しかめっつら、恥じらい、ニヤニヤ笑い。リナの表情は、たった一秒ほどで、三段階も変化した。


 ヌフッと笑い、

鈴坂すずさかセーンパイ」

 わざと唇をゆっくり動かして、ねっとりと、リナは名前を呼んでくる。

「はっ、はい」

 返事が、敬語となってしまった。不覚である。

「もしかして、塾のとき、いつも私のパンツ……」

「――いや、いや、違うから!」

 マサトが焦ると、

「えー? 何が違うんですかあー?」

 リナが、意地悪くほほえみかけてくる。


 慎重にソロリ、ソロリと積み上げてきた建て前を、一気に突き崩されてしまった感じである。

 せめて、たとえウソでも、パンツは見ていないと言い張らないと、不利な展開になりそうだ。

 いや、不利というより、リナを傷つけないためにも、だ。

 実際、リナの顔は赤みを帯び、上気している。一見、余裕で茶化しているような態度であろうとも、実は今、内心はかなり恥ずかしいはずだ。


 マサトは、

「ごめん、ウソじゃないんだ。そんな、ジロジロ見てたわけでもないし……。ただ、たたみに直接座っているわけだし、これからのことも考えると、もう少し気を付けた方がいいかも、ってさ」


 リナは、何も言わない。怪しむ目つきで、軽くジーッとにらんでくる。

 顔立ちが整っているので、そういう無言の圧力も美しく、いちいち「決まる」。リナの美少女ぶりに、マサトは少しゾクリとしてしまう。


「……すっ、少なくとも、今までは見えちゃ、いなかったさ。本当だよ」

 念を押すマサト。

「――」

 リナの、下ろした長い黒髪。

 外の明かりが、車窓から差し込んで、列車の走行に合わせて横切る。それと共に、リナの髪に、キラッと光の輪っかが映り込んでは、消えた。


「――まあ、いいか。見てないってことで、信じてあげましょう」

 と、リナは両腕を、吊り革から一瞬だけ下ろし、腰に当てて、ヒョイっと背伸びをし、気取ったようなふくれっつらをした。

(うわあ……)

 まるで、美少女アニメばりのかわいさであった。マサトは見とれてしまう。

「ありがとう……」

 ホッとしたマサトが、礼を述べ、きれいに終わらせようとした時、リナが割り込んできた。

「でも、今日のパンツは、見られてもセーフかも」

 今度は、妙にニヤついている。


(この話題、まだ続くのかよ)

 心の中でボヤきつつ、

「は? ど、どうして?」

「黒いやつなの」

「そっ、そうなんだ」

 リナはこっくりして、

「白とかピンクだと、生々しいでしょ」

「生々しい、って……」

「ね、いかにも下着って感じでしょ」

「んー」

 どう答えたものか、マサトは困ってしまう。前回は、白にイチゴ柄だったのだ。そのせいでもある。

「しかも、今日のは、トカゲのイラスト入りだし。セクシーより、お笑い系なの」

 それを聞いたマサトは、同じセリフを繰り返す。男としては、他に言いようがないだろう。

「そうなんだ」

 マサトの目が泳ぐ。


「あっれえー、もしかして知ってましたあ?」

 目ざとく、リナが問いかけてくる。

(見抜かれたか……。フッ)

 もっとも、もう、マサトは動じない。

 既に、冷静さは取り戻している。マサトの「中身」は、うぶな少年ではない。ずる賢い中年男性なのだ。

 幾ら、リナが美しくて頭が良くても、しょせんは中学二年生。いつまでも振り回されるほど、マサトもナイーブではない。良くも悪くも、だが。


(ふーん。鋭い子だなあ。というか、実は僕がパンツ見てたことも、ある程度はバレてるんだろうなー)

 と分析する。

 ただ、仮に分析どおりだったとしても、マサトに道義的な罪や責任は、さほどない。スカートの中を、悪意を持って積極的にのぞき込んだというわけではないからだ。あくまで、塾での通常授業中の出来事にすぎず、原因もリナにある。

 強いて言えば、初回で指摘すべきところを、黙ってスルーしていたのは問題かもしれぬ。ただ、男に、しかも中学生に、そこまで要求するのはこくというものだろう。


 そんなことを考えながら、優しい声音こわねでマサトは答える。すっかり「四十代」の、たしなめる口調になっていた。


「見てないって言ってるでしょ。あとね、駄目だよ、公共の場で、女の子があんまり無防備に、下着の話とかをしちゃ」

「んっ。……っ。――はーい」

 リナは、何か言葉を飲み込んでいる気配だったが、あきらめのようなため息をもらすと、素直に応じた。

 マサトの表情の奥から、「中学生離れした」迫力を、敏感に感じ取ったのかもしれない。


 うまい具合に、電車も駅に着いた。

 先に降りるのはマサトだ。東京都に住むリナは、このまま乗り続ける。

 ドア越しに、軽く手を振り合った。


 さて。

 それからというもの、秋月あきづき塾では、リナは座り方に気をつけるようになった。

 ただ、スカートの中に、「チラ見え防止」用のブルマーなどを履くようにしたのかは、分からなかった。


 というのは。

 まず、スカート丈がやや長くなったのだ。放課後に短く巻くのを、少なめにしたのだろう。

 また、リナが、別人のように品の良い座り方となり、スカートの中を見せなくなったからである。

 あぐらも、立て膝もやめていた。立ち上がる時にも、脚を斜めの角度にして、膝の正面を相手に向けなくなった。

 マサトは舌を巻く。

(大したもんだ。オフィスの大人の女性でも、ここまで脚さばきのきれいな人、いないぜ……)


 中学二年生の子供が、これほど短時間で、自らの行動を完璧に修正できるものであろうか。

(きっと、最相さいしょうさんは、僕とは頭の出来が違うんだろうなあ)

 少々、打ちのめされるマサトであった。なお、「最相さいしょう」は、リナの名字である。


 有名な名門校に受かるのだから、この程度の応用力・適応力など当然なのだろう。きっと、親の社会的地位も高く、実家も裕福であるに違いない。

(嫌な言い方だけど、人種というか、ヒエラルキーが異なる連中らしいね。まあ、秋月塾に来なければ、出会えなかったタイプの人間だわな)


 そして、実に意外なことだが、その「裕福な御実家」を自分の目で確かめる機会は、すぐに訪れた。

 ほどなくして、リナから誘いがあったのだ。何でも、弟がマサトに会いたがっているというのだ。

「弟さん?」

「はい。三歳違いなんですけど。鈴坂先輩のことを何度か話したら、ぜひ会ってみたいって」

 と、リナはうなずいた。

「どうして?」

「どのジャンルの音楽にも詳しいのが、超すごいって。話を聞きたいって言ってるんです」

【続く】


下着丸見えはまずくても、シャツなどに多少透けてる程度なら、毎日着替えてる女性本人が気づいてないとも思えませんから、「多少見られても、別にいいや。透けるのをゼロには出来ないし」辺りが、女性陣の平均的な本音なんじゃないかなあと、私は思ってるんですけどね。


となると、我ら男性は、見て見ぬ振り・ただしジロジロ見ない、ぐらいが正解な気がします。


本人に言うのは勇気が要るし(しかも、『知ってるよ! 余計なこと言うなよ』だったら、勇気の出し損ですし)、「代わりに、他の女性から言ってもらう」ってのも、ちょっとハードル高いですよね。

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