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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
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47 乾杯は青と青

 それから二人は、ショッピングセンター隣のグラウンドの周りを、並んで歩く。

 小道はぬかるんでおり、ところどころに石もあり、自転車を押すケイコは、時々、「よっ」と力を込めていた。

 ただ、大変ではないらしい。ケイコは体格ががっしりしていて、体力もあり、むしろ楽しそうでもある。


 グラウンドにも草が混じっているが、ネットは高く、それなりに本格的な野球場である。地元の少年野球チームが拠点にしている。

(このチーム、タイムリープ前に気まぐれでネット検索したら、四十周年とやらで、少子化なのにまだ続いてたからなあ。この立派なグラウンドのおかげかもな)

 マサトはチームに入ったことはないが、小学生の頃、近所で所属している子たちがいた。


 既に夕暮れであり、グラウンドとその周りに目につくのは、飼い犬の散歩と、ジョギングの者だけだ。

 ひっそりした道を歩きながら、二人は、先ほど買ったスポーツドリンク缶をあける。

 缶のプルタブは、まだ、リングが外れるタイプであった。これは旧式である。

 新しいタイプは、リングを折り返して缶と一体化させる方式。まだ過渡期であり、現時点では、新旧が入り混じっている。数年以内に、新しいタイプへと置き換わっていくはずだ。


 マサトは立ち止まって、

「じゃあ、乾杯!」

 うれしいことに、ケイコは「何に?」などと野暮なことは聞き返さず、乗ってきてくれた。

「……乾杯。今日はいろいろあったよね」

 と、ケイコがほほえんだ。

 マサトは、

「助かりました」

「いえいえ、あたしも」

 ガチンと、青い缶をぶつけ合う。

 ほぼ同時に、一口飲む。


 冷えた甘さが、のどから体内へ伝う。思わず、

「うまい!」

 タイムリープ前を含めたら、もう何回飲んだか分からない、おなじみのこのスポーツドリンク。でも、今までで一番うまいかもしれない。

 タイムリープで緊張の連続だった、その疲労。女の子と二人きりという喜び。その辺りが理由だろう。


「うん、おいしいね」

 ケイコは、二口目からは、ゴクゴクとラッパ飲みをしている。早くも半分ほどを飲んだようだ。

「飲むねー! やっぱり、部活で水分失ってたのか」

「かもね。終わった直後にも、お水飲んだんだけどね」

 ケイコは満足げに、ふうと息を吐く。つき始めた街灯に、濡れた唇が光った。


 グラウンドの周辺歩きを、再開する。

 もうすぐ、日が完全に落ちそうだ。ケイコの紺色のセーラー服が、夕暮れの暗さに、溶け込み始めている。

 きっと、マサトの学ランは、黒いので、なおさらだろう。


 ふと、ケイコが別の話題を振った。ぽつりと、

「……鈴坂すずさか君、今日はバズばく、歌わないね」

(ええっ! なんで、ここでいきなり、バズ爆?)

 唐突さと、気恥ずかしさに、マサトは顔面がカアッと熱くなり、声を立てて笑ってしまう。

「ハハハハッ! 僕、そんなに歌ってた?」

 「中身」が四十代のマサトは、つい、過去形になってしまったが、ごく自然に、ケイコは現在形で答える。

「いつも、口ずさんでるじゃん」

「そうかー?」

「そうだよ」

 チラッと横を見たら、ケイコが深くうなずいていた。ケイコのニヤついた顔は、面白がるというより、「何、とぼけてるのよ」と責めているようにすら見えた。

(そうか、そんなにか)

 ケイコが言うのなら、そうなのだろう。

(まだ、忘れてることがあるんだなあ……)


 正式名は、「バズー爆銃ばくがん」。日本のロックバンドである。男性四人。中高生時代、マサトはファンだったのだ。

 ボーカルは、スキンヘッドにサングラスがトレードマークだった。

 タイムリープしてくる前の「現代」においては、バズ爆はとっくに活動休止後だった。

 とはいうものの、元メンバーは初老になっても、動画サイトやライブハウスで音楽活動を続けていた。


 マサトの中学時代は、バズ爆のメンバーも三十代初め、あぶらの乗った時期だ。

 若者のカリスマ、と呼べるほどの影響力はなかったが、テレビ、ラジオによく出演し、有名なメジャーバンドであった。


「じゃあ、せっかくだから、ちょっと歌おうか?」

 と、マサトがせき払いすると、

「うん」

 うなずいてから、ケイコは首を逆向きにグーッとそらして、スポーツドリンクを飲み干す。セーラー服のカラーが、ケイコの背中を下がった。

(さーて、何を歌おっかなあ)

 歩きつつ、マサトはスーッと深く息を吸う。

【続く】


作者と同世代の方々には、元ネタのバンド名、モロ分かりでしょうな(笑)。


実名で出しちゃおうかなあとも思ったんですが(既に、モーツァルトとショパンと大地讃頌は登場してますし)、でも、そうすると、歌う場面を書きにくくなりますからね。安易に、歌詞を引用するわけにもいかないでしょうから。


バンド名も歌詞も、自前で御用意いたそうと思います。

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