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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
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46 日暮れ前・横顔と鳥・記念品

 酒屋「かねくら」で購入したスポーツドリンク二缶は、ビニール袋ごと、マサトが手に提げる。通学カバンと一緒に持つ。

 店を出て、商店街のひさしの下を歩く。ケイコが支えた自転車の車輪が、ゆっくりと回り、横でキリキリと音を立てる。


 やや離れて、道路の向こうに、先ほどのスーパーマーケットが見えた。「イェッキス」の英字看板が、オレンジ色の逆光に陰っている。電柱や木々の影は、地面に長く伸びている。


「ゲームがある! これ、懐かしい!」

 ケイコが、自転車を押す手を止めて、小さく歓声を上げる。

 商店街の軒下のきしたの隅っこに、人の身長くらいの四角い機械が二台、設置されていた。

 きれいとは言えない。さびたり、塗装がはがれたりしている。

 機械の前面には、大きな円が描かれており、等間隔で数字が割り振られている。言わば電子ルーレットだ。


「なっかなか当たらないんだよな、これ」

 マサトは、小学生の頃に時々やっていた。中学生になると、飽きていたけれど。

 既に、この時代には、衰退し始めていた種類のゲームである。世の中の主流は、ビデオゲームに移行していたのだ。

 この筐体きょうたいいたみ具合が、それを物語っていよう。タイムリープ後の現時点ですら、恐らく、もはや新しい台は製造されていまい。


 マサトの言葉に、ケイコが同意して、

「まあねー。メダル出ても、結局、全部使っちゃって、最後はなくなっちゃうよね。あたしも、遊園地でやったことあるけど」

 二人の間で、空気がギュッと凝縮した。

「……やろうか、一回だけ」

 マサトが誘うと、

「いいね。一回ずつね」

 ニヤッとして、ケイコも乗ってきた。共犯者のような、いたずらっぽい笑みだった。きっと、マサトも同じ顔だったに違いない。


 これとて、厳密には校則違反かもしれないが、商店街に設置された子供用である。素早く一回やるくらい、構わないだろう。

(まあ、さっき、アイスを食べるのをパスしたのだしな)

 という、妙なバランス感覚も働いた。

(アイスキャンデーが五十円だとしたら、こっちは一回十円。罪も、五分の一さ)

 などとも思った。勝手な言い草ではあるけれど。


 まず、マサトが十円玉を出し、投入口にシャリーンと押し込む。

 すると、デモンストレーションで動いていた光がピタッと止まり、ドゥウンッという低音とともに、ゲームが始まる。

 機械の下部に、四角いボタンがマス目状に並んでいる。無難に、「2」のボタンを押す。

「やっぱ、2か」

 ケイコが笑う。

「そりゃあね」

 ケイコの方を見ずに答えながら、右上の丸いスタートボタンを押す。単純なゲームであり、基本操作は以上で終わりだ。


 電子ルーレットが回りだす。リリリリリと高音が鳴り、輪になった番号の上を、小さな光が時計回りでなぞっていく。やがて速度が落ち、光は「10」で止まった。

「ああー!」

 二人の、ため息と笑い混じりの悲鳴が重なる。

 ゲーム結果はハズレである。

 要は、ルーレットが止まる番号を予想するのだ。当たれば、その数だけのメダルが出てくる。数字の最小は2。最大が30。

 メダル一枚で、同じゲームが一回出来る。

 他愛たわいのないゲームだが、

(大人になってからよく考えてみれば、これって、まんまギャンブルだよな。競馬やカジノと変わらん。数字が小さい方が、当たる確率は上がるわけだし……)

 もっとも、このゲームによって、ギャンブルの怖さを学んだ子供も多いだろう。マサトも、その一人ではあるのだ。


 続いて、ケイコも「2」に賭けて、見事に的中。

「おおーっ!」

「やったあ!」

 と、自転車を片腕で支えたまま、ケイコが跳ねる。

 機械の下から、チャリン、チャリンッと、小さな銀色のメダルが二枚出てきた。

 ケイコは気前よく、

「はい、一枚あげる」

 マサトがクッと笑って、

「いいの?」

 受け取って、手のひらに載せると、英語と、人の横顔の絵がられていて、ぱっと見は、外国の硬貨に見えなくもない。

 だが、細かな傷が付いていたり、裏と表の向きがそろっていなかったり、作りは安っぽい。

「あたしはこれ」

 ケイコがつまんで掲げたメダルには、鳥のイラストが刻印されていた。


 マサトは、

「ありがとう。記念に取っとこ」

「じゃあ、あたしも」

 マサトは財布へ、ケイコはスカートの前ポケットへ、それぞれメダルをしまう。


 何の記念かは、あえて言わなかった。

 マサトとしては、「放課後デート」まがいのことをした、楽しい青春の記念である。

 あるいは、タイムリープ初日にケイコと一緒に過ごせた思い出。または、いろいろなことをマサトに気づかせてくれた、ケイコに対する感謝。

 それらを記念してのことであった。

【続く】


本稿の執筆を機に知りましたが、このメダルゲーム、「ピカデリーサーカス」という名前なんですね。


作者が子供の頃、同世代の男の子二人が(面識なし)、目の前で、何とメダル30枚を当てたのを目撃したことがあります。

「30枚なんて、本当に出るんだ!」と、ビックリしました。ウソだと思ってた。


二人は、メダル取り出し口に何度も手を突っ込んで、大量のメダルをかき出しては、「スゲエ、スゲエ!」と大笑い、大興奮。うらやましかったなあ。

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