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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
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45 ルールを破る素敵さ・それでも守るカッコ良さ

 マサトは、びっくりすると同時に、強い納得も覚え、しばし、妙な気分に包まれた。価値観が逆戻りして、後ろ向きに更新されたような感覚。

(そうだよ、そりゃそうだ! 僕は今、まだ中学生じゃねえか。ただの、義務教育中の子供。学校帰りに物を食うなんて、駄目に決まってんだろ! 何考えてんだ)

 もはや、自分は中年男性でも社会人でもない。分かっているつもりで、つい、大人の意識で行動していた。

 いや。

 中学生に戻って、セーラー服の女の子と仲良くしている。そのことに浮かれて、緊張感を欠いてはいなかったか。


「……すっ、済まん。校則のこと、頭から抜けてたわ。そのとおりだよ。しかも、制服だし、こんな、学校の近くでさ。……じゃあ、アイスは、やめよう。ごめん」

 それを聞いたケイコは、一目ではっきり分かるほど、あからさまにホッとした表情に変わり、フーッと息を吐き出して、

「よかった」

「えっ」

鈴坂すずさか君が、不良になっちゃったかと思ったの」

「――」

「鈴坂君は、校則とか、ルールとか、ちゃんと守る人だって、いつも思ってたから」


(うわあ。アイタタタタ。痛えなあ……)

 ズキン。

 マサトの胸の奥が、針先で突かれたように、かなりしっかりと痛んだ。

「気を使わせてたんだね。本当に、ごめん」

 すぐに、もう一度謝る。

「ううん」

 ケイコが首を振り、セーラー服のスカーフを片手で触って、スウッと離した。スカーフの赤い先端が揺れた。


 さっき、アイスを食べないかと、学校の廊下で誘った時、ケイコが異様に赤面していた理由も、ようやく合点がいった。

 照れていたというのも、あろう。しかし、それに加え、「ルールを守る真面目な人」だったマサトが、校則違反の提案をしてきたことが、多分、ショックだったに違いない。


「……じゃあさ、代わりに、自動販売機でスポーツドリンクでも買おうか? せっかく、こうして二人で会ってるんだし、それぐらいならさ。どう?」

 こうやって、即座に次の提案ができるのは、場数を踏んだ、元サラリーマンの強みだろう。悪いことばかりではないのだ。

「……うん!」

 ケイコが、コクンとうなずいた。


 二人が、酒屋前から離れようとした時だった。

 目の前の自動ドアが、ガーッと開いて、上下、青い服を着た男性が出てきた。

「やっぱり! マサト君じゃないか!」

 人懐っこい声で、男性はにこやかに話しかけてきた。

 いかにも酒屋の店主といった感じの格好で、濃紺の前掛けをしていた。年は、四十歳を超えた程度だろう。タイムリープ前のマサトと同じくらいか。


「あっ、こんにちは」

 反射的に、とりあえずあいさつをするマサト。またしても、「元社会人」の機転がいた。

(ええと……)

 その実、思い出すのに、さらに四秒もかかってしまったけれど、

(そうだった、そういえば、この酒屋の店長とは、一応、子供の頃、顔見知りだったな)

 母親に連れられて買い物に来ているうちに、名前を覚えられていたのだ。幼児期には、かわいがってもらった記憶もある。

 もっとも、中学生以降は、余り話していなかった気がする。


 店長は、腕まくりした上着で、自分のひげに片手を持っていき、感慨深げに、

「大きくなったなあ。そっちの子、ガールフレンドかい? いつの間にか、マサト君も、彼女連れで歩くようになったんだなあ!」

 店長に悪気はないのだろうけれど、

(ったく! セクハラだぜ、その発言。まあ、この時代の人に言っても、分からねえか)

 あきれるマサトだったが、今すべき役割を果たす。

 すなわち、自分が仲介し、ケイコと店長に対して、双方についての紹介を無難に済ませる。


 この二人も、早速、打ち解けて、

「お嬢さんは、うちで買い物したことは、ない?」

 ケイコは、

「たぶん。今言ったとおり、あたしの家、川の反対側の農家ですから。あっちはあっちで、別の商店街もあって。こっちは、ちょっと遠いの」

 店長は、

「なるほどねえ。それで、自転車で通学してるってわけだ」

「そうです」


 ここで、店長は、商売人の顔に戻り、

「アイス、見てたの? おひとつ、いかが? 新発売のもありますよ」

 ケイコがマサトを見てきたので、

「ん。それも、ちょっと思ったんですけどね。でも、中学校、買い食い禁止なんですよ」

 と、マサトが答えた。

 店長は、「ふうむ」と思案してから、ふと、思いついたように手をポンとたたき、

「――じゃあ、中に入りなよ。今、ちょうど、お客さんいないから。レジの近くに、スペースがあるんだよ。そこで、隠れて食べちゃえば、分からないよ」

「えっ……」

 予想外の提案に、マサトは驚く。

「ね、そうしなよ。荷物全部持って、自転車だけ、そこに停めてさ」

 物分かりのいい顔で、店長がうなずいてくる。


 横に立つケイコと、顔を見合わせる。

 やはり、ケイコも驚いていた。ただ、喜んでいる気配はなく、どちらかというと迷惑そうだ。

(だよな)

 たった今、子供同士で、結論を出したばかり。マサトも、数回、ケイコに謝ったのだ。今さら、大人に余計なことをしてほしくはない。

 マサトとしても、実は、即座に「お断り一択」と腹は固まっていたのだ。

「ん? あれっ、嫌かな? 別に無理にとは……」

 店長も、そこは商売人。雰囲気を敏感に察する。


 ただ、マサトの「中身」は中年男性。

 店長の気持ちも、それはそれで分かるのだ。十代の若者を応援し、いい思い出を作らせてあげたいということだろう。「粋なはからい」というやつを、したいわけだ。

(そういうのも、分かりますよ。とても分かります。分かるんだけど)

 「中年男性」同士、感謝を込めた一言を――。


 マサトは口を開く。

「ありがとうございます。それを実行したら、きっと忘れられない思い出になりますよね。あの時、かねくらという酒屋さんで、店長さんのはからいで、特別にアイス食べたよねって、大人になっても懐かしむんでしょうね」

 考え考え、続きを述べる。

「……でも、店長さんは、幼い頃からの僕を御存じです。中学生になって、僕も徐々に、校則とか、社会のルールの中に生きるようになりました。ルールの内側でも、人は楽しむことが出来るのだと思います。そして、僕を育てた景色の中では、そういう姿こそ見せていきたい気がします」


 言いながら、

(ちょっとクサいかなあ)

 と自分でも思わなくもなかったが、こういう気取った表現の方が、角が立たないはずである。


 マサトの言葉に、店長は、うなり、せき払いをした。それは、一旦は茶化そうとして、やめることに決めたサインであろうか。社会人としての良心を、思い出したのかもしれない。

 最後に、大きくうなずいて、

「立派になったね、マサト君。うん、そのとおりですね」

 気持ちのいい笑みだった。

 マサトは、

「その代わりと言ってはナンですが、スポーツドリンク、ありませんか? 後で飲もうと思って。スポーツドリンクなら、下校途中の水分補給ってことで、理屈は通ると思うんです」

 自動販売機で買う予定だったが、変更。相手の顔を立てることにもなる。

 ひそかにケイコを見たら、目が合って、小さくうなずいていた。

「――もちろん、あるとも! かねくらは、大抵のソフトドリンクもそろっております。どうぞ、中へお入りください」

 店長は、今度は声を立てて晴れやかに笑う。つられて、ケイコもふふっと笑った。

【続く】


今回の話は、案が二転三転しながら、本文の感じに落ち着きました。


・校則違反にマサトが気づき、「ごめん、アイスは撤回でいい? 地味だけど、スポドリに変更で」と告げる


・校則違反にケイコが気づく(以下同じ)。酒屋から立ち去る


・酒屋の店長の提案を受け入れて、店内でこっそりアイスを食べる


なろう的には、最後のやつが盛り上がった気もしますけどね。狭い場所で、女の子と体を寄せるようにアイスを食べたら、ドキドキしそうですし。


でも、ケイコの「マサト君は、ルールを守る人だと思ってた」のセリフを書いた時、ごく自然に、この場面はフッと消えたのでした。

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