44 カプセルトイより女の子ッ・当たり前!
我に返るように、マサトは謝罪する。
「……ごめん、しゃべり過ぎた」
ケイコの口もとから、笑みは消えていたものの、表情に冷たさはない。
ゆっくり、かぶりを振る。おかっぱ頭の髪が、シャシャッと揺れて、薄暗くなりかけた夕方の空気に、針のような残像を見せた。
「身近な大人の人で、そういう人がいたの?」
「まあ……うん、それに近いかな。本で読んだ内容とかもあるけど」
マサトは肯定する。まさか、タイムリープの件を、匂わせるわけにもいくまい。
「男の子にも、いろいろあるんだね。――あたしも、いっぱいしゃべっちゃったし」
ケイコがとりなす。
「いや……」
マサトは下を向く。
直後、カタンという音がしたので、振り返ると、ケイコが両腕で自転車を支え、足で、後輪のスタンドを横にしたところだった。
「そろそろ移動しよっか。ずっと、ここにいるのもね」
確かに、そのとおりだった。スーパーの入り口付近である。結構、目立つ。
「そうだな。アイス食わなきゃ、だし。本来の目的、忘れちゃ駄目だよな」
と、マサトは向かいの商店街を指差し、
「あの酒屋さんの前で、アイス売ってたと思うんだ」
「前?」
「アイスだけ、外で売ってるの」
店名も覚えている。たしか「かねくら」だ。子供の頃には、母に連れられて、よく行った。
(中学の頃は、まだ、潰れてなかったと思うんだけどなあ)
スーパーと商店街の間には、駐車場も兼ねた広めの道路があり、三十メートルは離れている。ここからでは、お店がよく見えないのだ。
商店街の屋根にも、軒の辺りにヒラヒラした飾りが垂れ下がっており、目隠しになっている。
二人で、道路を横切る。マサトの右隣で、ケイコが自転車を押して歩く。
道路の中央に、植え込みとベンチがあり、そばには、「ガチャガチャ」が二段重ねでズラリと設置されている。小型の自販機だ。
どれも、さび付いている。百円玉を挟んで、ハンドルを回すと、カプセルに入ったおもちゃが出てくる仕組みだ。
ガチャガチャ自体は、タイムリープ前の「現代」にもあったが、すっかり大企業に乗っ取られ、やけに洗練されてしまった印象だった。
(このころのガチャガチャは、どこの会社が作ったのかも分からない、怪しげな商品であふれてて、楽しかったよなー)
通り過ぎつつ、端っこの一つをちらりと見てみたら、ピストル型の腕時計があった。カッコいい。マサトは小さく、フッと笑う。
(まさに、ああいう奴だ。見本以外の商品も入っています、って奴。ピストル型時計を百円で買えるわけ、ないもんな。実際は、変な人形とかシールとかしか、出てこねえんだよな)
ゆっくり見てみたい気もしたが、今は、それどころではない。横にいる女の子の方が、はるかに大事だ。「一回目」の青春時代には、手に入らなかった場面。
(ガチャガチャなんて、後で幾らでも見られるんだ!)
二人で、道路の向こう側へ渡る。
段差の手前で、それに沿って横移動する。商店街の、軒先である。
左から、床屋、薬局、本屋。その隣が、目指す酒屋であった。
見上げたら、木の看板があり、店名は、やはり「かねくら」であった。
透明の自動ドア。店内の棚が見える。酒びんでびっしりだ。
店先には、冷凍ショーケースが置いてある。ふたは透明。傾斜になっていて、奥が高い。前後にスライドさせて開閉する。
(ああ。懐かしいものばかりだな。こういう、アイスだけ外で売る方式も、僕が大人になる頃には、減ってたよな)
というより、個人商店が減っていったのかもしれない。
「わあ、アイスキャンデーいっぱいだ。おいしそう」
自転車を支えたまま、ケイコが上からのぞき込む。
隣のマサトも、前かがみでケースの中を眺めながら、
「好きなの、一本どうぞ。ごちそうしますよ」
この時代の相場は、五十円かそこらだったはずだ。高くても百円。
ところが。
「ねえ、でもさ、さっきから気になってたんだけど、あの……ごめんね」
「えっ」
急に謝られて、マサトは面食らう。
膝を曲げた姿勢で、右のケイコを見る。すると、まゆ毛の両端を下げたケイコと視線が合う。
「水を差すみたいで悪いんだけど。うちの中学って、校則で、買い食い禁止じゃなかったっけ?」
【続く】
ピストル型の時計、欲しかったですねえ。当てたかった。
「遊べる時計・玉だってちゃんと出る・カッコいい」などという宣伝文句でね。あおる、あおる(笑)。
見本の写真では、たしか、銃の握りの所がデジタルウォッチになっててね。
自販機一台につき、一個ぐらいは、入ってたのかしら。
そうだとして、どこで作ってたんだろう。
地方の町工場? それとも中国製?
まあ、でも、いわゆる銀玉鉄砲に(これも、今の若者は御存じないでしょうな)、時計をくっつければいいんだから、技術的にはそんなに難しくもないんですかね。




