表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
43/67

43 ヒロイン論は 子供が帰った後から

 次のセリフがなかなか浮かばずに、マサトは首元へ手をやり、ネクタイを直そうとする。だが、ネクタイなど締めていない。

(おっと、つい、サラリーマン時代の癖が出ちまった)

 代わりに、学ランの詰めえりのホックを留めて、また外す。

(こいつが、新たな癖になりそうだな。気まずくなって、数秒間のゆとりが欲しい時の……)

 心の中で、小さく笑う。


 ケイコの方も、時間かせぎをしたいのか、膝に絡まったスカートを、うつむいて指先でつまんで直している。


 と、そこへ、童謡「夕焼小焼」のメロディーが響いた。キンキンと高い音。鐘とオルゴールの中間くらいだ。

 町なかのスピーカーが流している。いわゆる、五時のチャイムである。


「子供は帰る時間か……」

 マサトのつぶやきどおり、商店街の子供たちはバラバラと去ってゆく。まだ、周囲は明るいけれど、一つの区切りにはなる。

 スマホ、携帯電話もない時代である。腕時計を持っている子供も一部だ。「夕焼小焼が鳴ったら家に帰ってきなさい」と、親と約束させられていた子供は多い。マサトも、小学校低学年の頃はそうであった。


「あたしらも子供だけどねえ」

 ケイコが笑う。

 つぶやきを聞き流されなかったので、マサトはホッとした。気まずさを解消することに、積極的に協力してくれたことがうれしい。


「そうだね」

 と、マサトも笑い、

「まあ、僕らは今、ようやく待ち合わせ時刻なわけだから、もうちょっと遊んでもいいよね」

「ここからは、ちょっと大人の時間?」

 言ってしまってから、ケイコは地面に目を落とす。大胆過ぎたと思ったか。

 マサトも、とっさにはフォローできず、少し沈黙を作ってしまう。

(まずい。何て返そう? ……あっ、そうだ)

 やっと、話題が思い浮かぶ。

「――井崎いざきさんは、門限とかってあるの?」

 ケイコが、安堵あんどしたように顔を上げて、

「何時までとかは、ないけど。暗くなる前に帰っておいでね、って。一応、女の子だからね」

「一応って何よ」

 マサトがツッコむと、

「男っぽいじゃん」

「誰が?」

「あたしが、だよ。鈴坂すずさか君、白々しいよ」

 ケイコがふくれて、軽くにらんでくる。が、自分でやっていて恥ずかしくなったのか、プウッと息を吹いて、口のふくらみを解いた。


 マサトはキュンとなり、

(うわあ、今の、かわいかったなあ!)

 この表情がきっちりとキマるのは、まさに中学生の今だけだろう。それを、タイムリープという「インチキ」をしているとはいえ、中学生という「同じ立場」で、そばで見られたことが幸せだった。


 ただし、「今の、かわいかったぜ」などと口に出すのも、それはそれで軽薄に思えた。

(何しろ、僕が生きていた未来・令和の時代は、女の子らしさどころか、ジェンダーフリー、LGBTの世界だからなあ……)

 それで世の中が、無条件に良くなったとは思わない。

 功罪あるのだとしても、だ。

 「社会人」として、世間から浮かないように、それなりに真面目に考え続けてきたと自負している。

 そんな自分が、二度目の青春で、長年の人生経験を通じて、ケイコに告げるべきこととは、何だろうか。


「男だからこうだとか、女だからこうだとか、そういうのは、古い価値観だと思うけどね。今後、減っていくんじゃねえの」

「うーん……」

 ケイコは首をかしげる。

 マサトは、

「納得できない?」


 ケイコの苦笑いは、優しさを含んでいた。今から反論するけれど、別にマサトを責めたいわけではないんだよ、ということか。

「おまえ、男みたいだ、とか、ずっと言われ続けてきた身としてはね。男の子って、やっぱり、やせてて、おしとやかな女の子が好きじゃん」

「なんで、そう思うの?」

「漫画とかドラマとか。そういう子ばっかりでしょ。あたし、声も低いしさ。私は、求められてないんだよ。別枠というかさ。世の中に入っていけない感、分かるかなー」

 マサトは、学ランの中に着たシャツの、首の下辺りをつまんで、空気を取り込むように、パタパタと前後に振りながら、

「それは、そっちの方が、ストーリーを進める上で、都合がいいからじゃないの?」

「どういうこと?」

「ヒロインが弱くて上品であれば、主人公の男がちょっと荒っぽいだけで目立てるから。お話を簡単に作れるわけ」

「ああ、そういう意味か」


 ケイコが賛同する気配を示したので、マサトは勢いづく。

(普段から思ってること、今、言っちゃうか)

 マサトの内部で、何だか、スイッチが入る。

 マサトをタイムリープへと誘い込んだ、あの妖精の顔が、ふと浮かんだ。

「で、ここからが重要なんだけどさ」

 と前置きする。少々、持論を展開してみたい。

 ケイコは黙ってうなずき、聞いてますよの姿勢を見せる。


「ほとんどの男は、小中学生の頃、ガールフレンドも彼女もいないわけ」

「だろうね。で?」

「じゃあ、女の子への憧れを、どこで昇華するのか。ズバリそれは、フィクションの世界でしょう。まさしく、漫画とか、ドラマとかだよね」

「ははーん」

 ケイコが、いたずらっぽくニヤリとした。さっきの苦笑とは、明らかに違う。話が見えてきたようだ。

 短く、ケイコが口を挟む。

「そういうのを見て育った人は……」

 マサトは感激した。話を、真面目に聞いてくれていることが、分かったからである。


 マサトは先を続ける。

 ケイコの優しさに、思いを引き出されたのだろうか。言葉があふれ出して、止まらなくなる。


「そう、そう。漫画みたいな青春を、追い求めてしまうわけだ。おしとやかで従順な女の子像が、頭から消えない。寂しい時、慰めてくれる女の子。ちょっと道徳的な善行をしただけで、褒めてくれる女の子。自尊心を満たしたい時、泣いて自分を頼ってくれる女の子。けど、そんな場面は現実にはない。大人になって、それらが全部ウソで、ただの作り話で、おとぎ話で、幻想だったことに気づくんだ。で、もう少し現実的に生きようと思った頃には、もう遅い。気がつけば、既に青春時代は終わっているんだ」


 ここでマサトは、ケイコの黒い瞳から顔をそむけた。

 夢中でしゃべっているうちに、いつの間にか、マサト自身の話になっていたからだ。

【続く】


昔、子供の頃。

夕方、近所の男の子十人ほどで遊んでいた時。


突然、そのうち一人の親御さんが、迎えに来たの。

「何やってるの。遅いから心配したよ。もうすぐ六時だよ」


その場にいた僕らはびっくり。

「ええっ!」「まだ、五時の夕焼小焼、鳴ってないけどね」


帰宅したら、母が言うには、「いや、今日もちゃんと鳴ってたよ。他の人も一緒にいたから、間違いないよ」とのこと。


別に、僕らは遠出も、騒ぎもしてなかったのに。

そもそも、夕焼小焼のメロディーは長くて、一分ぐらいはあります。

それを、あれだけの人数が聞こえなかったなんて。


未だに、あれは何だったのだろうと不思議です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ