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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
42/67

42 学生カバンに入りにくい

 買い物カゴを下げたマサトは、次に文房具売り場へ移動。クリアファイルを探すためである。

 プリントや返却済みテストなど、学校の書類を整理したいのだ。


(ただ、この時代には、まだ普及してない可能性があるんだよなー)

 予感は当たってしまった。

 紙を分類する文具としては、パンチで二つ穴をあけて、ホルダーにとじる方式のものだけ。

(仕方ない。当面、これで我慢しよう。パンチは、お母さんが持ってたはず)

 クリアファイルが身近な物として広まり、販促や景品などにも使われ出すのは、まだ先だ。少なくとも、「あと五年」程度は待たなければならないだろう。


 お菓子売り場をのぞくと、タイムリープ前の「現代」には消えていた商品も、幾つかあった。ジョイントさせるロボットの、オマケ入りガムなど。

「おお、ミスター・スナッキー!」

 声が出てしまい、半ズボン姿の男の子が、いぶかしげに振り返ってきた。

 マサトは、そのスナック菓子を手に取る。コーンパフで、油っこくて、味が濃いのだ。袋には、勇ましい男のイラストと、「ひと足お先の旨さッ!」のアオリ文句。

(今、食っても、うまいと感じるかなあ)

 試してみたい気もしたが、先ほど財布の中身をちゃんと見たら、四千円くらいしか入っていなかった。無駄遣いはやめておこう。


 あとは、ぐるりと店内をゆっくり一周して、懐かしさにひたる。

 店内に流れているのは、平成なかばのヒット曲。マサトには「懐メロ」だが、この時代としては、まだ最近の歌となろう。

 食品売り場などは、リープ前のスーパーと余り変わらない。ただ、コロッケなどのお惣菜そうざいの包装の仕方が、若干、甘い気がする。


 それから、レジで会計を済ませる。

 店員から「袋はりますか?」などと聞かれることなく、当たり前のように、白いレジ袋に入れてくれた。スーパー「イェッキス」の、赤いロゴ入りの袋だ。

(わー……)

 またもマサトは、少しグッと来てしまう。「年を取る」と、涙もろくなるようだ。


 店の外に出て、入り口付近に立つ。

 買ったものを、袋ごと学生カバンにしまい込もうとしたが、生理ナプキンと、ファイルとでは大きさが違い過ぎた。でこぼこして、うまくおさまらない。

(ナプキンはやわらかいし、形が崩れないように、カバンの奥に入れるか)

 しゃがんだマサトが、レジ袋からナプキンを取り出した時。

 自転車が、すぐそばでキッと止まる音。


 マサトが顔を上げると、

「あっ!」

 思わず声が出た。

(早っ! もう来たのかー)

 自転車にまたがった、セーラー服姿の少女がいた。マサトを見下ろしている。白い通学ヘルメットをかぶっているが、誰かはすぐ分かった。

 ケイコであった。

 長めの紺色スカート。そのすそが、自転車の後輪に触れていた。


 ケイコは、マサトが手にした生理ナプキンのパックを見て、ちょっと身を固くした。見ちゃいけない物を見てしまった、という反応だった。

「あ……。ん。ごめん……」

 マサトと一度しっかり目を合わせてから、顔を横へ回すケイコ。

「いや、無防備に出し入れしてた僕のせいだから。気にしないで。早かったね」

 マサトは、おだやかに答えた。中身は「四十代」のマサトである、これぐらいでは動じない。


 一方のケイコは、やはり現役中学生。それなりに焦っているようで、フォローしようとしてくる。

「……そっか。アイリちゃんか。年齢的に、そろそろだもんね」

 とケイコ。マサトの家族構成を、ケイコは知っているのだ。

 ナプキンをしまったマサトは、次に、ファイルをレジ袋ごと、カバンにガサガサと押し込みながら、

「まあさ、その辺はプライバシーってことで、勘弁してくれ。親類の誰かに頼まれたってことでさ」

「それはそうだね。ごめん」

 ケイコの声が小さくなる。口調も、マサトみたいに大人っぽかった。

 沈黙を埋めるように、自転車用ヘルメットを脱いで、ケイコはハンドルに引っ掛ける。次に、軽く首を振る。


 ケイコが自転車から下りるのと、マサトが立ち上がるのが、同時だった。至近距離で向き合う。汗の匂いがした。

 ヘルメットと汗のせいか、ケイコのおかっぱ頭は、両端の形が少々崩れていた。

「そうだ」

 急に何かを思いついたのか、ケイコは片足で後輪の辺りをバーンと蹴る。自転車のスタンドを縦にしたのだ。

「ごめん、五分ぐらい待ってて。ちょっと、自転車、見ててくれる?」

「え、いいけど……」

 マサトが言い終わらぬうちに、ケイコはスーパーの中へ一人で入っていく。


(急に何だー? トイレとかか?)

 ケイコの意図が読めず、スーパーの入り口近くで立ちつくす。かたわらの自転車のカゴには、ケイコのカバンも置いたままだ。ミニ・シューズのキーホルダーがかわいい。

 ふと、時計を見ると、午後四時五十分。

(何だ、約束の待ち合わせ時刻の、もう十分前だったのか。別に、早過ぎるわけでもなかったんだな)

 さっき、スーパー内をウロウロしているうちに、時間が経っていたらしい。


 ケイコは、すぐにスーパーから出てきた。五分も掛かっていないと思う。

「ごめん。お待たせ」

「!」

 マサトはギョッとする。

 ケイコの手には、生理用ナプキンが一パック、握られていたからだ。

「せっかくだから、あたしも買っておこうと思って。あたしも、次のが、もうすぐ来そうなんだ」

「――」

 予想の斜め上を行く展開に、マサトはポカンと口をあける。

 お構いなしに、大股で自転車へ歩み寄るケイコ。スカートの裾が、ケイコのふくらはぎにぶつかってバサバサ揺れる。

 自転車の前カゴに入れたカバンをあけ、買ったばかりのナプキンを放り込む。


 無言というのも気まずいので、マサトは、声を振り絞る。

「……こっ、これで、おあいこという意味?」

 カバンのファスナーを閉めつつ、ケイコはこちらを向く。さすがに、顔は赤くなっていた。

「まあね。おあいこというか、一方的に秘密に触れちゃったら悪いかなーって。あとは、お互い、同じくらい重たいものをカバンに入れてる、というか。……うーん、ごめん、何か、うまく言えないけど」

 はにかみ笑いとも違う、どこか気高い笑顔で、ケイコが答えた。

 マサトは息を吸い込み、

「いや、言えてるよ」

「そうかな?」

「驚いたけど。あと、僕は男で部外者だから、女の子の大変さを、分かった気になっちゃ駄目だけど。でも、ちゃんと言えてるよ」

 と、マサトはうなずいた。

 ケイコも、何かしゃべろうとして唇を動かすが、声にならない。

 言葉にすることをあきらめたか、乱れている髪を、片手でしばらくでつけていた。

【続く】


ジョイントロボ、作者は買ったことないんですよね。

でも、当時はお菓子売り場でとにかく目立ってましたからね。ネット検索してみたら、当然のように、今も根強い人気でした。


小説本文のスナック菓子(商標の関係もあるかもしれませんので、表記は少し変えています)、現在も同名の商品が販売されていますけど、恐らく別物じゃないかと思うんですよね。

いかにも小学生男子好みの、化学調味料系の旨味がバリバリのスナックでして(笑)。また食べてみたい、思い出の味なのです。

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