41 ショッピングセンター・約束二つ
ケイコの所属する陸上部は、午後四時半に上がれるということなので、待ち合わせは五時に決まった。
場所は、中学校付近、坂を下った先のショッピングセンター。そこのスーパーマーケット前。今朝、登校途中で妹のアイリと別れた、例の地点である。
(スゲエな。放課後に女の子と待ち合わせなんて、生まれて初めてだ!)
大げさに言えば、人生初デートかもしれない。
タイムリープ前、マサトには恋人がいたことはないし、婚活中も、二回目のデートまで行ったことは、ほとんどなかったからだ。
(意外と、リープ初日から、随分飛ばしてるなあ、僕)
興奮しつつ、マサトも部活へ。放送部。帰りが遅くなることは少ない。
体育祭や文化祭の期間以外は、暇なのである。顧問も、部活には余り参加せず、生徒任せ。
放送室を「根城」に、だらだら遊んでサボっているだけ、と言ったら語弊があるけれど、実態はそれに近い。
放送室へ軽く顔を出すと、高屋や後輩たちと少し雑談しただけで、マサトは早々に帰った。
まだタイムリープ初日でもあり、余り長居をしてボロを出したくない、という事情もあった。
なお、三年生の放送部員は五人。全員男子。B組はマサトのみである。
下校する。午後四時前だ。
昇降口を抜けると、右側にグラウンド。駐車場を隔てた向こうなので、誰が何をしているのかまでは見えない。野球部だろうか、「しまって行こー!」「バッチコーイ!」などと、盛んに声を上げている男子たち。
正門を出て、戸建てに挟まれた道を抜け、坂を歩いて下る。外はまだまだ明るく、陽も高めだ。
ジャージ姿の一団が、ジョギングで追い抜いていく。男子が多いようだ。どこの運動部だろうか、やはり、走りながら声を上げている。
先頭が、
「アー、レイッ」
後続の者が声をそろえて、
「ウェッソ、ウェッソ、ウェッソレイ!」
彼らを見送りながら、マサトは密かに吹き出す。
(結局、あれって、何て言ってるのかな? タイムリープしても、未だに分からない僕……)
「一回目」の中学校生活から、謎だったのだ。まあ、わざわざ確かめるほどには、興味ないけれど。
ショッピングセンターへ。
まず、小さな郵便局がある。その横を左折した奥、右手に商店街。長屋のような造りで、簡易な屋根付き、二階エリアもある。結構、騒がしい。
目につくのは、さまざまな体格の小学生たち。何人かで固まって、「ガチャガチャ」と呼ばれる玩具自販機の前にたむろしたり、階段に座り込んだり。バギーを押した、若い母親たちも目立つ。
(このころは、あんまり少子化も進んでなかったんだな)
むしろ、老人が見当たらない。
商店街の向かいが、大きめのスーパーマーケット、「イェッキス」である。英語ロゴの、巨大な丸看板。
(うっわあ、懐かしいなあー)
見上げて、ちょっと涙ぐみそうになる。「あと十年」ほどでつぶれ、「その後」は、老人施設に変わることとなるのだ。
広さは、コンビニ三軒分くらいか。建物は、大きくコの字を描いている。平屋だが、屋根は高く、吹き抜け状の箇所もある。
(今、四時過ぎか。まだ随分早いけど、先にアイリの生理ナプキンを買わなきゃだしな)
丸く平べったいドアノブを手で押して、スーパーの中へ入る。
生理用品の売り場へ行くと、
「ありゃ、結構、種類あるな」
夜用、多い日用、お徳用……。どうやら、初潮や子供用に特化した物は、ないらしい。
中には、生理ではなく、普段使いの製品もあり、
(何これ? いわゆる、おりものってやつか? 代用も出来るのかな?)
全然、区別がつかぬ。
どれを買えばいいのか分からず、近くの女店員に声をかける。二十代後半か。縦じまの制服姿。
「済みません」
「ん? 何かな?」
いきなりの「タメ口」に、一瞬カチンと来たが、今、自分の外見は中学生の少年であることを思い出す。
「生理用品を探してるんですよ。親類の小学生に、初めての生理が来まして。生理になりたて、初心者向けのナプキンって、どの辺の奴がいいでしょうか?」
「一回目」のリアル中学時代だったら、恥ずかしくてとても聞けなかったはずだ。
店員も、少年らしからぬマサトのしっかりした口調に、驚きの色を見せたが、すぐ、
「それなら、これかな」
と、教えてくれた。
「ありがとうございます」
「偉いね。頑張ってね、お兄ちゃん」
女性店員はにっこりした。ほほえましいものを眺める眼差しで。
内心、
(うっせえわ。妹とは言ってねえだろ。人のプライバシーに立ち入るんじゃねえや)
と毒づいたが、
「恐れ入ります。お世話さまでした」
バカ丁寧に、サラリーマン流のお礼をかましてやった。
一瞬だが、店員の笑顔がひきつる。マサトは、「フン」と、小さく鼻を鳴らす。
(まあ、プライバシー意識も、僕がいた二十一世紀・令和とは違うのだしな。逆に言えば、このころはまだ、おせっかいな人がいっぱいいて、他人に干渉してたんだなあ)
考えようによっては、古き良き時代、ということなのかもしれない。
【続く】
中学校時代、自分は何時頃に帰宅してたんだろう。もちろん忘れちゃいました。日記などもなく。
でも、ネットでいろいろ調べていたら、当時、「鳥人戦隊ジェットマン」を17時30分から放映していたことが判明。
毎週、学校から帰って、家のテレビで見てたので(中学生としては子供っぽいため、クラスメイトからはバカにされたものだけど、結構、大人向けのストーリーでした)、大いに参考となり。
あの頃、ジェットマンを見るために急いで帰ったという記憶はないので(笑)、17時半には余裕で帰宅できていたわけですね。
ということで、ケイコとの待ち合わせは17時となったのでした。
もし、真っ暗だったら雰囲気が出ないので、5月初め前後の日没時刻も、国立天文台のサイトで調べて。
幸い、この季節の17時は、まだ十分に明るいようでした。




