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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
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40 体、少年 心も少年

 教室と廊下の境目に立ったケイコの顔が、はっきりと紅潮した。

(えええっ! そっ、そんなに?)

 マサトは動揺する。一方、意外なと言っては失礼だが、いきなりの乙女らしさにドキッとした。


 教室の明かりを消したため、光源は夕方の日光と、廊下の遠い蛍光灯だ。顔には陰影が増えていた。だから、光の加減もあろう。

 けれども、さっきビキニショーツの話をした時よりも、明らかに顔は赤い。


「――」

 沈黙が、たっぷり三秒は続いた。さすがに長い。

(うわっ、ヤバ!)

 マサトはフォローする。

「……済まん、とっ、突然過ぎたか」

「ん……」

 一瞬うつむいたケイコが、おかっぱ頭をツッと上げたら、大きな黒い瞳が、窓の光にキラッと反射した。少し、涙で潤んでいるようだ。

(ゲッ、ウソだろ、泣かせた?)

 さらに焦るマサトだが。

(――いや、落ち着け、落ち着くんだ……)

 同時に、冷静な自分もいた。

 ここは、「大人」であるマサトに全責任がある。一緒に照れている場合ではない。

(相手は、本当は三十歳も年下なんだ。僕がしっかりしないでどうする)

 マサトは、思いをストレートに告げることにした。ケイコ相手に、気取りやごまかしは不要であろう。また、それは失礼でもある。


「お、驚かせるつもりじゃなくてさ。ごめん。もうちょっと、井崎いざきさんと話したいなと思って。で、今朝の件のおわびとか、お礼も込めて、アイスでもどうかなって。いきなりアイスも唐突かな? けど、ほら、練習の後は暑いって言ったから。というより、井崎さんと食べたくて……あっ、でも、変な意味じゃないんだよね、そうなんだよ、ないんだけど……」


 ところが、冷静だったのは、最初だけ。途中から、早口になっていた。ケイコを傷つけたくない一心だった。

 たとえ、マサトの正体は「四十代」であろうとも、不器用で純真な、「少年の心」だって、残っているのだ。それが、まさに「少年の体」に乗り移っているわけだ。

 さぞかし、いびつで、ちぐはぐで、カッコ悪くて、だけども妙に、熱心で、必死で、リアルだったに違いない。


「ブーッ!」

 よっぽど、おかしかったのだろう。ケイコが、豪快に吹き出した。

 つばが飛んできて、マサトのあごに付く。

「わッ! ごめ……」

「んっ。大丈夫ッ……」

 と、親指の先で、マサトはそれをぬぐう。

 ケイコ自身も大変なことになっていて、少しだが、鼻水が垂れていた。

「ヤダ」

 とっさに、ケイコは体操服シャツの首周りを片手で引っ張り上げて、鼻の下をグイッとき取る。

 へそは見えなかったが、シャツがペロンとめくれて、ケイコのわき腹の素肌が見えた。日焼けした顔や脚より、ちょっと色白だ。

(おおっ!)

 マサトの目線がそちらへと下がる。

「コラ!」

 ブルマーを履いた脚で、ケイコが軽く蹴ってくる。マサトが後ろへ飛びのく。


「――」

「……」

 余りのバカバカしさに、次の瞬間、はじかれたように、二人で同時に大笑いした。

 ケイコも声は低いが、それでも女の子の低音であり、マサトの方が低い。

 ハモるかのように、二つの笑声が重なる。緊張が解けたせいもあるのだろう、笑いが止まらない。

「あははははは!」

「あははっ、ククッ、クックックッ!」

 と、マサトは立っていられず、廊下の床へ、ガクッと片膝を突いた。


 ケイコは、笑いつつ無防備に股を大開きにして、しゃがみ込む。

(うわっ……!)

 薄いショーツ型のブルマーで、その体勢はまずい。

 隠すべきクロッチ部分が正面を向くし、脚の素肌は、太ももの裏の、つけ根まで見えてしまう――。女っぽい腰周りの形も丸わかりで、一番奥の秘部――。


(よせ)

 マサトは自重する。

(駄目駄目。もう、やめ。発情期のガキじゃねえんだから)

 まだ笑いながらも、マサトは目をそむけ、顔を横へ向けた。「大人」の男のたしなみ、思い遣りとして。


 通りすがりの生徒が三、四人、あきれて立ち止まり、苦笑・失笑しては去っていった。気が変になった二人、そう見えていただろうか。

 しばらく笑ってから、互いによろよろと立ち上がる。

 ケイコは、もはや明確に涙ぐんでいるが、もちろん、今度のは笑い過ぎによるものだ。

 丸みを帯びた指で、目の下を二回ほど横へスッと走らせ、涙を拭き取っている。


(ああ、笑ったなあ……)

 マサトも、少々ぐったり気味だ。腹筋が痛い。

 今朝の放送室では、高屋たかやにお付き合いで笑ったけれど、今のは本当に、腹を抱えて大笑いしてしまった。

 つかの間ではあったけれど、「少年マサト」に戻れたのかもしれない。


 突っ立ったまま、目を合わせ、もう一度ずつ、

「ププッ」

「ププッ」

 と吹き出す。


 マサトは、ソフトな口調で、ゆっくりとまとめる。

「……これじゃ、ちょっとまらないよね。やっぱり、一旦いったん別れてから、今日、後でまた会いませんか?」

 ケイコは、紺のブルマーの前あたりで、股間を隠すように両手をスススとそろえて、

「ん。ええ。そうですね。もっかい会いましょーか」

 こちらもなぜか丁寧語で、おどけるようにペコッとうなずいたのだった。

【続く】


もう小学生ほどには原始的・本能的でないにせよ、まだ高校生ほどにはスマートでもない。

カッコ悪くなりがちな、中学生。

男女交際の始まりも、これぐらいの「やらかし」がちょうどいいのかなあと思いました。


考えてみると、(朝、教室で着替えていた以上、)朝練で着たシャツを、カバンにしまい込んで、夕方にまた着てる可能性が高いわけでしょう、ケイコは。じゃあ、今さら、鼻水くらい拭いたってね、っていう。


ブルマーだって、ずっとスカートの中に履きっぱなしなわけだし……。そのスカートは学生服だから、きっと全然洗ってないわけでね。


青春を、一度通り過ぎて、もう一回やるとなると……。

どうしたって、そういう、ある種の不潔さ、マイルドに言い換えるなら大らかさを、受け入れるしかないのだよなーと。

私は、そんなことを思いながら今話を書いたのでした。

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