4 格差社会ではロマンチックなんて
手のひらサイズの女性は、申しわけなさそうに頭を下げて、
「ところが、もう、私どもで、タイムリープはセットしてしまいました。既にタイムリープは確定事項で、取り消し・変更は出来ないのです。あすの朝、寝床で目覚めたら、自動的・強制的に、マサトさんは十五歳の頃に戻っているのです」
「なっ……!」
一瞬、マサトの頭に血が上った。幾ら何でも、あんまりではないか。言葉が出ない。
「私たちは魔法の世界の住人です。人間の願望を読み取り、手助けするのが任務です。今までは、それを読み違えたことはなかったはずなんですが……」
それを聞いたマサトは、怒りを抑えつつ、さとす。
「あのな、妖精さん。人間の気持ちは複雑なんですよ。そりゃあ、青春時代に女の子と付き合いたかった、もっと注目されたかった、未練はいろいろあるでしょうよ。けどね、そんなことより、安定した職業で、快適に仕事ができて、クビにもならない、ちゃんと給料がもらえる、そっちの方がはるかに価値があるんですよ。好きな物が買える、うまい物が食える。ねえ、分かるでしょう、この格差社会で! この安心感に比べたら、灰色の青春が何だと言うんだ。モテないくらい、彼女がいないくらい、どうってこたないですよ。やっと手に入れたのに! 正社員の肩書きと、それなりの貯金と! ささやかな幸せ。どうしてくれるんだ。また、最初からやれというのか。あんまりじゃないか……」
最後の方は、泣き声になりかけた。
【続く】
作者の私自身、「相も変わらず彼女なし人生だけど、仕事帰りには外食で好きなものを喰えるし、新刊の漫画本もたくさん買えるし、少なくとも自分の学生時代よりは、サラリーマンの今の方がハッピーだよなあ」とは思いますからねえ。
異世界転生はともかく(笑)、過去へ戻りたいとは、余り思わないかも。皆さんはどうですか?
あしたは始業式