表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
35/67

35 実は楽しみ方が少ないタイムリープ

 溝岩みぞいわは、教師の中でも要注意人物である。ナメて掛かってはいけない。

 ただ、これだけ強烈なキャラなのだ。とても、人望があるとは思えない。間違いなく、教師の同僚にも敬遠され、煙たがられているはず。

 生徒からは嫌われているけど、先生同士では好かれている、というのは、基本的にはあり得ない。一事いちじ万事ばんじだ。


 「年を取る」と、こういう裏側も、見えるようになる。

 タイムリープ前、「一回目」の人生でマサトがつとめた会社でも、空気の読めない同僚は孤立気味だった。それと全く同じだ。


(僕は、厳しい民間で、二十年以上、働いたからなあ。溝岩は、地方公務員の甘い世界で、せいぜい勤続十年。しかも、変人で嫌われ者。敵じゃないよな)

 腹の中で、相手を値踏みするマサトであった。

 我ながら、打算的・排他的で不健全な発想だとは思う。

 が、一方、こういう隠微いんびなカタルシスも、タイムリープの醍醐味だいごみなのだろうな、とも思うのだ。


「おい、黙ってないで、何とか言えよ」

 マサトが勝手な優越感に酔っていると、溝岩がにらんでくる。何か答えろよ、一方的な小言では済まさないぞ、という圧力であった。

(さてと……)

 ともあれ、今は、目先の状況に対処しなければならない。

 マサトは、

「いや、なんか、済みませんでした。掃除の時間が始まった時、放送室で機械とかがバタバタしておりまして。作業の引き継ぎがうまくいかず、二人で分担してアナウンスをしたのです。先ほど、顧問の佐倉さくら先生からも、お電話にてお叱りをいただきまして、以後注意するということで、御指導をお受けしました」


 決して嫌味ではなく、卑屈でもなく、一定の速度で礼儀正しく話す。目も、まっすぐに見返す。

「――」

 溝岩は、何か言い返そうとして、数回、口を開いたが、立て板に水のマサトに気圧けおされたのか、結局、黙ったままで、最後まで聞いているだけだった。


 マサトを「四十代」とするなら、この言葉づかいは「いんぎん無礼」ということになるだろう。

 だが、マサトは、あくまで十五歳の中学生。目上の教師に敬語を使うのは当たり前であり、溝岩としても、そこを怒ることは出来ない。

 もし、「お前、中学生にしては敬語がうま過ぎるんだよ。生意気だ。ナメてるのか!」などと突っかかったら、さすがに言いがかりである。上司の教頭たちも、黙ってはいまい。溝岩といえど、上層部は怖かろう。


 全ては、タイムリープした本人だからこそ可能な「遊び・おちょくり」である。

(やべえ、やべえ。結構おもしれえわ、これ。自粛しないと、クセになりそうだぜ)

 マサトは、ほくそ笑む。

 もっとも、

(相手を明確に傷つけるわけでもないんだし、教え子のささやかな仕返しとしては、これぐらい許されてもいいんじゃねえか?)

 という本音もある。


 もっと言えば、タイムリープの楽しみ方として、一体、他に何があるというのだ。

 タイムリープ「仕掛け人」とも言うべき妖精と、この件はとっくに話し合って、はっきり確認済みである。


 つまり。

 ルックスや頭脳や、感性など、新たなスペックでも付けてくれない限りは。

 平凡なサラリーマンは、「たかがタイムリープした程度のこと」では、大きな変化は望めない。美しい恋人も、有名歌手の肩書きも、手に入れられはしないのだ。

 人生を一回巻き戻したところで、凡人・一般人に奇跡など起こらない。


 昔の嫌な先生に対して、小さなうらみを晴らして、ちょっと屈折した快感に浸る。そりゃ、褒められた行為ではないけれど。

(別に、いいよな。やれることなんて、せいぜい、それぐらいしかないだろ)

 マサトは、胸の奥で、自分に言い聞かせるのだった。


 それとも。

 もし、あの妖精が再び現れたなら。

「だから、そういう後ろ向きな思考が駄目なんですよ、マサトさん」

 などと言って、あきれて首を横に振るのだろうか。

【続く】


作者は小・中学生時代、陽気なお調子者でしたから(今も余り変わってないかもだけど)、溝岩先生のようなタイプの教師とも、当時、実はそれなりにうまくやれていました。女性教師も、男性教師も。


怒られて泣かされても、後で笑い話になっちゃうみたいなところがあった。

何回注意されても騒ぐ私に、最後は、さじを投げたのか、「いいなあ、君。悩みなんか、何にもないんだろうね」とおっしゃった「溝岩先生タイプの一人」もいました。

あの、疲れたような苦笑いは、未だに忘れられません。


先日、その先生の氏名をググってみたら、数年前に退職されてました。恐らくは定年で。

まあ、同姓同名の可能性もありますが。

(自治体の公報に、公立学校の人事異動が載ってたの。ちょっと怖い時代だなあとも思うけれど。)


先生、お疲れさまでした。

あなたが予言されたとおり、僕は文章の道へ進みました。(小説家ではなく、サラリーマンでしたけれども。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ