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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
33/67

33 現役恩師、二回目教え子 越えた壁・越えられない壁

 とはいえ、

(弁で勝てるからって、言い方には気をつけないと、ただの、こまっしゃくれた嫌味なガキになっちゃうよなー)

 一方で、マサトが気がかりなのは、以上の点であった。


 特に、タイムリープ前の「一回目」の中学校生活でも、佐倉さくらは、決してマサトが反感を持っていた先生ではない。むしろ、仲が良かったのだ。

 自分の恩師を、「二回目」の青春で、おとしめたくはない。


 ただし。

 だからといって、「一回目」をなぞるかのように、ひたすら「子供」を演じて、従順に振る舞うのも、たぶん違う。

 このタイムリープに、何らかの意味があるというのなら。

 それは、「前回」の青春時代を、「中年になった」自分が、新たな視点や価値観で、上手に修正・更新していくことなのではないだろうか。多少、大胆な言動があっても、よかろう。調子に乗り過ぎなければ、だ。


(そうだよな、要は、何事もバランスが大切なのだろうな、きっと)

 そんなことを素早く考えながら、マサトは受話器へしゃべる。

「まず、僕が遅刻をしてしまって、佐倉先生や高屋たかや君に迷惑をかけてしまったのが全ての原因です。一番悪いのは僕、というのは大前提として」

 と、最初に自分を下げる。

 電話の向こうで、佐倉は黙っている。昔から、生徒の話は真面目に聞く先生だった。


 マサトは、先を続ける。とにかく、「ウケ狙いではなかった」ことさえ、認めさせればいい。

「……掃除の時間が始まった時に、僕と高屋君が、二人同時に放送室にいたことも、また事実です。これは初めてのことで、僕は動揺してしまいました」

「ああ。それで?」

 ようやく、相づちが入った。佐倉の口調は静かになっていた。

 マサトは、さらに話してゆく。

 言っていることは、こじつけである。でも、筋は通っており、崩すことは出来ないはずだ。

「ここで、高屋君が読まずに僕が読んだら、今、高屋君が放送室にいた証拠が残らないなとか、でも僕も読まないと、せっかく来た意味がないなとか、いろいろ迷ってしまいました。で、チャイムが鳴って、焦ってるうちに、じゃあ原稿を半分ずつ読めば、双方のアリバイにもなるし、まあ、その、ベストとは言えずとも、まあベターな方法かなあとは思ってしまったんです」

「……それで、どうだった?」

「はい?」

 佐倉先生を、手のひらの上で転がしているつもりのマサトだったが、これは読めなかった。

 思わず聞き返すマサトに、佐倉は、

「ベターだったか?」

「――」

 マサトは驚いた。佐倉の声音こわねが、はっきりと優しくなっていたからだ。

 そろそろ許してやるかと、落としどころを探っている様子が、はっきり伝わってきた。


(くそっ)

 泣きはしなかったが、マサトに、グッと込み上げてくるものがあった。

 昔、佐倉先生からこんなふうに説教されたことを、急に思い出してしまったからだ。不覚にも。

「……いえ、ベターじゃありませんでした。やっぱり、どちらかが最後まで読むべきだったと思います。済みませんでした」

 こう答えるしかなかった。

 この、マサトの一言だけは、ほぼ演技抜きで、自然に、神妙なものとなった。


(んー。勝ってはいないかなあ。むしろ負け……いや、痛み分けかな)

 自己分析し、マサトは率直にそう思った。

【続く】


執筆当初は、「中年になって人生経験豊富な主人公が、過去へタイムリープして、当時のクラスメイトや恩師に無双する」みたいな話にしようかなあ、なーんて思っていたんですが。


書き進めるうちに、男女の壁とか、師弟の壁とか(まあ、担任と生徒を『師弟』はオーバーかもだけど)、「人生経験を倍、積もうと、越えられないものもある」というテーマに変わりつつあるのを感じています。


普遍的な他者への敬意、みたいな……これとて、ありがちっちゃありがちかもしれませんけどね。

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