3 スペック同じじゃ戻ってもむなしい
一息ついて、マサトは尋ねる。
「今さら確認しますけど、タイムリープしても、何かスペックを新たに追加してくれるわけじゃ、ないんでしょう? イケメンにしてくれるとか、頭を良くしてくれるとか」
小さな女性は、背中の羽根を揺らしながら苦笑し、
「まあ、はい、そうですね。能力は当時と同じです。新たに加わるのは、リープ前の記憶だけです。リープ先には、メモ類も一切持ち込めません」
「じゃあ、例えば、宝くじの当せん番号も、丸暗記するしかないわけだ。昔の新聞記事を検索すれば、番号自体は調べがつくでしょう。でも、十五歳の頃といえば、自由は制限されてました。行動は親に管理されてたし、未成年だし、賞金を自由に引き換えすることも多分出来ない。十五歳時点で大金を手にしても、メリットってそんなにないでしょうな。しかも、西暦何年の第何回の宝くじか、一回でも間違えちゃったら終わりだし。先に、誰かに買われちゃうかもだし。そもそも、組から番号まで、ぴったり希望通りの番号の宝くじって、買えるんでしたっけ? 不確定要素が多過ぎますよ。こんな、わずかな可能性に賭けて、もう一回青春をやり直せとおっしゃるんですか? 冗談じゃないよ」
手のひらサイズの女性がうつむいた。気まずい沈黙。
やがて、女性はおずおずと語り出す。
「――でも、マサトさんは、青春に強い未練をお持ちですよね? その強烈な波動が、魔法の世界まで届いたからこそ、こうして私がつかわされたわけです」
「波動って……。そんなに強かったですか?」
「ええ、かなり。ですから、タイムリープさせて差し上げようと決めたのです」
マサトは苦笑し、
「何でそうなるの。話がでかくなり過ぎでしょ。そりゃ、自分の人生に心から大満足してるわけじゃないですよ。本音では、もっと光り輝いた青春を送りたかった。けど、たとえ戻れたって、恋も夢も、無理そうでしょ? 今、説明したとおりですよ。それに、過去に未練や後悔があることと、今の生活に満足することとは、両立し得ますよ。放といてくれ。頼みますから、もう、余計なことはしないでください」
【続く】
次回、ここまで言われて、妖精の返答は果たして。