28 迎え入れ、送り出し 教室、放送室
ケイコは、胸元の赤いスカーフを指先でササッと整えたあと、
「あと、それはそれとしてさ。さっき、佐倉先生が探してたよ」
少し離れたところから、別の男子生徒も話しかけてくる。
「そうそう。鈴坂、今日、放送担当じゃない?」
マサトは、
(おっ、なんか懐かしい声。誰だっけ?)
声のした方を振り返ったら、
(おお、田丸!)
少し天然パーマ状の髪。大きめの耳。
タイムリープ前の「一回目」では、かなり仲良しだった。「その後」は別々の高校へ進学したが、年賀状のやり取りは数年続いたと記憶している。
「そうなんだよ。遅れちゃって」
ケイコ、田丸の順で、
「じゃあ、早く放送室行きなよ!」
「チャイム鳴るぞ!」
せかすような口ぶりに、周囲からも笑いが漏れる。
(……ああ、二人して、話題を変えようとしてくれてるんだな)
心遣いに感謝しつつ、
「うん。カバン置かなきゃ。ええと、僕の席は……」
この後に続けて、「どこだったっけ。動揺して、ど忘れしちゃった」と言おうとしたのだが、
「貸して、ほら!」
何と、ケイコが、にゅっと右腕を差し出してきたので、マサトは、思わずカバンを手渡してしまう。
紺色のセーラー服の袖口は、まだボタンが留められておらず、白と紺のしましま模様の布が、だらりと手首に垂れていた。
マサトのカバンを持ったケイコは、小走りに、窓付近の、前から三番目の机まで行き、
「これ、横に掛けとくよ。いい?」
と、振り向いてくる。
あっけにとられながらも、
「あ、ああ。どうもありが――」
「いいから! さっさと行った行った!」
じれったそうに、ケイコがさえぎる。
「んん。済まん!」
叫び返して、マサトは走り、前のドアから教室を出た。
「こけるなよー!」
「走れ、鈴坂!」
「急げっ!」
「放送部、万歳!」
などと、クラスメイトのからかうような笑い声が、背中へ浴びせかけられる。
(そうか。僕って、中学時代は、割と、いじられキャラだったっけ?)
いずれにしても、三年B組の教室では、幸い、マサトは善意に迎え入れられ、善意に送り出された形である。
結果論だが、マサトの席の場所も、怪しまれずに無事に知ることができた。これは、ケイコに感謝しかない。
「あっ、そうか――」
中学校の廊下を早歩きしながら、ふと、マサトは気づいた。
タイムリープする前、妖精はマサトに対してこう言った。「青春時代への未練が、強烈な波動となって放出されていた」と。
その正体は、もしかしたら。
成長し、社会人となるにつれ、徐々に周囲から失われていった、こういう優しさ、暖かさなのかもしれない。
【続く】
今話は、作者として予想外のところへ着地しました。
最後の考察など、完全に、執筆時点のひらめきでした(もうけたぜ!・笑)。
また、マサトが自分の席を探す件に関しても、
・当てずっぽうで「ここだっけ?」とカバンを置いたら、クラスメイトが「違うだろ。動揺してんじゃねえよ、向こうだろ!」と教えてくれる
・教卓の上に席順表が置いてある
・三年生に進級したばかりで、出席番号順だった
・一目でマサトの机と分かる何かが、横に掛かっていた
の四案があったのですが、小説本文の形となりました。
ケイコが、当初案よりどんどん「いい人」になってしまうのは、マサトというより作者が、このキャラに甘えたい・癒やされたいからなんでしょうね。
何しろ、執筆前には、「よくも、のぞいてくれたなー」なんてセリフを言わせる予定だったんですよ。
この変わりよう(笑)。




