26 いざ、三年B組 下駄箱、座席表
クラスの下駄箱に、一人一人の名前は載っていなかった。番号があるのみだ。
(僕の出席番号は、十一番だったよな)
昨夜、タイムリープ前に、卒業文集で確かめたのだ。
(どこだ? ……右上から、下へ数えるようだなー)
見つけた。フタはなく、中が見える。上下の仕切り、上段が上履き。
「――」
入っていた上履きを手先でつまんで、そろりそろりと引き出すと、つま先の上面に「すずさか」と名前が書いてあった。自分の字だ。
マサトは、「その後」の人生でも、習字などはやっていない。ゆえに、中学時代から筆跡は変化していないのだ。
「ビンゴ!」
マサトの上履きであった。素早く履き替えて、次は教室へ向かう。
(教室の場所はもう忘れちゃったけど、三年生なんだから、普通は三階だよなー)
見当をつけて、階段を上っていく。
すぐ、セーラー服姿の少女二人組に追い越される。外見も仕草も、とても幼く見えた。
「……」
ふと、中年男性の自分が、中学校へこんな無防備に入り込んでいいのだろうか、通報されたりしないだろうか、という恐怖が頭をよぎる。
無理もないことであろう。タイムリープしたばかりで、まだまだ、中年気分が抜けないのだ。
だが、その直後、マサトの正面に、大きな鏡が現れた。踊り場の壁に、設置された物だ。
「うおおっ!」
自然に声がもれた。
タイムリープ後に鏡を見たのは二度目だが、全身を映したのは初めてである。
「――」
学ラン姿のマサト。十代の幼い顔。もし、年を取った自分が学ランを着たなら、コスプレにすぎない。しかし、そうではないのだ。ちゃんと、服の中身も若い。
まさに少年。誰が見ても、現役の中学生である。
(僕、本当に、本当にタイムリープしたのだなあ……)
改めて、そのことを実感し、同時に、思い知るのだった。
後ろから階段を上ってきた男子生徒が、マサトの背後で立ち止まり、
「なーに自分に見とれてんだよ」
と、マサトの肩を軽くたたいてきた。
鏡越しに目を合わせると、マサトと同じくらいの体格。にやにやしていた。
振り返り、とっさに、
「いや、髪にゴミがさ……」
でまかせを言うマサト。
その男子は、「へへっ」と笑って、マサトを追い抜いて、階段を上っていった。
明らかに、知っている顔だった。昔、見覚えのある顔。だが、名前もクラスも思い出せぬ。
(まあ、そのうち分かるだろ)
とりあえず、マサトに対して友好的な生徒が、最低一人いることは確認できたわけで、幸先は良い。
当時、マサトは、クラスでも放送部でも、人間関係はそれなりにうまくいっていたと記憶している。
よって、さほど心配する必要はないのだけども、
(何しろ、三十年も経ってるからなあ。トラブルとかで、忘れてることもあるかもしれねえよなー)
油断はできない。
三階の廊下を歩き出したら、長身の男子生徒とすれ違う。
(おおっ、武田だ! やっぱり、でけー)
こいつのことは、よく覚えている。たしか、クラスも一緒だ。身長は、百八十は軽く超えている。
なお、マサトは、百七十センチ程度だ。
(教室、見つけた!)
三年B組の表札を見上げる。ここだ。
お次の関門としては、
(自分の席がどこだか、分からないことだよな。誰かに聞くのも変だしな。教卓の上に、座席表とか、置いてあったっけ?)
などと考えながら、三年B組の、後ろのドアを横へ引いて、ガラガラとあける。
すると……。
「キャあ!」
「おいおいおい!」
女子の悲鳴と、遠くからは男子の責める声も。ざわつく教室。
「――っ!」
何と、教室の後ろ辺り、今、マサトがあけたドアの近くで、女子が一名、着替えていたのだ。
【続く】
作者の中高生時代、女子たちとしても、
・男子に着替えを見られるのは嫌だ(当たり前)
・でも、毎回更衣室へ行くのも面倒
・別に、がっつり下着姿とかさらすわけでもないし……
という微妙な心境だったみたいですね。
中高生の頃って、男は子供だったけど、女だって子供でしたからね。
みんながちゃんと用心深かったかといえば、そうでもなくて、結構いい加減な女の子も多かった気がします。




