22 なぜ赤飯を炊く風習があるのか
(ああ、なるほどな)
マサトにも、思い当たる節があった。
というのは、タイムリープ前の「一回目」の時、夕食に赤飯を出されて、アイリはかなり迷惑そうな反応をしていたのを、覚えているからだ。
「やっぱり、恥ずかしいから?」
アイリは、一瞬だけ横目でマサトを見上げ、
「うん。パパに知られるのも嫌だしさ。それに、生理にお赤飯って……。それってさ、血の色ってことでしょ? そのまま過ぎるじゃん」
マサトは、顔の前で左手を振って、
「いやいや。さすがにそれは、偶然の一致だろ? 本来の由来は、別だと思うぞ」
ポケットからスマホを出して検索しようとして、マサトの手が止まる。
(アホか、僕は……)
今の時代には、スマホはおろか、持ち歩きの携帯電話すら普及していないのだ。無論、インターネットも。
アイリの口調は、整然としていた。
「違ったとしても、お尻から血が出てるところを、食事中に想像しながらご飯食べるのって、なーんか汚らしくない?」
この直接的な物言いが、いかにも小学生っぽいなあと、マサトは妙に感心しながら、
「――そうねえ。んー。何だろうな。みんなが、食卓の女の子を遠巻きに取り囲んで、なんつーか、そのものをズバリ、はっきりと言わないで、こそこそネタにしてる感じが、僕も、余り好きじゃないかもな」
難しい言い回しになってしまったが、考え考え、マサトはゆっくり説明する。これぐらいなら、小学六年生にも十分伝わるだろう。
アイリが、全身で賛意を示した。飛び跳ねる、とまでは行かずとも、それに近い動きをした。
「すごい! それだ! そんな感じだよ。やっぱ、お兄ちゃん変わったよ」
「うん」
妹から褒められてうれしいが、通学路は短い。そろそろ結論を出さないと、学校へ着いてしまう。
時間配分と、有効活用。これも、サラリーマンのたしなみだ。
「じゃあさ、アイリの生理が今日始まったことは、お母さんには言わないでおこう。ただし、僕の生理の知識は、あくまで本で読んだものにすぎない。お母さんじゃないと分からないことも、絶対あると思う。女同士だもんね。だから、近いうちに、タイミングを見て、お母さんには話した方がいいよ」
「うーん。……まあ、それはそうか。でも、なんて言えばいいかな?」
それなら、簡単に思いつく。
「学校で生理が突然始まっちゃって、友達とか保健室の先生に相談して、ナプキンもらった、やり方も聞いた、でいいと思うよ」
「保健室か! なるほど、いいね、それ!」
アイリが瞳を見開いた。
「……で、林間学校の時のナプキンとかも使ったら、今回は何とかなっちゃった。でも、今後のことで、何か注意点とかある? って聞けばいいんじゃない。それを、今回の生理が終わる頃に、お母さんに言えば、多分、叱られることはないと思うよ」
【続く】
作者が調べた限り、赤飯と血の色とは無関係です。念のため。
ただ、アイリのセリフのとおり、もともとの由来は違うにせよ、赤飯と血の色を直感的に関連づける人は、決して少なくないと思います。
その妙なリアルさ、後ろめたさみたいなものがあるせいで、この風習があやしげな雰囲気を帯び、結果として長続きしたんじゃないのかなあと、ちょっと考えたりもします。




