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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
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21 アイリから頼み事

 アイリの鋭い指摘に対し、ぎくりとするマサト。

(ななっ! まさか、タイムリープがいきなりバレたかっ?)

 こういうのは、子供の方が怖い気がする。常識にとらわれた大人よりもだ。

 しかし。続くアイリの言葉。

「なんか、いつもより静かっていうか。急に落ち着いたというか」

 この程度の違和感だったようだ。

 マサトは苦笑し、

(落ち着いた、か。まあ、そりゃあ、一晩で、中身が三十年も年取ってるんだからな……)

 と思いながらも、ひとまず、ホッとする。どうやら、超常現象や奇跡の発生に気づいている、というレベルまでには至っていないらしい。


 でも、ちょっと探りを入れたくなり、

「別人みたいだった?」

 アイリは、右手の指先で髪をかき上げて、

「というより、最近、あんまりしゃべってなかったじゃん。なんか、今日は色々話してくれたから」

「そうか。んー。まあ、何かの反動かもな」

 マサトは、余り意味のない返答で、この話題を適当に打ち切った。


 車道の端の、ゴミ集積所の横を通る。

 可燃ゴミの袋の中に、紙束や本が、無造作に突っ込まれていた。

(そうか、家庭ゴミと古紙回収は、このころはまだ、厳密には分別されてなかったんだな)

 マサトは思い出す。


「けどさ、お兄ちゃん、ナプキンの使い方、何で知ってたの? 男なのに」

 アイリが会話を再開する。

 ゴミ置き場に気を取られていたマサトは、深く考えずに答えてしまう。

「えっ。――ああ、ネットで見たんだよ」

「ネットって?」

 アイリが小首をかしげる。

 またも、

「っ!」

 焦るマサト。

 この時代に、まだインターネットは普及していないからである。日常会話で「ネット」と言ったら、張ったり包んだりする、物理的なあみ状の存在しか意味しない。


「――あっ、というか、本だよ、本。あと、雑誌でも見たかも。中学の保健体育でも習うし。軽くだけどね」

 マサトはごまかした。

 本、雑誌、かも、保健体育、軽く。複数の要素を一度に並べ立てて、正解がどれかを特定させないようにした。同時に、「ネット」という失言も忘れさせる。


 タイムリープしてくる前、サラリーマンのマサトが、会話でよく使っていた方法である。

「ん。そっか」

 アイリも、深入りはしてこなかった。あっさり納得したようだ。

(まあ、今の僕、中身は、当時の親父より年上なんだもんなあ。悪いけど、雑談や議論で小学生を言いくるめるなんて、わけないことだよな)

 これがマサトの本音ではあった。

 もっとも、まだ話の入り口にすぎず、アイリの用件はここからだという事情も、あったのだろう。油断は禁物だ。


 間をあけずに、それを切り出してきた。

「お兄ちゃんに、お願いがあるんだけどさ。いい?」

「ああ。何?」

 歩きながら、横のアイリを少し振り返る。

「その……。生理が来たこと、親には秘密にしたいの。テレビでやってたけど、生理になると、お赤飯、炊くんでしょ? 前から思ってたんだけど、あれ嫌だなーって、ずっと思ってて」

【続く】


本来は知らないはずの情報を密かに知っていて、うっかり、そのことがバレてしまった時、「ネットで見たんです」というのは、便利な言い逃れですよね。


インターネット環境がなかった時代は、せいぜい、「ちょっと、うわさで小耳に挟みまして」とか言ってたわけですけど、うわさ話なんて、そうそう頻繁には流れてきませんもんね(笑)。

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