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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
20/67

20 銀スポーツバッグと赤ランドセル

 家を出る。

 よく晴れているが、

(ん? 四月にしては、ちょっと肌寒くないか?)

 もしかすると、地球温暖化の影響で、タイムリープ前の四月は、もっと暑かったのかもしれぬ。

 事実、アイリは何の感想も言わないし、寒そうな素振りもなしだ。


 道路に沿って、一戸建てが並ぶ。建てそびれたのか、ぽつぽつと空き地がある。その向こうに団地も。

 公衆電話の横を、低音でルルルルと、ゆったり走っていく路線バス。

 いかにも昭和・平成の、バブル後の光景であった。


 右手に持ったスポーツバッグは、意外に重い。

(持ち方、こうじゃなかったっけ? ……いや、これでいいはず。肩からは掛けてなかったよなー)

 体力の衰えでも、なさそうだが……。

(十代の体と、四十代の心。どっちが優先なのかな?)

 アイリのランドセルが、少しうらやましい気もしてきた。背負えるからだ。


 アイリは、横に並ぶでもなく、後ろに下がるでもなく、左斜めを一緒に歩いてくる。

 小学校は服装自由なので、アイリは私服である。上半分オレンジ色、残りは白のトレーナー。肩ひも付きのジーンズ。


(懐かしいなあ。千葉のこの町には、アイリの高校卒業まで住んで、その後、一家で神奈川に引っ越したんだよなー)

 と、周囲の景色を眺めるも、

(……おっと、懐かしんでる場合じゃないな。妹のことを、気にかけなきゃ)

 ところが、

「――ありがとう」

 何と、アイリの方から、先に話しかけてきた。

 先ほどの、生理の件を言っているのだろう。遠回しに告げるマサト。

「さっきの、部屋でのこと?」

 アイリの方を見ると、想定より背が低く、マサトは視線を下げる。

(この時のアイリって、本当、小さかったんだなあ)

 中三と小六。最も身長差が開いていた頃かもしれない。


 アイリは、頭をこっくりとさせ、

「――うん。助かった」

「一緒に出たのは、それを言いたくて?」

「そう。すぐに言わないと、駄目になると思って」

「駄目になる?」

 アイリはうなずく。気がつけば、隣を歩いている。

「ああいうことがあると、恥ずかしいじゃん。お兄ちゃんと顔を合わせたくなくて、しばらく距離を置きたくなるよね。けど、時間が経つほど、どんどん気まずくなっちゃうよね。だから、早めに次の会話をして、関係を修復しておかなきゃって。……って、まあ、ケンカしたわけじゃないんだけど」

 最後の「ケンカした」のところで、アイリは小さく笑った。

「!」

 マサトは感心する。とても、小学生の口から出たセリフとは思えぬ。

「アイリ、すごいな、それ。その考え方は、確かにそうだよ。大人でも、まさにそこで悩むんだよ」


 そういえば。

 アイリは、マサトとは違って、「その後」の人生も、危なげなく渡り歩いている。

 受験、恋愛、就職、結婚。欲しい物は、それぞれの年齢ごとに着実に手に入れている印象で、大きな失敗はない。

(もともと、感性が鋭かったんだなあ)

 だからこそ、十二歳にして、ここまで気を回せるのであろう。


「いやいや、大人でも……って。お兄ちゃんだって、まだ中学生じゃん」

 アイリのツッコミに、

(しまった!)

 マサトはきもを冷やす。つい、中年のサラリーマン目線となってしまっていた。

 せき払いをして、

「そっ、そうだよねえ。ぼ、僕もまだ子供だったわ」

 我ながら、わざとらしいしゃべりとなってしまう。

「――でもさ」

 アイリが見上げてくる。

「今日のお兄ちゃん、少しおかしいよね。さっきも、今も。なんか――確かに大人みたいな感じ」

【続く】


歩道に石ころでも転がそうかなあと思いつつ、いやいや、戦後とかじゃなくて、あくまで1990年代初頭だもんなあ、と。

こういう、現在ではないけど昔でもない、中途半端な過去って、風景描写が厄介かも。だって、写真一枚じゃ、区別つかなかったりするわけでしょう。

「公衆電話」は、精いっぱいの悪あがき(笑)。けど、今もあるしなア……。


次回、何かに感づいた様子のアイリに、マサトは?

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