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今の生活に不満はないのに タイムリープしろと君は言う  作者: KIZOOS
第二章 タイムリープ初日【マサト15歳・西暦199X年4月某日】
19/67

19 油槽所帰り、僕より若い母

 カバンを持って、一階の玄関へ。

(靴は……これでいいのかな)

 茶色いスニーカー。そういえば、靴については、特に学校の決まりはなかったと思う。


 その時、鍵をあける音がして、目の前のドアが開き、母が夜勤から帰宅した。

「ただいま」

「おかえりなさい」

(声は、タイムリープ前とほぼ変わらんな)

 だが、当然、外見はそうではない。

(――お母さん、若いなあ!)

 この時点では、まだ四十代のはず。下手をしたら、リープ前のマサトより年下である。

 背筋を伸ばして、母はしっかりとした足取りで入ってくる。青い作業着姿だ。健康的な、太めの体型。


 母は、油槽所ゆそうじょでスタッフとして働いている。石油をタンクに一次貯蔵しておく基地である。

 その仕事内容を、マサトはよく知らないけれど、一度、母が、「石油をタンカーで運んでくるでしょ。それを溜めておくんだよ。いきなり、ガソリンスタンドとかに持っていけないからね」などと教えてくれた。

 たしか、マサトが高校生の時に、母は別のパートの仕事へ転職していた。


(お母さん、カッコいいぜ!)

 「一回目」の中学時代では思ったことはなかったが、大人になってタイムリープしてきた今、はっきりそう思った。

 マサト自身、リープ前、アルバイトを転々としていた二十代の頃には、夜勤の経験もある。そのつらさは、今や、身をもって知っているわけだ。

 それを、中年になっても続ける母。しかも、マサトとアイリを子育てしながらだ。どれだけ大変だろう。


「いやー、お疲れさまでしたね、お母さん。今日もありがとう」

 知らず、マサトの口から、ねぎらいの言葉が飛び出ていた。恐らく、学生時代に、こんなセリフを親に言ったことはなかっただろう。

 母は、靴を脱ぎながら苦笑して、

「どうしたのよ、マサト。変よ。そんな、サラリーマンみたいなあいさつしてさ」

 困惑しているが、ムッとしている様子はなく、まんざらでもなさそうだ。


 玄関へ上がってきた母の、視線がマサトから別の方へそれる。

「――あれっ、アイリも出るの? お兄ちゃんと一緒に行くの? 珍しいね」

「えっ?」

 母のコメントにマサトが後ろを振り返ると、

「!」

 まさに、アイリも登校の準備を整え、赤いランドセルを片手に、玄関の方へ歩いてきているところだった。


「うん。おかえり、ママ。私は今から行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

 マサトを間に挟んで、母と妹が言葉を交わす。

 再び、母はマサトに目をやり、

「――じゃあ、マサトもね」

「うっ、うん……。行ってきます」

 と、スニーカーへ足を入れつつ、マサトがちらっとアイリを振り向くと、バチッと目が合った。アイリは真顔だ。緊張している気配だが、不機嫌そうではない。


「――」

 今、母が言ったとおり、マサトとアイリが一緒に登校することは珍しい。いや、「一回目」の中学時代には、ほとんどなかった。いつも、マサトが少し先に家を出発するのが日課であった。

 別に、仲が悪かったわけでもなく、ただ、お互い、難しいお年頃だっただけのことだが。

(うーむ。これは何か、僕に話があるようだな)

 マサトはピンときた。

【続く】


帰宅した母をマサトがねぎらうセリフ、当初は予定になかったものです。

そこまで書いた時、ほろりと出てきました。


気取った言い方をするなら、「登場人物が勝手にしゃべった」というやつです。

もう少し冷静に表現するならば、「物語として最も適切で自然な位置に、スポッとはまった」ということなのでしょう。


次回、妹と登校です。

アイリの真意に、マサトは驚きます。

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