16 ナプキン現物を見たことはないけれど。
アイリに背を向けたまま、マサトは静かな声で、事務的に尋ねる。
「じゃあ、まずは――生理の時に使う、生理用ナプキンは持ってる?」
「えっと、う、ううん、ないかな……」
か細い声が答える。
「そっか、じゃあ、お母さんのを借りる、というか、もらおうか。――あっ、だけどさ、もしかして、学校の授業で、女子だけ配られてたりしない?」
途中で、マサトは思いついた。
すると、アイリも、
「あっ、そうだそうだ、林間学校の時にもらったかも! あれって、そうだったのかな?」
「すぐ、出る?」
「待って!」
アイリの声も、弾んでいる。元気が出てきた証拠だ。
ガサガサと、引き出しを探す音がしたあと、
「あったよ! ナプキン、生……理用って書いてある」
「よかった! じゃあ、えーと……」
マサトも、さすがに、現物を扱った経験はない。タイムリープ前に、インターネットやビジネス誌で見た程度の知識だけだ。
何とか、それらを思い出しつつ、
「まず、袋の封を切って。そうしたら、多分、小分けにされて、同じものが何個か入ってると思うんだ」
ピリリッ、ガサガサと、プラスチックの封を切る音が聞こえてくる。
「――あけたよ。……うん、確かに分かれてる」
とりあえず順調に進んでおり、マサトは安堵しながら、
「その一個一個が、一回分のはず。一つ、あけてごらん」
「うん。――何か、くるくる巻いてあるんだけど」
「広げてごらん、そっとね。で、真ん中にテープが貼ってあると思うんだけど」
マサトは、以前、イラストや写真で見たことがあるだけだ。慎重に思い出しながら説明していく。
後ろから、アイリの声。
「うん、あるよ」
「はがすと、ベタベタしない?」
「する」
「それを、貼り付けるんだけどね」
「お尻に?」
「いや、逆。下着の方です」
緊張と気遣いのためか、マサトは敬語になっていた。
補足する。特に言いづらい部分なので、さらにソフトな口調で。
「ええと……血みたいなのが付いた場所があるでしょ。そこに、あてがう感じ。要は、ナプキンで出血を受け止めて、血を吸収させればいいわけ」
「なるほど。血が付いたところの、上に貼ればいいのか」
とアイリ。
(ああ、そう取るのか!)
マサトは焦って、
「ち、違う。もっ、もし下着を汚しちゃってたら、それは洗濯に出すの。新しい下着に取り替えてから、ナプキンを使います」
「あー! そうゆうこと? ま、まあ、ん、そりゃそうか……ハハッ」
アイリが少し笑った。
多分、恥ずかしさと緊張で引きつった笑顔ではあっただろう。が、今日初めて聞けた、アイリの笑い声だ。
「そう。済まん。僕の説明の仕方が悪かった」
と、後ろ向きのまま、マサトもフォローする。
ひと呼吸を挟んでから、マサトが続ける。そろそろまとめだ。
「じゃあ、以上のことを、トイレでやってください。僕は今から、一階で飯食ってくるから、どうぞごゆっくり」
「ああ、やっぱ、トイレでやるんだ?」
「もちろん。学校でもだよ」
「えっ、学校って?」
「予備のナプキンを持っていって、休み時間に取り替えるんだよ。三時間おきぐらい」
「ゲー、めんどくさいな! 朝、一回やればいいんだと思った」
「清潔に保つには、それがいいみたい。女子は大変だよね。で、捨てる時は、多分、女子トイレには、専用の三角形のボックスがあったと思う」
「ああ、それは知ってるかも」
「ん。じゃあ、まあ、そういうことで……」
幾ら、「中身」は人生経験豊富な大人だとはいえ、「少女時代の妹に、生理の解説をする」というミッションは、さすがにハードルが高かった。
少々ぐったりしたマサトは、
「それじゃ、お邪魔しました」
何とか、短いあいさつをして、振り返ることなく、アイリの部屋をそそくさと出たのだった。
【続く】
作者が小5の頃、林間学校の説明会の終わりに、女子だけが別室へ呼ばれて、何か包みを1個ずつ持って出てきたんですよね。あれが、生理用品だったのじゃないかなと。
ところが、軽くネット検索した限りでは、そのような教育施策も体験談も出てこなくて。
遠い昔ですので、もしかしたら、何らかの別件と記憶違いをしてるのかもしれません。
今回のお話では「正解」としましたが、(特に御年配の女性が)「聞いたことないよ!」ということでしたらごめんなさい。




